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Season1 セオリー・S・マクダウェルの理不尽な理論
#025 反撃開始 Diversion
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「マインドハザードですか?」
セオリーは頷く。聞きなれない言葉に一同、首を傾げる。
それもその筈、これはセオリーの造語。ウイルスが爆発的に広まった際のバイオハザードに掛けて、精神災害、マインドハザードと言っている。
「CCCのプレイヤーが、その能力と力を現実で行使できるよう、レトロウイルスベクターで遺伝子を操作した場合。その暴動を鎮めるためにどのくらいの戦力が必要だと思いますか?」
実際に戦闘してみた一同であれば想像に難くない。
真っ向から挑んだ乗降であったが、暁、凰華、刹那、レーツェルが協力して漸く一人と互角と言った具合だった。
「少なく見込んでも凡そ1,000人の人間が徒党を組んで襲ってくるとなれば、最悪自衛軍が出動することもあり得るのではないですか?」
セオリーの話の説得力が増し、段々と暁達の雲行きが怪しくなっていく。
「その混乱の中だと警視庁は手薄になるのは必然、そうなった場合、且又が接種者リストを手に入れ、ばら撒いたらどうなります?」
さらにセオリーはレトロウイルスベクターが変異し他人に感染するようになれば事態の収拾が困難を極めると付け加えた。
「数年前のパンデミックの際はどうでしたか?」
セオリーもまだ10歳前後であったがよく覚えている。
「皆がウイルスに対して憶測や根拠無い噂を付け加える事によって、爆発的に悪意のある情報拡散が起きました。それはSNSなどを介して情報を得た人間が、物資不足という情報へと変わり流布していきました」
その情報はまるで人を介して変異していくウイルスのような生態を見せている。
セオリーは挙句の果てに『略奪が起きるから銃が必要』などという情報へと変わったと肩を竦める。
「マインドハザード。即ちそれは倫理や思考の変貌が大規模に拡散され多くの人の心へ感染していくことを言います。これにより強い感情を引き起こされ人たちの手により、最終的にはGADSの崩壊を得て、遺伝子改変が当たり前の世の中になるでしょう」
セオリーは「いずれ遺伝子整形なる言葉もでるかもしれませんわね」と言い、呆れたように溜息を付く。
「つまりセオリー殿は、接種者リストを且又がばら撒くと同じようなことが起こると?」
「ええ、ただ違うのは『アセンション』という薬に『心理的魅力』が少なからず備わっている事。これにより人の倫理観を壊し、まるで新興宗教のような広がりを見せると私は予想しています」
宣教師の手によって『神』のミームを世界中に流布していったように、それどころか彼らのような並々ならぬ努力など必要とせず、インターネットによりあっという間に広がるとセオリーは見ていた。
『且又は混乱に落とし入れて何をしようとしているんだろう。何か理由があるのかな』
刹那の言っていることは最もだ。セオリーもそこだけはどうしても分からない。
一つだけ気になるのは且又が口癖のように言っていた『人の可能性、その輝き』という言葉だった。
「多分、奴は人の特異性に惹かれているような節がある。恐らく奴は混乱を起こすこと自体が目的なのかもしれない」
それは暁が自らプロファイリングした且又の趣向性だった。
「その混乱の中で生き残れるような特異性を持った人を作り出そうとしているのかもしれない」
そう口に出しておきながら暁は流石に邪推が過ぎて、誇大妄想にも程があると首を横に振る。
「いいえ、暁が思っているほど的外れではないかもしれません」
セオリーには暁が気付いていない根拠があった。それは暁と且又が似た思考の持ち主であることと、恐らくその特異性を持った人間と言うのが暁なのかもしれないという推測があったからだ。
「そこでレーツェルにお願いしたいことがあるのですが、レーツェルは……いないですわね。どうしたのかしら?」
『今、レーツェルは睡眠をしている。ここのサーバーだと処理速度が貧弱過ぎて性能の10%も発揮できないらしい』
「……なるほど、そうしましたら海外ではありますが、私の母のサーバーがあります、連絡を入れておきますので、そこへデータを送ってください」
『いいのかい? 相当のデータ量だよ?』
「全然大丈夫です。母のサーバーは量子コンピュータですから」
セオリーは淡々と携帯端末を操作し、IPアドレスをレーツェルのサーバーへと送った。量子コンピュータであればレーツェルの性能を100%どころか、引き上げる事が出来るだろう。
「セオリー殿。貴女の母君は一体どんな職業を?」
「まぁ、それは追々説明いたしますわ。今はレーツェルが動けないと話になりません」
「それでセオリー。レーツェルにやってもらいたい事とは何だ?」
「ええ、彼女には大ほらを吹いてもらいます」
8月19日――
「完全に包囲されています。数は10の分隊規模、距離は凡そ10km。全員32式強化外骨格を装着し、対戦車機銃を装備しています」
双眼鏡を片手に凰華がセーフハウスの周囲の状況を説明する。
強化外骨格を着込んだ一課の実行部隊の一団は奥多摩の密林に囲まれた中に潜み、状況を伺っている。
32式強化外骨格は弾丸を受け流すような丸みを帯びたフォルムで、その表面には可視光を後方へ迂回させる特殊な金属繊維が施されている。
常人には密林の中、目視で見つけることは不可能であったが、凰華には可能であった。
「セオリー殿。一体、私に何をしたのです? この間の筋肉男の時でもそうですが、敵の数と位置はっきりと分かるのです」
緊張感なく凰華の後ろで紅茶を飲みながら佇んでいたセオリーは背伸びをする。
「人間の空間知覚は背側視覚経路と腹側視覚経路の概ね二つの視覚処理系で行われます。凰華と暁にはその視覚経路の遺伝子を活性化させました」
「はぁ、暁のものとは大分違うように見えますが、彼から聞いた話では、相手の動きがスローモーションに見えるようになったとか……」
「空間知覚の要素は色々あるのですのよ。暁の場合は物体の動きととらえる『運動視』が強化され、凰華の場合は『空間視』に当たると思いますわ。身体周辺空間が拡張されたので敵の位置や地形が手に取るように分かるでしょう?」
暁達の能力は危機的状況があったからこそ発現したもの、セオリーは遺伝子の自己保存機能を逆手にとった。ジーンオントロジーエコノミクスの転写はきっかけに過ぎない。
(まぁ、これからいろいろと能力を開花することでしょう)
「それはそうと、暁もそうですが、貴女達はこの国にあまり良い印象は持っていないのではなくて? 別にこのまま且又とこの国の行く末を放っておいたってかまわないのでは?」
凰華は自分の下着の入ったクローゼットの3段目引き出しを開きながら、「うーん……」と唸り答えに渋る。
「確かにそうですね。理不尽だらけのこの国、いいえ――世界なんて滅んでしまえと思っていますが、流石にこのままでは目覚めが悪いから……ですかね」
丁寧にインナーが収納された引き出しの裏側には対物ライフルを分解して忍ばせてあり、凰華は徐にそれを取り出し組み立て始める。
「暁はどうですの?」
暁はセオリーの後ろのテーブルでアサルトライフルと弾丸のチェックをしている。
「ああ、半分は如月と同じ、だが俺には且又に何としてでも落とし前を付けて貰わなきゃならねぇ、白銀の無念を晴らすため、奴を捕らえる」
『僕もだ。博士の敵を討つっ!』
『レーツェルもだよ。レーツェルを怒らせたらどうなるか見せてあげるんだからっ!』
セオリーの横へ刹那とレーツェルが寄り添ってくる。
「ところでアンタ……セオリーは本当に良いのか? 容疑が掛けられているとはいえアンタがこの国に義理立てする理由が無いと思うが?」
セオリーは「そうですわね……」と言って天井を仰いだ。
本当のところこの国を脱出する方法はいくらでもあるのだ。依頼とは言え義理立てする必要はない。凰華と同じく目覚めが悪いというのもあるが――
「この国に恩を売っておくというのもいいかもしれませんわね。正直なところ、実験体をほっておいて主人が逃げるって言うのも悪いですし、それにまだ真面に観光できていませんっ!」
「なんだそりゃ」
セオリーは全員と共に失笑する。
「まぁ、良いじゃないですか。それじゃ、皆さん行きますわよっ!」
「我らが主人の観光の為に一肌脱ぐとしますかっ!」
「そうですねっ!」
『ああっ!』
『うんっ! 強化外骨格の目は盗んだよっ! いつでも大丈夫っ!』
「さあっ! 皆さんっ! 憂さ晴らしの時間ですわっ!」
セオリーの口上を合図にベランダへ50口径対物ライフルを掲げた凰華が、ボルトを引き、行軍する強化外骨格の一体に狙いを定め、引き金を引いた。
セオリーは頷く。聞きなれない言葉に一同、首を傾げる。
それもその筈、これはセオリーの造語。ウイルスが爆発的に広まった際のバイオハザードに掛けて、精神災害、マインドハザードと言っている。
「CCCのプレイヤーが、その能力と力を現実で行使できるよう、レトロウイルスベクターで遺伝子を操作した場合。その暴動を鎮めるためにどのくらいの戦力が必要だと思いますか?」
実際に戦闘してみた一同であれば想像に難くない。
真っ向から挑んだ乗降であったが、暁、凰華、刹那、レーツェルが協力して漸く一人と互角と言った具合だった。
「少なく見込んでも凡そ1,000人の人間が徒党を組んで襲ってくるとなれば、最悪自衛軍が出動することもあり得るのではないですか?」
セオリーの話の説得力が増し、段々と暁達の雲行きが怪しくなっていく。
「その混乱の中だと警視庁は手薄になるのは必然、そうなった場合、且又が接種者リストを手に入れ、ばら撒いたらどうなります?」
さらにセオリーはレトロウイルスベクターが変異し他人に感染するようになれば事態の収拾が困難を極めると付け加えた。
「数年前のパンデミックの際はどうでしたか?」
セオリーもまだ10歳前後であったがよく覚えている。
「皆がウイルスに対して憶測や根拠無い噂を付け加える事によって、爆発的に悪意のある情報拡散が起きました。それはSNSなどを介して情報を得た人間が、物資不足という情報へと変わり流布していきました」
その情報はまるで人を介して変異していくウイルスのような生態を見せている。
セオリーは挙句の果てに『略奪が起きるから銃が必要』などという情報へと変わったと肩を竦める。
「マインドハザード。即ちそれは倫理や思考の変貌が大規模に拡散され多くの人の心へ感染していくことを言います。これにより強い感情を引き起こされ人たちの手により、最終的にはGADSの崩壊を得て、遺伝子改変が当たり前の世の中になるでしょう」
セオリーは「いずれ遺伝子整形なる言葉もでるかもしれませんわね」と言い、呆れたように溜息を付く。
「つまりセオリー殿は、接種者リストを且又がばら撒くと同じようなことが起こると?」
「ええ、ただ違うのは『アセンション』という薬に『心理的魅力』が少なからず備わっている事。これにより人の倫理観を壊し、まるで新興宗教のような広がりを見せると私は予想しています」
宣教師の手によって『神』のミームを世界中に流布していったように、それどころか彼らのような並々ならぬ努力など必要とせず、インターネットによりあっという間に広がるとセオリーは見ていた。
『且又は混乱に落とし入れて何をしようとしているんだろう。何か理由があるのかな』
刹那の言っていることは最もだ。セオリーもそこだけはどうしても分からない。
一つだけ気になるのは且又が口癖のように言っていた『人の可能性、その輝き』という言葉だった。
「多分、奴は人の特異性に惹かれているような節がある。恐らく奴は混乱を起こすこと自体が目的なのかもしれない」
それは暁が自らプロファイリングした且又の趣向性だった。
「その混乱の中で生き残れるような特異性を持った人を作り出そうとしているのかもしれない」
そう口に出しておきながら暁は流石に邪推が過ぎて、誇大妄想にも程があると首を横に振る。
「いいえ、暁が思っているほど的外れではないかもしれません」
セオリーには暁が気付いていない根拠があった。それは暁と且又が似た思考の持ち主であることと、恐らくその特異性を持った人間と言うのが暁なのかもしれないという推測があったからだ。
「そこでレーツェルにお願いしたいことがあるのですが、レーツェルは……いないですわね。どうしたのかしら?」
『今、レーツェルは睡眠をしている。ここのサーバーだと処理速度が貧弱過ぎて性能の10%も発揮できないらしい』
「……なるほど、そうしましたら海外ではありますが、私の母のサーバーがあります、連絡を入れておきますので、そこへデータを送ってください」
『いいのかい? 相当のデータ量だよ?』
「全然大丈夫です。母のサーバーは量子コンピュータですから」
セオリーは淡々と携帯端末を操作し、IPアドレスをレーツェルのサーバーへと送った。量子コンピュータであればレーツェルの性能を100%どころか、引き上げる事が出来るだろう。
「セオリー殿。貴女の母君は一体どんな職業を?」
「まぁ、それは追々説明いたしますわ。今はレーツェルが動けないと話になりません」
「それでセオリー。レーツェルにやってもらいたい事とは何だ?」
「ええ、彼女には大ほらを吹いてもらいます」
8月19日――
「完全に包囲されています。数は10の分隊規模、距離は凡そ10km。全員32式強化外骨格を装着し、対戦車機銃を装備しています」
双眼鏡を片手に凰華がセーフハウスの周囲の状況を説明する。
強化外骨格を着込んだ一課の実行部隊の一団は奥多摩の密林に囲まれた中に潜み、状況を伺っている。
32式強化外骨格は弾丸を受け流すような丸みを帯びたフォルムで、その表面には可視光を後方へ迂回させる特殊な金属繊維が施されている。
常人には密林の中、目視で見つけることは不可能であったが、凰華には可能であった。
「セオリー殿。一体、私に何をしたのです? この間の筋肉男の時でもそうですが、敵の数と位置はっきりと分かるのです」
緊張感なく凰華の後ろで紅茶を飲みながら佇んでいたセオリーは背伸びをする。
「人間の空間知覚は背側視覚経路と腹側視覚経路の概ね二つの視覚処理系で行われます。凰華と暁にはその視覚経路の遺伝子を活性化させました」
「はぁ、暁のものとは大分違うように見えますが、彼から聞いた話では、相手の動きがスローモーションに見えるようになったとか……」
「空間知覚の要素は色々あるのですのよ。暁の場合は物体の動きととらえる『運動視』が強化され、凰華の場合は『空間視』に当たると思いますわ。身体周辺空間が拡張されたので敵の位置や地形が手に取るように分かるでしょう?」
暁達の能力は危機的状況があったからこそ発現したもの、セオリーは遺伝子の自己保存機能を逆手にとった。ジーンオントロジーエコノミクスの転写はきっかけに過ぎない。
(まぁ、これからいろいろと能力を開花することでしょう)
「それはそうと、暁もそうですが、貴女達はこの国にあまり良い印象は持っていないのではなくて? 別にこのまま且又とこの国の行く末を放っておいたってかまわないのでは?」
凰華は自分の下着の入ったクローゼットの3段目引き出しを開きながら、「うーん……」と唸り答えに渋る。
「確かにそうですね。理不尽だらけのこの国、いいえ――世界なんて滅んでしまえと思っていますが、流石にこのままでは目覚めが悪いから……ですかね」
丁寧にインナーが収納された引き出しの裏側には対物ライフルを分解して忍ばせてあり、凰華は徐にそれを取り出し組み立て始める。
「暁はどうですの?」
暁はセオリーの後ろのテーブルでアサルトライフルと弾丸のチェックをしている。
「ああ、半分は如月と同じ、だが俺には且又に何としてでも落とし前を付けて貰わなきゃならねぇ、白銀の無念を晴らすため、奴を捕らえる」
『僕もだ。博士の敵を討つっ!』
『レーツェルもだよ。レーツェルを怒らせたらどうなるか見せてあげるんだからっ!』
セオリーの横へ刹那とレーツェルが寄り添ってくる。
「ところでアンタ……セオリーは本当に良いのか? 容疑が掛けられているとはいえアンタがこの国に義理立てする理由が無いと思うが?」
セオリーは「そうですわね……」と言って天井を仰いだ。
本当のところこの国を脱出する方法はいくらでもあるのだ。依頼とは言え義理立てする必要はない。凰華と同じく目覚めが悪いというのもあるが――
「この国に恩を売っておくというのもいいかもしれませんわね。正直なところ、実験体をほっておいて主人が逃げるって言うのも悪いですし、それにまだ真面に観光できていませんっ!」
「なんだそりゃ」
セオリーは全員と共に失笑する。
「まぁ、良いじゃないですか。それじゃ、皆さん行きますわよっ!」
「我らが主人の観光の為に一肌脱ぐとしますかっ!」
「そうですねっ!」
『ああっ!』
『うんっ! 強化外骨格の目は盗んだよっ! いつでも大丈夫っ!』
「さあっ! 皆さんっ! 憂さ晴らしの時間ですわっ!」
セオリーの口上を合図にベランダへ50口径対物ライフルを掲げた凰華が、ボルトを引き、行軍する強化外骨格の一体に狙いを定め、引き金を引いた。
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