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お披露目会、大成功!…だよね?!

俺のために頑張れ、公爵家!

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「…フィ」
「……サフィ。着いたぞ」

ゲイル?

「………。おでこにちゅってしてくれたら おきる……。ゲイル…だっこ……」

目をぼんやりあけたら…

ああああああ!!
ここ、俺の部屋テリトリーじゃない!公爵家の馬車敵地だった!

ゲイルはクスクス笑いながら俺のおでこにちゅってして、抱っこで起こしてくれた。

「これでいいか?うちのかわいいおぼっちゃま」

でれでれである。
向かいの人!
見てませんよー、ってポーズしてくれてる気遣いは合格だけど!(アンタたちにしては満点だ)
ふるふると震えてんの!隠せてないからなっ!

………いいじゃん!
おはようのちゅー、朝から幸せでしょーが!
しかも、ゲイルのだっこで起きたら、すごくいい1日の始まりってかんじでしょーっ?!

いいんだよ!これがうちの通常なの!

「なんか もんくあるっ?!」

涙目でキッと睨むと

「………いや……とても…かわ……よいとおもう……」
「か、かわい…………すごくすてきな習慣だと思います」
「………………いいなあ………」

公爵!セリフがひらがなになってんぞ!
ライ!そうだろうそうだろう!最高の習慣だよなっ!
リオ、羨ましいか!公爵はぜったいこんなのやってくれないだろうなー!どやあああああ!

気をよくした俺は、ご機嫌でゲイルにおかえしのおはようをした。
両手でしっかりゲイルのおかおをつかんで

「ゲイルおはよ。だいすき!」

ちゅ!

えへへへへー!
お披露目にむけ、ぱわーじゅうでーん!
ぎゅーっ!!

「…………いつも…その……そのようなことをしておるのか?」
「してるけど?!
だいすきは なんかいいっても いいんだからね!
いえるときに いう!
いま しんじゃったら どーするの?
あとからだと おそいときあるでしょ!
だからぼく ゲイルにたっくさん いうの!
ゲイルがくれるだいすきの おかえしするの!」

ふんすふんすと胸をはって主張する。
後悔、って後からするから後悔なんだよ。
そんなら「その前に」やっとけばいいの!
そしたら後悔しなくていいでしょ!

特に公爵!あんたはこの言葉胸に刻んどけ。

「あとからこうかいしても おそい。
さいしょから そうならないように こうどうすべき」


しーん。


公爵家、沈痛な表情で黙り込んでしまった。

そうか。今の言葉には別に他意はなかったんだが、コイツら俺にしでかしてるもんね。
まあ、反省はしてほしい。すべきだ。

でも
それは…今じゃないぞ。
これから俺のお披露目会!分かってる?!
そんな辛気臭い顔やめてよねーっ!

なんとかその顔をやめさせようと、優しい俺はフォローしてやった。

「とりかえしがつかないことも ある
やってしまったことは とりけせない。あきらめろ」


チーン。
あ、やっちった。
公爵家終了のお知らせ。

「………サフィ……容赦ねえな……」

ゲイル、そんな怯えた目をしなくていいんだよ。
だって、ゲイルはそんなことしないもん。
ゲイルは最高のお父様だもんね!

にしても……

「こうしゃくけ!そのかお だめ!
ぼくのおひろめ!いいかおして!
そのへんなかお なおして!はやく!」

馬車の外に人の気配がする。
俺たちを待ってるんじゃん!
ちょっとお!
俺のファーストミッションなんだから!
なんとかしてよねっ!

あんなに怖かった公爵家が、もう怖くなかった。
俺の中でこいつらはそろって「ダメな人たち」「俺の下僕」と決めた。
だから、もう遠慮なしに言いたいことをいって、やりたいようにやる。
それでいい。
俺はもうこいつらと家族じゃないんだし。俺にはゲイルがいるし。

俺は、ぴょいとゲイルの腕から飛び降りて公爵の前に立つと、その口の両端に親指をグイっと突っ込んだ。

「はい、えがお!にっこりして!
にーーーーーーこり!!」

口を左右にぐいーっとして、無理やりに笑顔にさせる。
公爵の表情筋、かたすぎ!
ぜんぜん伸びない!
仕方なく両手でほっぺをつまんでぐるんぐるんと柔らかくすマッサージをしてやる。
公爵!目を白黒させてる場合じゃないぞ!
こういうの、毎日の積み重ねが大事!


ゲイルから小さく「オニか…」と聞こえた気がするけど、気のせいだよね?
俺、当たり前のこと言ってるだけですよ?
ほら、慌ててライリオも自分たちで「にー」ってしてるでしょ。
必死で頑張ってるじゃん!
お前らなかなか見どころあるぞ。
笑顔大事!
俺のお披露目の第一印象はその笑顔にかかってるからな!

にしても……
俺は残念な思いで目の前のオッサンを眺めた。

「こうしゃく、てつめん。れいけつこう。
ひょうじょうきん しんでる。かっちんかっちん。
まいにちこれやって やわらかくして」

俺に更にほっぺをぐいーっとされた公爵の目に、かすかに涙が滲んだ。

え?公爵、泣くの?
え?
大人なのに?
鉄面皮なのに?冷血公なのに?
うそでしょ?!

「これくらいでなく?!
めんたるよわよわ?
ぼくのほうがつよい。
ぼく もっとつらかった。
でもずっと なかずにがんばった。
こうしゃく よわすぎ。クソ」

またしても口に出てしまっていたようだ。

ゲイルからまた小さく「オニだな」と聞こえた気がするけど。
何度もいうようですが、俺、当たり前のこと言ってるだけだよ!

さあ、とっとといい笑顔しろ!公爵家!
見本はこれだぞ!

にこっ!

「可愛いなあ、おい!
やってることはオニなのに!」

ゲイル。一言余計です。



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