君が望むなら、俺が全部叶えてみせる

都立冨澤大学附属高校

俺の救世主3 湊side

　《高校3年生・4月》

　浩太郎くんに呼び出された放課後

　日が暮れてくると、まだ冷えるなと考えながら桜の木を眺めながら広場へ向かう

　広場に着き、周りを見渡すも
　浩太郎くんはまだ居ないようだった
　ふと街灯下にあるベンチが目に入る
　以前、晴臣が座っていたベンチだ

　なんとなく、同じところに腰掛けて
　少し目線を上に上げれば桜の花びらが
　風に靡いて舞っていた

　晴臣くんが見ていた景色どんなだったんだろう

　１ヶ月程前だ、もっと、桜は蕾だったと思う
　こんなに桜吹雪も無かったし
　もっと寒かった気もする

　一緒に見たかったな

　来年を一緒に過ごせない俺は
　もう、蕾の桜を見れないんだ


「悪い、待たせたか」

　浩太郎の声に湊は慌ててベンチから立ち上がり声がした方へ駆け寄った

「俺も今来た所！突然どうしたの？」

　浩太郎と話すのは勉強会ぶりで
　2人きりで話すのは初めてだった
　何となく緊張しながらも湊は
　何か言い渋る浩太郎に対して、何かあった？と再度声を掛ける

「…晴臣の事だ
　あいつの言動でたくさん嫌な思いをさせているだろう。俺の監督不行届だ、申し訳ない」

　そう言って、俺に頭を下げる浩太郎に

「ちょっ！頭上げて上げて！
　俺が付き纏い過ぎて迷惑かけてるだけ！」

　俺が勝手に付け回して、高校まで追いかけて
　大学まで付き纏うとしたんだ
　そりゃあ、迷惑だと言われても文句は言えない

「違うんだ。
　晴臣は、佐伯を迷惑だなんて思ってない」

　眉間に深い皺を作りながら
　俺を真剣に見つめる姿は、それが冗談や揶揄いの言葉で名はないと伝わった

　だが、
　そうですかラッキー！なんて簡単に言える程、湊はお気楽じゃ無いし、長い事思い続け過ぎていた

　湊が何も言わずに黙っていると
　浩太郎は変わらず、真剣な表情で話を続ける

「ただ、あいつは今、混乱、してるんだ
　ああ見えて、意外と不器用でな
　もう少し、もう少し、待ってやってくれないか。いずれ、大切さに気が付くから」

　頼む…と呟いた後
　浩太郎はさっきより深く長く頭を下げた

「そんな…わ、わかんないけど、本当だとしたら、俺は、俺は世界で一番幸せだよ」

彼の熱意はひしひしと伝わっていたが

湊は根本的な所が分からず、モヤモヤしていた

浩太郎くんは、俺の事を晴臣の恋人として言っているのか？
はたまた、友人として言ってるのか？

…勉強会で会った時も特に俺と晴臣くんをそういう関係だと思ってなさそうだった

外にバラさない晴臣くんだ
きっと親友の浩太郎くんはもっとバレたく無いはず

俺は聞きたくてたまらなかったが
もしも友人関係だと思っていたとしたら…？

晴臣のことを思うとヒヤヒヤして
安易に口に出すことは出来なかった

うーん…と百面相をしている湊を
浩太郎は心配そうに覗き込むと、あ！となにか思い出した様子で

「あいつの進学先、
東明大学の政治経済に進む予定だよ」

そうニコニコと微笑みながら教えてくれた

・・・なんていうことだろう！
神様、仏様、浩太郎様、俺は一生この人を拝みたい！！
感謝と感動で涙が浮かぶ湊は何度もお辞儀を繰り返した

「ありがとう！ありがとう！
　浩太郎くんは俺の救世主だよ！！」

湊が勢いよく差し出した手を、浩太郎は握り返した

数秒間、握り合った後　自然と手を解き

「晴臣くんに宜しく言っておいて」

そう告げ、先程のモヤモヤもすっかり頭から抜け落ちた俺は
浮き足だったまま寮に戻るのだった