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28.罪を犯した王子。
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それから僕達は寝付けなくなってしまって、朝早くにお兄様に連絡しようかどうかで少し揉めてしまった。
ミラの意見は、
『フースカでの出来事だからフースカで収めたほうが良い』
『無闇に外へ話を出すほうが危険』
と。僕は、貴族としての対応ならそれは至極当然で正しい行動だと思った。確かにそのほうがいい…とも。
だからそれまでの僕の、
『お兄様に話をしたら両親へ話がいって、そこから王様たちへ、そしたらここへ助けをくれるんじゃないか』
という少し子供じみた考えが恥ずかしくなり、少し申し訳なくなってこの話に決着がついたのだ。
そして日が昇って部屋に朝食が運ばれ、一人の使用人が朝食の後に王様達に謁見して欲しいという旨を伝えられた。
おそらくそれがネローの話なのだろう。
それから黙々と朝食を食べて、案内を受けて謁見室へ入ると、明らかに落ち込んだ表情の国王夫妻がいらっしゃった。
「ああ、アーバスノット公爵令息、トイルズ伯爵令息。よく来てくれたね。そこに座り給え、少し長い話になるから。」
王様は無理矢理笑顔を作ろうとしたのだろう、とても引き攣った笑みで、見ている僕たちが辛くなってしまった。
「昨日は会えず申し訳なかった、改めて、私はフレディ・フースカ。そして夫のルーベン・フースカ。夫がこうだから私が説明するのだが…。君達はネローと仲良くしてくれているのだろう?」
ネローと同じ焦げ茶の髪に琥珀色の瞳のフレディ王妃がそう尋ねる。
「はい。留学してから、仲良くさせてもらってます。」
「うん…ありがとう。そう言ってくれた君たちには申し訳ないのだが……。
第二王子のヒオニが……。あまりにも非道なことをネローにしていて…。
以前から第三王子のヴレーヒに言われていたのだけど、証拠を丁度君達がここに来てくれた日に掴んでね。
昨晩私達夫婦と君の国のアントス国の王族で連絡を取って、そちらにネローを本人にも知らせずに避難させたんだ。
申し訳ない、家族間の揉め事に他国のあなたたちを巻き込んでしまう。
今日はゴタゴタがあまりにも酷くて、トイルズ令息とヴレーヒを会わせてあげることができなそうなんだ。」
それは、まだ12歳の僕達にはまだ重いかもしれなかった話だった。僕達は浮かれてこの国にやってきたけど、水面下ではそんな事があったなんて。
ミラはネローのこともショックだったみたいだけど、運命と会えるのを楽しみにしていただけに余計辛そうだった。
「その、ネローは無事なんですか?一体、何が…。」
「ああ。君の婚約者が責任を持って預かってくれている。
そうだね、今から言うことは他言無用で頼みたい。もし出来そうにないなら部屋から出ていってくれたほうが嬉しいよ。」
ミラと顔を合わせてお互い頷く。僕達は腐っても貴族。それぞれが正しい人間となるために教育を受けているのだ。
「大丈夫です。お聞かせください。」
「ありがとう。実は、我が国には禁忌魔法があってね。それは催眠魔法なのだが。
王家の禁書ゾーンにも無く、口伝えでしかその存在があると思われていない程、認知度も低いものなのだがね。
それを何故かヒオニが知っていて、己が王になるためにと、魔法耐性の低いネローにそれをかけた。
そこからネローはこの国にいる限り、あの子の傀儡になってしまって。」
国王様は僕たちをこの国に送り届けてくれた後この話を聞いたのだろう。あの朗らかな雰囲気が鳴りを潜めてしまっている。
王妃様は悲しみと怒りが止まらないようで、涙をこらえながら顔を怒りに染めていた。
「正直な話、ネローがなぜアーバスノット令息をこの国につれてきたのかわからなかった。ヴレーヒに会わせるならトイルズ令息だけでいいのだからね。
ヒオニに聞けば…、この国にアントス国と戦争を起こせるような起爆剤が欲しかったようだ。
そのときネローは、この国にいなかったからギリギリ自我を保っていたようだが、深層心理では、催眠のせいでその起爆剤を探すよう命令を受けていたのだろう。王族と公爵家の至宝である君を連れてきてしまった。
君を……催眠下にあるネローは……無体をしこうとしたらしい。今君の国にいるネローから聞いた話なのだけどね。
催眠にかかっている間は、意識はあるけれど四方八方から声がするようだ。ああしろ、こうしろ、それはだめ、これもだめ、みたいにね。
そして君を害したら…アントス国からの宣戦布告が来ると踏んで、ヒオニは指揮を取り勝利を収め、王になろうとしたようだ。
…そしてその戦争の混乱に乗じてヴレーヒを殺めようともしたらしい……。なんと幼稚な思考か。
本当に……、本当に、うちの馬鹿が申し訳ない!
……今ヒオニは判決を待って塔に幽閉されている。おそらく禁忌を犯したことを軸にして、他の罪も加味されるだろうから、死ぬことはなくとも一生檻の中だろう。
後悔してもしきれない。本当に申し訳ない!」
国王夫妻がガバッと頭を下げ、僕達は大慌てで頭を上げてもらう。
だとしても僕は被害の『ひ』の字も遭ってないし、今までのネローは友人として凄く良い人だった。おそらくあれが本来のネローなんだろう。
悪いのはお兄さんのヒオニ様で、国王様達ではない。
その旨を伝えたら、お二人とも滂沱の涙を流して感謝してくれた。
なんだか、この2人は良い意味で王族らしくないなぁ。ほんわかする。
なんて、こんな重い雰囲気の中で思っちゃいけないんだけど。
でも、そっか。ネローはゼインのところにいるんだね。じゃあ安全だ!
あれ?でもアントスからフースカにくるまで、かなり日にちがかかったのに…。もしかして、転移魔法使ったのかな。
僕とミラは顔を合わせて、ネローの無事を喜んだ。
でも友達がそんな目に遭ってたなんて……許せないよね?
ミラの意見は、
『フースカでの出来事だからフースカで収めたほうが良い』
『無闇に外へ話を出すほうが危険』
と。僕は、貴族としての対応ならそれは至極当然で正しい行動だと思った。確かにそのほうがいい…とも。
だからそれまでの僕の、
『お兄様に話をしたら両親へ話がいって、そこから王様たちへ、そしたらここへ助けをくれるんじゃないか』
という少し子供じみた考えが恥ずかしくなり、少し申し訳なくなってこの話に決着がついたのだ。
そして日が昇って部屋に朝食が運ばれ、一人の使用人が朝食の後に王様達に謁見して欲しいという旨を伝えられた。
おそらくそれがネローの話なのだろう。
それから黙々と朝食を食べて、案内を受けて謁見室へ入ると、明らかに落ち込んだ表情の国王夫妻がいらっしゃった。
「ああ、アーバスノット公爵令息、トイルズ伯爵令息。よく来てくれたね。そこに座り給え、少し長い話になるから。」
王様は無理矢理笑顔を作ろうとしたのだろう、とても引き攣った笑みで、見ている僕たちが辛くなってしまった。
「昨日は会えず申し訳なかった、改めて、私はフレディ・フースカ。そして夫のルーベン・フースカ。夫がこうだから私が説明するのだが…。君達はネローと仲良くしてくれているのだろう?」
ネローと同じ焦げ茶の髪に琥珀色の瞳のフレディ王妃がそう尋ねる。
「はい。留学してから、仲良くさせてもらってます。」
「うん…ありがとう。そう言ってくれた君たちには申し訳ないのだが……。
第二王子のヒオニが……。あまりにも非道なことをネローにしていて…。
以前から第三王子のヴレーヒに言われていたのだけど、証拠を丁度君達がここに来てくれた日に掴んでね。
昨晩私達夫婦と君の国のアントス国の王族で連絡を取って、そちらにネローを本人にも知らせずに避難させたんだ。
申し訳ない、家族間の揉め事に他国のあなたたちを巻き込んでしまう。
今日はゴタゴタがあまりにも酷くて、トイルズ令息とヴレーヒを会わせてあげることができなそうなんだ。」
それは、まだ12歳の僕達にはまだ重いかもしれなかった話だった。僕達は浮かれてこの国にやってきたけど、水面下ではそんな事があったなんて。
ミラはネローのこともショックだったみたいだけど、運命と会えるのを楽しみにしていただけに余計辛そうだった。
「その、ネローは無事なんですか?一体、何が…。」
「ああ。君の婚約者が責任を持って預かってくれている。
そうだね、今から言うことは他言無用で頼みたい。もし出来そうにないなら部屋から出ていってくれたほうが嬉しいよ。」
ミラと顔を合わせてお互い頷く。僕達は腐っても貴族。それぞれが正しい人間となるために教育を受けているのだ。
「大丈夫です。お聞かせください。」
「ありがとう。実は、我が国には禁忌魔法があってね。それは催眠魔法なのだが。
王家の禁書ゾーンにも無く、口伝えでしかその存在があると思われていない程、認知度も低いものなのだがね。
それを何故かヒオニが知っていて、己が王になるためにと、魔法耐性の低いネローにそれをかけた。
そこからネローはこの国にいる限り、あの子の傀儡になってしまって。」
国王様は僕たちをこの国に送り届けてくれた後この話を聞いたのだろう。あの朗らかな雰囲気が鳴りを潜めてしまっている。
王妃様は悲しみと怒りが止まらないようで、涙をこらえながら顔を怒りに染めていた。
「正直な話、ネローがなぜアーバスノット令息をこの国につれてきたのかわからなかった。ヴレーヒに会わせるならトイルズ令息だけでいいのだからね。
ヒオニに聞けば…、この国にアントス国と戦争を起こせるような起爆剤が欲しかったようだ。
そのときネローは、この国にいなかったからギリギリ自我を保っていたようだが、深層心理では、催眠のせいでその起爆剤を探すよう命令を受けていたのだろう。王族と公爵家の至宝である君を連れてきてしまった。
君を……催眠下にあるネローは……無体をしこうとしたらしい。今君の国にいるネローから聞いた話なのだけどね。
催眠にかかっている間は、意識はあるけれど四方八方から声がするようだ。ああしろ、こうしろ、それはだめ、これもだめ、みたいにね。
そして君を害したら…アントス国からの宣戦布告が来ると踏んで、ヒオニは指揮を取り勝利を収め、王になろうとしたようだ。
…そしてその戦争の混乱に乗じてヴレーヒを殺めようともしたらしい……。なんと幼稚な思考か。
本当に……、本当に、うちの馬鹿が申し訳ない!
……今ヒオニは判決を待って塔に幽閉されている。おそらく禁忌を犯したことを軸にして、他の罪も加味されるだろうから、死ぬことはなくとも一生檻の中だろう。
後悔してもしきれない。本当に申し訳ない!」
国王夫妻がガバッと頭を下げ、僕達は大慌てで頭を上げてもらう。
だとしても僕は被害の『ひ』の字も遭ってないし、今までのネローは友人として凄く良い人だった。おそらくあれが本来のネローなんだろう。
悪いのはお兄さんのヒオニ様で、国王様達ではない。
その旨を伝えたら、お二人とも滂沱の涙を流して感謝してくれた。
なんだか、この2人は良い意味で王族らしくないなぁ。ほんわかする。
なんて、こんな重い雰囲気の中で思っちゃいけないんだけど。
でも、そっか。ネローはゼインのところにいるんだね。じゃあ安全だ!
あれ?でもアントスからフースカにくるまで、かなり日にちがかかったのに…。もしかして、転移魔法使ったのかな。
僕とミラは顔を合わせて、ネローの無事を喜んだ。
でも友達がそんな目に遭ってたなんて……許せないよね?
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