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第4章 神の君臨
神の剣
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そのまま輝くサング・オブ・ブレイバーから二人は武器を引き抜く。
ヘラは発狂しながら思い出にすがるように這いずった。
「抜刀」
突き立てられた武器から放たれた居合。神の瞳にすら映らない閃斬によりヘラの腹部が遅れて裂けた。
「斬界」
「そ、その技はぁぁぁぁ!?」
技を放ち、背後まで移動したクレイスが握っていたのは刀身が蒼く光る刀だった。
ロイケンの意志が宿ったような蒼にクレイスは攻撃の手応えと共に強く刀を握り締める。
「神刀、英雄」
裂けた傷口を神の力で縫い付けながら、ヘラは恐怖を振り払うように拒絶球を連射した。
だが新たな力を手に入れたクレイスの前に、それは児戯に等しく、溶けるように斬り飛ばされる。
「ロイケン師匠が言ってたよ。能力は単純であればあるほど強いって」
両手で構え直すクレイスはロイケンの構えと同じく隙が存在せず、相手に呼吸させる余裕すら奪う気迫を放っていた。
「英雄は何でも斬る。単純だけど強いだろ?」
手放していたせいでヘラは気づいていなかった。
サング・オブ・ブレイバーの中で神々の武具が混ざり合い、新たな武器として再誕したことを。
その裏切りにも似た変化に、人の想いに媚びて形を変えるのは神に非ず、とヘラは顔を歪めた。
「夫達との思い出を汚さないで頂戴……!」
「汚れきった貴様の記憶など、これ以上どうすることも出来まい」
くすんだ白衣に千切られた羽根。
もはや魔王の様相を成してはいないが、ゼルヴェの魂は何よりも気高く、どうすべきかを見据えている。
「最初からこうすべきだった。我欲に呑まれず……お前を討つべきだった!」
その時、ヘラはサング・オブ・ブレイバーの周りの地面の一部がサラサラと崩壊していくことを視認する。
次々と起こる未知は、かつての夫たちが自分を見放したようでヘラは美しい顔に青筋を浮かべた。
「神剣、覇魔王」
引き抜かれた武器は、一度闇を纏い神力の渦を巻き起こす。
ゼルヴェが指揮棒のように剣を巧みに振りかざすと細身の剣がその姿を顕現させた。
純白の刀身と漆黒の柄によって彩られている細剣は、美しさのあまり戦いの途中で見惚れてしまいそうになる。
「ハァッ!」
「そんな剣、へし折ってあげるわ!」
見掛け倒しの剣だ、とヘラは臆面もなく拳で捌いて刀身を握り締める。
空間が歪むほどの握力が細剣を撃砕しようとするが、悲鳴を上げたのはヘラの方だった。
「——痛っ!」
「触れたな?」
相手を甘く見るヘラならば、このか細い剣を侮るとゼルヴェは踏んでいた。
あえて握らせた細剣を抉るように引き抜き、ゼルヴェは距離を取る。
「少女を気取るなよ? 歳が見えるぞ?」
「——ゼルヴェくんでも言っていいことと悪いことがあるけど?」
「痴話喧嘩は他所でやってほしいな」
すかさず英雄で斬撃を放つクレイス。
そこからは勇者と魔王が息を合わせて隙のない攻撃を続けてヘラを追い詰める。
「クレイス、合わせろ」
「だから命令しないで、よっ!」
言葉では相反しながらもゼルヴェの与えた傷に沿って、クレイスも刺突を重ねた。
ヘラは一方的に責められ続ける状態に苛立ち、神力を昂ぶらせ拒絶球を放つ。
「ふきと……ぐうぅぅっ!?」
だが、その攻撃にヘラの腕が耐えられなかったかのように黄金の血が吹き出した。
ありえないほど疼く痛みに震えるヘラは痛みを知覚すること自体、久しぶりだということを思い出す。
「気づいたか、愚神よ」
「なぁに、これぇ……?」
無理やり再生力を促して血を止めたが、常より消耗が激しいのかヘラは髪が乱れるのも気にせず、激しい呼吸をしている。
「覇魔王の力だよ」
突きつけられた細剣。
クレイスの構えられた英雄と合わせ、人類最後の切り札が並び立った。
「この剣は弱さを与える。植え付けられた弱さは滅びを生む……たとえ不滅の神でもだ」
「何ですって……!」
「お前の神としての力が勝つか……」
「僕らの希望が勝つか……そのどちらかだ!」
神は生命活動ができなくなったとしても、神片になったり何らかの方法で生き永らえ復活の時を待つ。
だが、ヘラは二人に斬られるたびに恐怖の二文字に染まっていた。
感じたことのない痛み、終焉への恐怖。愛する者に裏切られるよりも悍ましい何かに心が震えていた。
「僕たちが怖いかい? 神様?」
拒絶の力を剣と鎧として纏うが、ゼルヴェが綻びを植え付けてクレイスがそれを完膚なきまでに叩き斬るという息の合った戦い方でヘラの思惑を切り崩していく。
「「終わりだ!」」
首の両側にかけられた剣は、まさにヘラの首を撥ね飛ばすところまで差し掛かった。
「私が、死ぬ? 人間に殺されて……?」
ヘラは発狂しながら思い出にすがるように這いずった。
「抜刀」
突き立てられた武器から放たれた居合。神の瞳にすら映らない閃斬によりヘラの腹部が遅れて裂けた。
「斬界」
「そ、その技はぁぁぁぁ!?」
技を放ち、背後まで移動したクレイスが握っていたのは刀身が蒼く光る刀だった。
ロイケンの意志が宿ったような蒼にクレイスは攻撃の手応えと共に強く刀を握り締める。
「神刀、英雄」
裂けた傷口を神の力で縫い付けながら、ヘラは恐怖を振り払うように拒絶球を連射した。
だが新たな力を手に入れたクレイスの前に、それは児戯に等しく、溶けるように斬り飛ばされる。
「ロイケン師匠が言ってたよ。能力は単純であればあるほど強いって」
両手で構え直すクレイスはロイケンの構えと同じく隙が存在せず、相手に呼吸させる余裕すら奪う気迫を放っていた。
「英雄は何でも斬る。単純だけど強いだろ?」
手放していたせいでヘラは気づいていなかった。
サング・オブ・ブレイバーの中で神々の武具が混ざり合い、新たな武器として再誕したことを。
その裏切りにも似た変化に、人の想いに媚びて形を変えるのは神に非ず、とヘラは顔を歪めた。
「夫達との思い出を汚さないで頂戴……!」
「汚れきった貴様の記憶など、これ以上どうすることも出来まい」
くすんだ白衣に千切られた羽根。
もはや魔王の様相を成してはいないが、ゼルヴェの魂は何よりも気高く、どうすべきかを見据えている。
「最初からこうすべきだった。我欲に呑まれず……お前を討つべきだった!」
その時、ヘラはサング・オブ・ブレイバーの周りの地面の一部がサラサラと崩壊していくことを視認する。
次々と起こる未知は、かつての夫たちが自分を見放したようでヘラは美しい顔に青筋を浮かべた。
「神剣、覇魔王」
引き抜かれた武器は、一度闇を纏い神力の渦を巻き起こす。
ゼルヴェが指揮棒のように剣を巧みに振りかざすと細身の剣がその姿を顕現させた。
純白の刀身と漆黒の柄によって彩られている細剣は、美しさのあまり戦いの途中で見惚れてしまいそうになる。
「ハァッ!」
「そんな剣、へし折ってあげるわ!」
見掛け倒しの剣だ、とヘラは臆面もなく拳で捌いて刀身を握り締める。
空間が歪むほどの握力が細剣を撃砕しようとするが、悲鳴を上げたのはヘラの方だった。
「——痛っ!」
「触れたな?」
相手を甘く見るヘラならば、このか細い剣を侮るとゼルヴェは踏んでいた。
あえて握らせた細剣を抉るように引き抜き、ゼルヴェは距離を取る。
「少女を気取るなよ? 歳が見えるぞ?」
「——ゼルヴェくんでも言っていいことと悪いことがあるけど?」
「痴話喧嘩は他所でやってほしいな」
すかさず英雄で斬撃を放つクレイス。
そこからは勇者と魔王が息を合わせて隙のない攻撃を続けてヘラを追い詰める。
「クレイス、合わせろ」
「だから命令しないで、よっ!」
言葉では相反しながらもゼルヴェの与えた傷に沿って、クレイスも刺突を重ねた。
ヘラは一方的に責められ続ける状態に苛立ち、神力を昂ぶらせ拒絶球を放つ。
「ふきと……ぐうぅぅっ!?」
だが、その攻撃にヘラの腕が耐えられなかったかのように黄金の血が吹き出した。
ありえないほど疼く痛みに震えるヘラは痛みを知覚すること自体、久しぶりだということを思い出す。
「気づいたか、愚神よ」
「なぁに、これぇ……?」
無理やり再生力を促して血を止めたが、常より消耗が激しいのかヘラは髪が乱れるのも気にせず、激しい呼吸をしている。
「覇魔王の力だよ」
突きつけられた細剣。
クレイスの構えられた英雄と合わせ、人類最後の切り札が並び立った。
「この剣は弱さを与える。植え付けられた弱さは滅びを生む……たとえ不滅の神でもだ」
「何ですって……!」
「お前の神としての力が勝つか……」
「僕らの希望が勝つか……そのどちらかだ!」
神は生命活動ができなくなったとしても、神片になったり何らかの方法で生き永らえ復活の時を待つ。
だが、ヘラは二人に斬られるたびに恐怖の二文字に染まっていた。
感じたことのない痛み、終焉への恐怖。愛する者に裏切られるよりも悍ましい何かに心が震えていた。
「僕たちが怖いかい? 神様?」
拒絶の力を剣と鎧として纏うが、ゼルヴェが綻びを植え付けてクレイスがそれを完膚なきまでに叩き斬るという息の合った戦い方でヘラの思惑を切り崩していく。
「「終わりだ!」」
首の両側にかけられた剣は、まさにヘラの首を撥ね飛ばすところまで差し掛かった。
「私が、死ぬ? 人間に殺されて……?」
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