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お披露目会、大成功!…だよね?!

俺とサフィと公爵とその息子たち

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俺は左手をゲイル、右手をエリアスにつながれ1階へと続く階段をおりた。
実は、王都に行くのはもちろん、公爵家の外に出るのも、馬車に乗るのすら俺は初めてだった。
緊張のあまり、右手と右足を一緒に出し、カクカクと歩く俺は、笑いをこらえた保護者により強制的に「両手を左右で掴まれて運ばれる宇宙人の図」になってしまったのである。

ちなみに、ティガーとマリーは先行し「万が一サフィ様が足を滑らせても大丈夫なように」下で両手を出して待ち構えて居る。
これって、バラエティでいう「あ~れ~!」ってやった方がいいやつ?



そんなこんなでようやく屋敷から出ると。
そこには公爵とその息子たちが俺たちを待ち構えて居た。

3人そろって公爵家のカラーである濃紺を基調とした衣装に身を包んだ公爵たちは、いかにも「貴族」という感じだ。
そのどこか強張ったような緊張した表情も相まって、どこか近寄りがたい。
笑顔になれとは言わんが、もう少しなんとかならないのか?
てか、その子供達も一緒に行くの?
それなら、エリアスだって行ってもよくない?
俺のお披露目なんでしょ。俺、その子だちよりエリアスに来てほしい。
そんなことを考えてちょっとムスっとしちゃったのくらい、許して欲しい。

ええー……やだなー……
俺、もしかしてデカデカと鎮座するキラキラした公爵家の馬車(推定)に公爵たちコイツらと乗らなきゃダメ?
その後ろにある、ツタの絡まった巨匠の、侯爵家ゲイルの馬車(推定)に乗っちゃダメ?

俺は思わずゲイルとつないだ手をぎゅっとしてしまった。
ゲイルがそんな俺の手を優しく反対の手でポンポンとしてくれる。
俺を背に庇うように、ニコニコとした笑みを浮かべながら一歩前にでるゲイル。
その逞しい背中に、俺の強張っていた力が抜けた。
するり俺の肩を抱き、包み込むような位置に立ったエリアスの体温も、俺を落ち着かせてくれる。
誰が何と言おうと、この二人とティガーとマリーが俺が大好きな俺の家族なのに。



公爵は、現れた俺たちを見ると、
どう見ても「家族です」という仲良さげな様子にその目をわずかに陰らせた。
ゲイルの色を身に纏った俺は、どう見てもゲイルと仲の良い親子である。

(何?なんか文句ある?俺にも青を着ろって?)

俺が犬なら牙を向いて唸っていただろう。
大好きな家族の色なんだ。
少しでも否定的なことを口にすれば、許さない!

懸命にも公爵はそれを口にはしなかった。
ただ

「……サフィラスの瞳の色だな。良く似合っている。
よい衣装を用意して貰ったのだな」
「ゲイル、有り難う」

と言っただけだった。
そして自ら馬車の扉を開き、

「さあ、ゆこうか」

と俺に微笑みかける。

俺の前には、
向かって前に馬車、真ん中にあるその扉を中心に、左側に公爵、右側に子供達という地獄の花道が。

やっぱり俺はここに乗るらしい。………なんなの?拷問?
現地集合しちゃダメ?

そういう意味を込めてゲイルを見上げると、

「王都までは数時間だ。
その道中もお披露目のようなものなんだ。
サフィは公爵家の3男としてお披露目するんだぞ?」

と苦笑された。

公爵はそんな俺をせかすことなく待っている。
……俺が乗らなければ出発しないってことですね…。
初めての馬車だというのに、俺には地獄行きのバスに見える。
俺は、なんだかドナドナされる子牛の心境が分かった気がした。



子供達の視線と公爵の視線を一身に受けながらしぶしぶ馬車に乗り込む。
すると、するりとゲイルまでついて来る!
ええ?!ゲイル?!
一瞬、予め話を通してあったのかと思ったが、違ったようだ。
公爵も子供達も唖然としている。

「この馬車、6人乗りですよね?
サフィはそとに出るのも、馬車に乗るのも初めてですから。
緊張して何かあってはいけません。
医者であり、父親であるわたくしがサフィの横に座り、サフィの世話をさせていただきます。
皆さま、ご安心ください」

ノーと言わせぬ響きでこう言うと、俺と一緒にさっさと乗り込んでしまった。
ゲイル!ゲイルううううううう!!!信じてた!!!!!

チラリとみると、窓越しにエリアスが「ナイス」と口を動かし片目をつぶったのが見えた。


医者でるゲイルにそうまで言われては反論できず、公爵たちも乗り込んできた。
通常ならば、身分の高いものが進行方向を向いて座るのだが、馬車に慣れぬ俺の合わせて、進行方向を向いてゲイルと俺が、俺の向かいに公爵、その横に子供達が並んで座ることになった。

さすが公爵家の馬車。思っていたよりも広いのが救いだ。
向かいの人と膝付き合わせて、とはならず、適度な距離がある。

それでもここは敵地。
俺は無意識にゲイルににじりより、そのままゲイルの膝に上がり込んでしまった。

「…………サフィラス。この馬車はかなり揺れを抑えた作りとなっている。
が、それでも揺れぬわけではないのだ。
危ないから、兄たちのようにしっかりと座りなさい」

遠慮がちに俺を諫める公爵。

「…………ゲイル、ぎゅっ!ぎゅっとしてたら だいじょうぶ!
ゲイルがしっかりおれをだっこしてくれたら いける!」


子供みたいなことを言ってるよね。自分でも分かる。
公爵たちがあまりにも近くにいるから、俺、おかしくなってる。
分かってるけど、自分でもどうしようもない。
心細くてたまらない。

公爵たちと一緒に、公爵家の馬車で、公爵家の3男としてお披露目会に行く、というのは。
覚悟はしていたが、思った以上に俺の負担になっていた。
それが、ゲイルへの甘えとして出てしまったんだ。





俺がこの身体のメインになったのは、サフィラスが倒れてからだ。
でも、その前から俺もサフィと一緒にいた。
あの意地悪な母の元侍女という女に、ご親切にも「母を殺した悪魔の子、公爵家のいらない子」だと教えられ、俺が生きているべきではないという理由をとうとうと聞かされた。
その時までは、サフィだって希望を抱いていたんだ。

部屋で一人ぼっちでも。誰もかまってくれなくても。
部屋の外に出たら、優しい人がいる。
部屋の外なら大丈夫だと。

部屋の外に出たけど、誰もサフィを見なかった。
優しい人なんていなかった。

それでも。
それでも。

父親がいる。
誰かが楽しそうに話をしているのを聞いた。
父親って、子供を大切に愛してくれる人なんだ。
お父様なら、優しくしてくれるかもしれない。
それに、あの子供達は兄らしい。
兄も弟を愛するものなんでしょ?

あの部屋は一人ぼっちのへやだけど。
部屋の外には笑顔があるから。
優しい人がいるところだから。

「おとうさま、おはようござます」
「おにいさま こにちわ」

(おとうさまだもん。
おにいさまだもん。
まだなかよくないけど。
たくさんあったら たくさんごあいさつしたら ぼくにえがおをくれるかも?
ぼくとおはなししてくれるかも?)

サフィは気付いてた。
自分が疎まれている、避けられているって。
だけど、だけど、希望がなければ生きていけなかったんだ。
希望をなくしたら、生きていけなかったから。

疎まれても。
無視されても。
毎日毎日、がんばって、あの階段を一歩一歩降りていた。
いつ会えるか分からない家族を待ち続行けていた。

あの日、あの母親の元侍女だと言う女に教えられるまで。

「ぼくをいらないとおもっているのは ぼくのおとうさまだった。
ぼくのおにいさまは ぼくがしんでほしかったんだ」


絶望したサフィには何でもいいから救いが必要だったんだ。
だから、前世の俺が呼び出されたんだ。
サフィだけじゃ、生きていけないから。
希望を失ったサフィの希望になるために。


俺には、俺が呼び出される前のサフィの記憶も全てあった。
俺はサフィであり、俺なのだ。

そこからは、サフィと一緒だった。
クソ教師にボロボロにされるサフィ。

おい!公爵!
俺は分かってるんだからな!
どうしてこんなクソ教師をあてがったんだよ!
サフィだって息子だろ?
どうでもいいとでも思ってんのかよ?

この公爵家で、使用人たちも誰もサフィを救ってくれなかった。
でも、それは主であり父親である公爵が動こうとしないからだ。
その目をつぶり、自分を憐れんで閉じこもっているからだ。
その弱さのツケを払っているのは、幼いサフィなのに。


母が他界した時、3歳と5歳であった兄たち。
母が恋しい時期に母を失い、父は閉じこもるようになり。
まるで両親を失ってしまったようなもの。
それは分かる。
でもさ、でもさ!
サフィだって、母親を失っているんだよ。
父にまで「いない者」扱いされて、使用人にも構われず。
たったひとり。ひとりぼっちであの寂しい粗末な部屋におかれているんだよ。
お前たちには、お互いがいるじゃん!
気遣って優しくしてくれる使用人が、侍女がいるじゃん!
サフィには誰もいないんだよ!
どうしてそれに気付かないんだ?
少しだけ…少しだけ優しくするのもできなかったのかよ…クソッタレ!



悲しみに浸り、そこから這い出すきっかけを失った公爵たち。
それでも。それでも。
その全てを生まれたばかりのサフィに押し付け、冷遇した事実は変わらない。
幼いサフィはなにも分からず「じぶんがわるい」と思っていたようだが、俺は違う。
俺には17年生きていた経験が、知識がある。

だからこそ、言える。

悪いのはサフィじゃない。

だって、サフィは選べなかった。
生まれたくて生まれたんじゃなかった。

公爵たちは選べただろ?
公爵は、そもそも子供は2人にしておけばよかったんだ。避妊しろよ!クソ親父!

母は、命がけで俺を産んだ。「母が選んだ」んだよ!サフィじゃない!
産んでくれたことには感謝してる。俺を愛してくれたことにも。
でも、でも、その後のことは考えたのか?

子供達だってそうだ。
お前らには、父がいるじゃん。
母が他界した後だって、全く構ってくれなかったわけじゃないだろ?
だって、サフィはお前らが嬉しそうに一緒にいるの、見てたんだ。
外から楽しそうに話している声だって聞こえてた。
使用人だって気遣ってくれたろ?
美味しい食事、あたたかな寝床、優しい言葉。気遣ってくれる人。
サフィが欲しい物、全部持ってたじゃんか!
なのに、なのに。何も持ってないサフィから、生きることまで奪おうとするなよ!
わざとじゃない?
まだ子供だから?
でも、俺は覚えてる。サフィの絶望も、悲しみも、切なさも。
それでも抱いていた希望も。
お前ら、うろちょろしてたよな?後悔してたんじゃねーの?話したかったんだろ?
お前らにサフィに手を伸ばす勇気があれば、どれだけサフィが救われたか…

サフィが倒れてから、公爵たちは変わった。
自分たちが何をしてきたのか、何をしなかったのか。
ようやく気付いたんだろう。
まるで悪い夢から目覚めたとでもいうように、サフィラスを気遣うようになった。
でも、もう俺はお前らを家族とは思えない。
必要とした時に、なにひとつ与えられず。
「家族に優しく声をかけてもらう」というささやかな希望すら叶えられなず、手放したサフィ。

サフィはもう公爵家をあきらめたんだ。
だから、部屋から外に希望を求めたように。
この公爵家から外に希望を見出した。
冒険者になると決めたサフィ。
サフィの希望は、ここにはなかったから。


なあ。公爵。
なあ。ガキども。
サフィの欲しかったものは、全部ゲイルが与えてくれた。
エリアスが、マリーが、ティガーが与えてくれる。
アンタたちからはもう要らないんだよ。
アンタたちは「いらない家族」なんだ。
俺の家族はゲイルだ。




おずおずと前から小さな声がかかる。

「………サフィラス、大丈夫か?」

ライオネルだ。
大丈夫かって?

「だいじょばない!こうしゃくたち きらい!
ぼくにちかづかないで!
ぼくにはなしかけないで!」

俺は嫌々するように彼等から顔をそむけ、ゲイルの胸に顔をうずめた。

「ゲイル!ゲイル!ぎゅってして!
ぼく、ほんとはここイヤなの。てきしかいない。
みかたはゲイルだけ」

「てきじゃないよ!ぼく、サフィのおにいさまだよ!」

たまらず、といった感じでリオネルが叫ぶ。

「ぼくにおにいさま いない!
ぼくのかぞく、ゲイルとエリアス。マリーとティガー。
あと、あったことないけど、ゲイルとエリアスのおうちのひと。
こうしゃくたちは いらないひと。
ぼくをいらないっていったひと。
ぼくなんてしんじゃえっていったひと。
ぼくだっていらないもん!
こうしゃくたちなんていらない!!
もうかぞくじゃない!」

吐き出すように叫び、泣きながら手を振り回す。
お前らは俺に近づくな!
俺に触れるな!
サフィをこれ以上傷つけるな!

「サフィ!」

強い声に、一瞬息が停まる。
ビックリして黙ると、ゲイルが俺の顔を両手でくるむようにしてのぞき込んできた。

「……サフィ。それ以上言ったらダメだよ。
可愛いサフィ、サフィは優しいから…優しすぎるから…それ以上言ったらサフィも傷ついてしまう。
俺の大事なサフィを傷つけないでくれ」


ゲイルの言葉に、俺はハッとした。
ゲイルには分かってたんだ。
いらない!と叫ぶ俺の言葉が、俺自身を傷付けてるのを。
傷付られて来た俺は、傷付けられる痛みを誰よりも知っている。
俺、俺…傷付きたくない。
でも……こいつらを傷付けたいわけじゃないんだ。


おずおずと振り返ると。
そこには、真っ青になって言葉もなく涙を流すリオネルと、ライオネル。

俺が傷付けた2人。
我に返る俺を
ゲイルが優しく抱きしめる。

「大丈夫。公爵がなんとかするだろ」

ジロリと公爵を睨めつけるゲイル。
ハッとしたように公爵が動いた。
涙を流す2人の肩をぎこちなくそっと抱きしめる公爵。

公爵は鎮痛な眼差しで俺を見つめ、深々と俺に頭を下げた。


「……すまない。私が悪かったのだ。全て私の罪だ。
謝ってすむことではない。だがそれでも…それしかできぬのだ。
すまない。
お前の希望は全てかなえよう。
私たちが家族ではないというお前の言い分も、尤もだ。それでよい。
それでも、それでも私たちはサフィラスを大切にしたいと思っているのだ。
今更だろう。
しかし、これが正直な気持ちだ。
サフィラスが私たちをどう思っていても、私たちはサフィラスの敵ではない。
サフィラスの幸せを心から願っている。
どんなときにもサフィラスを守り、味方をすると誓おう。
………だから、すまないが、今日だけは共にいることを我慢して欲しい」

その顔は青を通り越して真っ白だった。
泣いていないのに、泣いているように思えた。

いらない人たちのはず。
この人たちは、俺の敵。
なのに…なのに何故か俺の胸は痛んだ。

「サフィ。
俺はお前にこれ以上なにも捨てさせたくない。
いらないならそれでいいんだ。
でも…いらなくても捨てなくていいんだよ。
お前を傷つけるものは、ゲイルが全部やっつけてやるから。
怖がらなくていい。俺がそばに居るから。
お父様が、ずっと一緒にいるから」


ゲイル…俺、こいつらいらない。いらない。 
家族としては…無理だ。家族としてのこいつらは捨てた。
でも、新たな関係を…こいつらと築けるかな?拾い上げていけるかな?

「可愛いサフィ。大切な俺の息子。
大丈夫だ。大丈夫だよ」







大人しくなった俺を、ゲイルはずっと抱きしめてくれた。


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