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第二章 ヒマワリの下で、君と交わした契約はまだ有効ですか?
第30話 すべてを断ち切る! 『紫炎』に染まる伝家の宝刀
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左中段に〈左腕〉を構えて、ゆっくりと息を吐く。
「俺がアセナを助ける理由なんてそれだけで充分なんだよ!」
「た、助ける? そんなフラフラで? 笑わせるなよ」
ニヒルな笑みが無性に腹が立つ。
「ハッ! いくら吠えたところでボクとお前の力の差は歴然だ!」
「さあ? そいつはどうかな!」
中庭の真上にちょうど日が差し込む正午、この時を俺は待っていた。
限界を超えた霊象気が左腕に収束する。巻かれていた包帯が音を立ててはじけ飛ぶ!
「そ、それは!」レアさんが叫ぶ。「まさか【継約術】!?」
「それがお前の本気ってことか!?」
「ああ、俺の【継約術】は〈概日〉。悪りぃが、時間がねぇ、説明はその体で味わってくれ」
太陽が正午を差した時、肉体が活性化、その時練り上げる霊象気は普段の10倍。
これで倒せなきゃ――いや、これでこいつを倒す!
「――行くぜ!」
奴も腰を据え、最後の一撃に備えて力を溜める。
すべての霊象気を込め、俺は大地を蹴る。そして――。
「――【石榴紫炎】!」
奴の槍と鎧を十字に打ち砕く――その瞬間、噴き上げた紫色の星くずが世界を塗りつぶした。
「くそっ……」
前のめりに倒れる奴を黙って受け止める。
軍帽が落ちて髪止めがほどけて薄青紫色の長い髪が肩にかかった。
身体が小刻みにふるえている。もう差さえなしでは立っているのがやっとって感じだ。
こうしてみるとすげぇ小せぇ肩をしている。
妙な感覚だった。さっきまで壮絶バトルを繰り広げていた相手に俺は、なんかこう親近感を覚えていた。そうか、こいつは――。
「お前はなぜ……あきらめない……なぜ立ち向かえる? 死ぬと思ったはずだ。怖くないのか」
「フツーに怖ぇよ。だけど約束したんだ。絶対助けるって」
「……約束だと? ここまでして貫く価値が――」
「あんだよ俺には」
こっ恥ずかしい話になるから、俺は明後日の方向を向いてしゃべった。
「ここでアセナを救いだせたら、明日の自分は今日の俺に感謝するし、逆に逃げちまったら後悔する。そういう思い二度としたくねぇんだよ。俺は」
「そうか……フ……おかしな奴だね。お前は」
鼻で笑ったフェディなんとかは少し満足げ――でも、そんな奴が。
「――頼む。先輩を助けてくれ」
「任せておけ……えっと、フェディ――つーかもう、フェイでいいか?」
好きにしろ、そのまま意識を失ったフェイ。最後の最後でようやく本音を吐いた。
そんなプライドも全部かなぐり捨てて頼んできたこいつの願いを俺は絶対果たさなきゃならない。
そう胸に誓って程なくして俺も意識がうすれて――。
「あっ!? エルやん!?」
「よかったぁ……気がつかれたんですね」
「……ここは?」
血を流しすぎてぶっ倒れた俺をシャルとレアさんが介抱してくれたみたいだ。
「地下道の中にいくつかある隠し部屋の一つです。ここなら追手がくる心配はありません」
隠し部屋という割には広大な広さだった。それも4、5百人は収容できそう、災害があったとき避難所にも出来そうなくらい――。
起き上がろうとした瞬間腹部に激痛が走って、そのまま倒れた。
「まだ安静にしてなきゃだめだよ!」
「傷はまだふさがって――」
「さわらないで!」
パンッ! っという乾いた音に俺の耳がキーンってなった。
不意に伸ばしたレアさんの手がシャルの平手に弾かれていた。
ハッとするシャル、その向かい合わせに、手を押さえ痛みに耐えるレアさん。
なんななんだ。何が起こっている?
「も、申し訳ありません……ウチったら、とんだご無礼を――」
「い、いえ……大丈夫です。気にしないでください」
「……殿下。ここはウチが見ますから」
ちょっと待て、なんでいきなり目の前で昼のラジオドラマみたいな愛憎劇っぽい展開がおっぱじめられているんだ? マジでなにがどうなって……。
「……そうか、俺、フェイと戦って……そうだ! アセナは!?」
「安心しろ、まだ殺されちゃいねぇ、つーか何やってんだよキサマら」
暗がりからナキアさんが顔を出して、二人の仲裁に入るや――即行俺は目を背けた。
いや、帝国ってのは寒い地域だし、女性化してしまうのは分かる。
それはもうしょうがないことだ、だけど――。
「前閉じろよ!」
力を込めて俺は進言した。ほんと目のやり場に困る。あ、くそ、傷口が。
「ったく、相も変わらずウブな奴だな」ナキアさんは悦に入る。「カノジョができてちっとは変わると思っていたのによ」
口をすぼめ不満をたれながら、シャツのボタンをかけていく。
「は? カノジョ? 誰の――」
「ほれ!」
「っ! ゴホっ! ゲヘっ! ガハ!」
不意打ちで谷間を指で引き下ろしてきて、生唾が変なとこに入った。
やべ、今度こそ傷口が――。
「バーカ! バーカ! 何やってんじゃい! ナキにぃのバカぁ!」
「そうです! 今は女性なんですから貞操観念もって下さい!」
「なんでキサマらがキレるんだよ?」
わけわからんとナキアさんは首をかしげた。
「俺がアセナを助ける理由なんてそれだけで充分なんだよ!」
「た、助ける? そんなフラフラで? 笑わせるなよ」
ニヒルな笑みが無性に腹が立つ。
「ハッ! いくら吠えたところでボクとお前の力の差は歴然だ!」
「さあ? そいつはどうかな!」
中庭の真上にちょうど日が差し込む正午、この時を俺は待っていた。
限界を超えた霊象気が左腕に収束する。巻かれていた包帯が音を立ててはじけ飛ぶ!
「そ、それは!」レアさんが叫ぶ。「まさか【継約術】!?」
「それがお前の本気ってことか!?」
「ああ、俺の【継約術】は〈概日〉。悪りぃが、時間がねぇ、説明はその体で味わってくれ」
太陽が正午を差した時、肉体が活性化、その時練り上げる霊象気は普段の10倍。
これで倒せなきゃ――いや、これでこいつを倒す!
「――行くぜ!」
奴も腰を据え、最後の一撃に備えて力を溜める。
すべての霊象気を込め、俺は大地を蹴る。そして――。
「――【石榴紫炎】!」
奴の槍と鎧を十字に打ち砕く――その瞬間、噴き上げた紫色の星くずが世界を塗りつぶした。
「くそっ……」
前のめりに倒れる奴を黙って受け止める。
軍帽が落ちて髪止めがほどけて薄青紫色の長い髪が肩にかかった。
身体が小刻みにふるえている。もう差さえなしでは立っているのがやっとって感じだ。
こうしてみるとすげぇ小せぇ肩をしている。
妙な感覚だった。さっきまで壮絶バトルを繰り広げていた相手に俺は、なんかこう親近感を覚えていた。そうか、こいつは――。
「お前はなぜ……あきらめない……なぜ立ち向かえる? 死ぬと思ったはずだ。怖くないのか」
「フツーに怖ぇよ。だけど約束したんだ。絶対助けるって」
「……約束だと? ここまでして貫く価値が――」
「あんだよ俺には」
こっ恥ずかしい話になるから、俺は明後日の方向を向いてしゃべった。
「ここでアセナを救いだせたら、明日の自分は今日の俺に感謝するし、逆に逃げちまったら後悔する。そういう思い二度としたくねぇんだよ。俺は」
「そうか……フ……おかしな奴だね。お前は」
鼻で笑ったフェディなんとかは少し満足げ――でも、そんな奴が。
「――頼む。先輩を助けてくれ」
「任せておけ……えっと、フェディ――つーかもう、フェイでいいか?」
好きにしろ、そのまま意識を失ったフェイ。最後の最後でようやく本音を吐いた。
そんなプライドも全部かなぐり捨てて頼んできたこいつの願いを俺は絶対果たさなきゃならない。
そう胸に誓って程なくして俺も意識がうすれて――。
「あっ!? エルやん!?」
「よかったぁ……気がつかれたんですね」
「……ここは?」
血を流しすぎてぶっ倒れた俺をシャルとレアさんが介抱してくれたみたいだ。
「地下道の中にいくつかある隠し部屋の一つです。ここなら追手がくる心配はありません」
隠し部屋という割には広大な広さだった。それも4、5百人は収容できそう、災害があったとき避難所にも出来そうなくらい――。
起き上がろうとした瞬間腹部に激痛が走って、そのまま倒れた。
「まだ安静にしてなきゃだめだよ!」
「傷はまだふさがって――」
「さわらないで!」
パンッ! っという乾いた音に俺の耳がキーンってなった。
不意に伸ばしたレアさんの手がシャルの平手に弾かれていた。
ハッとするシャル、その向かい合わせに、手を押さえ痛みに耐えるレアさん。
なんななんだ。何が起こっている?
「も、申し訳ありません……ウチったら、とんだご無礼を――」
「い、いえ……大丈夫です。気にしないでください」
「……殿下。ここはウチが見ますから」
ちょっと待て、なんでいきなり目の前で昼のラジオドラマみたいな愛憎劇っぽい展開がおっぱじめられているんだ? マジでなにがどうなって……。
「……そうか、俺、フェイと戦って……そうだ! アセナは!?」
「安心しろ、まだ殺されちゃいねぇ、つーか何やってんだよキサマら」
暗がりからナキアさんが顔を出して、二人の仲裁に入るや――即行俺は目を背けた。
いや、帝国ってのは寒い地域だし、女性化してしまうのは分かる。
それはもうしょうがないことだ、だけど――。
「前閉じろよ!」
力を込めて俺は進言した。ほんと目のやり場に困る。あ、くそ、傷口が。
「ったく、相も変わらずウブな奴だな」ナキアさんは悦に入る。「カノジョができてちっとは変わると思っていたのによ」
口をすぼめ不満をたれながら、シャツのボタンをかけていく。
「は? カノジョ? 誰の――」
「ほれ!」
「っ! ゴホっ! ゲヘっ! ガハ!」
不意打ちで谷間を指で引き下ろしてきて、生唾が変なとこに入った。
やべ、今度こそ傷口が――。
「バーカ! バーカ! 何やってんじゃい! ナキにぃのバカぁ!」
「そうです! 今は女性なんですから貞操観念もって下さい!」
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わけわからんとナキアさんは首をかしげた。
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