あの子の花に祝福を。

ぽんた

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32.僕は眠いです。

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「はっ……はっ……に、にい…さん……?…なん…で…」

 あの悪夢がドッ、と蘇る。
 湯気が出ている食事を投げつけられ、吐くまで踏みつけられ、殴られた、あの日々。

 もう12年もの年月が過ぎているというのに、心は未だに闇を抱えていた。

 (やだ…お母さん、お母さん…!怖い、怖いよ…!)

「ルカ様?どうなさいましたか、ルカ様?!」

 ルイスが呼びかけるも、きょとんとした顔でこちらを見つめる兄さんしか僕には見えなかった。

「君は…誰だい?ああ、僕を治せるかもしれない人、だっけ。大丈夫?」

 その声にはっとする。あの人は、こんなに優しく尋ねるような人ではなかった。よく見れば、この人は顔は同じでも、髪の色や瞳は全くの別物だ。

 茶髪に青の瞳。それに、兄さんのような苛烈な意志を宿した瞳ではない。

「ルカ様…!しっかりなさってくださいませ…!」

 僕の前に跪いて泣きそうな顔で宥める侍従。
 ベッドの側には、オロオロとどうすればいいのか分かっていなさそうな国王様と心配そうな王妃様。

「す、すみません…知り合いに、とても似ていて…。取り乱しました。申し訳ございません。」

「いや、いいんだよ。きっとその人は、良くない人だったんだろうね。怯えさせてしまって、申し訳ない。」

 穏やかに微笑む彼は、王族だというのに謝った。
 そうだ、あの人とはあまりにも違う。だから大丈夫、大丈夫だよ、僕。

「ルカリオンくん、今日無理そうなら、今度でもいいんだよ。
 まだ十分にフースカを観光できていないだろうに、大仕事ばかり付きわせているね。」

 申し訳なさそうにフレディ様は言うけれど、今度なんてできない。今苦しんでる人を置いて、僕だけ遊びに行くなんて出来ないんだ。

「いいえ、できます。させてください。」

 こんな子供に任せるのは不安だろうに、夫妻はそれを見せることもなく道を開ける。
 イードル様に近づいて、魔力解放管のあるみぞおち辺りに頭をくっつけた。

 まず、体内に目を作る。光も無いと見えないから、光源も。魔力解放管はラッパみたいな形で、広がった出口に向かって中に弁がある。
 すると。

「あれ…弁が完全にくっついちゃってる…。」

 繋ぎ目のようなものが、傷の修復のように見えるから、魔力暴走の時に焼けたか切れたかして傷同士が癒着してしまったのだろう。

 ここまでわかればあとは簡単だ。

 弁が何事もなく開くようにイメージをする。そして魔力を少しずつ出して……弁が元の形に戻った。

「多分、これで魔法使えると思います。ただ僕は経験が豊富な医者ではないですし、必ず後で診てもらってください。魔法はその時に使ってくださいね。今使えばどんな事が起きるかわからないですから。」

 頭を起こしてそう言うと、周りは静かに沈黙していた。
 というより、開いた口が塞がらない、みたいな。

「あ、あの…」

「ありがとうっ!!本当に…!何といえばよいのか…!」

 ルーベン様が、急に泣き出した。イードル様の手を握り、よかった、よかったと号泣している。

「取り敢えず、医師を呼ぼうか。入ってくれ。………すまないね、もしものことがあった時のために、傍に控えさせていたんだ。」

 合図とともに入室してくるお医者さん。フレディ様はそう言うけれど、仕方のないことである。

 お医者さんはイードル様の診断を始めると、にこりと微笑んでもう大丈夫だとおっしゃった。

「ただ動かないようにしていましたから、しばらくは体を動かす練習からしましょうか。何事にも筋肉がいりますからね。」

「ありがとう、これからも暫くは世話になるかも知れないね。もう少しだけ僕の為に働いてくれ。」

「ええ、もちろんですよ。」

 お医者さんとイードル様が話すのを横目に、フレディ様はにこりと微笑んで、

「本当にありがとう。正直な話、まだ疑ってたんだ。12歳の少年が、腕の立つ医師でさえ治せなかったものを治せるのか、って。
 君は何ていうか…規格外だね。いくら天才と言えど、ずば抜けてる。
 君はもしかしたら、神様に愛されてるのかも。」

 彼はまるで僕の母様のような顔をして、慈しむように頭を撫でた。

 きっとこの人は、自分の息子達に同じように慈しんで、愛していたのだろう。
 誰が一番とか、そんなの関係なく。

 どうして王になることに固執したのか。
 謎は多いが、取り敢えず目の前のことを解決できて良かった。

「あ、そういえば。言うの忘れてたのだが、今夜辺り…ルカリオンくん?!」

 すっかり父親の顔になってイードル様をナデナデしている国王様が、振り返りながら何か言っていたが…。

 僕は、初めての試みだった再生魔法を使用した反動で、眠気が最高潮に達していたのだった。

 すみません、ルーベン様…。僕、眠いです、おやすみなさい……。
























 ※※※※※※※※※※






 なんだかこのストーリー…白けませんかね…?(ガタガタ) 

 主人公、天才夫婦から生まれたので漏れなく天才という設定は絶対活かそうと思ってたんですけど、なんか急にぶち込みすぎた気がします…。

 見逃してっっ!!!



 あ、あとね、魔力暴走して魔力蓄積云々~のやつ、魔力を吸う魔道具じゃなくて、魔力を無くす魔道具使ったほうが良いんじゃ?と思う人でてくると思います。

 作中で説明したかったんですけど、機会がなかったので今ここで。

 もしかしたら治るかもしれないという希望を持った夫婦は、一度無くせば辛いのは収まるけれど、もう二度と使えなくするか、本人に苦しみが続いてもいつか治った時再び魔法が使えるようになるか。

 魔法を使えない人はいない世界です。一国の王子が使えないとなると、それはもう反発がすごい。本人に負担になります。
 我が子が辛い目に遭って欲しくない夫婦は、今辛くとも治った時のためにその魔道具を選択したわけです。

 いつか『魔力をなくす』のではなく、『魔力の製造を止める』などの魔道具ができたらいいですね。
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