上 下
42 / 48
第4章 神の君臨

神の剣

しおりを挟む
そのまま輝くサング・オブ・ブレイバーから二人は武器を引き抜く。

ヘラは発狂しながら思い出にすがるように這いずった。

「抜刀」

突き立てられた武器から放たれた居合。神の瞳にすら映らない閃斬によりヘラの腹部が遅れて裂けた。

斬界ざんかい

「そ、その技はぁぁぁぁ!?」

技を放ち、背後まで移動したクレイスが握っていたのは刀身が蒼く光る刀だった。

ロイケンの意志が宿ったような蒼にクレイスは攻撃の手応えと共に強く刀を握り締める。

神刀しんとう英雄ロイディーン

裂けた傷口を神の力で縫い付けながら、ヘラは恐怖を振り払うように拒絶球を連射した。
だが新たな力を手に入れたクレイスの前に、それは児戯に等しく、溶けるように斬り飛ばされる。

「ロイケン師匠が言ってたよ。能力は単純であればあるほど強いって」

両手で構え直すクレイスはロイケンの構えと同じく隙が存在せず、相手に呼吸させる余裕すら奪う気迫を放っていた。

英雄ロイディーンは何でも斬る。単純だけど強いだろ?」
 
 手放していたせいでヘラは気づいていなかった。
サング・オブ・ブレイバーの中で神々の武具が混ざり合い、新たな武器として再誕したことを。
その裏切りにも似た変化に、人の想いに媚びて形を変えるのは神に非ず、とヘラは顔を歪めた。

「夫達との思い出を汚さないで頂戴……!」

「汚れきった貴様の記憶など、これ以上どうすることも出来まい」

 くすんだ白衣に千切られた羽根。
もはや魔王の様相を成してはいないが、ゼルヴェの魂は何よりも気高く、どうすべきかを見据えている。

「最初からこうすべきだった。我欲に呑まれず……お前を討つべきだった!」

その時、ヘラはサング・オブ・ブレイバーの周りの地面の一部がサラサラと崩壊していくことを視認する。

次々と起こる未知は、かつての夫たちが自分を見放したようでヘラは美しい顔に青筋を浮かべた。

神剣しんけん覇魔王ソロモン

 引き抜かれた武器は、一度闇を纏い神力の渦を巻き起こす。
ゼルヴェが指揮棒のように剣を巧みに振りかざすと細身の剣がその姿を顕現させた。
純白の刀身と漆黒の柄によって彩られている細剣は、美しさのあまり戦いの途中で見惚れてしまいそうになる。

「ハァッ!」

「そんな剣、へし折ってあげるわ!」

 見掛け倒しの剣だ、とヘラは臆面もなく拳で捌いて刀身を握り締める。
空間が歪むほどの握力が細剣を撃砕しようとするが、悲鳴を上げたのはヘラの方だった。

「——痛っ!」

「触れたな?」

 相手を甘く見るヘラならば、このか細い剣を侮るとゼルヴェは踏んでいた。
あえて握らせた細剣を抉るように引き抜き、ゼルヴェは距離を取る。

「少女を気取るなよ? 歳が見えるぞ?」

「——ゼルヴェくんでも言っていいことと悪いことがあるけど?」

「痴話喧嘩は他所でやってほしいな」

すかさず英雄ロイディーンで斬撃を放つクレイス。

そこからは勇者と魔王が息を合わせて隙のない攻撃を続けてヘラを追い詰める。

「クレイス、合わせろ」

「だから命令しないで、よっ!」

 言葉では相反しながらもゼルヴェの与えた傷に沿って、クレイスも刺突を重ねた。
ヘラは一方的に責められ続ける状態に苛立ち、神力を昂ぶらせ拒絶球を放つ。

「ふきと……ぐうぅぅっ!?」

 だが、その攻撃にヘラの腕が耐えられなかったかのように黄金の血が吹き出した。
ありえないほど疼く痛みに震えるヘラは痛みを知覚すること自体、久しぶりだということを思い出す。

「気づいたか、愚神よ」

「なぁに、これぇ……?」

無理やり再生力を促して血を止めたが、常より消耗が激しいのかヘラは髪が乱れるのも気にせず、激しい呼吸をしている。

覇魔王ソロモンの力だよ」

突きつけられた細剣。

クレイスの構えられた英雄ロイディーンと合わせ、人類最後の切り札が並び立った。

「この剣は弱さを与える。植え付けられた弱さは滅びを生む……たとえ不滅の神でもだ」

「何ですって……!」

「お前の神としての力が勝つか……」

「僕らの希望が勝つか……そのどちらかだ!」

 神は生命活動ができなくなったとしても、神片になったり何らかの方法で生き永らえ復活の時を待つ。

 だが、ヘラは二人に斬られるたびに恐怖の二文字に染まっていた。
感じたことのない痛み、終焉への恐怖。愛する者に裏切られるよりも悍ましい何かに心が震えていた。

「僕たちが怖いかい? 神様?」

拒絶の力を剣と鎧として纏うが、ゼルヴェが綻びを植え付けてクレイスがそれを完膚なきまでに叩き斬るという息の合った戦い方でヘラの思惑を切り崩していく。

「「終わりだ!」」

首の両側にかけられた剣は、まさにヘラの首を撥ね飛ばすところまで差し掛かった。



「私が、死ぬ? 人間に殺されて……?」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

無属性魔術師、最強パーティの一員でしたが去りました。

ぽてさら
ファンタジー
 ヴェルダレア帝国に所属する最強冒険者パーティ『永遠の色調《カラーズ・ネスト》』は強者が揃った世界的にも有名なパーティで、その名を知らぬ者はいないとも言われるほど。ある事情により心に傷を負ってしまった無属性魔術師エーヤ・クリアノートがそのパーティを去っておよそ三年。エーヤは【エリディアル王国】を拠点として暮らしていた。  それからダンジョン探索を避けていたが、ある日相棒である契約精霊リルからダンジョン探索を提案される。渋々ダンジョンを探索しているとたった一人で魔物を相手にしている美少女と出会う。『盾の守護者』だと名乗る少女にはある目的があって―――。  個の色を持たない「無」属性魔術師。されど「万能の力」と定義し無限の可能性を創造するその魔術は彼だけにしか扱えない。実力者でありながら凡人だと自称する青年は唯一無二の無属性の力と仲間の想いを胸に再び戦場へと身を投げ出す。  青年が扱うのは無属性魔術と『罪』の力。それらを用いて目指すのは『七大迷宮』の真の踏破。

人を咥えて竜が舞う

よん
ファンタジー
『竜は南より飛来し、人を咥えて南へと戻る。海トカゲもまた南より渡りて人を喰らう。是即ち海トカゲもまた人なり』 精霊と竜が退き人間が君臨する世界。 たった一頭残った竜が人間を毎日一人ずつ咥えて、どこかへ連れ去る日々が三百年以上も続いていた。 大陸を統べるシバルウ十六世の寵愛を受ける巫女のチルは、護身術を学ぶため属国ナニワームの捕縄術師範代である十八歳の少女――ヒエンを王城へ呼び寄せるが……。 表紙のイラストはあっきコタロウ様に描いてもらいました。

【完結】伯爵令嬢が効率主義の権化だったら。 〜面倒な侯爵子息に絡まれたので、どうにかしようと思います〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「反省の色が全く無いどころか睨みつけてくるなどと……。そういう態度ならば仕方がありません、それなりの対処をしましょう」  やっと持たれた和解の場で、セシリアはそう独り言ちた。 ***  社交界デビューの当日、伯爵令嬢・セシリアは立て続けのトラブルに遭遇した。 その内の一つである、とある侯爵家子息からのちょっかい。 それを引き金にして、噂が噂を呼び社交界には今一つの嵐が吹き荒れようとしている。 王族から今にも処分対象にされかねない侯爵家。 悪評が立った侯爵子息。 そしてそれらを全て裏で動かしていたのは――今年10歳になったばかりの伯爵令嬢・セシリアだった。 これはそんな令嬢の、面倒を嫌うが故に巡らせた策謀の数々と、それにまんまと踊らされる周囲の貴族たちの物語。  ◇ ◆ ◇ 最低限の『貴族の義務』は果たしたい。 でもそれ以外は「自分がやりたい事をする」生活を送りたい。 これはそんな願望を抱く令嬢が、何故か自分の周りで次々に巻き起こる『面倒』を次々へと蹴散らせていく物語・『効率主義な令嬢』シリーズの第3部作品です。 ※本作からお読みの方は、先に第2部からお読みください。  (第1部は主人公の過去話のため、必読ではありません)  第1部・第2部へのリンクは画面下部に貼ってあります。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

処理中です...