14 / 64
13.おはよう。
しおりを挟むずっと闇の中を歩いていた。何も見えない、何もわからない、僕が誰かも。だけど何か…僕には大切なものがあった気がする。なんだか、寒くて、苦しくて、悲しいけど、その大切な何かを探すために歩みを止めずにただ進んでいた。
『おかあさぁん…』
誰かが、泣いている。
『おかあさぁん…どこにいるの…』
誰かが、迷子になっている…?
声のする方へと歩いていくと、そこには僕よりも少し小さく痩せ細った男の子が地べたに座り込んで泣いていた。
「ねぇ、君、どうしたの?お母さんとはぐれちゃったの?」
僕はこの子よりもお兄さんだから、僕がちゃんと導いてあげないと。
すると男の子はこちらを振り返り、ぐしゃぐしゃに泣き腫らした目を擦って困ったように僕を見た。
『おかあさんいないの…。おかあさんぼくをおいてどこかにいっちゃったの…!』
そう言い終わると、再び瞳を濡らし始める。
「わかった、僕と一緒にお母さん見つけよう!」
そうだ、僕も見つけたい人がいるんだ。
ーーーーーー誰だっけ。
『ありがとうおにいちゃん!』
子供と手を繋いでまた暗闇を歩く。暗闇なのに、何故かこの子のことはよく見えた。
「お母さんは、どんな人?」
『やさしくって、ずっとにこにこしてて、ぼくをだいすき!っていってくれるの!』
先程の今にも泣きそうな雰囲気は鳴りを潜め、楽しそうに母について話し出す。
お母さん…か。僕のお母さんって、どんな人だっけ。僕の家族って、どんな人?
『おにいちゃん?どしたの?』
僕が立ち止まったからだろう、心配そうにこの子は僕を見つめた。
「ううん、何でもない。………僕もね、家族を探してるの。それから、もう一人、凄く大好きな人がいたんだけど…。忘れちゃった。」
『忘れちゃったの…?どうして?』
どうして…か…。どうしてだろう。僕はここに来る前はどこにいた?たしか、たしか……。暗い所に居たんじゃなかったっけ。それから…何があったんだろう。思い出せない。
「…わかんないや。ごめんね、行こう。」
そうやって子供と他にも他愛のない話をして歩いていると、前方に光が見えてきた。途端に子供は手を離して走り出す。
「えっ、どうしたの!ちょっと待って!」
『おかあさん!おかあさん!まって!!ぼくもつれていって!』
光の中には女性がいた。
あれ…何で僕女性を知ってるんだろう…。世界には男しかいなかったはず…男しか…。
『瑠夏、迎えに行くのが遅くなってごめんね。もう置いていかないから。あなたも、この子をここに連れてきてくれてありがとう。そして…目を覚ましなさい。辛いことから逃げてはダメよ。酷なことを強いているのは承知だけれど。でも、あなたには待ってくれる人がたくさんいるわ。ね、ルカ。だから、前を向いて歩き続けるのよ、お母さんはずっと愛してるから…。』
そう言うと、男の子とその母親………、いや、前世の僕とお母さんは光に包まれて消えていった。
「お母さん、僕も、ずっとずっと愛してる…」
そう呟くと、頭上から光が降り注いできた。
『……、……カ…、…ルカ…!…お願い、私を置いて行かないで…!』
愛しい人の声がする。
「ふふ、置いて行くわけ無いのにね、ゼイン。」
そして僕も眩しいほどの光に目を閉じた。
✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿
「ルカ…!私を置いて行かないでくれ…!」
ゼインが泣いている。今までの彼からは想像がつかない程。それに、目に隈がくっきりとできているし、頬も痩けていて王子の面影はどこかへ去っていた。
「ぜ、いん…?なかないで…?」
そっと腕を伸ばして涙を拭おうとするも、腕は少ししか持ち上がってはくれなかった。
なんで?と疑問に思っていると、「ルカっ!!」と大声で呼ばれて苦しいくらいに抱きしめられた。
「ぐぅっ…くるち……!」
そう言うと今度は大慌てで体を離す。
「ご、ごめんね、ルカ…!!」
「ううん…いい、よ…?僕、どれくらい寝てたの…?」
何だか体が重いし、さっき少し見えたけど指が細くなっていた。本当にどれだけ寝てたんだろう…。
「一ヶ月、だよ…。本当に、寝坊助さんだね、ルカ…?ふふふ、おかえり、可愛い私の半身。」
こつん、と額をくっつけて見つめ合う。なんだかそわそわしていると、ガチャッ!と大きな音をさせて扉が開いた。
「「「ルカ!!!」」」
ドタドタと貴族らしくなく息を切らせて走ってきたのは憔悴しきった家族達だった。
「母様、父様、お兄様…えっと…、おはようございます?」
「おそようだよ、ルカ…!お兄様、待ちくたびれちゃったじゃないか…!」
そう言うやいなや滝のように涙を流し始める。
「本当に、お寝坊さんだね、ルカ。母様達、どれだけ心配したと…!」
こちらもハラハラと涙をこぼし始めると、父がそっと肩を抱いてハンカチで優しく拭った。
「それにしても、良かったよ。ルカが居ないと父様も、母様も、ジークも、ゼイン殿下も…みーんな落ち込んじゃって何も手を付けられなかったんだよ。でも……おかえり、ルカ。」
暖かく僕を見る父様。なんだか酷く安心してしまって、
「父様、だっこ……」
久しぶりにだっこを強請ってしまった。
「よしよし、ルカは甘えん坊だねぇ、可愛い可愛い父様達の天使。よく帰ってきたね、おかえり。」
ぽん、ぽん、と一定のリズムであやされると、もう我慢なんてできなくて。
「うぅ……うあぁぁ……!わぁぁぁぁん!!」
声を上げて泣き喚く。父の背中越しにゼインのほっとした顔が見えて、泣きながら手を伸ばした。
伸ばされた手は、きゅっと握られ、愛しそうに撫でられた。
しばらくそうされていると、安心感と泣いていたことによる疲れで僕は瞼を閉じて眠ってしまった。
「さて、ルカも目が覚めたことだし、みんな栄養のあるものを食べて、しっかり寝て、ルカのために動くぞ。」
「うん、そうだね、クリス。」
「分かりました父上。」
「そうですね、クリス殿。」
※※※※
「ルカ様…良うございました…!!」
部屋の隅で存在感を消してダバーっと涙を流している侍従のルイスくん。
447
お気に入りに追加
840
あなたにおすすめの小説


アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜
車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた
しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される???
家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。
R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。
現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。
(第1章の改稿が完了しました。2024/11/17)
(第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる