35 / 64
閑話「ある家の没落2」
しおりを挟む「おかえりなさいませ、アンセル様」
「ただいま、プリシラ」
玄関で出迎えた私に、アンセル様が微笑む。
いつもと同じ、文句のつけようのない王子様スマイルなのだけれど、疲れているようだ。
アンセル様には先に一人で部屋に戻ってもらい、私は調理場に向かった。料理人に断って、お茶を入れさせてもらう。疲れが取れるようにハーブティーにはちみつを入れて、アンセル様は甘いものが苦手なのでスパイスも加えた。
それを持って部屋に戻る。
「アンセル様、よろしかったらどうぞ」
私が差し出したカップを受け取ったアンセル様は、なぜか目を見開いた。
「スパイス……」
「?甘いものお嫌いですから入れてみたんですが、だめでした?」
スパイスの入った料理は召し上がっているけれど、スパイスティーはお嫌いだったのかも?
癖があるから、苦手な人は苦手だものね。
心配になったけれど、アンセル様はすぐに微笑んでくれた。
「いや……ありがとう」
アンセル様はお茶を一気に飲みほした。空になったカップをテーブルに置く。
「美味しかったよ、プリシラ」
「それはよかったです。またお入れしますので、いつでも言ってください」
「……僕、疲れているように見えた?」
私の肩に、アンセル様が頭をことん、と置く。
私に甘えるようなしぐさをするのは珍しい。
「え、ええ。少しですけれど」
この若さで会社を経営なさってるんですもの。疲れるのは当然だ。私には見せないようにしてくれているけれど。
「私、頼りないかもしれないですけど、一応年上ですし妻ですからつらいときはおっしゃってください。できることはあまりないかもしれないですが」
言ってから気がついたけど、本当私できることないかも……。
こうやってお茶を入れる、とかお話を聞くくらいしかできない。しかも本当に話を聞くだけで、気の利いたアドバイスなんかは絶対にできない。
ウォルトなら頼りになる大人の男性なので、いい返しができそうだけれど。
「なんだと?」
アンセル様が顔を上げた。額には青筋が立ってる。
え? 何?
「も、もしかして口に出してました?」
「出していた」
かと言ってアンセル様がそんなお顔するようなことは言っていないんだけど?
「僕の前で、二度と他の男の名を口にするな」
「え?ウォルトですよ。執事ですよ。ややこしい感情なんか微塵もありませんし、向こうも迷惑ですよ?」
ウォルトの好みは年上らしいので、そもそも私なんか主人だから以前に問題外だ。アンセル様が落ち着くようにとそう言ったけれど、私の言葉だけでは安心できなかったようだ。
「当たり前だ。特別な感情があれば、ウォルトを殺しているところだ」
「……殺……」
アンセル様の表情はいたって真面目で、冗談を言っているようには見えない。
うわぁぁぁ。
もしも浮気なんかした日にはとんでもないことになりそう!
アンセル様一筋だからしないけど。
「プリシラができることはたくさんある。例えば」
「例えば?」
アンセル様がベッドの端に座った。
「もうおやすみですか? お食事は?」
「後でいい。おいで、プリシラ」
微笑んだアンセル様が膝を軽くたたく。
「はい」
私も微笑んで、大人しくアンセル様に背中を預けるように座った。向かい合わせはなんか、は、恥ずかしいので。
「ただいま、プリシラ」
玄関で出迎えた私に、アンセル様が微笑む。
いつもと同じ、文句のつけようのない王子様スマイルなのだけれど、疲れているようだ。
アンセル様には先に一人で部屋に戻ってもらい、私は調理場に向かった。料理人に断って、お茶を入れさせてもらう。疲れが取れるようにハーブティーにはちみつを入れて、アンセル様は甘いものが苦手なのでスパイスも加えた。
それを持って部屋に戻る。
「アンセル様、よろしかったらどうぞ」
私が差し出したカップを受け取ったアンセル様は、なぜか目を見開いた。
「スパイス……」
「?甘いものお嫌いですから入れてみたんですが、だめでした?」
スパイスの入った料理は召し上がっているけれど、スパイスティーはお嫌いだったのかも?
癖があるから、苦手な人は苦手だものね。
心配になったけれど、アンセル様はすぐに微笑んでくれた。
「いや……ありがとう」
アンセル様はお茶を一気に飲みほした。空になったカップをテーブルに置く。
「美味しかったよ、プリシラ」
「それはよかったです。またお入れしますので、いつでも言ってください」
「……僕、疲れているように見えた?」
私の肩に、アンセル様が頭をことん、と置く。
私に甘えるようなしぐさをするのは珍しい。
「え、ええ。少しですけれど」
この若さで会社を経営なさってるんですもの。疲れるのは当然だ。私には見せないようにしてくれているけれど。
「私、頼りないかもしれないですけど、一応年上ですし妻ですからつらいときはおっしゃってください。できることはあまりないかもしれないですが」
言ってから気がついたけど、本当私できることないかも……。
こうやってお茶を入れる、とかお話を聞くくらいしかできない。しかも本当に話を聞くだけで、気の利いたアドバイスなんかは絶対にできない。
ウォルトなら頼りになる大人の男性なので、いい返しができそうだけれど。
「なんだと?」
アンセル様が顔を上げた。額には青筋が立ってる。
え? 何?
「も、もしかして口に出してました?」
「出していた」
かと言ってアンセル様がそんなお顔するようなことは言っていないんだけど?
「僕の前で、二度と他の男の名を口にするな」
「え?ウォルトですよ。執事ですよ。ややこしい感情なんか微塵もありませんし、向こうも迷惑ですよ?」
ウォルトの好みは年上らしいので、そもそも私なんか主人だから以前に問題外だ。アンセル様が落ち着くようにとそう言ったけれど、私の言葉だけでは安心できなかったようだ。
「当たり前だ。特別な感情があれば、ウォルトを殺しているところだ」
「……殺……」
アンセル様の表情はいたって真面目で、冗談を言っているようには見えない。
うわぁぁぁ。
もしも浮気なんかした日にはとんでもないことになりそう!
アンセル様一筋だからしないけど。
「プリシラができることはたくさんある。例えば」
「例えば?」
アンセル様がベッドの端に座った。
「もうおやすみですか? お食事は?」
「後でいい。おいで、プリシラ」
微笑んだアンセル様が膝を軽くたたく。
「はい」
私も微笑んで、大人しくアンセル様に背中を預けるように座った。向かい合わせはなんか、は、恥ずかしいので。
234
お気に入りに追加
840
あなたにおすすめの小説


アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜
車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた
しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される???
家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。
R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。
現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。
(第1章の改稿が完了しました。2024/11/17)
(第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる