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終章 ずっと一途に。

第37話 出し抜かれた一行!? 立ちはだかる帝王からの魅惑的な『提案』

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「そんな!? いつの間に!?」

「最初からですよ。レアセレーネ殿下」

 処刑台のある広場にはいなかったから、少なくともクローディアスは分かる。

 だけど後ろを追いかけてきたと思っていた兵士たちがどういうわけか前にいる。どういうことだよ。いったい。

「最初からだと? まさかここに来ることをあらかじめ張っていやがったのか!?」

「その通りだ」

 驚きと恐怖にナキアさんの顔が歪む。彼だけじゃない、その場にいた全員がそう。きっと俺の顔もそんな顔をしていたと思う。

「どうして! 都市から脱出ルートは全部で24あります! それをなぜその一つをこうもあっさりと!?」

 作戦開始前夜、レアさんは俺たちだけに教えてくれていたんだ。

 都市の外に出ることができるのは地上で城門の12基、そして地下道の12基。

 地下の方は最初のアセナの救出時にバレている。そのため地上で最も警戒が薄く、なおかつ安全に国境まで抜けられる最短ルートを選択した――はずだった。

「上手く巻いたと思いましたか? 全くもって甘い」

 まるで高処から見下されている感じがした。

 冷ややかにあざ笑うと、もったいぶった話し方でクローディアスは経緯を説明してくる。

「簡単ですよ。処刑台からもっとも近く、我々に見つからないよう安全に国境を渡れるルートはここしかない」

「ま、まさか!?」

 口元を押さえレアさんが声を上げた一方で、充分ありえることだと思ってしまった。なぜなら――。

「えぇ知っております」

 淡々とクローディアスは答えた。

「渓谷を川沿いにそって進めば時間はかかるが安全に抜けられる。あの険しい山岳地帯は我々でも捜索が難しいでしょう」

 それも言っていたこと。実はその場に居合わせいたのかって思うほど一字一句なぞる説明。

「さら見つかったとしても、古代人がつくった横穴がいくつもあり、やり過ごすこともできる」

 もしもの時の回避策も全部筒抜け。奇妙な感覚に俺は襲われた。

 言い表すなら神様の手のひらの上でもてあそばれている。そんな無力感だ。

「なぜあなたがそれを知って……」

「殿下……だからあなたは甘いのです。国の統領が自分の逃げ道を用意して置かないはずがないでしょう?」

 そういうことなんだ。完全に失念していたといえばそう。当然予想できたことだった。

 あらゆるものを利用し、アセナに反逆者をあぶりださせ、クローディアスは用意周到に自分の地位を万全なものにしようと画策していた。

 そんな人人間が万が一のクーデターを想定して逃げ道を用意していないなんてありえないことだった。

「さあ、話しは仕舞いにしましょう。抵抗は無駄ですぞ? おとなしく投降するなら命だけは保証しましょう」

 見え透いたウソだ。アセナみたいに触れなくても分かる。

 情報を聞き出した後、どうせ殺すに決まっている。

「君たちも存外優秀であった。我が国に忠誠を誓うなら、それにふさわしい待遇で迎えようじゃないか?」

「何言ってやがる? 【蒼血人】のくせに【紅血人】を雇うのか?」

 ナキアさんの言う通りだ。ほんとう何を言っているんだ?

 さっきまで争っていた人間をスカウトだと? 頭、大丈夫かこいつ?

「フ……些末さまつなことよ。血の色や、生まれた国などで争うなど馬鹿げているとは思わないか?」

 少しでも決意が鈍れば飲まれそうなセリフだ。

 相対した数こそ少なかったけれど分かったことがある。挑発は奴の十八番。聞く耳を持ってはいけない。

「バカにしないで! ウチらは忘れない! あなたたちが作った兵器で今も多くの人が大量発生した【霊象獣】に苦しんでいること」

 俺も忘れてない。帰りをまつカサンドラさんが今もなお苦しんでいるんだ。

 ゆったりと両腕を広げてクローディアスは俺たちを誘ってくる。明かな無防備だけどどうしても踏み込めない。

 やつのまとう雰囲気とぬぐい切れない罠の可能性が踏み留まらせる。

「所詮、人は利用されるかするかでしかない。兵器も同じだ。利用する側から見ればすべての人間は等しく同じに見える」

 やっぱりな。こいつは自分の利益しか考えていない。そんな奴の下で働くのはまっぴらごめんだ。

「話がそれたな。とにかく私は君たちを大いに評価している。特に君だ」

 今度は俺を指さして手を差し伸べてきた。何のマネだ?

「フェディエンカを倒した君なら良い働きをしてくるに違いない。君がくればもうそいつは殺さないでやろう」

「なんだと?」

「それと郊外に一軒家を立ててあげようじゃないか? そこで一緒に暮らすと良い」

「アセナを殺さないだと? 一緒に暮らせ? ふざけてんのか?」

「心外な。至って真面目だが? あとは私のもとでちょっとした仕事をするだけで幸せに過ごせるのだ。捕虜としては破格の待遇だと思うがね?」

 正直魅力的な提案だ。郊外の一軒家で質素ながらも家族を作り、幸せに暮らす、あと犬も欲しいな――だけどな。

 不安そうにアセナが俺を見上げてくる。

 大丈夫。分かっているよ。そんなこと望んじゃいないってことは。

「あいにく誰かに押し付けられる幸せなんて願い下げだ。それに幸せなんてそう簡単にてにはいるもんじゃねぇよ」
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