玻璃色の世界のアリスベル

朝我桜(あさがおー)

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第二章  パッショナートな少女と歩く清夏の祭り

第41話 山荷葉の心を覆う暗晦

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 アリスの横顔は、今にも零れ落ちそうな笑みを隠そうと、頬に手を当て浮かぶ口角を押さえようとしているけど、全然抑えられていない。

「えへへ、恥ずかしいな。でも、とっても嬉しい……ありがとう」

 頬を赤く染めて照れくさそうにされると、なんだかこっちまで恥ずかしくなってくる。

「と、とりあえず早くこれを持って行こう。そろそろ始まっちゃうから、きっとみんなお腹空かせているはずだ」
「そ、そうだね……あ――」

 早く皆の処へ戻ろうと踵を返した瞬間、アリスが声を上げた。そしてほぼ同時。

 夜空に花火が咲いた。

 胸に広がっていくような炸裂の音と一緒に、色とりどりの光が、良く晴れた空を覆いつくす。
 まるで今にも届きそうなくらいの近さで、一瞬のうちに視界一杯に広がってゆく。
 ゆらゆらと煌く星屑のような残滓は、今にも降りかかってきそうだった。

 横に目をやるとアリスが瞳を大きく明けて、空を見つめていた。
 夜を灯す鮮やかな花火が、赤や青や緑と色合いを変える度、マリンブルーだったアリスの瞳が、その色を次々と変えていった。

 呆然と立ち尽くすアリスは花火に心を奪われている――かのように見えた。

 けど、なんだか様子がおかしい。
 身体が小刻みに震えている。

「アリス? どうかした? 大丈夫?」

 僕の呼びかけに全く反応しない。身体をゆすっても全く反応がない。
 完全に様子がおかしかった。

「アリスっ! アリスっ! どうしたんだっ! 返事してっ!」

 僕はアリスの前に立ち、肩を抱いて大きくゆするが、まるで立ったまま気絶したかのように、何にも反応を示さない。こんなアリスの姿は初めて見た。

「アリスっ!」

 僕が声を荒らげたその時だった。アリスの口が僅かに開いて、何かを呟いた。

「……アシュリ」

 あしゅり? なんのことだ?

 言葉の意味を考えるも束の間。アリスは――

「イヤァァァァーーっ‼」

 鼓膜が破れそうな絶叫を上げると、僕の腕を跳ねのけて、頭を抱えて走り出した。

「アリスっ!」

 僕は一瞬、一体何が起こったのか分からなかった。
 でも、僕は考えるまでも無く、身体が勝手に動き、買い物袋を投げ捨て、アリスを追いかけていた。

 人ごみをかき分けて僕はアリスを追いかける。それにしてもアリスの足の速さは女の子にしては異常だった。それこそ見失い様にするのがやっとなほど。

 異常と言えば、跳ねのけられた腕がまだ痺れている。思えば女の事は思えない力だった。

 一体、アリスの身に何が起きたというだろう。

 何も分からない。だけど、今やらなければいけない事は、アリスを一人にしちゃいけないという事だ。
 理屈じゃない。僕の魂がそう訴えかけている。


 そしてアリスを追いかける事、どれくらいたっただろう。かれこれ10分以上は経過しただろうか。
 一瞬見失ってしまったけど、遊具の影に蹲っているのを見つけた。
 目をぎゅっと閉じて、耳を押さえ、顎や唇は震えていた。

「アリス……」

 初めて見る怯えきったアリスの姿に、僕はどうしていいか分からなかった。

「アシュリ……アシュリ……ごめんなさい……私のせいで……」

 アリスは震える唇で、繰り返し懺悔の念を口にしているようだった。
 アシュリって言うのは恐らく、リシェーラさんが前に話してくれた契約精霊《フェルクタール》ではないかと、僕は思った。

 契約精霊《フェルクタール》は幼い頃から家族同然で過ごし、事故や病気で失う事も少なくないとリシェーラさんは話してくれた。
 そこでふと思い出したことがある。
 それはベアトリッテ遺跡の帰り、アリスが言った言葉だった。

『私は強くなんかないよ。ただ私は気付いただけなんだ。差し伸べられる人の手や、温かい人の言葉の慰め励ます力は、弱々しく見えても、人の中で決して色褪せることは無いんたっていう事に、それは人が持つ特別な力なんだっていうことに、ね』

 それは励ます力は人の心の中に確実に存在するという事。僕は怯えるアリスの前にそっと跪いて語り掛けることにした。

「アリス? アリス、僕の言葉が聞こえる?」

 何度も語り掛けるが、やはりアリスの耳には僕の言葉が届いていない。
 言葉が届かないとなると、僕が思いつく手段は一つしかなかった。
 夜空に花火が咲き乱れる中、僕は怯えきったアリスをそっと抱き寄せる。

 その人間が持つ弱々しくも特別な力を信じて――
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