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晴臣と浩太郎(過去編+中学生)五十嵐side

彼の眩しさ

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《小学4年生・8月》

義嗣さんに一度だけ零した事があった
 あれは暑い夏休みの1日だった
義嗣さん夫婦と晴臣がうちに遊びに来ており、楽しく過ごしていた

たまたま、義嗣さんと2人きりになった時、ふと口から出たのだ

「…親父の物だからって無理に買わなくていいんすよ。情けは辱めるだけだと思う」

多分、なんでもそつ無くこなす晴臣に幼いながらに嫉妬していた自分がいたと思う
そんな感情を自身の父親を重ねて投げかけたのだ

義嗣さんは驚いた顔をした後、少し出掛けないかと俺に持ちかけた
歳に似合わず、ニカっと歯を見せて笑う義嗣さんに俺は勢いよく頷いた

「市朗、伶子さん、子供達と車を少し拝借してもいいかな」
義嗣さんからそう、声をかけられると両親は笑顔で気を付けて~と手を振っていた
そんな父親の陰から、
駆け寄ってくる晴臣を見つけると
俺は手を振り、さっきの暗い感情を押し込み
行先のわからぬドライブを楽しみにした

俺の自宅にあった、山用のjeepに義嗣さんは乗り込むと、俺と晴臣を後ろに乗せて、シートベルトを締めてくれた
「揺れるぞ?」
とまたあの子供っぽい笑顔をみせる

本当に揺れた
それはもうガタガタと
俺と晴臣は青い顔をしながら、何度も窓の外の空気を吸って耐えた

裏道だという山道を通り抜け、よく見かけるスーパーの駐車場に着くと、俺たちを下ろして、急足で山程のドリンク達とアイスクリームを購入していた
俺たちは、水のペットボトルを渡されるとすぐに乾いた喉を潤した

そこから、有名な神社の駐車場まで30分ほどだったと思う

そこには老朽化と頻発する地震で歪んだ神社の、本堂や門を建て直している最中だった

義嗣さんが神社に近くと、従業員達が一斉に手を止め、立ち上がり、挨拶し頭を下げる

「お疲れ様です。鳳城代表」

奥から現場監督であろう少し小綺麗な作業服を着た男が義嗣さんに駆け寄る

俺たちは義嗣さんに背中を押されて、身体が前に出る
挨拶をしなさいという事だと俺でも分かる

「いつも父がお世話になっております。お久しぶりです。藤堂さん」
「初めまして!友人の五十嵐浩太郎です!」

藤堂と呼ばれた現場監督の男は俺を驚いた顔で見た後、
慌てた様子で
「お久しぶりです。晴臣くん、また大きくなられましたね。
初めまして。お目にかかれて光栄です。
浩太郎くん」
と丁寧に返してくれた

義嗣さんは困ったように笑うと

「すまんが、今日は仕事じゃないんだ、少し見学をね…。だが、今日も猛暑の予定だ。完成日時は神主と私の方で相談するから、日中は無理せず休んでくれ。あと、少しばかりだが」

と、先ほど大量に購入した経口補水液と、スポーツ飲料、アイスクリームを従業員達に手渡すと、現場監督は眉毛を八の字にさせながら何度も頭を下げていた

「あ、ありがとうございます…!!
でも、鳳城さんの現場には必ず、無料の自販機まで用意して貰ってますし、プレハブは冷房も効きやすいし熱中症で倒れた奴は今んところ誰もいませんよ」

先程の緊張した表情とは変わり
クシャりと笑った笑顔は本心なんだろうと
幼いながらに感じた

俺は、晴臣の服を引っ張り1つ質問する
「さっきの藤堂さんってよく会うの?」
彼は少し不思議そうな顔をした後
「いや、2回目だよ。一昨年ぐらいにアケオメの挨拶とやらをしに来てた」

そうか。こいつは家のことだけは本当に優秀な男だ
たった1度顔を合わせた社員の顔を覚えているのだから
クラスメイトの名前は、おろか担任の名前すら覚えない晴臣
俺は何度それをフォローしてきたことか
だが、彼は覚えられないのではない。
覚える価値に値しない
必要がないと判断したまでなのだ
父親を心底尊敬し、小学生の今ですら将来自分が継ぐものだと理解し、覚悟して生きている姿は眩しく、遠い存在に見えた
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