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序章 逃げ出した翌日、とある孤独な少女と出会う
第5話 『放』っておいてください
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今みたいに女性に近づかれるだけでも悲鳴を上げ、触れられようものなら卒倒するんだとか。
理由は知らんけど。まぁ、人って多かれ少なかれ欠陥があるものだよな。
「分かった分かった。これ以上近づかないようにするから、それでいいでしょ?」
「……すまない」
「とにかくあんまりウチの弟をイジメないでよ。さもないと~」
「わ、わかったから自分に触るなぁ!」
おどしとでもいうようにシャルが伸ばした手が極まり手になる。
さっきまで不愛想なイケメンが、くずれて弱弱しく成り果てていく。
「だ、だが現実問題……」震え声で少尉は言った。「カサンドラ氏が仕事を続けられなくなって、お、お前たちがこのまま業務が務まるのか?」
「そ、それは……そうかもしなないけど」
「だたでさえ、異常【霊象】の今、そ、そんな少人数で続けていけるのか?」
「う……いま、そんな話しなくてもいいじゃん!」
多発する【霊象獣】の被害。軍の方にしわ寄せがきてしまっている。
少尉の言うことも最も――結局、俺のせいなんだよな。
「ちょ、エルやん! どこ行くん!?」
「ごめん、先に帰るよ」
「ちょ、まって! エルやん! エルやーん!」
あまりのやるせなさに押しつぶされそうになった俺は逃げだしてしまった。
それから数時間――ヒマワリの下でさいなまれながら過ごした。
そこは以前カサンドラさんが傷を負うことになった場所。
そして失敗したり、何かあったり、事あることに何度も訪れてしまっている場所でもある。
「何やってんだ俺……」
引き留めようとしたシャルの手を振り払ってしまったことをひどく後悔していた。
「心配して差し伸べてくれた手だと、分かっていたのに……」
ふと見上げる、いつの間にか辺りは白みを帯びている。
ポケットをあさって、懐中時計がないことに気づく。
どっかに落としたのか? いや、まてよ?
もしかしたら、昨日協会を飛び出した時に忘れていったのかも。
「って……今さらどんな面下げて帰ればいいんだよな」
鼻で笑って、空を仰いだ瞬間――ふと視界の端に人影が横切る。
一瞬だったけど、それは空色の髪をした女の子だった。
ただ少女は慌てふためいた様子で、何かから逃げていくよう。しかも傷だらけ。
続いてスーツを着た【蒼血人】の男が二人、ヒマワリをかき分けて現れる。
「見つかったか?」
「いや、手分けしよう、お前はあっち、私はあっちだ」
話し声からしてどうも女の子を探している。
どんな事情かは知らないけど、あんな女の子を追い詰めてどういうつもりなんだ?
「放っておくわけにはいかないよな……」
今まで失意の沼にはまって重くなっていた足になぜか力が入る。
多分、後悔に潰れそうな俺の心にも、このままじゃいけないっていう気持ちが残っていたんだと思う――優柔不断だよな、ほんとに。
それから数分後――もう一度あの空色の髪の少女を見つけた時には、スーツ姿の男たちが目と鼻の先まで迫っていた。
「いたぞ! こっちだ!」
「……ハァ……ハァ……しつこい!」
あれから考えていたけどあの男たちは、おそらく帝国の諜報機関だと思う。
確かな根拠はないけど、まとう雰囲気と足運びが静かだったんだ。
フツーの軍人にはできない芸当。スパイってやつか?
「こっちだっ!」
「きゃっ!」
悲鳴を上げる彼女の手を引き、ひと際生い茂るヒマワリの影に隠した。
「――いないじゃないか!?」
「いや、さっきまで確かにここにいたんだ! クソっ! どこ行った!?」
息を殺して、男たちをやり過ごす。
通り過ぎるのを見計らって、二人してためにため込んだ深い息を吐いた。
「ありがとう、助けてくれて、じゃあ私はこれで――」
「待て、今動き回るのは危険だ。それにそんな傷だらけでどこ行くつもりだよ」
まだまだ遠くから彼女の行方を追う声が聞こえる。
しばらくして声と気配が消えた頃合いを見計らってもう一度話しかける。
「――行ったね。で、なんで追われてんの?」
「あなたには関係ない。それじゃ――」
「だから待てって」
立ち去ろうとする彼女を捕まえる。なんでそんなに焦っているんだ?
迷惑かもしれないけど、これでも俺は【守護契約士】。
市民の安全を守ることが仕事だ。
それにここで彼女を見捨てたら、きっと未来の俺は今日のことを許せないと思う。
「【守護契約士】の俺が困っている人を放っておくことなんて出来ないって」
さっき仕事を途中でほっぽりだした思えない男の、自分の口に嫌気がさす。
でも決めたんだ。後ろめたいけど立ち上がってしまったから。
「……【守護契約士】? じゃあ、あなた《ジーファニア》の?」
ようやく目が合った彼女の瞳は今まで見たどんな青いものよりも青かった。
見上げた青空よりも、見渡す大海原よりも、きらめく青玉よりも。
そして、とても不思議な感じを受けた。
それこそ歯の浮きそうな甘い言葉が頭の中に次々とわき立つぐらいには――。
「ということはたどり着いたんだ……」
ふっと意識を失うのが分かった俺は、ふらつく彼女の支えに入る。
「おっと、平気?」
「うん、大丈夫……少し気が抜けただけ」
理由は知らんけど。まぁ、人って多かれ少なかれ欠陥があるものだよな。
「分かった分かった。これ以上近づかないようにするから、それでいいでしょ?」
「……すまない」
「とにかくあんまりウチの弟をイジメないでよ。さもないと~」
「わ、わかったから自分に触るなぁ!」
おどしとでもいうようにシャルが伸ばした手が極まり手になる。
さっきまで不愛想なイケメンが、くずれて弱弱しく成り果てていく。
「だ、だが現実問題……」震え声で少尉は言った。「カサンドラ氏が仕事を続けられなくなって、お、お前たちがこのまま業務が務まるのか?」
「そ、それは……そうかもしなないけど」
「だたでさえ、異常【霊象】の今、そ、そんな少人数で続けていけるのか?」
「う……いま、そんな話しなくてもいいじゃん!」
多発する【霊象獣】の被害。軍の方にしわ寄せがきてしまっている。
少尉の言うことも最も――結局、俺のせいなんだよな。
「ちょ、エルやん! どこ行くん!?」
「ごめん、先に帰るよ」
「ちょ、まって! エルやん! エルやーん!」
あまりのやるせなさに押しつぶされそうになった俺は逃げだしてしまった。
それから数時間――ヒマワリの下でさいなまれながら過ごした。
そこは以前カサンドラさんが傷を負うことになった場所。
そして失敗したり、何かあったり、事あることに何度も訪れてしまっている場所でもある。
「何やってんだ俺……」
引き留めようとしたシャルの手を振り払ってしまったことをひどく後悔していた。
「心配して差し伸べてくれた手だと、分かっていたのに……」
ふと見上げる、いつの間にか辺りは白みを帯びている。
ポケットをあさって、懐中時計がないことに気づく。
どっかに落としたのか? いや、まてよ?
もしかしたら、昨日協会を飛び出した時に忘れていったのかも。
「って……今さらどんな面下げて帰ればいいんだよな」
鼻で笑って、空を仰いだ瞬間――ふと視界の端に人影が横切る。
一瞬だったけど、それは空色の髪をした女の子だった。
ただ少女は慌てふためいた様子で、何かから逃げていくよう。しかも傷だらけ。
続いてスーツを着た【蒼血人】の男が二人、ヒマワリをかき分けて現れる。
「見つかったか?」
「いや、手分けしよう、お前はあっち、私はあっちだ」
話し声からしてどうも女の子を探している。
どんな事情かは知らないけど、あんな女の子を追い詰めてどういうつもりなんだ?
「放っておくわけにはいかないよな……」
今まで失意の沼にはまって重くなっていた足になぜか力が入る。
多分、後悔に潰れそうな俺の心にも、このままじゃいけないっていう気持ちが残っていたんだと思う――優柔不断だよな、ほんとに。
それから数分後――もう一度あの空色の髪の少女を見つけた時には、スーツ姿の男たちが目と鼻の先まで迫っていた。
「いたぞ! こっちだ!」
「……ハァ……ハァ……しつこい!」
あれから考えていたけどあの男たちは、おそらく帝国の諜報機関だと思う。
確かな根拠はないけど、まとう雰囲気と足運びが静かだったんだ。
フツーの軍人にはできない芸当。スパイってやつか?
「こっちだっ!」
「きゃっ!」
悲鳴を上げる彼女の手を引き、ひと際生い茂るヒマワリの影に隠した。
「――いないじゃないか!?」
「いや、さっきまで確かにここにいたんだ! クソっ! どこ行った!?」
息を殺して、男たちをやり過ごす。
通り過ぎるのを見計らって、二人してためにため込んだ深い息を吐いた。
「ありがとう、助けてくれて、じゃあ私はこれで――」
「待て、今動き回るのは危険だ。それにそんな傷だらけでどこ行くつもりだよ」
まだまだ遠くから彼女の行方を追う声が聞こえる。
しばらくして声と気配が消えた頃合いを見計らってもう一度話しかける。
「――行ったね。で、なんで追われてんの?」
「あなたには関係ない。それじゃ――」
「だから待てって」
立ち去ろうとする彼女を捕まえる。なんでそんなに焦っているんだ?
迷惑かもしれないけど、これでも俺は【守護契約士】。
市民の安全を守ることが仕事だ。
それにここで彼女を見捨てたら、きっと未来の俺は今日のことを許せないと思う。
「【守護契約士】の俺が困っている人を放っておくことなんて出来ないって」
さっき仕事を途中でほっぽりだした思えない男の、自分の口に嫌気がさす。
でも決めたんだ。後ろめたいけど立ち上がってしまったから。
「……【守護契約士】? じゃあ、あなた《ジーファニア》の?」
ようやく目が合った彼女の瞳は今まで見たどんな青いものよりも青かった。
見上げた青空よりも、見渡す大海原よりも、きらめく青玉よりも。
そして、とても不思議な感じを受けた。
それこそ歯の浮きそうな甘い言葉が頭の中に次々とわき立つぐらいには――。
「ということはたどり着いたんだ……」
ふっと意識を失うのが分かった俺は、ふらつく彼女の支えに入る。
「おっと、平気?」
「うん、大丈夫……少し気が抜けただけ」
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