あのヒマワリの境界で、君と交わした「契約(ゆびきり)」はまだ有効ですか?

朝我桜(あさがおー)

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序章 逃げ出した翌日、とある孤独な少女と出会う

第7話 『面』と向かって

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「いったいどいうつもり? エルやん?」

「ごめん、昨日は仕事をほっぽり出して逃げてしまって、すごく反省している」

「そんなことはもういいんだよ。そうじゃなくて!」

 突き付けてきた指でおでこを訳も分からずぐりぐりされる。いたいたいたい!

「あの子【蒼血人】だよね? それがどういうことかわかっている?」

「どういうことって……なんか問題あんの?」

「なんか問題って……エルやん。あんたねぇ……」

 おおげさに大きなため息をつくと、真剣な顔でシャルが言ってきた。

「【紅血人】の事件はウチらが、【蒼血人】の問題は軍が、っていうのが暗黙のルールだよ?」

「うっ……それはそうかもしれないけど」

「そんな状況でむやみにあの子を助ければ無用なトラブルがでるんだって」

 あっちいったりこっちいったりとうろうろして、いつになく突っかかってくる。

 どうしたんだ? シャルってこんなに【蒼血人】のこと嫌いだったっけ?

「例えば『誘拐されたぁ!』とかなんとかってでっち上げてね」

「いや、さすがにそこまで――」

「現にあるんだってば」

 迫害されているとかなんとかで、他の国境沿いでも小競り合いが起きていると。

 紛争地域での医療をたずさわってきたからわかるとシャルは沈痛な面持ちで語った。

「そんなことになったら、どうするつもり?」

「それは――」

「もしかしたらあの子、本部の言う、逃げてきた兵士なのかもしれないんだよ?」

「アセナに限ってそんな――」

「まぁまぁ二人ともその辺にしておいたら?」

 杖を突いたカサンドラさんが休憩室のある2階の階段口まで姿を見せた。

「「カサンドラさん!」」

 すぐに俺らは支えに入ったよ。足が不自由だというのに、こんなことをさせてしまい、情けなくなってきた。

「ごめんなさいね」

「いえ……ウチらこそ」

「迷惑かけてすいません」

「いいのよ……」

 ほんと今まで言い争いしていたのが、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「ねぇ、シャル?」カサンドラさんが穏やかな声で言った。「この街が戦火に包まれるのを心配してあなたは言ってくれているのよね?」

 肩をおとしたシャルが「……はい」とこぼす。

「そうよね。エルも傷ついているあの子を放っておけなくて連れてきたのよね」

「……はい、初めて会ったときアセナは何者かに追われていて、しかもボロボロで、とにかく安全な場所にって――」

 その時はまだここまで問題になるものだとは思っていなかった。

「ただそれだけじゃないんです。昨日逃げて迷惑をかけてしまったから、みんなの力になれることを証明したくて」

「そう……そういうことだったのね」

「バカだなぁエルやんは……もぉ……」

 ごめん、と頭を下げる。でも彼女を連れてきて、シャルに言われて初めて分かった。
 いままで忙しさにかまけてロクに新聞を読んできていなかったことを悔いたよ。

「そうよね。そういう状況だとしたら、それ以外選択肢はなかったかもね」

 それぞれの意見を受けとめたカサンドラさんはうんうんとうなずくと。

「ナキアがいたら、少し相談したかったけど……」

 あごに指をあててしばらく考え込んだ。

 カサンドラさんの言うナキアさんはシャルと俺の同門の先輩で、この協会の現場監督的な人。
 今は本部からの要請で出張している。たびたび問題をおこすのがたまに傷。

 だけど実戦経験豊富で最高ランク【花《ブルーム》】の称号持っている実力者。

 もちろん町のみんなの信頼も厚い。ちなみにシャルはその下の【蕾《バド》】。

 前に少尉にけなされたから知っていると思うけど俺は初級の【種】。

「彼女が逃亡者と決まったわけじゃないし、一先ず回復するまでウチで保護しましょう」

 良かった。追い出すなんて言われなくて。

「ただし! エル、主にあなたが面倒みること」

「そ、それはもちろんです」

 イヌネコじゃないんだからとは思いつつも、もともとそのつもりだった。

「それでどうなのシャル? 彼女の容態は?」

「うん、幸い外傷の方はそれほどでもなかったよ。1週間もすれば回復すると思う」

 そっか、よかった。大したことなくて、と思った矢先に「でも……」と語を継がれた。

「問題なのは栄養失調と貧血気味なことかな」

「栄養失調と、貧血?」

「うん」シャルがうなずく。「こっちには【蒼血人】の血や肉になるものが少ないから」

「そう……それは困ったわね」

 食事があまり摂れていなかったんじゃないかとシャルは言う。

 傷や体力を回復させるには俺たちと同じように肉を食べるだけじゃ足りないんだとか。

「何がいいのかしら?」

「そうですね。イカやタコや貝、カニやエビ、ナッツとかキノコ、あとはコムギ……」

「買ってくる!」

「ちょい待ちなって!」

 ぐへぇ! えり首がつかまれて首が閉まった。

「ほかにも買うものがあるから、ウチもいっしょに行く」

「? ほかにって?」

「……っ! そういうこと聞くんじゃない! だまって荷物運びになる!」

 いいですよね、とシャルに求めに「後で領収書出してね」とカサンドラさんから体よく外出許可が下りたところで、町へと繰り出した。
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