32 / 64
閑話「ある母の話3」
しおりを挟む
その話が出た晩にはもう準備が整って、あとは皆が寝るのを待つだけ、という時間になった。
長男の瑠衣がほんの少しの晩ご飯を持って瑠夏の部屋へ入ると、まだ湯気が出て熱々のものを瑠夏に投げつけた。
「瑠衣っ!!何をしているの!!!」
思わずそう叫ぶも、私の声は生身の人間には聞こえない。深影様が素早く火傷しないように皮膚を光るもので包んでいるけれど、瑠夏の目には諦めしか見えなかった。
「最近お前がどんどん憎くなっていく。お前の顔を見る度にお前がこの世から居なくなってくれればいいのにって思うんだよ。………なぁ、瑠夏?死ねよ。お前さえ生まれなければ母さんは生きてたんだ!!なぁ死ねよ!!いつまで生きてるんだよ!!死ね!死んでしまえ!!」
あまりにも酷い戯言を4歳の弟に向かって滔々と吐き続ける。聞くに堪えない、そう思っていると、深影様が見たこと無いほど焦り始めた。
「駄目だ、間に合わないっ!!!」
そう叫んだ瞬間、ガラスが割れるような音がした。それと同時に、誰かの泣き声と叫び声も。それは気がおかしくなりそうなほど胸をざわつかせて、私も泣き叫びそうになるほどだった。
「花!!くそっ……!ソル!!聞こえるか!!」
涙と頭痛で殆ど何も見えないところにぼんやりと何かが浮き出てくるのが見えた。
「あらぁ…魂の崩壊じゃなぁい…。ミカゲちゃん、どうしてこんなになるまで放っておいたのよ?ていうかそこのおハナちゃん、辛いでしょ。幽体はモロに崩壊の影響を受けちゃうからねぇ…。」
深影様より低い声でオネェ言葉を話す人は、私の頭に手を当てた。すると周りの景色がはっきりと見えて、痛みも落ち着いてきたわ。
目の前の人は長いブロンドを横に流してハチミツのような濃い金色の瞳をした美人さん。
優雅にピンクのドレスを着こなしているけれど、その体つきはどう見ても男性のもの。
「あ、ありがとう…ございます…。る、るかは…!」
ばっ、と振り向くと瑠衣は既に部屋を出ており、瑠夏は先程と同じような生気の欠片もない瞳をしていたわ。でも先程と違うのは…どこか清々しいものを感じさせたの。
それが良いとは全く思えなくて、逆に危険だと、脳が警鐘を鳴らしはじめたの。
「瑠夏……?駄目よ、いなくなっちゃ、駄目よ…?必ずここから出してあげるから、だから、お願い……。いなくならないで…?」
今にも儚く消えてしまいそうな気配をしていたの。
「花、すまない。もう、手遅れだ…。」
「どういう、ことですか…?」
「言ったでしょ?『魂の崩壊』。
4歳でこれが起きるとはねぇ…。
これが起きると崩壊した欠片を求める世のあらゆる魔を引き寄せるの。
そうなるとこの子はこの子でなくなってしまう。まあある種の防衛本能かしら、魂の崩壊が起こると魔の苗床になるのを防ぐために自死を選ぶ人が多いのよ。
普通は年齢が二桁に行ってから起こるものなんだけれど。
まぁあの家族を見てたらそれも当然かしらね。
………さて。ミカゲちゃん、修復を頼むためにアタシを呼んだんでしょ?」
修復…?崩壊の、てことかしら。それができるなら、やってほしいわ。
「あぁ。だが、花。重ねて謝罪しなければならないのだ。このソルという、俺の同僚のようなものなのだが、こいつに魂の修復を頼むには、一度その子の生を終えなければならないという決まりがある。………あんなに手を尽くそうとしてくれたのに…申し訳ない…。」
どうして、どうしてなの。どうして私はこうもすべてを間違えるの。どうしてあの人と結婚したの。どうして瑠衣を産んでしまったの。瑠夏を産まなければ、あの子はあんな辛い思い、しなかったのに…。
私が、疫病神だわ―――――
「違うっっ!!お前は疫病神なんかじゃないっ!」
肩をガシっと力強く掴まれて真っ向から否定されたわ。声に出ていたのかしら。でも真剣な表情でそう言われると、本当にそんな気がするの。
「あの家は神から見ても狂っている。しかもそれが呪いなどという外的要因などではないから余計にだ。元からあの家は狂っているんだよ。だから決して花のせいじゃない!自分を責めないでくれ…!」
「深影様………はい、ありがとうございます…。申し訳ありません。あの子を守ると誓った母がこうでは、いけませんね。」
「ふぅ…話は纏まったかしら?あのねぇ、おハナちゃん。アタシからも言わせてもらうけど、アナタは良い親よぉ?あんな男からしたら女神よ女神!そうだわアナタも神になれば良いんじゃなぁい?いい案だわぁ~!そしたらおハナちゃんとガールズトークもできそうだしぃ?」
「ソル、その話は後でいいか。今は瑠夏をどうするか決めなければ。」
「あら、そうねぇ。取り敢えず、あの子は今夜にでも自分の命を断つでしょうねぇ。
あの齢で死に方を知ってるなんて……この家潰しましょうね、おハナちゃん。もう更生の余地無しだわ。
ていうかミカゲちゃん。アナタも分かってたんでしょ?この家はもう無理だって。
どうしてわざと崩壊を起こさせたのかしら?」
射抜くようにソル様が深影様を見たわ。一つの嘘も見逃さないと言うように。
「未来を見てしまったからだ…。」
「はぁっ?!アンタ、それ禁忌じゃない!神でさえ見てはいけないもの、運命の歯車が管理するものを…!!いや、でもアンタは今まで真面目にやってたし上からの評判もいいわ、だからなんとかなるかも…。いや、でも…!」
「未来って、なんですか?」
私は意を決して尋ねたの。
※※※※※※※※※※
すみません、あと1話くらいで終わります。
コメントなんでもいいのでください!!
ここミスってるとか!面白くないとかでもいいんで!!!ください!!(迫真)
長男の瑠衣がほんの少しの晩ご飯を持って瑠夏の部屋へ入ると、まだ湯気が出て熱々のものを瑠夏に投げつけた。
「瑠衣っ!!何をしているの!!!」
思わずそう叫ぶも、私の声は生身の人間には聞こえない。深影様が素早く火傷しないように皮膚を光るもので包んでいるけれど、瑠夏の目には諦めしか見えなかった。
「最近お前がどんどん憎くなっていく。お前の顔を見る度にお前がこの世から居なくなってくれればいいのにって思うんだよ。………なぁ、瑠夏?死ねよ。お前さえ生まれなければ母さんは生きてたんだ!!なぁ死ねよ!!いつまで生きてるんだよ!!死ね!死んでしまえ!!」
あまりにも酷い戯言を4歳の弟に向かって滔々と吐き続ける。聞くに堪えない、そう思っていると、深影様が見たこと無いほど焦り始めた。
「駄目だ、間に合わないっ!!!」
そう叫んだ瞬間、ガラスが割れるような音がした。それと同時に、誰かの泣き声と叫び声も。それは気がおかしくなりそうなほど胸をざわつかせて、私も泣き叫びそうになるほどだった。
「花!!くそっ……!ソル!!聞こえるか!!」
涙と頭痛で殆ど何も見えないところにぼんやりと何かが浮き出てくるのが見えた。
「あらぁ…魂の崩壊じゃなぁい…。ミカゲちゃん、どうしてこんなになるまで放っておいたのよ?ていうかそこのおハナちゃん、辛いでしょ。幽体はモロに崩壊の影響を受けちゃうからねぇ…。」
深影様より低い声でオネェ言葉を話す人は、私の頭に手を当てた。すると周りの景色がはっきりと見えて、痛みも落ち着いてきたわ。
目の前の人は長いブロンドを横に流してハチミツのような濃い金色の瞳をした美人さん。
優雅にピンクのドレスを着こなしているけれど、その体つきはどう見ても男性のもの。
「あ、ありがとう…ございます…。る、るかは…!」
ばっ、と振り向くと瑠衣は既に部屋を出ており、瑠夏は先程と同じような生気の欠片もない瞳をしていたわ。でも先程と違うのは…どこか清々しいものを感じさせたの。
それが良いとは全く思えなくて、逆に危険だと、脳が警鐘を鳴らしはじめたの。
「瑠夏……?駄目よ、いなくなっちゃ、駄目よ…?必ずここから出してあげるから、だから、お願い……。いなくならないで…?」
今にも儚く消えてしまいそうな気配をしていたの。
「花、すまない。もう、手遅れだ…。」
「どういう、ことですか…?」
「言ったでしょ?『魂の崩壊』。
4歳でこれが起きるとはねぇ…。
これが起きると崩壊した欠片を求める世のあらゆる魔を引き寄せるの。
そうなるとこの子はこの子でなくなってしまう。まあある種の防衛本能かしら、魂の崩壊が起こると魔の苗床になるのを防ぐために自死を選ぶ人が多いのよ。
普通は年齢が二桁に行ってから起こるものなんだけれど。
まぁあの家族を見てたらそれも当然かしらね。
………さて。ミカゲちゃん、修復を頼むためにアタシを呼んだんでしょ?」
修復…?崩壊の、てことかしら。それができるなら、やってほしいわ。
「あぁ。だが、花。重ねて謝罪しなければならないのだ。このソルという、俺の同僚のようなものなのだが、こいつに魂の修復を頼むには、一度その子の生を終えなければならないという決まりがある。………あんなに手を尽くそうとしてくれたのに…申し訳ない…。」
どうして、どうしてなの。どうして私はこうもすべてを間違えるの。どうしてあの人と結婚したの。どうして瑠衣を産んでしまったの。瑠夏を産まなければ、あの子はあんな辛い思い、しなかったのに…。
私が、疫病神だわ―――――
「違うっっ!!お前は疫病神なんかじゃないっ!」
肩をガシっと力強く掴まれて真っ向から否定されたわ。声に出ていたのかしら。でも真剣な表情でそう言われると、本当にそんな気がするの。
「あの家は神から見ても狂っている。しかもそれが呪いなどという外的要因などではないから余計にだ。元からあの家は狂っているんだよ。だから決して花のせいじゃない!自分を責めないでくれ…!」
「深影様………はい、ありがとうございます…。申し訳ありません。あの子を守ると誓った母がこうでは、いけませんね。」
「ふぅ…話は纏まったかしら?あのねぇ、おハナちゃん。アタシからも言わせてもらうけど、アナタは良い親よぉ?あんな男からしたら女神よ女神!そうだわアナタも神になれば良いんじゃなぁい?いい案だわぁ~!そしたらおハナちゃんとガールズトークもできそうだしぃ?」
「ソル、その話は後でいいか。今は瑠夏をどうするか決めなければ。」
「あら、そうねぇ。取り敢えず、あの子は今夜にでも自分の命を断つでしょうねぇ。
あの齢で死に方を知ってるなんて……この家潰しましょうね、おハナちゃん。もう更生の余地無しだわ。
ていうかミカゲちゃん。アナタも分かってたんでしょ?この家はもう無理だって。
どうしてわざと崩壊を起こさせたのかしら?」
射抜くようにソル様が深影様を見たわ。一つの嘘も見逃さないと言うように。
「未来を見てしまったからだ…。」
「はぁっ?!アンタ、それ禁忌じゃない!神でさえ見てはいけないもの、運命の歯車が管理するものを…!!いや、でもアンタは今まで真面目にやってたし上からの評判もいいわ、だからなんとかなるかも…。いや、でも…!」
「未来って、なんですか?」
私は意を決して尋ねたの。
※※※※※※※※※※
すみません、あと1話くらいで終わります。
コメントなんでもいいのでください!!
ここミスってるとか!面白くないとかでもいいんで!!!ください!!(迫真)
216
お気に入りに追加
840
あなたにおすすめの小説


アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜
車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた
しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される???
家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。
R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。
現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。
(第1章の改稿が完了しました。2024/11/17)
(第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる