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ゲイル、息子(予定)の為に公爵家に通います!

俺、新しい教師に会う!

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すったもんだの末に(主にゲイルが)俺の貴族教育は再開された。

教師として選ばれたのは…俺と同じ緑の目に茶味がかった金髪の20歳くらいの男。
見ただけで高級品だと分かる素材の服を身にまとい、いかにも高位貴族という感じである。
でも…チャラい!
どこか致命的にチャラい!
それに、なんか…なんか…ゲイルに似てるんですけどおおおおお?

目をキラキラと輝かせ、満面の笑みを浮かべている。

「はじめまして。サフィラスくん!
僕はね、エリアス・サフィールと言います。
僕もサフィなんだよ?サフィラス君と一緒だね!
というよりも、サフィラスくんの名前がうちの家名からつけられたんだと思うけどね。
もう、姉さんったら!うちのこと大好きだから!」

エリアスはいきなり両手で俺の手を握り、ぶんぶんと振り回す。
テンション高!
このひと、すんごいぐいぐい来るんですけど?
って、姉さんって、もしかしておかあさまのことだったりしますかー?!
てことは。
この人!この人!!もしかしなくても、母の弟?実家の候爵家を継いだって人じゃね?!
ゲイルが言ってた、今の侯爵家ご当主じゃん!!
なんでこんなとこに来てんのーっ?!
てか、俺の教師ってどゆことーっ?!
ゲイルといい、この人といい、みんなこっちに来ちゃって!大丈夫か侯爵家?!

俺は公爵家とのあまりの温度差に頭がくらくらした。

「………はじめまして。
………エリアスおじさま??」

怒涛の展開に頭がついていかない。
ドン引く俺にかまわず、一方的にしゃべり続けるエリアス。

「エリアスおじさま!そうだよ、エリアス叔父様!うわあ!新鮮だなあ、叔父様だって!
今まで会いに来れなくてごめんね。
まさか姉さんが亡くなって、そのまま父上と母上が亡くなるなんて思わないでしょ?!
あの人たち、まだ40代だったんだよ?
そりゃあ根回しはしてたよ?
だけどさあ、僕が侯爵を継ぐのなんてまだまだ先だって思うじゃん?
なのに…僕、22歳で侯爵になっちゃったよねえ…。
ゲイルってばとっくに伯爵になっちゃってるしさ。僕しかいなかったもんね…。
ゲイルが継げば良かったのに…今からでもいいから、戻ってくれないかなあ…
侯爵って堅苦しいんだよねえ…」


遠い目をして語り、恨めしそうな視線をゲイルに送るエリアス。
ゲイルがそれをいい笑顔で切り捨てる。

「却下!」

「………」

「それでさ。
『まだ継ぐには若すぎる』だの、家門の老害どもがうるさくってね。
ちょっとごたごたしちゃったんだよねえ。
末端までしつけるのに、思いのほか時間がかかっちゃった!
でも、でも、何度も公爵家には『サフィに会わせてくれ』ってお願いしたんだよ?
なのに公爵ってば『サフィは病弱なので外に出せません。見舞いも不要』って毎回テンプレ。
結婚してから姉さんも囲い込まれてたから、サフィも囲い込まれてるもんだと思ったんだよね。
なのに!
ゲイルからサフィの話を聞いて驚いたよ!有り得ないから!
もう、絶対に僕が連れて帰ってやるって思ったもん」
「『エリアナを思い出すのが辛いから』ってウチごと拒否ってさあ!どんだけメンタル弱いんだって話だよ!
信じられないよ!何なの、あの人!
姉さんを僕から奪っておいてさ!あんなのに取られたと思うと…!!」

「……………」

「てことで。会いに来るのが遅くなってごめんねえええ!!!
サフィちゃん!エリアス叔父様ですよおお!
ちなみに、ピッチピチの26歳!侯爵してまあっす!
これからは叔父様が優しーく貴族教育をしてあげるからねっ!
あのクソなゴミクズ教師みたいなことにはならないから、安心して!
はあああ!ようやく会えたよおおお!
ああかわいい!姉様そっくりだ!かわいいねえ、かわいいねええええ!」

俺に抱き着いてハスハスと頭の匂いを嗅ぐエリアス。
あまりのハイテンションに、俺…

「………ゲイル……」

この人、大丈夫か?という気持ちを込めてゲイルに視線をやる。

「……こいつの通常運転だ。気にするな」

「………」気になるでしょ。

「………いや、これでもこいつ、優秀なんだぞ?
最初こいつが継ぐことに反対してた老害どもも、この4年ですっかり忠犬にしつけやがった。
……ただ……重度のシスコンでな……。
まあ今後は…サフィコンになるんだろうなあ………」

遠い目をするゲイル。
いやいやいやいや!!なんとかしてくれ!!!

俺は存在感を消している公爵をギロリと睨んだ。

おい公爵!アンタ、ちゃんとした教師を探すんじゃなかったのかよ?
これ以上俺に嫌われたくなきゃ、しっかりと仕事しろよ!

「……すまない…」

そっと目をそらす公爵。
って、頼りになんねえなあ!それでも公爵かよ!!

どうやら

「サフィを虐待してた?はあ?!何してくれちゃったんだ?!
そんならサフィを寄越せ!侯爵家の後継にするわ!
え?伯爵家を継ぐの?えええ?!ずるいずるい!サフィを独り占めするつもり?!
僕だって会いたいのにいいい!」

「え?教師を探している?
……侯爵家の当主の僕なら、何の不満もないよねえ?
侯爵家当主じきじきの貴族教育なんて、箔が付くでしょ?
え?領地管理?
ちょっと僕が不在にしたくらいで傾くとでも?
しっかりしつけてあるから、数ヶ月僕が居ないくらいなんとでもなるよ。
舐めないでくれるかなあ?」

ってことらしい。
いや、侯爵家ええええええ!!!!つよつよすぎん?
これって普通なの?いや、おかしいでしょ?!

侯爵家って、家族が大好きなんだって。
「家族を守るためなら躊躇なく牙を向く侯爵家」って有名らしい。
だから、本当なら俺があんな風な状況になったのは、異例中の異例だったみたい。
ゲイルが母を救えなかった負い目(俺がお腹にいたせいでゲイルのヒールも効かなかった)と、
母の葬儀に出席した前侯爵夫妻がその帰りに事故にあい亡くなってしまったこと、
あらゆることが重なってしまった結果だったようだ。

「…まあ、悪い奴じゃないから。能力だけは保証する!
俺も、こいつになら安心…して…(いやそこで首をかしげるな、ゲイル!)
サフィを預けて病院に顔を出せるしな!
………ってことだ!」

強引にしめようとするな、ゲイル!
まずはこのお兄さんを俺から引き離してくれ!
涙と鼻水をさりげなく俺の肩で拭ってるこのお兄さんを!


「……クリーン……」」

ありがとう、ゲイル。綺麗になったよ。
でも、そうじゃねえ!
そろそろ俺のメンタル限界。
匂い嗅いだ後、ほっぺにすりすりされてるんですがー?

しょっぱい顔になっている俺に、ゲイルが重ねて言った。

「……すまない。まあ、こいつがどうこういおうと、もうサフィは俺の息子だし?
こいつもずっとサフィのこと気にしてたんだよ。
今はちっと壊れちまってるが…許してやってくれ。
サフィを愛してんのは確かだから」

確かに、ちょっと強火すぎてビビったが、愛情は充分すぎるほどに伝わってくる。
こんなに俺を想ってくれていたのも嬉しいし、
こんなに愛してくれてるのも嬉しい。
でも……なんで侯爵家、こんな強火担が多いんだよおおおお!
ヤバいでしょ?

俺は亡き母を想って少し遠い目になった。
母はこんなつよつよ個性のメンバーと育ったんだなあ…。
ゲイル曰く、穏やかで明るく、とても優しい人だったというが…こんな弟で大丈夫だっただろうか?
まあ、実際は、相当心の強い人だったんだろう。
そうじゃなきゃ、医者になりたいというゲイルを庇ったり、命がけで俺を産んだりしない。
そんな母が、どうして公爵みたいに正反対なタイプに嫁いだのかと不思議だったが。
人間、自分に無いものを求めるっていうからな…。
こんな騒がしい連中に囲まれてると、冷静で静かなタイプが良く見えるのかもしれない。
不器用なタイプが魅力的に思える…のかもしれない。
俺はなんだか母の気持ちを少し理解できた気がした。

ついでに公爵の気持ちも。
公爵家の方は、使用人も含めて割とクールで真面目な連中が揃っている気がする。
どこか冷めたような他人行儀な空気が漂っている。
そんな奴らには、母の家系の自由さ、明るさがまぶしかったんだろう。
まあ、母への敬愛が深すぎて、使用人まで俺にああなっちまったわけだが…。
ああ、いかん。しんみりとしてしまった。

とりあえず。

「えりあすおじさま?
とりあえず。はなしてください。においかがないで」


俺の教師は決まったようだ。
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