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王城でのまがりにん生活

俺の王城生活2日目。午後は魔塔主と会うんだって!

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さて。
朝から王妃様と身体測定!
その後はオルガ団長と訓練!
そうして美味しいランチをいただいてお腹ぽんぽこりんな俺はといえば…

眠い。
眠くて眠くてしょうがない。

だってまだ5歳なんだよ?
日本なら幼稚園児!
お昼寝の時間でしょ

お兄様が眠すぎてふらふらの俺を抱っこして

「サフィ。眠いのは分かるけど。ごめんね、あとちょっと頑張ってね」

と励ましてくれる。

「ううー…。むり…がんばれない…ねむねむ…」

おでこをお兄様の肩にぐりぐりとこすりつけてなんとか起きようては…してるんだ…けど……

む…り……

「サフィ。安らかな顔しないで頑張って。
ほら、いいこだからあとちょっと
頑張ろう?頑張ればきっといい事があるよ?」

お兄様のこえ…いいこえだなあ……
きもちー……

「ごめ…なさ…まとーしゅさま…
おさきに…しつれー」

夢の世界に旅立とうとしたら…


「サフィー!サフィーー!」

⁈あの声!
え?幻聴?


「お父様だぞーっお父様が来たぞーっっ!」
「ゲイル!!!」

ゲイルだ!ゲイル!!
俺の目はパッチーンと開いた!

「ふふ。驚いた?」

お兄様がにこにこしながら、ワタワタする俺を下に下ろしてくれた。
お兄様知ってたの?
俺はタタターッと全力で走る。
ゲイル!ゲイルうううう!!

「ここー!ゲイルううう!!ここにいるよーーっ」
「サフィ!」

俺に気づいたゲイルが腕を広げる。
俺は走った勢いのままピョーンとゲイルに飛びつき、足も腕もしっかり絡めて抱きついた。
ゲイルもひしっと抱き返してくれる。
俺は大好きなゲイルの胸元に顔を擦り付けた。
くんくんくんくん。
あー!ゲイルの匂いだああああ!

ゲイルは俺の頭頂にぐりぐりぐりぐりと頬をこすり付けている。

「夜は眠れたか?ちゃんと食事はしたか?野菜は食べたか?怪我をしたり痛いところはないか?」
「ねれたよ!さびしかったけど、おにいさまだっこしてねてくれた!だいじょうぶ!
ごはん、クマさんおいしいのつくってくれた!
アップルパイたくさん!さいこうのパイ!」
「あとね、オルガだんちょーがししょー!!
マッスル!カッコいいきんにく!りそう!
ぼくマッスルになる!」
「あ、みかみかとあった。だいてんしだけど にんげん。
なかみ せわずきおばさん。
いいひとだけどはなしきかない。
おにいさまのじじゅうで そばづきなの」

伝えたいことがありすぎて、一息に言ってから、あらためて見たゲイルは…

「ゲイル、ヒゲ、ヒゲーッ!!!
めのしたまっくろ!とくだいのくまさん!
よぼよぼのぼろぼろっ!
ど、ど、ど、どうしたのーっ⁈
だいじょぶ?くるしい?いたいの?びょーき?」

慌ててゲイルの顔をがっしりと掴んで目を覗き込む。
たった2日、いや、正確には一日半で何があった⁈

「…サフィ、落ち着こうか。ゲイルおじさまは大丈夫だと思うよ。
きっと、サフィが早く帰れるように工事を頑張っているたんじゃないかな?」

苦笑しながらお兄様が俺の背中を撫ぜ……
ようとしたところでゲイルがグルンと回転して俺をお兄様から遠ざけた。

「………サフィ。お父様に教えてくれるか?……お兄様の抱っこで寝たって、どういうことなのかな?」
「おにいさまのおへやで いっしょにねるの。
ひとりさびしいから。
いいにおいでぽかぽかで、フカフカ!さいこうのねごこち」
「…レオンハルト様?」
「……念のため伝えておくけど、サフィが抱っこと言ったんだよ?」

何故か見つめ合うゲイルとお兄様。
俺はゲイルの服を引っ張った。

「ゲイル、ありがとして!むすこがおせわになります、して!おとうさまでしょ」
「……息子がなったようで…」
「……かわいい弟としてお世話しただけだからね?抱っこでだけだよ?」
「…………今回は仕方ありませんが、後10年…いや20年は許しませんので!」 

何を許さないんだろうか。
そんなことより!

「ゲイルどうしているの?きーてないよ!
ずっといる?またかえる?」

俺の言葉に、ゲイルがニヤリと笑った。

「帰るが、これでいつでも会えるぞ!」
「やったー!!ゲイルいっしょ?もうおうちかんせーしたの?」

するとゲイルの後ろからひょっこり怪しい人が顔を出した。

全身真っ黒で、ヘンテコなサングラスまでしてる!
間違いなく「お菓子をくれても着いていったらいけませんよ」な人!

「それはね。僕のおかげなんだよー!
公爵家と伯爵家と王城を繋ぐゲートを設置してきたんだ!
褒めてくれる?サフィちゃん」

俺のこと知ってる!!
だ、だれ⁈
え?さっきからいた?

「さっきからゲイルと一緒に居たよ〰。
サフィちゃんにはゲイルしか見えてないみたいだったけどね」

怪しい人はそう言ってウインクした。
どくしんじゅつ!

「あ、心は読めないよ?サフィちゃんがわかりやすいだけ〰!」

あ、そ、そうですか!
て、やっぱ心読んでるじゃん!

「読んでないよ〰」

ひいいいい!

「こ、このひと、こわい!」

俺は慌ててゲイルの腕の中に隠れた。

「サフィをからかうのをやめてください。シュバイツ先生」

お兄様が俺をよしよししながら、怪しい人との間に入ってくれる。
し、知り合い?

「サフィ、この方が魔塔の塔主。サフィに魔法を教えてくれるシュバイツ先生だよ」
「えええーっ!このあやしーひとが⁈せんせーなの?」
「怪しい人だなんて悲しいなあ。せんせー泣いちゃうっ!
僕が魔塔の塔主、シュバイツ・フィラー!サフィちゃんの先生だよお。よろしくねえ!」

あまりの怪しいさに困惑する俺に、困り顔のゲイルが教えてくれた。

「この人これでも魔法の第一人者なんだぞ?
サフィのために少しでも早くって、
昨日のうちに王城のゲート設置して、
それから公爵家に馬を飛ばして来てくれたんだ。
で『ついでだから』ってあちこちに結界を張る手伝いをしてくれて、
向こう側のゲートを設置してくれた。
そのゲートを使ってようやくサフィに会いに来れたんだ」
「す、すごい!だいかつやく!あやしいひと おんじんだった!
あやしいひと、ありがとうございます!」

こんな見た目でなんて有能なんだ!しかも親切!

「あやしーけど、しんせつ。
あやしーけど ゆうのう。
バイツーせんせー、あやしーけど すてきなひと!」

今日ゲイルに会えたのはこの人のおかげ!
俺は感動に胸を震わせながら、素晴らしい先生に惜しみない賞賛を贈った。

「うーん。『あやしいひと』はデフォなんだねえ。
シュバイツだけど、サフィちゃんならバイツでいいよ」
「バイツーせんせー!くろいめがねがあやしい。おうちのなか、まぶしくないよ。
めがねはずしたら あやしくない。だいじょうぶ」
「…これかあ…。
うーん…。あのね。僕のお目目、怖かったらごめんね?
気持ち悪いっていう人もいるから…
サフィちゃん、大丈夫かなあ?」

そう言ってサングラスを外すと…
そこには真っ赤な虹彩が煌めいていた。

「き、きれーい!!すてき!ほーせきみたい!!
なんでかくしたの?
いちごのゼリーのいろ!ぼく、いちごだいすき!」

思わず興奮する俺に、先生はビックリしたように目を見開いた。
おお!もっとよく見える!
こんな綺麗な瞳、見るの初めて!!
無意識に手を伸ばし、先生の瞳を覗き込む。

「ふああああ……おいしそう…」

考えたら、もうダメ!がまんできなーい!!

「な…なめてみてもいいですか?」

じゅるりしながらお願いすると、

「ダメ!やめなさい!」

慌ててゲイルにお口をギュッとされた。
ケチ!

「……………」
「?せんせー?」

固まったままの先生。そ、そんなに嫌だった?
ごめんよう!

「ご、ごめんなさい!
いやなら なめませんので!
あんしんしてよき!」

どどどど、どーしよう、ゲイル!
先生、動かなくなっちゃった!

「……あやしくない。
めがねはずしたら いけてるメンでした。
ほーせきのおめめ。おいしそうだけどなめたらだめ。
りょーかいですので!
ぼく よいこ!ひとがいやがることは しませんのです!」

…まだ動かない。
困った俺は、最後の望みに賭けることにした。

「…………さいきどうぼたん、ぽち!」  

人差し指で先生の鼻を「ぽち」!

しーん。

パチパチパチパチ。
瞬きをして、先生が動き出した。

「せいこーした!」

動き出した先生は、両手をぐいっと伸ばして俺の顔をひきよせ、
眩しい笑顔で

「なめてもいいよ?」

と言った。
おおお!許可がでた!

「やったあ!」

俺は「やっぱダメ」されないうちにと思って急いで でもそおっとペロリしてみた。

「…………」
「どう?甘い?」
「……あまくなかった。
うーんと…ちょっと…しょっぱい?」

顔を顰めながら言うと、先生は笑い出した。

「あはははは!そうかあ!しょっぱかったかあ!
期待外れでごめんねえ!あはははは!」
「あまくないけどキャンディみたいでステキなおめめ。
かくさないほうがいいです。とてもよきなので!
あまくなかったけど あまいきもちになるから すき。
あまくないけど たくさんみせてほしーです」

せっかく舐めさせてくれたのに申し訳ない!
慌てて俺がフォローしていると
小さな声でお兄様とゲイルがコソコソ。

「甘く……っなかったの…っ、よっぽど残念だったんだろうね…ふ…ふふっ…」
「ふっ…そうだな…っ。こ、こいつ、食いしん坊がすぎるだろっ…まさか…っ目を……っうふっふ…」

俺はそんな2人にビシッと言ってやった。

「そこ!きこえてるからねっ!
わらわないっ!ぼく くいしんぼちがう!
せんせーのおめめ みたらわかる!
いちごゼリーで、きれーすぎたの!」

「あっはっはっはっ!も、もうやめてええ〰!
サフィちゃん、最高っ!僕、サフィちゃんのこと大好きになっちゃった!」

先生は大笑いしたあと、

「はい。これ、あげる」

と空中から何かを取り出して俺の手のひらに乗せてくれた。
ふを!魔法収納?
あああ!それ!!それえええ!!

「わあああ!いちごのキャンディだあ!
せんせーのおめめみたい!
ありがとうございますバイツーせんせー!」
 
ぱくん!

「あまーい!」
「食うのか!」
「おめめ食べちゃうの⁈」
「あっはっはっは!やっぱりサフィちゃん、サイコー!」

これがまさかの魔塔主との初顔合わせ。
嘘でしょ!
なし崩し的に、俺たちはすっかり打ち解けたのだった。












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