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最終章 エピローグ
開始・真勇者一行の旅立ち
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最後の戦いが起きた荒地を発って数ヶ月、青々とした草原をクレイスたちは進む。
「あっ、綺麗な花よ!」
「私も初めて見ました」
草原の中に点在している花の群生地。
そこに駆け出して朗らかな表情を浮かべるテュイアは薄いドレスではなく、革でできたコートやブーツに身を包んだいかにも冒険者のような装備を纏っていた。
駆け寄ってきたキリルと楽しそうに笑い合うその姿こそ、クレイスがずっと見たかったものだった。
「そんなに見惚れては視線が丸わかりだぞ?」
髪の毛を長く下ろしたゼルヴェがクレイスへ笑いかけた。
白い衣装をやめ、テュイアのような冒険者装備を纏っている。
後ろに控えるレヴィーは黒い布で作られた長いマントで片腕を隠している。
奇襲のため、という物騒な理由は相変わらずといったところだが。
「違うって……あー、こうやってまた、一緒に歩くなんて思わなかったから」
「エルメェスのおかげだ……感謝しておくんだな」
「なんで偉そうなんだよ」
軽くゼルヴェを小突く行為に半歩後ろにいるレヴィーが目くじらを立てるかと思えば、親しげに名前を呼ばれたパニーナを恨めしそうに睨んでいた。
「けじめをつけなければならんから……な」
「魔王と勇者の大喧嘩で世界は荒れたし、軍事国家も増えた……魔王が消えて世界は荒れるってね。神と戦う以上に責任重大じゃない?」
「贖罪の旅だ。これからは私も世界を守っていく。お前だけには任せられんからな」
言い返そうと口を開いた瞬間、勢いよくキリルが割って入った。
「やい、魔王」
倒れたクレイスを押しのけ、ゼルヴェへこそこそと耳打ちする。
「旅をするからにはしっかりとテュイアちゃんの心を射止めなさいよね?」
「何故だ?」
「な、何故だも何もないわよ! あんたもあの子のこと好きなんでしょ? とっととクレイスから奪い去っちゃって!」
顔を赤らめてテュイアの元に戻っていくキリル。
友人であることと恋敵であることを両立できるさっぱりした性格があればヘラも歪まなかったのだろうとゼルヴェは笑った。
「——だが、俺にはもう無理だ」
そう言ってゼルヴェは半歩後ろを従者のように歩くレヴィーの手を優しくとった。
「クレイスー」
遠くから名を呼ばれて視線をあげると、花畑の中央で女神のように佇むテュイアがいた。
「ほら、姫がお呼びだぞ」
「茶化すなって」
起き上がって、足早にテュイアの元に駆け寄るクレイス。
しかし、その表情が一瞬だけ曇る。
それはせっかく取り戻したテュイアを再び失う日が来るんじゃないか、という恐怖だった。
これからの冒険は今までと同じく、過酷で戦いに溢れるとわかっているがゆえに。
「ここ、あの日見せてくれたお花畑に似てると思わない?」
「……ああ。また一緒に見たいって思ってたよ」
昔の話はわからない、といった様子パニーナは少し離れる。
気を遣っているつもりのようだが、視線は恨めしいままだった。
「私も……そうだ! クレイス」
「何だい?」
「……世界は、やっぱりとても綺麗なのね」
その瞳は誰よりも澄んでいて、見られている景色がより鮮やかになったようにも感じられた。
「クレイスと、ゼルヴェと……皆と一緒に旅が出来て、世界を見ることが出来て、私は幸せよ」
何を恐れている場合か、とクレイスは心の中で自分を叱咤した。
この笑顔を守るのは自分だ、ゼルヴェでも誰でもない、と。
「今なら何でも見に行ける。見たい景色を一緒に見に行こう」
「クレイス……」
「そこまで~!」
我慢の限界が訪れ、爆発したキリルがクレイスの首めがけ後ろか抱きつくように飛びついた。
「うぐっ!? キリル!?」
「イチャイチャしてないで、さっさと行くわよ!」
手綱のようにクレイスを動かして進んで行くキリル。
その先にはこちらを向いて待っているゼルヴェたちがいた。
「降りろキリル!」
「あ痛っ! 女の子を投げ飛ばすって正気?」
「じゃあ、今度は私をおんぶしてクレイス~!」
「ず、ずるいです! 私も~!」
すぐにクレイスに飛びついたテュイア。見かねてパニーナもクレイスの周りを忙しなく回る。
「やれやれ、全員子供だな……」
一人保護者ぶって微笑むゼルヴェの裏で、同じことをしてほしいと思っていたレヴィーは胸の内に願いを隠した。
「テュイア、やめろって! 次の国に行くんだろ!?」
肩車の形でクレイスに跨るテュイアは楽しそうに騒いだ。
ここに勇者と魔王の物語は終わり、新たな物語が始まる。
新たな旅は、神々のいなくなった世界で紡がれるのだ。
「ええ! 私たちの旅はこれからも続くんですもの!」
願い続けていた世界、それが手に入ったクレイスは、少しでも人々が同じ気持ちになるように勇者として助けよう、
そう胸に秘めて仲間の元へと歩き出す。
「さぁ出発だ!」
『開始・真勇者一行の旅立ち!』
「あっ、綺麗な花よ!」
「私も初めて見ました」
草原の中に点在している花の群生地。
そこに駆け出して朗らかな表情を浮かべるテュイアは薄いドレスではなく、革でできたコートやブーツに身を包んだいかにも冒険者のような装備を纏っていた。
駆け寄ってきたキリルと楽しそうに笑い合うその姿こそ、クレイスがずっと見たかったものだった。
「そんなに見惚れては視線が丸わかりだぞ?」
髪の毛を長く下ろしたゼルヴェがクレイスへ笑いかけた。
白い衣装をやめ、テュイアのような冒険者装備を纏っている。
後ろに控えるレヴィーは黒い布で作られた長いマントで片腕を隠している。
奇襲のため、という物騒な理由は相変わらずといったところだが。
「違うって……あー、こうやってまた、一緒に歩くなんて思わなかったから」
「エルメェスのおかげだ……感謝しておくんだな」
「なんで偉そうなんだよ」
軽くゼルヴェを小突く行為に半歩後ろにいるレヴィーが目くじらを立てるかと思えば、親しげに名前を呼ばれたパニーナを恨めしそうに睨んでいた。
「けじめをつけなければならんから……な」
「魔王と勇者の大喧嘩で世界は荒れたし、軍事国家も増えた……魔王が消えて世界は荒れるってね。神と戦う以上に責任重大じゃない?」
「贖罪の旅だ。これからは私も世界を守っていく。お前だけには任せられんからな」
言い返そうと口を開いた瞬間、勢いよくキリルが割って入った。
「やい、魔王」
倒れたクレイスを押しのけ、ゼルヴェへこそこそと耳打ちする。
「旅をするからにはしっかりとテュイアちゃんの心を射止めなさいよね?」
「何故だ?」
「な、何故だも何もないわよ! あんたもあの子のこと好きなんでしょ? とっととクレイスから奪い去っちゃって!」
顔を赤らめてテュイアの元に戻っていくキリル。
友人であることと恋敵であることを両立できるさっぱりした性格があればヘラも歪まなかったのだろうとゼルヴェは笑った。
「——だが、俺にはもう無理だ」
そう言ってゼルヴェは半歩後ろを従者のように歩くレヴィーの手を優しくとった。
「クレイスー」
遠くから名を呼ばれて視線をあげると、花畑の中央で女神のように佇むテュイアがいた。
「ほら、姫がお呼びだぞ」
「茶化すなって」
起き上がって、足早にテュイアの元に駆け寄るクレイス。
しかし、その表情が一瞬だけ曇る。
それはせっかく取り戻したテュイアを再び失う日が来るんじゃないか、という恐怖だった。
これからの冒険は今までと同じく、過酷で戦いに溢れるとわかっているがゆえに。
「ここ、あの日見せてくれたお花畑に似てると思わない?」
「……ああ。また一緒に見たいって思ってたよ」
昔の話はわからない、といった様子パニーナは少し離れる。
気を遣っているつもりのようだが、視線は恨めしいままだった。
「私も……そうだ! クレイス」
「何だい?」
「……世界は、やっぱりとても綺麗なのね」
その瞳は誰よりも澄んでいて、見られている景色がより鮮やかになったようにも感じられた。
「クレイスと、ゼルヴェと……皆と一緒に旅が出来て、世界を見ることが出来て、私は幸せよ」
何を恐れている場合か、とクレイスは心の中で自分を叱咤した。
この笑顔を守るのは自分だ、ゼルヴェでも誰でもない、と。
「今なら何でも見に行ける。見たい景色を一緒に見に行こう」
「クレイス……」
「そこまで~!」
我慢の限界が訪れ、爆発したキリルがクレイスの首めがけ後ろか抱きつくように飛びついた。
「うぐっ!? キリル!?」
「イチャイチャしてないで、さっさと行くわよ!」
手綱のようにクレイスを動かして進んで行くキリル。
その先にはこちらを向いて待っているゼルヴェたちがいた。
「降りろキリル!」
「あ痛っ! 女の子を投げ飛ばすって正気?」
「じゃあ、今度は私をおんぶしてクレイス~!」
「ず、ずるいです! 私も~!」
すぐにクレイスに飛びついたテュイア。見かねてパニーナもクレイスの周りを忙しなく回る。
「やれやれ、全員子供だな……」
一人保護者ぶって微笑むゼルヴェの裏で、同じことをしてほしいと思っていたレヴィーは胸の内に願いを隠した。
「テュイア、やめろって! 次の国に行くんだろ!?」
肩車の形でクレイスに跨るテュイアは楽しそうに騒いだ。
ここに勇者と魔王の物語は終わり、新たな物語が始まる。
新たな旅は、神々のいなくなった世界で紡がれるのだ。
「ええ! 私たちの旅はこれからも続くんですもの!」
願い続けていた世界、それが手に入ったクレイスは、少しでも人々が同じ気持ちになるように勇者として助けよう、
そう胸に秘めて仲間の元へと歩き出す。
「さぁ出発だ!」
『開始・真勇者一行の旅立ち!』
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