上 下
22 / 44
第二章  パッショナートな少女と歩く清夏の祭り

第21話 白亜の町に漂うは異国の香り

しおりを挟む
 白銀に輝く曲線美を描く砂丘を歩くこと数分、白亜の都市ヴィスルはあった。

 砂漠だというのに、人の賑わいの中から聞こえる水の音、さっきまで乾いた風は少しだけ水気を帯びている。

「はいっ! 到着っ! ここがヴィスルだよっ!」

「やっと着いた……あれ、なんか涼しい」

 生き返る様な皮膚に触れる清涼感。砂漠の暑さにすっかりやられていた愛花の顔も緩んでいく。

「ヴィスルって砂漠の町と言われているけど、実は豊富な化石水があって、水の町とも言われているんだ」

 アリスの言う通りパンフレットには太古の大森林が残した地下水の完全再利用を実現しているらしい。飲み水を始めとして、様々な産業に使われているんだとか。

「駄目だよ。ソラト? パンフレットばかり見ちゃぁ。私達で新しい素敵ポイントを見つけるって決めたよね?」

 突然アリスは僕が眺めていたパンフレットを取り上げてきた。少しむくれた顔で覗き込んでくる。

 最初の時の話し合い時、僕らは新鮮な気持ちになれようにあまりパンフレットに頼らないようにしようって決めていた。

「予備知識は程ほどにしておいた方が、新鮮な気持ちになって、きっと素敵な場所がいっぱい見つかると思うんだ。そっち方がきっと楽しいよ?」

「ああ、ごめん。そうだったね」

 弾んだ笑顔を見せたアリスは僕と愛花の手を引いて、賑わいの中へと誘う。

「愛花ちゃんも」

「ちょっ! アリスさんそんなに引っ張らないで」

 町へと足を踏み入れるや否や鮮やかな色彩が飛び込んでくる。

 それに大勢の人々が絶え間なく行き交う市場の光景に僕らは圧倒された。

 映像でよく見る中東や中央アジアのバザールのような異国情緒溢れる雰囲気に包まれながら、僕らはバザールの最前列から見て周る。

 どの露店も万華鏡のようなアラベスク柄の布地や手製の絨毯、玉虫色の宝石をあしらったバックやアクセサリー、シンプルな色合いや豊かな色彩の柄模様のショールや民族衣装などで溢れている。

「すごい人だかり……肌の色や髪は違うけど、やっぱりみんな耳が長いんだね」

「うん、この地域はベルドっていう人種のかたが多いかな。私達の惑星ほしには大きく分けて四つの人種があるんだ」

 スペクリム人は大きくベルド、エーカ、ソール、ヴィドの四つの人種に分かれる。

 今僕達がいるバザールで多く見かけられる褐色肌に白い髪をした山と大地の民ベルド。

 まるでアジア人のような容姿をした草原の民エーカ。

 褐色の肌と、金髪を持つ海の民ソール。

 そしてアリスの様に欧米人に似た容姿を持つ森の民と呼ばれるヴィドがいる。

「えっと、そうすると、アリスさんがここに来ても大丈夫? つまり……ね……」
「?」

 言葉を濁しているが、愛花が言いたいのは多分、目の敵にされないのか言いたいんだろう。

 地球の感覚で言えば欧米人のような人が中東のようなところに来ているのだから。

 最初首を傾げていたアリスだったけど、愛花の言いたいことの察しがついたようで――

「やだなぁ~みんな仲がいいから大丈夫。そんなこと絶対ないよ。その証拠に、ほらっ!」

 アリスが徐に振り返ると彼女の目線先に、にこにこ顔の青年店主が手招きしているのが見える。

「どうだい? お嬢ちゃん達見ていくかい?」

「いいんですかぁ?」

「好きなだけ見ていってくれ」

 店主の手招きに釣られ、ふらっと足を運んでみると、そこは雑貨屋。

 店内は木の風合い豊かな寄せ木細工を始め、幾何学模様の刺繍で装飾されたスカーフなどが溢れていた。

「あっ! これ可愛い」

 愛花は一つの小箱に魅せられて手に取った。繊細で幾何学模様の寄せ木がエキゾチックで、細かな細工から感じる職人芸は見事としか言いようがない。

「愛花ちゃん それ可愛い。表面に彫られた二羽の鳥はフケンとミンネルって言って、この地域では幸福と思い出の象徴とされているんだ」

 肩を寄せ合って陳列された雑貨達を楽しそうに眺める二人。

 最初は仲良くなれるか心配だったけど、僕の取り越し苦労で済みそうだった。

 それにしても女の子って本当小物とかそういうの好きだよなぁ。

「じゃあ、お兄さんっ! これ下さいっ!」

「えっ! アリスさんっ! 悪いよっ!」

「いいの。プレゼントさせてくれないかな。愛花ちゃんが私の友達になってくれた記念に」

 愛花が口ごもる。

 気を使わせてしまいモヤモヤした罪悪感を抱えているのだろうか?

「はい、愛花ちゃん」

「アリスさん……」

 でもアリスはそんな愛花に小箱を渡す。愛花が最初に手に取った二羽の鳥をあしらった小箱だ。

「小箱に刻まれた細工一つ一つ職人の願いが込められている。取ってくれる人の事を想いながら幸福になりますようにって」

 アリスは愛花の手を優しく包み込む。

「この小箱に最初に入るのは私達の出会いっていう幸せな思い出だよ」

 アリスという人は誰とでも真正面から向き合って、誰に対しても、僕の時と同じように真正面から受け止める。

 そこには見栄も無い。打算も無い。どこまでも純粋、それが僕のアリスに対する印象だ。

「だめだよ……そんなの……」

「ふぇっ! ど、どうして? 愛花ちゃん……」

 アリスに手を握られたまま、愛花は顔を隠すように俯いて、肩を震わせている。

 もしかして泣いているのか? でも何で?

「だって……だって……」

「うん」

「惚れちゃうじゃないっ!」

「ふぇっ!?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

美女になる洗顔フォーム

廣瀬純一
SF
洗顔すると美女になる洗顔フォームの話

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

【一話完結】一分で読めるショートショート集

tentenpoo
SF
全話一話完結型でショートショートをあげてます。毎日投稿できるように頑張るのでよろしくお願いします。

もうダメだ。俺の人生詰んでいる。

静馬⭐︎GTR
SF
 『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。     (アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

処理中です...