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Season1 セオリー・S・マクダウェルの理不尽な理論
#018 退屈な宣戦布告 Conflict
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セオリーと且又が語り合っている一方その頃――
霜綾学園の向かいにある建物の屋上から、セオリーの様子を望遠鏡で眺める暁。その目に映るセオリーの顔は随分と不機嫌そうに見えた。
「暁。そうして端から見ると、まるでストーカーのようですね」
「……俺も気にしてんだ。言うんじゃねぇ」
暁の背後から声を掛けたのは凰華。コンビニの袋を手に提げて現れる。その中からサンドウィッチを投げ渡され、望遠鏡を片目に貪り喰らう。
凰華が来たという事はそろそろ交代の時間ということだったが、暁は真面目に時間一杯まで監視を続ける。
「彼女。どうですか?」
「今のところ、且又と接触中。社会論を語っているな」
「社会論?」
凰華が首を傾げるので、耳に掛けていたイヤホンを彼女へ投げ渡す。そこからは聞こえるのはセオリーが今耳に付いているイヤホンが拾う音声。
イヤホンを掛けるや否や凰華の顔は苦しいような、困っているようなどうにも形容できない顔へと変わる。
「何ですかこれ?」
「……知らねぇ」
セオリーの説法を聞き入っている且又の様子は、声からしてもまるで起伏を感じられない。恐ろしいほど平坦だった。
その様子を望遠鏡越しに暁は呆然と眺めていると、不意に多田羅から連絡が入る。
『暁、今どんな様子だ』
「ウィッチ1、対象と接触中」
『分かった……それで今、警視総監直々にオヤジに宛て捜査中止の命令が来やがったって上階で揉めている。あと自衛軍から如月の身柄を引き渡せという連絡も来ている』
暁はさほど驚きはしなかった。そういう手を打ってくるだろうと予想はしていた。
だが後ろにいる凰華は興奮と驚きを隠せないようで、彼女の顔は憤怒に彩られ、ホログラムウインドウに映る多田羅へ詰め寄った。
「どういうことですかっ! どうしてっ!」
『おいおい、そう興奮するな。オヤジが掛け合っている。且又との接触がある人物も全て洗った。その数ざっと二万人だ。流石にこの数は無視できない。それをネタに捜査延長を掛け合っている。だが精々明日までには証拠を掴まないと……』
「捜査打ち切りか?」
暁の容赦ない潔い回答に多々良は頷く。
『如月三尉。そうなった場合、俺達はお前を捕まえなきゃならねぇ。後の判断はお前に任せる』
「……」
そう言い残して多田羅が通信を切る。血も涙もない様に思えて、実はさっさと逃げて身を隠せという、せめてもの情けが言葉には含まれていた。
最後、凰華自身、口を噤んだところから見ても、それは分かっていた様子。
「だとよ。アンタはここからさっさと逃げろ」
暁は凰華へ背を向けたまま語る。暁には凰華の悔しさを耐えるように唇を噛んでいる様子が手に取るように分かった。
それは暁の顔もまた悔しさを滲ませていたからだ。
8月15日 12:45 私立霜綾学園の食堂――
パステルカラーの装飾が施された私立霜綾学園の食堂。
「博士、最後に一つだけよろしいでしょうか?」
「何かしら?」
「もし、GADSに適性を否定され、それでも抗えない場合にはどうすればいいと思いますか?」
セオリーは答えない。答えが無かったわけではない。その先の且又が語る本題を待っていたからだ。
「社会へ抗う為にはやはり適性を手に入れるしかないと思いませんか?」
セオリーは最初から感づいていた。恐らく且又は霜綾学園へ警察が来ることを分かっていた。それでもなお逃げないのはよほどの自信がある。もしくは罠……
且又は生徒たちを拐かしレトロウイルスベクターで能力の底上げを行っている。才能を引き出すなどと言う心地の良い言葉を言って唆したのだろう。
「僕はね。人間の可能性――その輝きを見て見たい。ただそれだけなんですよ」
「あらそう? その可能性。どういったものか見てみたいですわ」
いつもの何事にでも興味を示すセオリーであれば、実に興味を擽られる話だろうが、且又の言葉にセオリーは微塵もそそられなかった。
別にタネが分かっていたからという訳で無い。
ただセオリーが今感じているのは、強いて言うのであれば、遠くの惑星から地球を見た時、その惑星で起きた出来事がちっぽけに見える――そんな感覚だった。
「放課後、美術室に来ていただけませんか? そこでその可能性をご覧に入れて見せましょう」
「あまりハードルを上げても辛いでしょうから、期待しないでいてあげますわ」
嫌々、喧嘩を買ってやったセオリーは且又へ満面の笑みを送る。
静かに席を立つ且又の瞳の奥には嫉妬の感情が渦巻いているようにセオリーには見えた。
且又の姿が見えなくなるのを確認してから、セオリーは大きく溜息を付く。
彼は分かっていないのだ。セオリーが普通の人間とは『種』が違う事に――
普通の人間だったら、天才だろうが凡人だろうが策を企てれば勝てるだろうが、チンパンジーが人間の知性に叶わないように普通の人間では話にならない。
「……面倒くさいですわ」
セオリーはすっかり萎えてしまった。『人間の幸福の敵は苦痛と退屈である』とはよく言ったものだと心からそう思った。
霜綾学園の向かいにある建物の屋上から、セオリーの様子を望遠鏡で眺める暁。その目に映るセオリーの顔は随分と不機嫌そうに見えた。
「暁。そうして端から見ると、まるでストーカーのようですね」
「……俺も気にしてんだ。言うんじゃねぇ」
暁の背後から声を掛けたのは凰華。コンビニの袋を手に提げて現れる。その中からサンドウィッチを投げ渡され、望遠鏡を片目に貪り喰らう。
凰華が来たという事はそろそろ交代の時間ということだったが、暁は真面目に時間一杯まで監視を続ける。
「彼女。どうですか?」
「今のところ、且又と接触中。社会論を語っているな」
「社会論?」
凰華が首を傾げるので、耳に掛けていたイヤホンを彼女へ投げ渡す。そこからは聞こえるのはセオリーが今耳に付いているイヤホンが拾う音声。
イヤホンを掛けるや否や凰華の顔は苦しいような、困っているようなどうにも形容できない顔へと変わる。
「何ですかこれ?」
「……知らねぇ」
セオリーの説法を聞き入っている且又の様子は、声からしてもまるで起伏を感じられない。恐ろしいほど平坦だった。
その様子を望遠鏡越しに暁は呆然と眺めていると、不意に多田羅から連絡が入る。
『暁、今どんな様子だ』
「ウィッチ1、対象と接触中」
『分かった……それで今、警視総監直々にオヤジに宛て捜査中止の命令が来やがったって上階で揉めている。あと自衛軍から如月の身柄を引き渡せという連絡も来ている』
暁はさほど驚きはしなかった。そういう手を打ってくるだろうと予想はしていた。
だが後ろにいる凰華は興奮と驚きを隠せないようで、彼女の顔は憤怒に彩られ、ホログラムウインドウに映る多田羅へ詰め寄った。
「どういうことですかっ! どうしてっ!」
『おいおい、そう興奮するな。オヤジが掛け合っている。且又との接触がある人物も全て洗った。その数ざっと二万人だ。流石にこの数は無視できない。それをネタに捜査延長を掛け合っている。だが精々明日までには証拠を掴まないと……』
「捜査打ち切りか?」
暁の容赦ない潔い回答に多々良は頷く。
『如月三尉。そうなった場合、俺達はお前を捕まえなきゃならねぇ。後の判断はお前に任せる』
「……」
そう言い残して多田羅が通信を切る。血も涙もない様に思えて、実はさっさと逃げて身を隠せという、せめてもの情けが言葉には含まれていた。
最後、凰華自身、口を噤んだところから見ても、それは分かっていた様子。
「だとよ。アンタはここからさっさと逃げろ」
暁は凰華へ背を向けたまま語る。暁には凰華の悔しさを耐えるように唇を噛んでいる様子が手に取るように分かった。
それは暁の顔もまた悔しさを滲ませていたからだ。
8月15日 12:45 私立霜綾学園の食堂――
パステルカラーの装飾が施された私立霜綾学園の食堂。
「博士、最後に一つだけよろしいでしょうか?」
「何かしら?」
「もし、GADSに適性を否定され、それでも抗えない場合にはどうすればいいと思いますか?」
セオリーは答えない。答えが無かったわけではない。その先の且又が語る本題を待っていたからだ。
「社会へ抗う為にはやはり適性を手に入れるしかないと思いませんか?」
セオリーは最初から感づいていた。恐らく且又は霜綾学園へ警察が来ることを分かっていた。それでもなお逃げないのはよほどの自信がある。もしくは罠……
且又は生徒たちを拐かしレトロウイルスベクターで能力の底上げを行っている。才能を引き出すなどと言う心地の良い言葉を言って唆したのだろう。
「僕はね。人間の可能性――その輝きを見て見たい。ただそれだけなんですよ」
「あらそう? その可能性。どういったものか見てみたいですわ」
いつもの何事にでも興味を示すセオリーであれば、実に興味を擽られる話だろうが、且又の言葉にセオリーは微塵もそそられなかった。
別にタネが分かっていたからという訳で無い。
ただセオリーが今感じているのは、強いて言うのであれば、遠くの惑星から地球を見た時、その惑星で起きた出来事がちっぽけに見える――そんな感覚だった。
「放課後、美術室に来ていただけませんか? そこでその可能性をご覧に入れて見せましょう」
「あまりハードルを上げても辛いでしょうから、期待しないでいてあげますわ」
嫌々、喧嘩を買ってやったセオリーは且又へ満面の笑みを送る。
静かに席を立つ且又の瞳の奥には嫉妬の感情が渦巻いているようにセオリーには見えた。
且又の姿が見えなくなるのを確認してから、セオリーは大きく溜息を付く。
彼は分かっていないのだ。セオリーが普通の人間とは『種』が違う事に――
普通の人間だったら、天才だろうが凡人だろうが策を企てれば勝てるだろうが、チンパンジーが人間の知性に叶わないように普通の人間では話にならない。
「……面倒くさいですわ」
セオリーはすっかり萎えてしまった。『人間の幸福の敵は苦痛と退屈である』とはよく言ったものだと心からそう思った。
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