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公爵家の憎まれ3男、それが俺です

俺の前世(加筆修正2)

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それでもサフィは頑張っていた。
辛いのを必死で隠し、家族に好かれようと笑顔で話しかけ続けた。
それ以外どうしようになかったからだ。
俺は、それがすごくもどかしかった。

俺に言わせれば、あんな奴らは家族ではない。
家族とは、俺の前世の家族のような人をいうのだ。
サフィにあんな扱いをする人たちなんて、家族じゃない。


俺は前世で高校生だった。

前世の俺には、父と母、そしてサフィと同じように兄が2人いた。
兄とはよくケンカもしたが、それでも俺は彼らに愛されていたと断言できる。

俺は見た目が中性的で威圧感がないからか、異性にも同性にも異常に好かれた。
おかげで、ものごごろついた時にはいろいろな奴に絡まれていた。
幼稚園ではガキ大将みたいなやつにつつきまわされ、連れまわされ、しょっちゅう小さな怪我が絶えなかった。

そんな俺を心配した次兄はせっせと俺のクラスに顔を出してくれた。
「おい!大丈夫かー?」
「何かされたら、兄ちゃんに言えよ!」
「お前は可愛いから心配だなあ」
あんまりも顔を出すので「もうこのクラスにそのままいたら?」と先生が苦笑するほど。
俺は心配性な兄ちゃんがちょっと恥ずかしく、でも、そんな兄の優しさが嬉しかった。

小学校でも相変わらず俺は絡まれた。
みんな俺と遊びたがり、俺の取り合いになるのだ。
あちこちから腕を引っ張られるのは困ったが、それよりも困ることがあった。
行きには兄たちが俺をがっちりとガードしていたため問題はなかったのだが、兄たちは部活があったのでどうしても帰りはひとりになる。
そこを待ち構えているやつがいたのだ。
俺より1つ上の学年だったそいつは、帰りのチャイムが鳴ると同時にやってきて、俺の腕を掴んで飛び出す。
何が楽しいんだか俺をあちこち引っ張りまわすんだ。
低学年の1年の差は大きい。特に身体の小さい俺が年上のそいつについていくのは、大変なことだった。
そいつには「簡単なこと」が、俺にはそうではない。

「ここすげえ高いんだぞ!来いよ!」

と腕を引っ張られ、無理やりジャングルジムに登らされ、俺は落ちて足の骨を折った。

後からそのことを知った長兄は、俺を連れまわした奴を呼び出して、俺がされたようにあちこちに引っ張りまわした。そして低学年には厳しいような遊具に無理やり登らせたらしい。

「お前が弟にやったことだ。されてみて、どう思った?」


後日、そいつに

「ごめんな。俺、そんなに悪い事してるって思ってなかった。一緒に遊んでるつもりだったんだ。
お前の兄ちゃんに同じことされて、俺、すげえ怖かった。
お前も怖かったんだよな。ごめん。
これからはもっと気を付けるから、友達でいてくれる?」

と謝罪された。
そいつとは結局親友になったので、結果オーライだ。
悔しいが、体格が違うんだから、一緒にできることとできないことがあるのだ。
そこんとこを理解してくれたなら、いい。

ところがこの話には後日談がある。
長兄がキレたのだ。
兄は

「いつも俺たちがついていてやれるわけじゃない。だから、お前、強くなれ!
どんな奴にも勝てるように、俺が鍛えてやる!」

と言い出し、俺の手を取り兄が通う空手道場に放りこんだ。
そしてその後も俺に様々な格闘技を学ばせたのだった。

身体ができるまでは大変だったが、結果的に格闘技は俺に向いていた。
小さい代わりに俊敏な身体を活かし、死角から一気に攻める。
フットワークの軽さと、柔軟なバネが俺の武器となった。
俺はどんどん格闘技にのめり込んでいった。
身体が鍛えらえるのと一緒に、心まで鍛えられた。
俺は、嫌なことは嫌だとハッキリ言えるようになった。
多少のことには耐えられる強さを身に着けた。
辛い事も笑い飛ばせるようになった。
俺は、その地域では無敵になった。
そして、高校生になるころには、なんと全国大会の常連にまでなっていたのだ。

だが…高校2年生。運命は変わる。
試合に向かう途中、俺は事故にあう。
道路に飛び出した子供を助け、代わりに車に跳ねられたのだ。




そこからの記憶はない。
きっと、そこで死んだのだと思う。

両親や兄たちには本当に申し訳ないと思うが、後悔はない。
いや、後悔はしている。
もっと生きたかったし、やりたいことも沢山あった。
でも、あそこであの子供を見捨てる選択は、俺にはなかった。
仕方ない。


こうして俺の意識は途切れ…
次に意識を取り戻したら、サフィになっていた。


実はその時、俺はパニックだった。

(転生?いや、この場合は憑依なのか?
てか、俺、もとからサフィだよな?サフィの記憶もあるし。
でもサフィの意識は別にあるし…??)

ちょっとオタクでもあった俺は、異世界ものの漫画やアニメが好きだった。
ある程度は知識もあった。
でも、転生とか、転移とかじゃなく、こんな状況は未知である。
半分だけの蘇り、とでもいうのか?
せめて既知の設定で蘇りたかった!

それでも、そのパニックを怒りが凌駕した。
サフィへの家族の扱いや、屋敷の連中の態度が許せなかったのだ。
サフィをなんとか助けてやりたいと思った。
それができない自分への怒り。悔しさ。やるせなさ。
毎日、毎日、サフィの心がすり減っていくのを感じる。
その分、俺の意識がはっきりしている時間が増えていく。

小さなサフィには見えない事実が沢山あった。
17歳の俺にだから気付けることが沢山ある。
それを教えてやれたらいいのに!

なあ。その女の言う事を信じたらダメだ!
そんな奴に傷つけられるなよ!

親父と兄貴たち、クソ女のいうほどお前を嫌っちゃいねーよ。
俺にはそう見える。
だから…泣くなよ。

それにさ、家族がダメだっていいじゃん!
他に愛してくれる人がいるよ!きっと!
世界は広いんだ。
ここだけじゃない!
俺が教えてやるから!
生きているって楽しい事なんだって、俺が教えてやるから!
俺と一緒に外にでようよ!

でも、サフィに俺の言葉は聞こえない。

なあ、サフィ。サフィ。
こんなんで、俺がここにいる意味はあるのかな?
お前に何もしてやれない。
お前が悲しんでるのも、苦しんでるのも、見ていることしかできない。
俺の言葉は届かない。

なあ、サフィ!!
それでも、俺、お前を笑顔にしたいんだよ。
お前に幸せになって欲しいんだよ。
どうしたらいいのかな?
お前はひとりじゃないんだ。俺がここに居るよ。
だから、だからさあ。泣くなよ。
気付いてよ俺に。サフィ。



俺は、気付いたらサフィの中にいた。
前世の記憶と、これまでのサフィの記憶を持って。
でも、いるだけだった。
俺にはただサフィを見ていることしかできなかったんだ。


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