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Season1 セオリー・S・マクダウェルの理不尽な理論
#026 密林の死闘 Promise
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8月19日 7:14――
50口径対物ライフルから開幕の狼煙が奥多摩の絶景へ響き渡った。
レーツェルから目を奪われた強化外骨格は、完全に不意を突かれ行動不能に陥っている。
「それではセオリー殿。手筈通りに私と暁で惹き付けている間に、刹那と一緒に脱出を」
「俺は車で出て囮になる。明日、目標ポイントで合流だ」
「ええ、二人とも気を付けて、私は命が失われていく光景はあまり好きでありません。それは人間であってもですわ」
セオリーは暁達の身と敵の身を案じる。生物学者でもある彼女にとって『命』は何よりも尊ぶべきものである。そして平等に尊ぶべきものである。
敵味方関係なく、人間やその他の動物も『命』の前では等しいとセオリーは考えている。
「最善は尽してみるが、命のやり取りだからな。向こうが殺しにかかってきている以上、手加減したらこっちが死ぬ」
「分かっています。状況は理解していますわ」
状況が理解できるが故に、残念で仕方がない。寂しげな表情のままセオリーは刹那の背に腰を下ろす。
刹那は苦しい顔一つしないのでセオリーは一度聞いたことがある。そしたら――『思っていたより重くないから大丈夫』と聞き捨てならない事を言ったのでモフり倒した。
「そっちは一人で本当に大丈夫か?」
「ええ、遺伝子強化された人間を対処と治療が出来るのは、現状私しかおりません」
「俺はその対処を心配しているのだが?」
セオリーは自分の右手を指して、暁へ得意気に微笑んで見せる。
「私にはとっておきがありますわ」
「……」
不安げな眼差しを向けてくる暁の純粋な顔を見かねてセオリーは一つ提案をすることにした。
「暁、もう一度出会えましたら、その時はキスしましょう?」
暁は一瞬狐につままれたような顔をしたが――
「無理だ」
寧ろ意表を付かれたのはセオリーだった。
「はぁっ!? そこは頷くところでしょうっ!? それに無理って何ですかっ!? 嫌だでもなく無理ってっ!?」
「その代わり観光には付き合ってやる」
「……分かりましたわ、今回はそれで手を打って差し上げますわ」
暁が少しだけ微笑みを見せたので、セオリーは微笑みで返す。
二人にはそれ以上の言葉は必要なかった。
互いの無事を誓い合い、セオリーは刹那に掴まり、セーフハウスを飛び出していく。
セーフハウスの裏口からセオリーが出ていく頃を見計らい、暁はすっかり穴だらけになってしまった愛車を発進させた。
「悪いな。無茶させて、これが最後の仕事だ」
暁は苦楽を共にして3年と連れ添った相棒へと語り掛ける。アクセルを踏み込む度、蘇る愛車との思い出、今日の相棒はいつになく生き生きとしたエンジン音を奏でている。そんな気さえしてくる。
「そういえばあいつ、左手じゃなくて、右手を指していたな……」
とっておきとはオントロジーエコノミクスのだろうが、それは左手に埋め込まれている筈、それなのに右手を指していた。
単に間違えただけだろうと暁はあまり気を留めない事にした。気にしだすと土壺にはまりかねない。
話し合いの末、暁は囮役を引き受けた。廃車同然の愛車に鞭を打つような真似をしているのもそのためだ。まさか敵はセオリーが狼に乗って移動するとは思わないだろう。
「じゃあ、せめて囮なら囮らしく派手に踊ってやるとしますかっ!」
暁は奥多摩の山道を疾走していく。サイドミラー越しに強化外骨格三体が暁を追いかけてきたのが見える。思惑通り一課の連中は予定通り暁の乗る愛車を一行だと先入観を抱いてくれた陽であった。
出来れば半分は惹き付けたいと思っていたが仕方がない。レーツェルの視界傍受も完璧ではない。ハッキング対策のため定期的にコードを書き換えられるらしい。
強化外骨格の一体が車の後部へと近づき、ウイングに手が触れて弾け飛んだ。
遥か前方上り坂が現れたのを見て、暁はアクセルを踏み込みスピードを上げる。
それに合わせるように強化外骨格も脚部に装着された動輪が唸り声を上げていく。
上り坂を駆け上がった瞬間、暁は直ぐ様ハンドルを切り、後輪を滑らせて急カーブを曲がっていく。
上り坂の先は崖。三体のうち一体は曲がり切れず、立ち止まったところを後続の一体が追突し崖の底へ転落していった。
「頑丈な勝負服を着こんでんだ。死ぬことも無いだろう」
残りは前の二体の後を追ってきた鈍間な一体。直線に差し掛かったところで、暁はアクセルを踏み込む。
エンジンが悲鳴を上げながらも、充分に引き離したところで、暁はサイドブレーキを引いて、車を振り向かせる。
「勝負だ。クソ野郎」
追ってきた一体へ向かって、暁はアクセルを踏み込み強化外骨格へ向かって突っ込んでいく。
銃弾の雨を掻い潜って突き進む。強化外骨格が避ける態勢を取り始めた。
「レーツェル」
『了解っ! 1秒だけだよっ!』
レーツェルが車のスピーカーから甲高い声が聞こえる。もう一度レーツェルにハッキングを仕掛けさせ受け動けなくなった強化外骨格へと一直線へ突き進む愛車。
衝突の寸前暁は助手席のアサルトライフルを手に車から飛び降りた。
暁の愛車は強化外骨格をボンネットに打ち付け、引きずるようにして一緒に谷底に消えていった。
「あばよ、相棒」
谷底から重々しい爆発音と共に爆炎が上がる。
暁の次の目的は凰華の援護。立ち上がって3年間連れ添った相棒へ別れの言葉を告げた暁は、足早に奥多摩の樹海へと入っていく。
対物ライフルを担ぎ、射撃ポイントを変更するため凰華は密林の深く入っていく。
「レーツェルのお陰で5体。暁が3体持っていったから、残り2体」
レーツェルの視界傍受のサポートにより5体は仕留められたが、その間にセーフハウスを壊滅させられてしまったため、凰華は急遽移動している状況だった。
「8時の方向に一体、11時の方向に一体……回り込む気だな」
強化外骨格は例の特殊繊維のお陰で奥多摩の樹海に溶け込んでいるが、セオリーが与えてくれた『能力』により、凰華には敵の位置がはっきりと分かる。
「暁と合流する前に、一体だけでも」
だが弾丸は残り一つしかない。狙うなら自分の位置を掴まれていないと思い込み回り込もうとしている一体の方だ。
位置情報が正確に分かる凰華は奇襲をかけるべく真っすぐ標的へ向かって走り出した。
直ぐ後方を追跡してきたもう一体の銃撃。凰華は弾丸の雨の中、樹木を影にして臆すること無く真っ直ぐ付き進む。
「目標発見」
凰華の前に回り込もうとしていた強化外骨格の姿が見える。
走りながらボルトを引き、最後の弾丸を装填する。
突如現れた彼女に意表を付かれ一瞬怯んだのを凰華は見逃さない。標的が銃口を向け、弾幕を張ろうと仕掛ける前に彼女は標的の下へと飛び込んだ。
対物ライフルの銃口を胴体部分にある僅かな隙間へ押し当てる。強化外骨格のコクピット接続部分であり一番装甲の薄い箇所。
『ま、待てっ!』
「さよなら」
命乞いをしようとした標的へ冷淡な言葉を手向けに凰華は引き金を引く。
爆発音に似た銃声の後、強化外骨格を貫いた弾丸は搭乗者の肉体を破壊し、膨れ上がった内圧により隙間と言う隙間から夥しい量の鮮血の雨を降らせる。
(ごめんなさいセオリー殿。やはり無理でした)
なるべく殺さないようにするという願いを全うすることが出来ず、凰華はセオリーへ心の中で懺悔した。
50口径対物ライフルから開幕の狼煙が奥多摩の絶景へ響き渡った。
レーツェルから目を奪われた強化外骨格は、完全に不意を突かれ行動不能に陥っている。
「それではセオリー殿。手筈通りに私と暁で惹き付けている間に、刹那と一緒に脱出を」
「俺は車で出て囮になる。明日、目標ポイントで合流だ」
「ええ、二人とも気を付けて、私は命が失われていく光景はあまり好きでありません。それは人間であってもですわ」
セオリーは暁達の身と敵の身を案じる。生物学者でもある彼女にとって『命』は何よりも尊ぶべきものである。そして平等に尊ぶべきものである。
敵味方関係なく、人間やその他の動物も『命』の前では等しいとセオリーは考えている。
「最善は尽してみるが、命のやり取りだからな。向こうが殺しにかかってきている以上、手加減したらこっちが死ぬ」
「分かっています。状況は理解していますわ」
状況が理解できるが故に、残念で仕方がない。寂しげな表情のままセオリーは刹那の背に腰を下ろす。
刹那は苦しい顔一つしないのでセオリーは一度聞いたことがある。そしたら――『思っていたより重くないから大丈夫』と聞き捨てならない事を言ったのでモフり倒した。
「そっちは一人で本当に大丈夫か?」
「ええ、遺伝子強化された人間を対処と治療が出来るのは、現状私しかおりません」
「俺はその対処を心配しているのだが?」
セオリーは自分の右手を指して、暁へ得意気に微笑んで見せる。
「私にはとっておきがありますわ」
「……」
不安げな眼差しを向けてくる暁の純粋な顔を見かねてセオリーは一つ提案をすることにした。
「暁、もう一度出会えましたら、その時はキスしましょう?」
暁は一瞬狐につままれたような顔をしたが――
「無理だ」
寧ろ意表を付かれたのはセオリーだった。
「はぁっ!? そこは頷くところでしょうっ!? それに無理って何ですかっ!? 嫌だでもなく無理ってっ!?」
「その代わり観光には付き合ってやる」
「……分かりましたわ、今回はそれで手を打って差し上げますわ」
暁が少しだけ微笑みを見せたので、セオリーは微笑みで返す。
二人にはそれ以上の言葉は必要なかった。
互いの無事を誓い合い、セオリーは刹那に掴まり、セーフハウスを飛び出していく。
セーフハウスの裏口からセオリーが出ていく頃を見計らい、暁はすっかり穴だらけになってしまった愛車を発進させた。
「悪いな。無茶させて、これが最後の仕事だ」
暁は苦楽を共にして3年と連れ添った相棒へと語り掛ける。アクセルを踏み込む度、蘇る愛車との思い出、今日の相棒はいつになく生き生きとしたエンジン音を奏でている。そんな気さえしてくる。
「そういえばあいつ、左手じゃなくて、右手を指していたな……」
とっておきとはオントロジーエコノミクスのだろうが、それは左手に埋め込まれている筈、それなのに右手を指していた。
単に間違えただけだろうと暁はあまり気を留めない事にした。気にしだすと土壺にはまりかねない。
話し合いの末、暁は囮役を引き受けた。廃車同然の愛車に鞭を打つような真似をしているのもそのためだ。まさか敵はセオリーが狼に乗って移動するとは思わないだろう。
「じゃあ、せめて囮なら囮らしく派手に踊ってやるとしますかっ!」
暁は奥多摩の山道を疾走していく。サイドミラー越しに強化外骨格三体が暁を追いかけてきたのが見える。思惑通り一課の連中は予定通り暁の乗る愛車を一行だと先入観を抱いてくれた陽であった。
出来れば半分は惹き付けたいと思っていたが仕方がない。レーツェルの視界傍受も完璧ではない。ハッキング対策のため定期的にコードを書き換えられるらしい。
強化外骨格の一体が車の後部へと近づき、ウイングに手が触れて弾け飛んだ。
遥か前方上り坂が現れたのを見て、暁はアクセルを踏み込みスピードを上げる。
それに合わせるように強化外骨格も脚部に装着された動輪が唸り声を上げていく。
上り坂を駆け上がった瞬間、暁は直ぐ様ハンドルを切り、後輪を滑らせて急カーブを曲がっていく。
上り坂の先は崖。三体のうち一体は曲がり切れず、立ち止まったところを後続の一体が追突し崖の底へ転落していった。
「頑丈な勝負服を着こんでんだ。死ぬことも無いだろう」
残りは前の二体の後を追ってきた鈍間な一体。直線に差し掛かったところで、暁はアクセルを踏み込む。
エンジンが悲鳴を上げながらも、充分に引き離したところで、暁はサイドブレーキを引いて、車を振り向かせる。
「勝負だ。クソ野郎」
追ってきた一体へ向かって、暁はアクセルを踏み込み強化外骨格へ向かって突っ込んでいく。
銃弾の雨を掻い潜って突き進む。強化外骨格が避ける態勢を取り始めた。
「レーツェル」
『了解っ! 1秒だけだよっ!』
レーツェルが車のスピーカーから甲高い声が聞こえる。もう一度レーツェルにハッキングを仕掛けさせ受け動けなくなった強化外骨格へと一直線へ突き進む愛車。
衝突の寸前暁は助手席のアサルトライフルを手に車から飛び降りた。
暁の愛車は強化外骨格をボンネットに打ち付け、引きずるようにして一緒に谷底に消えていった。
「あばよ、相棒」
谷底から重々しい爆発音と共に爆炎が上がる。
暁の次の目的は凰華の援護。立ち上がって3年間連れ添った相棒へ別れの言葉を告げた暁は、足早に奥多摩の樹海へと入っていく。
対物ライフルを担ぎ、射撃ポイントを変更するため凰華は密林の深く入っていく。
「レーツェルのお陰で5体。暁が3体持っていったから、残り2体」
レーツェルの視界傍受のサポートにより5体は仕留められたが、その間にセーフハウスを壊滅させられてしまったため、凰華は急遽移動している状況だった。
「8時の方向に一体、11時の方向に一体……回り込む気だな」
強化外骨格は例の特殊繊維のお陰で奥多摩の樹海に溶け込んでいるが、セオリーが与えてくれた『能力』により、凰華には敵の位置がはっきりと分かる。
「暁と合流する前に、一体だけでも」
だが弾丸は残り一つしかない。狙うなら自分の位置を掴まれていないと思い込み回り込もうとしている一体の方だ。
位置情報が正確に分かる凰華は奇襲をかけるべく真っすぐ標的へ向かって走り出した。
直ぐ後方を追跡してきたもう一体の銃撃。凰華は弾丸の雨の中、樹木を影にして臆すること無く真っ直ぐ付き進む。
「目標発見」
凰華の前に回り込もうとしていた強化外骨格の姿が見える。
走りながらボルトを引き、最後の弾丸を装填する。
突如現れた彼女に意表を付かれ一瞬怯んだのを凰華は見逃さない。標的が銃口を向け、弾幕を張ろうと仕掛ける前に彼女は標的の下へと飛び込んだ。
対物ライフルの銃口を胴体部分にある僅かな隙間へ押し当てる。強化外骨格のコクピット接続部分であり一番装甲の薄い箇所。
『ま、待てっ!』
「さよなら」
命乞いをしようとした標的へ冷淡な言葉を手向けに凰華は引き金を引く。
爆発音に似た銃声の後、強化外骨格を貫いた弾丸は搭乗者の肉体を破壊し、膨れ上がった内圧により隙間と言う隙間から夥しい量の鮮血の雨を降らせる。
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