玻璃色の世界のアリスベル

朝我桜(あさがおー)

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第二章  パッショナートな少女と歩く清夏の祭り

第26話 魂の宿る太古の余波

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 やっとの思いでアリスのすぐ後ろまで辿り着くと、彼女はリシェーラさんと和気藹々と世間話に花を咲かせていた。

「ねぇ? リシェーラさん。もしよろしければツアーガイドをやってもらう事って出来ませんか? きっと楽しいですよっ!」
「あぁそういえば、アリス達はツアーガイドやっているって言っていたわよね。今日は今度のツアーの下見だとか。でもそういう事はちゃんと上の人に聞いた方が良いわ」

 リシェーラさんも山岳ガイドといは名ばかりで、資格はあるものの、ただのショップ店員で上司に聞いてみない事には、ということだった。
 ツアーの際、現地ガイドとしてリシェーラさんが同伴してくれるととても心強い。

 だけど、リシェーラさんの言う通りそういった大事なことは社長であるファイユさんに聞くべきだ。
 年齢を重ね、経験を積んでいるだけあって、とてもしっかりしている。

 なんだろう? リシェーラさんが睨んでくる。

 まさか心を読まれている?

「大丈夫です。さっきフェイさん……フェイさんって私の上司なんですけど、さっきメッセージを送ったら、フェイさんの方からショップの方には話してみるって、一先ずリシェーラさんの気持ちを聞いてみてって言ってました」
「あらそう? でも、ちょっと考えさせて貰えないかしら?」
「良いですよ。ツアーの日取りは再来月のスリュナンナ・ハウストですから」
「分かったわ。なるべく早く返事をするわね。さあ、この狭いところを入っていくと私のとっておきの場所があるの」

 リシェーラさんは人一人がやっと通れる岩壁を縦に走る裂け目へと僕達を案内する。

「この狭いところをですか?」

 愛花の不安も分かる。裂け目を覗いてみたけど全く先が見えない。

「大丈夫よ。見た目ほど遠くはないから」
「楽しみだね? ソラト、愛花ちゃん」
「うん、そうだね」

 なんだか、愛花が元気ないように見える。
 岩の裂け目を一人ずつ進んでいく。

 岩肌は黄色や茶色、そして赤など暖色の地層が積み重なって波様に揺らいでいる。

 丁度天井の裂け目から光と一緒に砂が降り注いで、まるで揺らめく炎の中にいるような不思議な光景。

 次第に僕の血が滾ってきて、胸が熱くなってくる。

「ねぇ。アリス、こんなこと聞いても良いのか分からないのだけど……」
「はい? 何ですか?」

 裂け目の真ん中あたりでリシェーラさんはアリスへ出し抜けに語り掛けきた。
 リシェーラさんの顔はなんだか神妙な面持ち。

「貴女、契約精霊フェルクタールはどうしたの?」
「あ……」

 契約精霊フェルクタールってなんだろう?

 ここ数週間、スペクリムの事を勉強してきたけど、まだまだ分からない言葉ばかりだ。
 後ろからだったので顔は見えなかったけど、アリスはなんだか言葉に詰まっている様子。いつにないアリスの変化に僕は胸騒ぎを覚えた。

「ごめんなさい。私……」
「いいのいいのっ! 言いにくいことだったわよね。気にしないで、こっちこそ変なことを聞いてごめんなさいね。さて、あともうちょっとで着くから頑張りましょうっ!」

 何だったんだ。今の?

 リシェーラさんは物凄く慌てた様子だった。何か誤魔化しているかのようにおどけて見せて先を進んでいく。

「ねぇ? 宙人。アリスさんって何かあるの?」

 やっぱり愛花もさっきのアリスとリシェーラさんの様子が気になったようで、不意に振り返って声を掛けてきた。

「さぁ……僕もアリスとは知り合って間もないから」
「そうだよね」

 ただ言えるのは、契約精霊フェルクタールという言葉はアリスの前では禁句という事だ。踏み込んで聞くことは避けた方が良いかもしない。
 僕らは尚も炎が揺らめく岩壁の中を進み、ほどなくして出口が見え、前方から眩しい紅い光が差し込んでくる。

「見て、あれが私のとっておきの場所、紅蓮の海原よ」

 眼底まで焼き付きそうな強くて紅い炎のような光の中から現れたのは、荒れ狂う紅蓮の波濤だった。

 一瞬煮えたぎる火口に入り込んでしまったのではないかと僕は錯覚した。

 幾つもの赤褐色、黄褐色の地層が猛々しくうねり、見たことのない魚や貝、海の動物たちの化石が泳いでいる。

「まるで、化石の水族館みたい……」

 愛花の口から零れた感嘆の念、その通りだ。僕達を取り囲むかのように岩壁に囲まれた化石群は、まさに化石の水族館と名付けるに相応しいと僕は思う。

「愛花ちゃんの言う通りだね。まだ生きているみたい。ううん、違うね。まだ生きているんだよ。身体は無くなっても、生きようとする意志、魚さん達の魂はきっとまだここにあるんだ」
「そうだね……」

 実は僕もアリスと同じことを思っていた。もう他人事の様に『こそばゆい』なんて言えないかもしれない。

 まるで炎の中で肉や内臓も溶けてなくなり、骨になろうとも魂までは失わんばかりに、今も尚化石達から生きる意志を宿しいて、躍動感に溢れていた。

 僕は太古の余波なごりの中に化石が宿す魂の光景に、不思議と血の滾りを覚えた。

「この赤銅色の地層は、魚たちの身を古代の特殊な細菌が分化して出来たものとされているわ。まさに命の結晶ね」

 その後、隆起と褶曲を繰り返しうねるようになったのだとリシェーラさんは語った。
 リシェーラさんの言葉で僕が感じた滾りの正体に、推し量らずとも気付いてしまった。

 なぜなら僕は今、命と魂の結晶の海の中にいるのだから。
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