玻璃色の世界のアリスベル

朝我桜(あさがおー)

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第二章  パッショナートな少女と歩く清夏の祭り

第33話 ちぐはぐ者たちはお互いの胸の内を慮り

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「いや、ごめん。僕等だって探したんだよ。けど、その途中で穴に落ちちゃって」
「穴?」
「探している内に、私達。地下の水脈に落ちたのよ」

 幸い水脈が深くて助かった。もし浅かったら水底に激突して死んでいただろう。

「えっ‼ 大丈夫だったのっ‼」
「まぁ~一応この通りね。それよりも――」

 リシェーラさんはムッとして、僕のアリスとの間に立ったと思ったら、僕達を無理矢理引き離した。

「近いわよ。離れなさい」

 僕もアリスも目を丸くする。突然リシェーラさんが怒り出したのかよく分からない。
 アリスを見るリシェーラさんの目にも何だか敵意染みたものを感じる。

「あっ! そういう事かぁっ!」

 何かを閃いたのか。ぱっと唐突に笑顔になったアリスは、リシェーラさんの手を掴んでぶんぶんと上下に振り回し始める。

「ちょ、ちょっとっ! なにするのっ⁉」
「リシェーラさんもやりたかったんだねっ!」
「……はぁ?」

 思いがけないアリスの行動に僕も愛花も当惑した。一番困惑しているのはリシェーラさんだろう。露骨に弱り切った表情をしている。

「アリス……貴女ねぇ……それ、本気で言ってるの?」
「ふぇ? どういうことです? リシェーラさん?」

 首を傾げるアリスの無邪気さに折れたリシェーラさんは、はぁーっと深い溜息を付く。
 僕等の上を大きな鳥が、凄まじい風を切る音と共に、大気を巻き上げ飛んでいく。

「ほらっ! 救助隊の人が迎えに来てくれたわ」

 強大な鳥に見えたものの正体は、色や形、大きさは違うものの、アリスの故郷、樹上の町エミンナで見た空飛ぶ車だった。


 救助隊の車両へと乗り込む僕達を、救助隊の人達は温かい笑顔で迎えてくれた。

「リシェーラが救助要請なんて珍しいことがあると思ったら、どうしたんだ?」
「ごめんなさい。雲母スキネの穴にうっかり落ちてしまったの。だけど下が地下水脈で命だけは助かって、洞窟の中で立ち往生するはずが、偶然あの場所を見つけたの」

 隊員の人達は所謂地球で言うところの山岳救助隊で、リシェーラさんと面識がある様だった。リシェーラさんは隊員の一人に三賢女の遺跡を指し示して見せた。

「あれは、もしかしてニュースでやっていた。あの?」
「ええ、そうらしいの。だけど楽器はエアデフェよ」
「エアデフェだったんですか? リシェ―ラさん。打楽器で演奏がとても難しい楽器じゃないですかっ⁉」
「そうね。譜面を斜め読みしたけど、重厚感や深み、曲全体の情熱さを象徴するような雰囲気を出せる人はそういないわ」

 エアデフェという楽器と遺跡にあった楽譜に関する自分なりの考察を、リシェーラさんはアリスへ詳しく語っていた。
 最初から気付いてはいたけど、これで僕は確信した。

 やっぱりリシェーラさんはエアデフェという楽器を弾けるんだ。

「そりゃあ、大変だっ! 町中に知らせなきゃなっ! 忙しくなるぞ~ それじゃあ、一先ず――」

 僕達は特別危機に瀕していた訳でもなかった。無駄足を踏ませたにも拘(かかわ)らず、救助隊の人達は嫌な顔一つしない。
 しかも僕等をリシェーラさんの車が停めてある駐車場まで乗せてってくれるとまで言ってくれた。

「ねぇ、宙人。ちょっといい?」
「ん? どうしたの? 愛花」

 愛花が珍しく神妙な面持ちで話かかけてきた。

 あだ名の件を謝るつもりなのだろうか? 

 もう、過ぎたことだし、まぁいいかなぁって僕は既に思い始めている。

「ごめんなさい」

 やっぱり、愛花は僕に謝ってきた。

「別に、いいよ。もう過ぎたことだし」
「良くないよ。私、宙人を傷つけていた」
「大げさな。もう気にしていないよ」

 肩を落として俯く愛花。その目尻には光るものが――

「大袈裟なんかじゃない。私、アリスから聞いたんだ」

 顔を上げて訴えかける愛花の瞳は潤みを帯びていて輝いていた。

「宙人が野球の事で苦しんでいたこと、私はそれを気付くことは出来なかった。ううん、違う……宙人の変化を感じていながら、また野球が出来れば元気になるって勘違いしてた……」

 ああ、そっちかぁ。通りで少し話が噛みあってないなぁって思った。
 僕も他人ひとの事を言えない。てっきりあだ名のことだと盛大に勘違いしていた。

 ただ――

「別に愛花が責任を感じる事じゃない。ちゃんと話さなかった僕の心の在り様の問題だっただけだよ」

 自分に対して責任を感じていない訳じゃない。けど、根本的な問題は疑心暗鬼に陥ってしまった自分の心の在り方に帰ってくる。
 怒りは元を辿れば、恐怖や不安から来るもの。悲しみは愛情の裏返し。
 見方一つで世界は変わるという事。そして大事なのはその人の助けを求める心の声に耳を傾ける事をアリスが教えてくれた。

 だから僕は――

「だから愛花。ありがとう」
「え?」
「愛花。いや、省吾もだね。二人がいつも僕を気に掛けてくれていたこと凄く感謝している。君は友達へまるで自分の事の様に親身になれて、元気付けようとすることが出来る素晴らしい人だよ」

 そういう事が出来る人は中々いないし、言葉で言うほど簡単なものじゃない。それを少しでも実践できるというのは、それだけで素晴らしい人間だと僕は思う。

「僕はもう大丈夫だ。その愛情は全部、省吾に向けてやれ、省吾もああ見えて結構撃たれ弱いからね」

 僕は愛花へ微笑む。正直本当にもう大丈夫かと言われれば分からない。
 けどアリスともう少し一緒に入られたらきっと大丈夫になる。僕はそんな根拠のない力強い希望を胸に抱いている。

「うん、知ってるよ。そんなこと、だってあいつの彼女だもん」

 そういって愛花は夕日で煌く涙を指先で拭い、満面の笑みを僕に見せくれた。

「もう、宙人は野球に戻ってこないんだね」
「うん、今はアリスと一緒にこの世界を見て周りたい」
「そっか」

 僕らは少し名残惜しくもあったけどリシェーラさんに別れをつげ、荒涼たる荒野に沈むスペクリムの夕日を背に、僕らは地球への帰路へ着いた。


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