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王城でのまがりにん生活
俺って、するどい?
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ところで。
俺にはずっと気になってることがあった。
「それより。きになってること きいていい?」
「ん?何だい?」
聞いていいことなのか、わからないけど。
でもどうしても気になる。
「みかみか、なにもの?」
瞬間。
ピーン、と空気が凍ったのが分かった。
しかしすぐに何事もなかったかのように、ミカさんが笑う。
「ええー?だからあ、天使じゃないって言っただろ?王子の侍従、れっきとした人間だよ?」
「にんげんはおけ!でも、こういきぞくのむすこなのに、どうしてじじゅう?そっきんは?」
2人の目が見開かれた。
ちっちっち。
無言のまま時間が流れる。
「きになっただけ。ひみつならいいの。おうじょうはまくつ。いろいろあるよね」
まあ、王城は利権と欲望の渦巻く魔窟だ。外部の人間、ましてや子供には言えないこともあるだろう。
うんうん。
俺は単なる間借り人。本当に気にしていませんよー、の意をこめてうんうんと頷く。
すると、
ふうーっ、とあきれたようなため息が聞こえた。
「ほんっと、この子、なんなの?単なるエンジェルかとおもったら、鋭すぎない?」
「……いや、それは私も驚いた」
「どちらかっていうと、ちょっと年齢よりこどもっぽいと思ってたんだけど。全然違うじゃん。サフィって。ほんとに5歳?」
「おひろめだから、5さい。こどもっぽくないよ。おとな。17さいのこころ」
「いやいや、5歳なんでしょ」
「そうともいう」
レオンお兄様が困ったように眉を下げた。
言っていいのかを測るように俺をじーっとみつめる。
「あのさ。王子。言っちゃったほうがいいかもよ。この子、たぶん俺たちが思ってる以上に賢いよ」
「………そのようだな。…できればサフィにはこのまま知らないままでいて貰いたかったんだけど…」
「知っていた方が戦えるってこともある。これからのことを考えたら、サフィは知っていた方がいいんじゃないか?
いつでも誰かが付いていてやれる訳じゃない」
「………そうだな」
話してくれたのは、王国の厳しい現状だった。
「ミカエルは確かに私の侍従だ。だが、側近でもある」
「?どういうこと?」
「本来私には別の侍従がいた。……私が病に倒れ、ゲイルが救ってくれたという話は聞いたよね?」
「うん。ゲイルすごい。ぼくのおとうさま、さいこう!」
「……そうだな。………実はね…これは、ごく身近な者しか知らないことなんだが…私が倒れたのは病のせいではない。毒だ。8つの時に、食事に毒を盛られんだよ」
え?それって、俺が聞いていいこと?
王城に敵が入り込んでたってことじゃん!
「毒を盛ったのは……当時の私の侍従だった」
「!……じじゅうって、いつもいっしょだったひとだよね?」
「そうだ。私が幼いころから世話をしてくれていた。私より8つほど上でね。私は彼を兄のように思っていた」
「…………」
「ごめんね。サフィにそんな顔をさせたくなかったんだけど…。残念だけど、王国は一枚岩じゃない。いまの王家のやり方に反発する貴族もいる。よくあることなんだよ。ましてや私は唯一の王子だ。私さえいなければ、というものは沢山いるんだ」
ここはしっかりと守られているから大丈夫だよ、って笑ってくれるけど。
大丈夫じゃないじゃん!
そんな辛いこと、どうして笑顔で言えるんだ?
いつも一緒で信頼していた人に裏切られたんでしょ?
殺されかけたんでしょ?
そんなの、俺の過去なんかよりよっぽど…!
「その次の侍従にも命を狙われてね。あはは。困ったものだよね。それで、側近だったミカが『俺が侍従もやる!俺が王子の世話だって全部覚える!新しい侍従なんて必要ない!』って。無理やり側近と侍従を兼任しちゃったんだよ」
「侍従も…家格的に逆らえない立場の人間に命じられたんだろ。うちの親父は王弟でしかも辺境伯だからな。3男とはいえ俺も辺境伯の息子だ。うちに圧力かけようとはさすがにヤツも考えねーだろ」
ヤツか…。黒幕が分かってるんだね。
多分、俺を狙うだろう人なんでしょ?
俺の敵でもあるんだよね。
きっと、表面上は味方の顔した高位の貴族。
それだけで、どこの家かわかっちゃったよ。会ったことはないけど。でも、今はまだ聞かないどく。
自分が手を汚さないやり方。
なんて汚いんだろう。でもそれが貴族。
お兄様が俺に見せたくなかったもの。
そんな中で戦って来たんだね。
身近な人を利用されて。
身近な人に裏切られて。
それでも笑顔で。
「そんな顔しないで」とお兄様が俺を気遣う。
いつもの優しい笑顔で。
辛かったのはお兄様なのに。
俺は思わず叫ぶ。
「そんなかお、おにいさまのほうだよ!よくあることじゃない!あったらだめなことだよ!」
とっさに机の上を乗り越え、そのままお兄様に飛びついた。
お行儀?知るか!
「おにいさま、とってもかなしかったよね。つらかったよね。つらいこといわせてごめんなさい。
でも、おにいさまいきててよかった。ぼく、おにいさまがいきててくれてうれしい。
がんばったね。えらかったね。
いきててくれてありがとう、おにいさま!
ミカミカ、おにいさまといてくれてありがとう!ミカがいてくれてよかった!
ふたりとも、がんばったねえ!とっても、とってもがんばったんだねええええ!」
辛いのは俺じゃないでしょ。信じてたのに。
その人だって、どんな気持ちでお兄様を殺そうとしたの⁈
その時のお兄様の気持ちを思うと。
侍従もやる、って言ったミカの気持ちを思うと。
もうダメだった。
「…………サフィ、泣かないでよ。大丈夫なんだよ?…………なかないで…」
「う……うえ……っだ、だって……っだって……っ!しっしんじてたのにっ…しんじてたのにっひどいよおおおおう!!
じじゅーのばかあああああ!うらぎるなよおおおおう!!ばかああああああ!!
わるいやつのめーれーなんてきいて!
おにいさまにそうだんしたらよかったのにいいい!ばかあああああ!
うえええええええーーーーんっ」
「!!」
お兄様が俺をその胸にぎゅうっと痛いくらいに抱き込んだ。
そして、俺の肩にその顔を埋める。
「…………っ……サフィ………っ。
そうだ…毒を盛る前にひとことっ……ひとこと脅されているのだと相談してくれたらっ…!相談さえしてくれていたら、何かできたかもしれないのに……っ。結局私は…信頼されて居なかったのだ……」
耳元に濡れた感触。
俺の涙はお兄様の胸にどんどん吸い込まれていく。
「お、おにいさまはっ……あきらめちゃ…だめだからねっ…
おこってっ…いい…!
わるいひとはぼくが…っぼくがっ…やっつけるから…っ!
げいるとぼくっ…みかみかも…みんなでやっつけるからっ…
しんじるのっこわいけど……っしんじていいんだよ…っ」
しゃくりあげながら、なんとか伝えた。
良くあることなんて、そんなことで片付けて欲しくない。
だって、すっごく傷ついたでしょ。
すっごく悲しかったでしょ。
裏切られたこともだけど。
その人がお兄様ではなくそいつを選んだことが。
信じて居た人に信じてもらえなかったことが。
王城の王家のプライベートゾーンには、驚くほど人がいなかった。
護衛や騎士は沢山いるけど、みんなプライベートゾーンの外に配置されてた。
王様とのお話の時にいたジグルドとミシェ、王様と一緒だった護衛さんたち。
ここに入れるのは、彼らだけみたいだった。
もちろん、掃除をする人とか料理人とかはいるんだろうけど。
それも最低限。きっと彼らが立ち入ることのできるゾーンは制限されている。
ここにいるのはきっと、ものすごく厳選して選んだ信頼のおける人たちだけなんだろう。
だから「ここは安全」なんだ。
常に命の危険に晒されてきた「王の唯一の息子」を守るために、強固に作られた要塞。
それがここなんだ。
「………ぼくもまもるから。おにいさま、まもるからね。
あんしんしてね」
俺はお兄様の背に手を回してぎゅうっと強く抱きしめた。
「まだちいさなうでだけど。
はやくおっきくなるからね。
おにいさまをだっこしてまもるからね。まってて」
ふ、とお兄様の身体から力が抜けた。
「…………サフィは………つよいね…。つよくてとても優しい。
私のためにありがとうサフィ」
ミカが力強く宣言する。
「あれから城内を一掃したんだ。
あんなことはもうおきない。俺もおこさせない!」
「うん。大丈夫だ。私にはミカがいる。ゲイルおじさまがいる。それに…君もいるからね。
父上たちも、護衛たちもいる。宰相だっている」
お兄様はそう優しい声で言うと、俺の涙を指先で拭った。
そしておでこに張り付いた前髪をそっとかき上げて、ふふふ、と笑った。
すっかり汗だくになっちゃったね、って。
「泣かせちゃってごめんね。
ここにはね、ゲイルおじさまがいくつもの結界を重ねてくれているんだ。
私たちに害意があるものは入れないようになっている。
だから王城で一番安全な部屋なんだよ。
私が安心して護衛なしで眠ることができる場所なんだ。
サフィ、私は守られてばかりいるのにうんざりなんだ。
これからは、私がサフィを守るよ。
これでも、強くなったつもりだ。
こんな頼りないお兄様だけど、信じてくれる?サフィを守らせてくれるかな?」
お兄様がにこりと微笑む。
「今の俺は、侍従としても仕事もばっちりだからな!料理だってできるんだぞ?
ここにいる間の世話は俺にまかせてくれ!」
ミカがニヤリと笑う。
すごいなあ。
そんな辛い過去があっても、2人で笑いながら乗り越えてきたんだ。
そんな2人が。一緒になって俺を守ろうとしてくてる。
だから、俺も…
「うん!しんじてる!ありがとう、2人とも!
ぼくも 2人をまもるからね!まかせてね!
だって、まりょくおおいし。れいんぼーだし!」
「魔力が多いのはともかく、レインボー?何のことだ?」
首をかしげるミカに
「あ、ああ。それは後でまた説明する」
苦笑するお兄様。
これ、ミカにまだひみつだったの?ごめんね?
恥ずかしい所を見せちゃったけど。
俺は2人の話を聞いて、なんだか2人と距離が縮まった気がした。
そして、話を聞く前よりももっともっと2人が好きになったのだった。
俺にはずっと気になってることがあった。
「それより。きになってること きいていい?」
「ん?何だい?」
聞いていいことなのか、わからないけど。
でもどうしても気になる。
「みかみか、なにもの?」
瞬間。
ピーン、と空気が凍ったのが分かった。
しかしすぐに何事もなかったかのように、ミカさんが笑う。
「ええー?だからあ、天使じゃないって言っただろ?王子の侍従、れっきとした人間だよ?」
「にんげんはおけ!でも、こういきぞくのむすこなのに、どうしてじじゅう?そっきんは?」
2人の目が見開かれた。
ちっちっち。
無言のまま時間が流れる。
「きになっただけ。ひみつならいいの。おうじょうはまくつ。いろいろあるよね」
まあ、王城は利権と欲望の渦巻く魔窟だ。外部の人間、ましてや子供には言えないこともあるだろう。
うんうん。
俺は単なる間借り人。本当に気にしていませんよー、の意をこめてうんうんと頷く。
すると、
ふうーっ、とあきれたようなため息が聞こえた。
「ほんっと、この子、なんなの?単なるエンジェルかとおもったら、鋭すぎない?」
「……いや、それは私も驚いた」
「どちらかっていうと、ちょっと年齢よりこどもっぽいと思ってたんだけど。全然違うじゃん。サフィって。ほんとに5歳?」
「おひろめだから、5さい。こどもっぽくないよ。おとな。17さいのこころ」
「いやいや、5歳なんでしょ」
「そうともいう」
レオンお兄様が困ったように眉を下げた。
言っていいのかを測るように俺をじーっとみつめる。
「あのさ。王子。言っちゃったほうがいいかもよ。この子、たぶん俺たちが思ってる以上に賢いよ」
「………そのようだな。…できればサフィにはこのまま知らないままでいて貰いたかったんだけど…」
「知っていた方が戦えるってこともある。これからのことを考えたら、サフィは知っていた方がいいんじゃないか?
いつでも誰かが付いていてやれる訳じゃない」
「………そうだな」
話してくれたのは、王国の厳しい現状だった。
「ミカエルは確かに私の侍従だ。だが、側近でもある」
「?どういうこと?」
「本来私には別の侍従がいた。……私が病に倒れ、ゲイルが救ってくれたという話は聞いたよね?」
「うん。ゲイルすごい。ぼくのおとうさま、さいこう!」
「……そうだな。………実はね…これは、ごく身近な者しか知らないことなんだが…私が倒れたのは病のせいではない。毒だ。8つの時に、食事に毒を盛られんだよ」
え?それって、俺が聞いていいこと?
王城に敵が入り込んでたってことじゃん!
「毒を盛ったのは……当時の私の侍従だった」
「!……じじゅうって、いつもいっしょだったひとだよね?」
「そうだ。私が幼いころから世話をしてくれていた。私より8つほど上でね。私は彼を兄のように思っていた」
「…………」
「ごめんね。サフィにそんな顔をさせたくなかったんだけど…。残念だけど、王国は一枚岩じゃない。いまの王家のやり方に反発する貴族もいる。よくあることなんだよ。ましてや私は唯一の王子だ。私さえいなければ、というものは沢山いるんだ」
ここはしっかりと守られているから大丈夫だよ、って笑ってくれるけど。
大丈夫じゃないじゃん!
そんな辛いこと、どうして笑顔で言えるんだ?
いつも一緒で信頼していた人に裏切られたんでしょ?
殺されかけたんでしょ?
そんなの、俺の過去なんかよりよっぽど…!
「その次の侍従にも命を狙われてね。あはは。困ったものだよね。それで、側近だったミカが『俺が侍従もやる!俺が王子の世話だって全部覚える!新しい侍従なんて必要ない!』って。無理やり側近と侍従を兼任しちゃったんだよ」
「侍従も…家格的に逆らえない立場の人間に命じられたんだろ。うちの親父は王弟でしかも辺境伯だからな。3男とはいえ俺も辺境伯の息子だ。うちに圧力かけようとはさすがにヤツも考えねーだろ」
ヤツか…。黒幕が分かってるんだね。
多分、俺を狙うだろう人なんでしょ?
俺の敵でもあるんだよね。
きっと、表面上は味方の顔した高位の貴族。
それだけで、どこの家かわかっちゃったよ。会ったことはないけど。でも、今はまだ聞かないどく。
自分が手を汚さないやり方。
なんて汚いんだろう。でもそれが貴族。
お兄様が俺に見せたくなかったもの。
そんな中で戦って来たんだね。
身近な人を利用されて。
身近な人に裏切られて。
それでも笑顔で。
「そんな顔しないで」とお兄様が俺を気遣う。
いつもの優しい笑顔で。
辛かったのはお兄様なのに。
俺は思わず叫ぶ。
「そんなかお、おにいさまのほうだよ!よくあることじゃない!あったらだめなことだよ!」
とっさに机の上を乗り越え、そのままお兄様に飛びついた。
お行儀?知るか!
「おにいさま、とってもかなしかったよね。つらかったよね。つらいこといわせてごめんなさい。
でも、おにいさまいきててよかった。ぼく、おにいさまがいきててくれてうれしい。
がんばったね。えらかったね。
いきててくれてありがとう、おにいさま!
ミカミカ、おにいさまといてくれてありがとう!ミカがいてくれてよかった!
ふたりとも、がんばったねえ!とっても、とってもがんばったんだねええええ!」
辛いのは俺じゃないでしょ。信じてたのに。
その人だって、どんな気持ちでお兄様を殺そうとしたの⁈
その時のお兄様の気持ちを思うと。
侍従もやる、って言ったミカの気持ちを思うと。
もうダメだった。
「…………サフィ、泣かないでよ。大丈夫なんだよ?…………なかないで…」
「う……うえ……っだ、だって……っだって……っ!しっしんじてたのにっ…しんじてたのにっひどいよおおおおう!!
じじゅーのばかあああああ!うらぎるなよおおおおう!!ばかああああああ!!
わるいやつのめーれーなんてきいて!
おにいさまにそうだんしたらよかったのにいいい!ばかあああああ!
うえええええええーーーーんっ」
「!!」
お兄様が俺をその胸にぎゅうっと痛いくらいに抱き込んだ。
そして、俺の肩にその顔を埋める。
「…………っ……サフィ………っ。
そうだ…毒を盛る前にひとことっ……ひとこと脅されているのだと相談してくれたらっ…!相談さえしてくれていたら、何かできたかもしれないのに……っ。結局私は…信頼されて居なかったのだ……」
耳元に濡れた感触。
俺の涙はお兄様の胸にどんどん吸い込まれていく。
「お、おにいさまはっ……あきらめちゃ…だめだからねっ…
おこってっ…いい…!
わるいひとはぼくが…っぼくがっ…やっつけるから…っ!
げいるとぼくっ…みかみかも…みんなでやっつけるからっ…
しんじるのっこわいけど……っしんじていいんだよ…っ」
しゃくりあげながら、なんとか伝えた。
良くあることなんて、そんなことで片付けて欲しくない。
だって、すっごく傷ついたでしょ。
すっごく悲しかったでしょ。
裏切られたこともだけど。
その人がお兄様ではなくそいつを選んだことが。
信じて居た人に信じてもらえなかったことが。
王城の王家のプライベートゾーンには、驚くほど人がいなかった。
護衛や騎士は沢山いるけど、みんなプライベートゾーンの外に配置されてた。
王様とのお話の時にいたジグルドとミシェ、王様と一緒だった護衛さんたち。
ここに入れるのは、彼らだけみたいだった。
もちろん、掃除をする人とか料理人とかはいるんだろうけど。
それも最低限。きっと彼らが立ち入ることのできるゾーンは制限されている。
ここにいるのはきっと、ものすごく厳選して選んだ信頼のおける人たちだけなんだろう。
だから「ここは安全」なんだ。
常に命の危険に晒されてきた「王の唯一の息子」を守るために、強固に作られた要塞。
それがここなんだ。
「………ぼくもまもるから。おにいさま、まもるからね。
あんしんしてね」
俺はお兄様の背に手を回してぎゅうっと強く抱きしめた。
「まだちいさなうでだけど。
はやくおっきくなるからね。
おにいさまをだっこしてまもるからね。まってて」
ふ、とお兄様の身体から力が抜けた。
「…………サフィは………つよいね…。つよくてとても優しい。
私のためにありがとうサフィ」
ミカが力強く宣言する。
「あれから城内を一掃したんだ。
あんなことはもうおきない。俺もおこさせない!」
「うん。大丈夫だ。私にはミカがいる。ゲイルおじさまがいる。それに…君もいるからね。
父上たちも、護衛たちもいる。宰相だっている」
お兄様はそう優しい声で言うと、俺の涙を指先で拭った。
そしておでこに張り付いた前髪をそっとかき上げて、ふふふ、と笑った。
すっかり汗だくになっちゃったね、って。
「泣かせちゃってごめんね。
ここにはね、ゲイルおじさまがいくつもの結界を重ねてくれているんだ。
私たちに害意があるものは入れないようになっている。
だから王城で一番安全な部屋なんだよ。
私が安心して護衛なしで眠ることができる場所なんだ。
サフィ、私は守られてばかりいるのにうんざりなんだ。
これからは、私がサフィを守るよ。
これでも、強くなったつもりだ。
こんな頼りないお兄様だけど、信じてくれる?サフィを守らせてくれるかな?」
お兄様がにこりと微笑む。
「今の俺は、侍従としても仕事もばっちりだからな!料理だってできるんだぞ?
ここにいる間の世話は俺にまかせてくれ!」
ミカがニヤリと笑う。
すごいなあ。
そんな辛い過去があっても、2人で笑いながら乗り越えてきたんだ。
そんな2人が。一緒になって俺を守ろうとしてくてる。
だから、俺も…
「うん!しんじてる!ありがとう、2人とも!
ぼくも 2人をまもるからね!まかせてね!
だって、まりょくおおいし。れいんぼーだし!」
「魔力が多いのはともかく、レインボー?何のことだ?」
首をかしげるミカに
「あ、ああ。それは後でまた説明する」
苦笑するお兄様。
これ、ミカにまだひみつだったの?ごめんね?
恥ずかしい所を見せちゃったけど。
俺は2人の話を聞いて、なんだか2人と距離が縮まった気がした。
そして、話を聞く前よりももっともっと2人が好きになったのだった。
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