あの子の花に祝福を。

ぽんた

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37.嫌われたんだ。

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 服の宝石は戻ってきた。ルイスがくしゃくしゃになった服に、付け直してくれるって。

 ブローチは…まだ、見つからないみたい。

 ベッドの隣、ルイスがチクチク服を縫う。
 僕は、何でもないのに涙が出て、それを見られたくないからシーツの中に顔を隠した。

 傍らにはゼインのくれたウサギのぬいぐるみ。エメラルドの瞳が僕にそっくりだと言って買ってくれた、僕の宝物。

 ゼイン…会いたい…。ゼイン…。














 あれから、一月。ブローチは少し前に帰ってきた。
 けれど長期休みが終わっても、体調を崩したままで、学園には通えず。何度かミラや、エド、ライト、友人達が訪ねてきたけれど、会う前に帰ってもらっていた。

 ゼインからは、何の音沙汰もない。婚約破棄の話、聞きたいのに、みんな何も伝えてくれないし。

 ゼイン、僕のこと、嫌いになっちゃったのかな。

 もう、会いたくないんだろうな。

 こんなに苦しいなら、いっそ、死んでしまおうか。

 もう、僕死んだことあるし。あの時と、変わらない。

 ゼインのくれた服を着て、うさぎのぬいぐるみを持って。
 僕の宝物がたくさん入ってる箱も持って、外に出た。
 廊下からじゃなくて、窓から。バレたら、困るし。

 既に外は雪がはらはらと舞っていて、息も白くなっている。

 まだ地面は乾燥してるから、今年初めての冬が来たんだな。

 手袋、してこればよかった。まあ、もういっか。

 公爵家の広い敷地から出るため、そこから近場の湖へ行くために、僕は歩き出した。
























 ✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿
























 ~ゼインSide~


 あの子のことを考えないように、只管仕事をこなしていたときだった。

「おい、入るぞ。」

「兄上。」

 仏頂面のケイジス兄上。どうしたのだろうか。

「お前なぁ、きっとすぐ耐えられなくなるだろうと思って見守っていたがな、もう無理だ。」

 何の話だ?

「いいか、よーく聞け。お前らは出会ったときからラブラブだったから、言う必要もないと思っていた俺たちがバカだったぜ。
 痣持ちはな、一度出会ってしまえば、長く離れていると気をやって最悪死ぬんだよ。漏れなく全員、だ!
 お前、あの子の話を聞こうともしなかっただろう。あの子、今ベッドから動けねぇらしいぞ。お前が会いに行かねぇから。どんどん衰弱していってるそうだ。」

「兄上、お言葉ですが…きっとそれもすぐ終わりますよ。私が側にいるほうがあの子にとって辛いはず…」

 バキッ

 一瞬何をされたのか、理解できなかった。殴られたことを理解した時には、兄上は怒り狂っていて。

「いつまで意味のないことをくっちゃべってやがる!!
 お前がそうやって思考を止めている間に!!俺の可愛い従兄弟はお前を身を削ってまで待ってるんだぞ!!
 あの子がどれだけお前を愛してるのか分からねぇはずがないだろ!あんなに近くにいたお前が!!」

 着いてこい!と手を引っ張られて部屋を出て、愛馬のいる馬小屋近くまで行くと。

「いいか、絶対あの子に会え。あの子はもう限界なんだよ。お前よりだ。毎日父上達と俺と妻で報告書を読んでいたがな、日に日に酷くなっていっている。
 それから……父上は、婚約破棄をしたいという話を理解しただけで、破棄するとは言ってねぇぞ。」

 その最後の言葉で、私は馬に乗って走り出した。
 はやくあの子に会いたい一心で。
 早くあの子と話して、謝らないと。

 公爵家まで全力で駆けて、そこにつくと何故か異様な雰囲気が漂っていた。

 屋敷に入ると、使用人全員が大慌てで、私が来たことにすら気づかないようだった。

「何があった」

「ひっ!!ゼイン殿下?!」

「ゼイン殿!!!」

 奥から駆け足で来るのはクリス殿。彼が言ったことは、私の耳を疑わせた。

「ルカが、いない…?」

 私の贈り物を持って消えたらしい。身につけていたはずの魔道具全てを取って、テーブルの上に置いてあったようだ。

 誰にも見られないまま屋敷を出るのは不可能だから、姿を隠す魔道具を使っていたか、魔法を使っていたか。

 私がもっと、早くに来ていれば…。

 屋敷の者全員に睨まれているが、仕方ない。私がそこまでルカを追い詰めたのだ。

「申し訳のないことをした…。すまないが、あの子を待っていてくれないか。私が必ず連れ戻すから。」

「当たり前だ、早く行け!!」

 屋敷を出ると、影が話す。

「ここの近くの湖に向かっている様子です。お急ぎになってください。」

「ああ。」

 再び愛馬に跨ってその湖へと向かった。

 おそらく、ルカが湖に行ったのは………死ぬためだろう。

 前世、あの子は海で死んだようだ。だがこの近くに海はない。そうなれば海で死ぬことしか方法を知らないあの子は…溺れられる場所を探すはず。

 私があの子の話をちゃんと聞いていれば。

 あの子に会って、謝っていれば。

 あの子を苦しめ続けることには、ならなかったのに…!

 少し鬱蒼とした森を抜けて、澄んだ湖を見つけると。

「ルカッ!!!!」

 胸元まで浸かって、ぼんやりとした表情のまま、私のあげた物を大切そうに抱き締めて佇むあの子がいた。

 馬から降りて湖に入ると、氷のような冷たさが肌を刺す。もう少しであの子に手が届く……!そう思っていると。

 ふらり…ルカは揺れて水の中へと落ちてしまった。

「駄目だっっ!!!!」

 私も水の中へ潜ると、ルカが立っていた一歩先は、急な傾斜で底があまり見えないほど深くなっていた。

 こんなときでも、宝物が入ってるの!と自慢してくれた箱と、大好きだと笑ったうさぎのぬいぐるみを離さないルカ。

 がしりと体を掴んで、精一杯水面に向かい泳ぎだす。
 水面から顔を出すと、数名の影が私たちに向かっていた。

「ゼイン様!!ルカリオン様!!」

 ルカを地面に下ろすと、影の一人が大きなタオルを持ってきた。

 この子は息をしておらず、私は只管胸骨圧迫と人工呼吸を繰り返す。

「かはっ……げほっけほっ」

「ルカッ!お願い、起きて…!」

 水を吐き出した半身は、ゆっくりと瞼を開いた。
 途端に、キラキラと瞳に輝きが戻ってきて。

「ゼ…イン…。」

 そう一言言うと、微笑みながら寝息を立て始めた。

「ああっ……よかった………よかった……!」

 ぎゅう…と抱き締めていると、後ろで影達が喜んでいる雰囲気が伝わってくる。

 タオルをこの子に巻いて、早く帰らないと。こんな寒い時に、濡れたままでは危ない。

 優しく抱き上げて馬に乗ると、行きとは違う、振動を与えないような速さで、だけど遅くもないスピードで走り出した。












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