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終章 ずっと一途に。
第38話 『絶体絶命』だからこそ現れる!? まさしくそれは……
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師匠が言っていた。
――今すぐ幸せになれたら誰も苦労せんわ。一番の不幸は自分を好きになれないこと。幸福というのはな、後から勝手についてくるもんじゃよ。
「交渉決裂か、なら仕方がない――」
雰囲気が変わり、凍てつきそうな殺気が放たれる。
一瞬目を伏せそうになるのをぐっとこらえて、心を奮い立たせ、すぐにまた俺は見返した。
「この他国のスパイどもを始末して、殿下、あなたには宣戦布告の材料になっていただく」
「材料……ですって?」
額に汗を浮かべながらレアさんが聞き返す。
「スパイはあなたを誘拐し、我々が見つけた時には無惨な姿に――なかなか良い筋書きだとは思いませんか?」
「……ふふ、最低な脚本です。博学多才と言われたあなたでも物語の才には恵まれなかったようですね。細部の設定が甘い。誘拐犯の目的が不十分ですよ」
「これは手厳しい。さて話し合いはこれくらいにしてそろそろ死んでいただこう」
兵士たちが俺たちへと一斉に銃口を向けた。
引き金に指がかかり、クローディアスが合図を送ろうとしたその時――。
「待て!」
突然城壁の歩廊から誰かが飛び降りてきた。
青い軍帽に薄紫の長い髪、そしてその手には身の丈ほどあるトライデント。
おいおいマジかよ。タイミング良すぎだ。
「キサマは!」
「フェディエンカっ!」
その見覚えがある背中にアセナが叫ぶ。俺も正直驚いたよ。てっきりまだケガが治っていないと思っていたからなぁ。
ったく、しかも遅く着て良いところ持っていきすぎだ。不覚にもカッコいいって思っちゃったじゃねぇか。
「いまさらなにしに来た?」
「先輩を助けに来ました」
「……なるほど、つくづく私は部下に恵まれないな」
多分雰囲気からして加勢に来てくれたと思ったけど、ありがたい。
銃弾の効かないフェイがいれば、目の前にいる50を超える兵士を相手だとしても少しばかり光明が見えてくる。
「やはりこんなこと間違っています。ジーファニアとガルヴィーラが互いに支え合って生きていくことができる! 彼らのように!」
俺らを眺めながらフェイは言った。ほんと先日まで戦っていた相手とは思えないセリフ。
くそ、ちょっと眼がしらが熱くなっちまったじゃねぇか。
「死にぞこないが、世迷言を――せっかくだ。お前は私の剣で冥界の女神のもとへ送ってやろう」
胸熱のセリフを切り捨てるかのように剣を抜いてくる。
人を物としか見られないこの人にはきっとどんな言葉も響かない。
こういう冷酷無情な男には拳骨で伝えないとダメなんたろうな。
「ここはボクに任せて、先輩を連れて早く!」
「なっ!? 何言ってんだ!? 俺たちも戦――」
「君こそ何言っている。君たちはなんだ? 【守護契約士】だろ? その仕事は先輩を、殿下を守ることだろ? 戦うのは最後の手段だ」
そう説いてくるフェイに言い返す言葉がなかった。
戦いはさけられない――そのことに捕らわれるあまり、本来の目的を忘れかけていた。
だからと言って50余りの兵士に対して一人で臨むのはあまりにも無謀だ。
「この場の戦いは軍人であるボクに預けてさっさと行け」
俺の方にナキアさんの手が置かれる。
任せろって? くっ! ここはそうするしかないのか。
「ほら行くぞ。アンシェル」
渋々俺は踵を返して先へ行くナキアさんの後を付いていく。
「ああ――死ぬなよ」
そうつぶやいた去り際、流し目で見たフェイは「当たり前だ」って言った気がした。
もしかしたら聞き違いだったかもしれない。
だけど俺の足を進ませるのには申し分ない『契約』だった。
ここはフェイを信じて先へ急ごう。
死ぬなよ。本当に――。
「どうする!? ナキアさん!?」
「は? どうするって何が?」
「あの感じだとウチらが行こうとしたルートは……」
「多分潰されているか、罠が張られているかだな」
あの口ぶりでは見越して手を打たれていると思って間違いない。
「申し訳ありません。宰相の言う通りわたくしが甘かった」
今にも泣き出しそうなレアさん。
「自分を責めないで、レアさん」
「別にレアさんが悪いわけじゃない」
その謙虚さは彼女の美徳だと思うけど、度が過ぎればもう悪癖だ。
「今さら悔やんでも仕方がねぇよ。相手が一枚上手だっただけだろ? 嬢ちゃん!」
「はい!」
待ち構えていたみたいにアセナが大きな返事で答える。
「国境を越えた時の嬢ちゃんがたどったルートを使う! 教えてくれ!」
「分かりました!」
なるほどその手があったか。
追跡を受けながらも一度アセナは【マルグレリア】にたどり着けている。
ほんとナキアさんの機転の良さには感心するよ。
そしてアセナの案内に従って雪交じりの荒原の中、俺たちは枯れたわだち道を進んだ。
――今すぐ幸せになれたら誰も苦労せんわ。一番の不幸は自分を好きになれないこと。幸福というのはな、後から勝手についてくるもんじゃよ。
「交渉決裂か、なら仕方がない――」
雰囲気が変わり、凍てつきそうな殺気が放たれる。
一瞬目を伏せそうになるのをぐっとこらえて、心を奮い立たせ、すぐにまた俺は見返した。
「この他国のスパイどもを始末して、殿下、あなたには宣戦布告の材料になっていただく」
「材料……ですって?」
額に汗を浮かべながらレアさんが聞き返す。
「スパイはあなたを誘拐し、我々が見つけた時には無惨な姿に――なかなか良い筋書きだとは思いませんか?」
「……ふふ、最低な脚本です。博学多才と言われたあなたでも物語の才には恵まれなかったようですね。細部の設定が甘い。誘拐犯の目的が不十分ですよ」
「これは手厳しい。さて話し合いはこれくらいにしてそろそろ死んでいただこう」
兵士たちが俺たちへと一斉に銃口を向けた。
引き金に指がかかり、クローディアスが合図を送ろうとしたその時――。
「待て!」
突然城壁の歩廊から誰かが飛び降りてきた。
青い軍帽に薄紫の長い髪、そしてその手には身の丈ほどあるトライデント。
おいおいマジかよ。タイミング良すぎだ。
「キサマは!」
「フェディエンカっ!」
その見覚えがある背中にアセナが叫ぶ。俺も正直驚いたよ。てっきりまだケガが治っていないと思っていたからなぁ。
ったく、しかも遅く着て良いところ持っていきすぎだ。不覚にもカッコいいって思っちゃったじゃねぇか。
「いまさらなにしに来た?」
「先輩を助けに来ました」
「……なるほど、つくづく私は部下に恵まれないな」
多分雰囲気からして加勢に来てくれたと思ったけど、ありがたい。
銃弾の効かないフェイがいれば、目の前にいる50を超える兵士を相手だとしても少しばかり光明が見えてくる。
「やはりこんなこと間違っています。ジーファニアとガルヴィーラが互いに支え合って生きていくことができる! 彼らのように!」
俺らを眺めながらフェイは言った。ほんと先日まで戦っていた相手とは思えないセリフ。
くそ、ちょっと眼がしらが熱くなっちまったじゃねぇか。
「死にぞこないが、世迷言を――せっかくだ。お前は私の剣で冥界の女神のもとへ送ってやろう」
胸熱のセリフを切り捨てるかのように剣を抜いてくる。
人を物としか見られないこの人にはきっとどんな言葉も響かない。
こういう冷酷無情な男には拳骨で伝えないとダメなんたろうな。
「ここはボクに任せて、先輩を連れて早く!」
「なっ!? 何言ってんだ!? 俺たちも戦――」
「君こそ何言っている。君たちはなんだ? 【守護契約士】だろ? その仕事は先輩を、殿下を守ることだろ? 戦うのは最後の手段だ」
そう説いてくるフェイに言い返す言葉がなかった。
戦いはさけられない――そのことに捕らわれるあまり、本来の目的を忘れかけていた。
だからと言って50余りの兵士に対して一人で臨むのはあまりにも無謀だ。
「この場の戦いは軍人であるボクに預けてさっさと行け」
俺の方にナキアさんの手が置かれる。
任せろって? くっ! ここはそうするしかないのか。
「ほら行くぞ。アンシェル」
渋々俺は踵を返して先へ行くナキアさんの後を付いていく。
「ああ――死ぬなよ」
そうつぶやいた去り際、流し目で見たフェイは「当たり前だ」って言った気がした。
もしかしたら聞き違いだったかもしれない。
だけど俺の足を進ませるのには申し分ない『契約』だった。
ここはフェイを信じて先へ急ごう。
死ぬなよ。本当に――。
「どうする!? ナキアさん!?」
「は? どうするって何が?」
「あの感じだとウチらが行こうとしたルートは……」
「多分潰されているか、罠が張られているかだな」
あの口ぶりでは見越して手を打たれていると思って間違いない。
「申し訳ありません。宰相の言う通りわたくしが甘かった」
今にも泣き出しそうなレアさん。
「自分を責めないで、レアさん」
「別にレアさんが悪いわけじゃない」
その謙虚さは彼女の美徳だと思うけど、度が過ぎればもう悪癖だ。
「今さら悔やんでも仕方がねぇよ。相手が一枚上手だっただけだろ? 嬢ちゃん!」
「はい!」
待ち構えていたみたいにアセナが大きな返事で答える。
「国境を越えた時の嬢ちゃんがたどったルートを使う! 教えてくれ!」
「分かりました!」
なるほどその手があったか。
追跡を受けながらも一度アセナは【マルグレリア】にたどり着けている。
ほんとナキアさんの機転の良さには感心するよ。
そしてアセナの案内に従って雪交じりの荒原の中、俺たちは枯れたわだち道を進んだ。
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