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第二章 ヒマワリの下で、君と交わした契約はまだ有効ですか?
第25話 扉を開けるとそこには、『伝説』の災厄が目の前に
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ここです――と早々開くのに手こずったので開けてやる。
ありがとございます。とレアさんは感謝してくれたけど、先を急ぎたい俺は「礼はいい、急ごうぜ」ってすげない態度をとってしまう。後で謝ろう。
奥にあった上階へと通じる階段を俺たちは駆けあがる。そして――。
「こ、こいつは――!?」
青白い霊象光が照らすドームの中、あの廃坑で見た霊象兵器【天雷の矢】が中央でそびえていた。
「エルさん、まさかご存じなのですか?」
「ああ、こいつは国境沿いの廃坑にあって、それで――」
先月マルグレリアで起きた【完成体】襲撃事変をかいつまんで話した。つーかこれがここにあるってことは、ここも実験場かなんかなのか?
話を耳にした途端、やはり、と彼女は【天雷の矢】を眺めながら考え込んでしまう。
「どうしたんだよ? やはりって……」
「実はわたくし、この兵器の存在を公にするためにここへ来たんです。クローディアス宰相の暴走を止めるために」
「なんだって!?」驚いて俺は声が出た「それじゃ協力者ってつぅのは――」
「はい。最初から知っていたんです。エルさんが【守護契約士】であることも、ある人の死刑を停めるために来たことも」
だます真似をしてごめんなさい、と深々と頭を下げられる。
「そういうことかよ。悪い、変に疑っちまって」
「え?」意外なものをみる目で彼女が俺を見た。「理由を聞かないんですか?」
「正体を言わなかった理由か? アンタのことだ、なんか理由があるんでしょ」
出会って数分だったけど、彼女が相当頭の切れる女性だって思い知らされている。じゃなきゃあんな効果的なおどし方出来ねぇし。
「よかった」今度はほっとした顔になる。「実はわたくしも本当に信じられる方たちか不安だったんです」
「――そうかよ。それで? お眼鏡にはかなったのか?」
「はい。充分なほど」レアさんは笑った。「最初に会った方がエルさんで良かった」
ぼそっと光栄なことを言ってくれた。
別に信頼できる人物かどうか見極めること自体、悪いことだと思っていねぇし、むしろ彼女の慎重さと健全さに俺は好感を覚える。
それから近くにあった資料や何やらを見たり、歩き回ったりして、しばらく黙り込んでしまった。
手持ち無沙汰に俺も辺りを見渡すと、いくつものケーブルに繋がれた培養槽が目に留まる。
なぜなら中に浸っているものに呼吸が止まったからだ。
そいつが現存する生物のどれとも似ていないから、霊象獣だということがすぐに分かる。
けど、そいつは――人型をしていた。
「レアさん……こいつをどこで?」
彼女はすぐに近寄ってきてくれて俺と同じようにはっと息をのんだ。
「まさかこれは【皇帝級】!?」
こいつは【戦車級】が更に進化した霊象獣で、歴史上観測された個体は数えるほどしかいない。それゆえ彼女も見るのは初めてだとか。
ただ戦闘能力に関して言うのであれば【戦車級】が都市一つを滅ぼせるとしたら、【皇帝級】は一国を滅ぼせるほどだと教えてくれた。
「なんでこんなものが……」
レアさんは言葉を失くしていたけど、それよりも俺はこいつの腕にある模様が気がかりだった。そいつの左腕には俺の〈龍紋〉と同じ形をしていて――。
もしかしてこのまま戦い続けていたら、こいつみたいになってしまうのか!?
そんなの――。
「ああああああああああああっ!!」
寒気に襲われた俺は、培養液を殴る。殴って殴って殴り続けた。
何度叩きつけたか分からなくなるくらい。次第に血をこすった跡ばかりが残――。
「エルさんっ!! やめてください! それはもう死んでいます! 手が壊れてしまいます!」
そう呼ぶ声がして、後ろからレアさんに羽交い絞めされていたことに気づいた。めまいがして俺は額を押さえた。
見れば言われた通り【皇帝級】の胸の【霊象石】は右腕ごとごっそりなくなっている。
「悪い、取り乱して――」
黙って首を横に振ってくれるレアさんは、そんなバカな俺に「手当しますから」と手厚く処置をしてくれる。
その間も何も聞こうとしなかったことが返って申し訳なく思てしまう――きっと初めて会ったアセナもこんな気持ちだったのかもしれない。
「はい、終わりです」
手をはたかれる。「痛っ」痛がる俺に不適な笑みをこぼした。これでお相子ってことね。
「それでは行きましょう。資料は手に入れました。エルさんを城まで案内します」
再び進んだ地下道は最終的に【月季城】の空中刑務所へと続く階段の下に出て、大慌てで俺たちは駆けあがっていった。
外では遠くの方でドンパチするのが聞こえてくる。
予定通りナキアさんとシャルが暴れて引きつけてくれているんだ。急がねぇと。
「ここまでくればあと一息です。外れに見える楼閣にアセナさんは幽閉されています」
狭間から天守閣に肩を並べるように側塔がそびえたっているのが見えた。
「楼閣つーか、なんか鳥かごみてぇだな」
「死刑囚や身分の高い罪人を幽閉する空中刑務所ですので、執行の際には天守閣から桟橋が降りる構造になっています。もちろん地下牢もありますけど……」
「へぇ、詳しいんだな。前もここへ来たことがあるんすか?」
「え、えっと、そ、そうですね! たまに……」
あからさまに語彙力が落ちたので詮索しなかった。
言えない事情でもあるとは察していたし、それに良家のお嬢様みたいだから来たことがあっても不思議じゃない。
ありがとございます。とレアさんは感謝してくれたけど、先を急ぎたい俺は「礼はいい、急ごうぜ」ってすげない態度をとってしまう。後で謝ろう。
奥にあった上階へと通じる階段を俺たちは駆けあがる。そして――。
「こ、こいつは――!?」
青白い霊象光が照らすドームの中、あの廃坑で見た霊象兵器【天雷の矢】が中央でそびえていた。
「エルさん、まさかご存じなのですか?」
「ああ、こいつは国境沿いの廃坑にあって、それで――」
先月マルグレリアで起きた【完成体】襲撃事変をかいつまんで話した。つーかこれがここにあるってことは、ここも実験場かなんかなのか?
話を耳にした途端、やはり、と彼女は【天雷の矢】を眺めながら考え込んでしまう。
「どうしたんだよ? やはりって……」
「実はわたくし、この兵器の存在を公にするためにここへ来たんです。クローディアス宰相の暴走を止めるために」
「なんだって!?」驚いて俺は声が出た「それじゃ協力者ってつぅのは――」
「はい。最初から知っていたんです。エルさんが【守護契約士】であることも、ある人の死刑を停めるために来たことも」
だます真似をしてごめんなさい、と深々と頭を下げられる。
「そういうことかよ。悪い、変に疑っちまって」
「え?」意外なものをみる目で彼女が俺を見た。「理由を聞かないんですか?」
「正体を言わなかった理由か? アンタのことだ、なんか理由があるんでしょ」
出会って数分だったけど、彼女が相当頭の切れる女性だって思い知らされている。じゃなきゃあんな効果的なおどし方出来ねぇし。
「よかった」今度はほっとした顔になる。「実はわたくしも本当に信じられる方たちか不安だったんです」
「――そうかよ。それで? お眼鏡にはかなったのか?」
「はい。充分なほど」レアさんは笑った。「最初に会った方がエルさんで良かった」
ぼそっと光栄なことを言ってくれた。
別に信頼できる人物かどうか見極めること自体、悪いことだと思っていねぇし、むしろ彼女の慎重さと健全さに俺は好感を覚える。
それから近くにあった資料や何やらを見たり、歩き回ったりして、しばらく黙り込んでしまった。
手持ち無沙汰に俺も辺りを見渡すと、いくつものケーブルに繋がれた培養槽が目に留まる。
なぜなら中に浸っているものに呼吸が止まったからだ。
そいつが現存する生物のどれとも似ていないから、霊象獣だということがすぐに分かる。
けど、そいつは――人型をしていた。
「レアさん……こいつをどこで?」
彼女はすぐに近寄ってきてくれて俺と同じようにはっと息をのんだ。
「まさかこれは【皇帝級】!?」
こいつは【戦車級】が更に進化した霊象獣で、歴史上観測された個体は数えるほどしかいない。それゆえ彼女も見るのは初めてだとか。
ただ戦闘能力に関して言うのであれば【戦車級】が都市一つを滅ぼせるとしたら、【皇帝級】は一国を滅ぼせるほどだと教えてくれた。
「なんでこんなものが……」
レアさんは言葉を失くしていたけど、それよりも俺はこいつの腕にある模様が気がかりだった。そいつの左腕には俺の〈龍紋〉と同じ形をしていて――。
もしかしてこのまま戦い続けていたら、こいつみたいになってしまうのか!?
そんなの――。
「ああああああああああああっ!!」
寒気に襲われた俺は、培養液を殴る。殴って殴って殴り続けた。
何度叩きつけたか分からなくなるくらい。次第に血をこすった跡ばかりが残――。
「エルさんっ!! やめてください! それはもう死んでいます! 手が壊れてしまいます!」
そう呼ぶ声がして、後ろからレアさんに羽交い絞めされていたことに気づいた。めまいがして俺は額を押さえた。
見れば言われた通り【皇帝級】の胸の【霊象石】は右腕ごとごっそりなくなっている。
「悪い、取り乱して――」
黙って首を横に振ってくれるレアさんは、そんなバカな俺に「手当しますから」と手厚く処置をしてくれる。
その間も何も聞こうとしなかったことが返って申し訳なく思てしまう――きっと初めて会ったアセナもこんな気持ちだったのかもしれない。
「はい、終わりです」
手をはたかれる。「痛っ」痛がる俺に不適な笑みをこぼした。これでお相子ってことね。
「それでは行きましょう。資料は手に入れました。エルさんを城まで案内します」
再び進んだ地下道は最終的に【月季城】の空中刑務所へと続く階段の下に出て、大慌てで俺たちは駆けあがっていった。
外では遠くの方でドンパチするのが聞こえてくる。
予定通りナキアさんとシャルが暴れて引きつけてくれているんだ。急がねぇと。
「ここまでくればあと一息です。外れに見える楼閣にアセナさんは幽閉されています」
狭間から天守閣に肩を並べるように側塔がそびえたっているのが見えた。
「楼閣つーか、なんか鳥かごみてぇだな」
「死刑囚や身分の高い罪人を幽閉する空中刑務所ですので、執行の際には天守閣から桟橋が降りる構造になっています。もちろん地下牢もありますけど……」
「へぇ、詳しいんだな。前もここへ来たことがあるんすか?」
「え、えっと、そ、そうですね! たまに……」
あからさまに語彙力が落ちたので詮索しなかった。
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