6 / 64
6.おひろめ。
しおりを挟む「この子、俺の子だった」
「へ?!」
「ど、どういう事かニャ?!」
ルイをお姫様抱っこして世界樹の中から出てきたアズの第一声に、エカとナムロ王様が困惑する。
それから、アズとルイが知った事を聞いて、アズの発言の意味を理解した。
実の子……正しくはその生まれ変わりと知ってから、アズのルイに対する溺愛っぷりは凄かった。
お城で暮らすルイに差し入れを持ってきたり、ルイがねだらなくてもお姫様抱っこしたり頬や額にキスしたり。
「学校の授業で必要な素材があれば獲ってきてあげるからね」
「は、はい……」
我が子の授業に使う素材の提供も惜しまないアズは、竜でも余裕でソロ狩り出来る特S級冒険者。
一方でアズに惚れかけていたルイは、前世のお父さんだと知ってしまい困惑気味だ。
「お母さんと話をしに行こう」
学園が長期休暇に入ると、アズはルイを誘ってアサギリ島に向かった。
世界樹の中で保管されている亡骸ではなく、この世に残されたルルの霊に会わせてあげるらしい。
アズが見せたいものがあるらしくて、エカとボクも同行したよ。
エカとボクにとっては、魔王討伐隊として行って以来のアサギリ島訪問だ。
アサケ大陸北東の海上に浮かぶ、アサギリ島。
草も生えない不毛の地で、かつては魔族と魔物がいる危険な場所だったけど、アズとルルが住むようになってから雰囲気が変わったと聞いていた。
「どう? ちょっと風景良くなっただろ?」
「ちょっとっていうレベルじゃない気がするよ」
エカがツッコミを入れる通り。
岩と土しか無かった大地が、一面の花畑に変わっていた。
「……綺麗~……コスモス畑みたいだ……」
元の世界にある花畑を連想したのか、ルイが呟いた。
咲き乱れる花々は種類も色も様々で、単色の花畑よりも華やかに見える。
「世界のあちこちから集めて植えたんだよ」
ベノワの背中の上から花畑を見下ろして、穏やかな声でアズが言う。
「最初はルルが花を育てようって言って、2人で行った場所から花を少しずつ持ち帰って植え続けたんだ。今はそれが自然に広がって咲いてるよ」
花々に慈しむような眼差しを向けた後、アズは花畑の中心にある小屋の隣に立つ、1本の木の近くにベノワを着陸させた。
「ルル、ただいま」
アズが声をかけると、瑞々しい緑の葉を茂らせる木の枝の間から、幻のように実体のない女性が現れた。
世界樹の中で眠る女性と同じ青いワンピース、長い黒髪と同じ色の犬耳とシッポ、開かれた黒い瞳は艷やかな宝石のように澄んでいる。
『おかえり、アズ。久しぶり、エカ』
念話が優しい波長で心に流れてくる。
精霊のように神秘的な雰囲気を漂わせて微笑むルルは、アズの隣にいるルイを見てハッとした。
『アズ、その黒髪の子は……?』
「ルルが異世界へ送った子だよ」
アズがルイの両肩に手を置き、微笑んで伝える。
『……よかった。生まれてきてくれて凄く嬉しい……』
その時浮かんだルルの微笑みは、切ないくらいに綺麗だった。
「……」
言葉の代わりに、ルイの瞳から涙が流れ始める。
何故泣いているのか、本人も分からない様子だった。
次々に頬を伝う涙が、地面に落ちて吸い込まれてゆく。
『日本のお父さんとお母さんは、どんな名前を付けてくれたの?』
「……る……【琉生】……です……」
問いかけられて、ルイは嗚咽しながらやっとの思いで答えた。
『素敵な名前、これからはルイって呼ぶね』
ルルがまた微笑む。
『……おかえり、ルイ……』
その【声】に呼応するように、周囲の花々から無数の花びらが舞った。
「へ?!」
「ど、どういう事かニャ?!」
ルイをお姫様抱っこして世界樹の中から出てきたアズの第一声に、エカとナムロ王様が困惑する。
それから、アズとルイが知った事を聞いて、アズの発言の意味を理解した。
実の子……正しくはその生まれ変わりと知ってから、アズのルイに対する溺愛っぷりは凄かった。
お城で暮らすルイに差し入れを持ってきたり、ルイがねだらなくてもお姫様抱っこしたり頬や額にキスしたり。
「学校の授業で必要な素材があれば獲ってきてあげるからね」
「は、はい……」
我が子の授業に使う素材の提供も惜しまないアズは、竜でも余裕でソロ狩り出来る特S級冒険者。
一方でアズに惚れかけていたルイは、前世のお父さんだと知ってしまい困惑気味だ。
「お母さんと話をしに行こう」
学園が長期休暇に入ると、アズはルイを誘ってアサギリ島に向かった。
世界樹の中で保管されている亡骸ではなく、この世に残されたルルの霊に会わせてあげるらしい。
アズが見せたいものがあるらしくて、エカとボクも同行したよ。
エカとボクにとっては、魔王討伐隊として行って以来のアサギリ島訪問だ。
アサケ大陸北東の海上に浮かぶ、アサギリ島。
草も生えない不毛の地で、かつては魔族と魔物がいる危険な場所だったけど、アズとルルが住むようになってから雰囲気が変わったと聞いていた。
「どう? ちょっと風景良くなっただろ?」
「ちょっとっていうレベルじゃない気がするよ」
エカがツッコミを入れる通り。
岩と土しか無かった大地が、一面の花畑に変わっていた。
「……綺麗~……コスモス畑みたいだ……」
元の世界にある花畑を連想したのか、ルイが呟いた。
咲き乱れる花々は種類も色も様々で、単色の花畑よりも華やかに見える。
「世界のあちこちから集めて植えたんだよ」
ベノワの背中の上から花畑を見下ろして、穏やかな声でアズが言う。
「最初はルルが花を育てようって言って、2人で行った場所から花を少しずつ持ち帰って植え続けたんだ。今はそれが自然に広がって咲いてるよ」
花々に慈しむような眼差しを向けた後、アズは花畑の中心にある小屋の隣に立つ、1本の木の近くにベノワを着陸させた。
「ルル、ただいま」
アズが声をかけると、瑞々しい緑の葉を茂らせる木の枝の間から、幻のように実体のない女性が現れた。
世界樹の中で眠る女性と同じ青いワンピース、長い黒髪と同じ色の犬耳とシッポ、開かれた黒い瞳は艷やかな宝石のように澄んでいる。
『おかえり、アズ。久しぶり、エカ』
念話が優しい波長で心に流れてくる。
精霊のように神秘的な雰囲気を漂わせて微笑むルルは、アズの隣にいるルイを見てハッとした。
『アズ、その黒髪の子は……?』
「ルルが異世界へ送った子だよ」
アズがルイの両肩に手を置き、微笑んで伝える。
『……よかった。生まれてきてくれて凄く嬉しい……』
その時浮かんだルルの微笑みは、切ないくらいに綺麗だった。
「……」
言葉の代わりに、ルイの瞳から涙が流れ始める。
何故泣いているのか、本人も分からない様子だった。
次々に頬を伝う涙が、地面に落ちて吸い込まれてゆく。
『日本のお父さんとお母さんは、どんな名前を付けてくれたの?』
「……る……【琉生】……です……」
問いかけられて、ルイは嗚咽しながらやっとの思いで答えた。
『素敵な名前、これからはルイって呼ぶね』
ルルがまた微笑む。
『……おかえり、ルイ……』
その【声】に呼応するように、周囲の花々から無数の花びらが舞った。
533
お気に入りに追加
840
あなたにおすすめの小説


気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた
しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される???
家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。
R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。
現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。閲覧ありがとうございます。
(第1章の改稿が完了しました。2024/11/17)
(第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜
車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!
他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる