上 下
36 / 276
お披露目会、大成功!…だよね?!

俺は旅を楽しむって決めた!

しおりを挟む
ゲイルがいうように、俺ってけっこう図太いのかもしれない。
たかが鼻水くらいでヒイヒイ言ってるライリオと、そんな息子に翻弄されあわあわする公爵。

腹がよじれるくらい笑ったら
……まあいっか、って思った。

そもそも、すぐにゲイルの息子にしてくれるって言ったのを断ったのは俺だ。
「俺が」公爵家の3男としてお披露目するって決めたんだ。
公爵が無理に「息子として出ろ」って言った訳じゃない。
意外なことに、公爵は何度も

「よいのか?」
「嫌ならやめてもよいのだぞ」
「もしお前が望むのならば……………伯爵家からお披露目ということも……」

と俺に確認した。
クソ親父なりにもんのすごおく言葉を選んでるっぽかった。

でも「公爵家3男としてでいい」って言ったのは俺だ。
なんか変に意地になってたのもあるっちゃあるけど。
自分で決めたんだもん。
男なんだから、自分で決めたことには責任とらなきゃな!
不本意だろうと嫌だろうと、しょうがない。


てことで。
いったん、置いておく。
心の「公爵家めっ」をジップロックに入れてチャック!
イメージって大事なんだ。
俺、よく試合の前とかには、不安とか緊張とかを全部ジップロックに入れてチャックしてた。
んでもって、自分が勝つところだけを考えるんだ。
このトレーニングを何度も何度も繰り返すと、自分をコントロールできるようになる。

まだまだサフィの俺にはそれが難しい。
でも今は。
できるだけぎゅっぎゅってしてぽいっとしてチャック。
涙くんよ、しばらくバイバイだ!
お披露目で、最高の俺をご披露するんだ!
カッコいい俺をご披露するんだ!
ゲイルに見て貰うんだ!
ゲイルに「俺の息子なんだぞー!凄いだろう!」って思って欲しいんだもん!
公爵たちに「凄いだろー!でも、お前らは家族じゃねーからな!」って見せつけてやりたいんだもん!

そうと決めたら。
一気にテンションが上がった。

「よおおおおおおおっし!
おもしろいものこうしゃくたちみたし、いいや!
こうしゃくたちいても がまんする!
つよくなるんだ!
ぼく、がんばるからね、ゲイル!!
ぼく、かっこいいゲイルのじまんのむすこ!なるから!
えいえい、おー!」

急に拳をつきあげて宣言した俺に、車内はシーン。

いやいや、ここはやれよ。やるとこでしょーが!
ジロリと公爵たちを睨む。
いくぞ、もっかいだ!はい!

「えいえい、おー!」

繰り返すと、おどおどと

「「え…えいえい…おー……?」」

勢いは無いし語尾にはてなマークが見えるが…まあ、合格にしてやろう。
俺は優しいからな。

「………エイエイオー、とはなんなのだ?」

公爵。お前は失格だ!出直してこい!

「かけごえに いみひつよう?」

俺はイヤーな目で公爵を見た。

「……すまぬ。………もう一度よいだろうか」

しょーがない。最後のチャンスだぞ?

「えいえい!おーーーー!!!」

「エイエイ、オー!」

余程恥ずかしいのか、普段鉄面皮と言われる無表情が真っ赤に染まっている。
耳まで赤いぞ。
公爵!どんだけー?!
公爵は、それでもやり切った。
…やるんだ…。
………そんなになっても、やるんだ。俺に言われたから。

ちょっとだけ、敵って思うのやめてやってもいい。






「…………もう許してやれ。俺の腹筋が限界だ」

ゲイルくん、失格!
さっきから全く参加してませんよね?!
息子にエールも贈れないなんて、お父様失格ですよ!

ぷう、と頬を膨らませた俺の口に、ゲイルがポイと何かを放り込んだ。

「!!」

飴だ!さっきのは俺が食べたから…新しいやつ?!
え?!何で?!
どっから出したの?

「こんなこともあろうかと、な」

片目をつぶるゲイル。
もう!こんなんじゃ誤魔化されないからね。
んー、うまうま。
ライリオ、お前らにはやらん!そんなに見るんじゃない!
羨ましい?ふっふっふ!羨ましいでしょ!
俺のお父様はかんっぺきなんだぞ!
俺の為にあらゆる状況を考えて備えてくれてるんだぞ!
ふっはっはっは!
この優しくてカッコよくて親切でかんっぺきな人、俺のお父様!
ドヤァ!

ドヤったあと、
君たちのお父様はアレだよねー、かわいそうにねー。
もんのすんごく、人の心の分からない人だもんねー。
残念だねー。
って憐れみの目を向ける。
あのクソな親父は「君たちのお父様」だもんねー。
俺のお父様はゲイル!
ああよかったー!俺のお父様、ゲイル!

公爵が俺の視線になにか察したらしい。
複雑な顔をした。

アンタはもっと成長すべきだ。
ゲイルを見習え。
公爵としては有能かもしれんが…

「こうしゃく おとうさまとして クソ。」

あ!口にでちゃった!
ま、いっか!ホントの事だもん!

「らいりお かわいそう。
ぼく ゲイルおとうさまでよかった。
ゲイルをみならうべき」

あ!また!
って、これはわざとでーっす。
ほんと、見習うべきだよ、公爵。
色々たりなさすぎ。
もっと周りを見ろよ。もっと子供たちを見ろよ。
言葉にして伝えろよ。
言わなくても伝わるなんて、嘘だ。
俺はそれを知ってるんだ。



いうだけ言って満足して、ゲイルのお膝で窓の外を見る。
こっからはこいつらは無視して、旅を堪能する。


「うま!あれ、うま!
みて!ゲイル!たくさんうまがいる!」
「おみせがある!
ゲイル!ゲイル!
たくさんがんばったら ごほうびちょうだい?
かえりにおみせやさん!いい?」
「あれ!あれなに?
あたまにつのがある!
まもの?まものなの?
びーむとかする?とぶ?」


「ああ、そうだな。馬だな。
馬ならうちにも沢山いるぞ?
もうすぐ子供が産まれるから、産まれたらサフィに仔馬を一頭やろう。
可愛いぞー!」
「いいぞ。おとうさまにまかせろ!」
「つのウサギだ。初級冒険者にも狩れる、低ランクのまものだな。
ビームは出ないぞw飛ぶこともない。安心しろ」

きゃっきゃとはしゃぐ俺に、にこにこと色々教えてくれるゲイル。
向かい側さえ無視すれば楽しい家族の光景だ。

時々街道に人がいるので、おれは張り切って手を振った。

「こんにちはー。ぼく、おひろめなの!」


みんなにこにこして手を振り返してくれる。

「これ、ゲイルだよー!ぼくのおとうさま!
すてきでしょお!」

「ゲイル!おかおみんなにみせて!!」

ぐいぐいとゲイルの顔を窓に押し付ける。
みてみて、みんな!素敵でしょ!

「さいこーのおとうさま!」

ゲイルが苦笑して手を振ると、街道から黄色い悲鳴が上がった。

そうだよね、そうだよね。
だって、ゲイル、かっこいいもんね!
うふふふー。
素敵でしょう!俺のお父様!
俺のだもん。俺の!

たのしい。うれしい。

たっくさんお喋りして、
たっくさんゲイルと一緒に手をふりふりして。

いつの間にか、俺は疲れてねむっちゃってた。
だから、眠る僕を見つめながら、前で公爵たちがこんな会話をしてたのを俺は知らなかった。




「サフィラス…笑ってたね…」
「あんなに色々な顔が出来たんだ…」
「………確かに…私は父親失格だ…。このような父ですまぬ…」
「………私たちだって、兄失格です。同じですよ、父上。私たちはみな許されないことをサフィラスにしたのです」
「ごめんね…サフィ…」
「……今日は我々にできる精一杯で、素晴らしいお披露目になるよう尽力しよう。サフィラスに恥をかかせぬように」
「はい。父上!立派にやり遂げてみせます!」
「がんばって手伝います!」
「伯爵。我々に協力できることがあったら遠慮なく申し付けて欲しい。
邪魔をするなという事であれば、控えていよう。我々は全てあなた方に従う。
私に言えたことではないが…どうかサフィラスを…頼む」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

婚約破棄は十年前になされたでしょう?

こうやさい
恋愛
 王太子殿下は最愛の婚約者に向かい、求婚をした。  婚約者の返事は……。  「殿下ざまぁを書きたかったのにだんだんとかわいそうになってくる現象に名前をつけたい」「同情」「(ぽん)」的な話です(謎)。  ツンデレって冷静に考えるとうっとうしいだけって話かつまり。  本編以外はセルフパロディです。本編のイメージ及び設定を著しく損なう可能性があります。ご了承ください。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でもある時、マリアは、妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

自分勝手な側妃を見習えとおっしゃったのですから、わたくしの望む未来を手にすると決めました。

Mayoi
恋愛
国王キングズリーの寵愛を受ける側妃メラニー。 二人から見下される正妃クローディア。 正妃として国王に苦言を呈すれば嫉妬だと言われ、逆に側妃を見習うように言わる始末。 国王であるキングズリーがそう言ったのだからクローディアも決心する。 クローディアは自らの望む未来を手にすべく、密かに手を回す。

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

処理中です...