玻璃色の世界のアリスベル

朝我桜(あさがおー)

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第一章 フラジオレットな少女と巡る旅の栞

第12話 虹蜺の輝き舞う滝の畔

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「あっ、こんにちは。ロニヤさん。お邪魔してます」

「こんにちは」

「少しの間、お邪魔いたします」

 アリスとファイユさんは全く動じる様子も無く会釈をすると、、僕の目の前の存在は会釈を返してきた。

「ええ、どうぞ。アリスちゃん、糸使ってくれてる?」

「もちろんです。ロニヤさんには感謝しています」

「そう」

 物静かな蜘蛛の女性は少しの立ち話の後、何事も無かったかのように木の実や山菜、キノコが山ほど入った籠を抱え、その場を去って行った。

「彼女はこの森の先住妖精で、 髪束蜘族フルーエラのロニーネさん。この森の管理をなさっている民族の方だよ」

「もう、何が何だか、ねぇ、アリス。失礼承知で聞くんだけど、あの人は生物なんだよね?」

「うん、そうだよ。もちろん、フェイさんもね」

「あらあら、ソラト君には何もかも初めての体験で驚いちゃっているみたいね」

 スペクリムには、 精霊フルンタルと呼ばれる生物のドメインが存在し、彼らは人間とは異なり、糖や脂肪などからエネルギーを得るのでなく、細菌と同じように様々な物からエネルギーを得る生物なんだそうだ。

 彼らは大きく分けて、単為生殖する 精霊界フルンターレと有性生殖する 妖精界アウリールに分類されるという。

「ちなみにロニーネさんは分類学上、 妖精界アウリール、 土妖綱レアーダ、 蜘妖目チョゥンナ、 絹蜘科スチャイヴェ、 髪束蜘種フルーエルだね。あと一息で着くから、頑張ろうっ! そしたらランチにしよっか」

 朽ちて倒れた苔の絡みついた丸太を潜り抜ける。

 ピンクの毛並のリスが木の上から見下ろす中、僕は積み重なった天然の石段を登っていく。

 鳥の囀りに混じって水が流れる音が聞こえてきた、段々空気も湿っぽくなってきた。

 肌に当たる霧の冷たさを感じ、僕は漸く水の音の正体が分かった。

「素晴らしい景色ね」

「ほら、ソラトも、一緒に見よ」

 情けない気持ちにもなりながらも、僕はアリスの差し伸べる温かい手を取った。

 アリスに引き上げて貰って、やっとの思いで到着した僕達を待っていたのは、その苦労に見合うだけの、いや、それ以上の報酬があった。

 切り立った水晶の崖から流れ落ちていく清水は、舞い上がる水煙の白粉を めかされ――

 浮いたような冴えた薄化粧へと変わった瀑布を、差し込んだ日差し虹色の羽衣が着飾り――

 そして最期に清水が装うのは、巨木達の眠る七色に揺らめく泉底が、壮観で巨大な泉を創り上げる。

「これはまるで世界にある全部の宝石をここにギュッと閉じ込めた様でしょ?」

「本当。アリスちゃんの言う通り、大自然の宝石箱ね」

「そう、ですね」

 アリス達の気恥ずかしい感嘆の言葉に、僕は照れくさくなるのも忘れて、目の前の景色に魅入られてしまった。 


 七色の滝の ほとりに腰を下ろした僕達は、アリスの用意した昼食に舌鼓を打つことにした。

 バスケットの中は、僕がワクチン接種を受けている間に、作っていたとサンドイッチと、鮮やかな夜空の色をしたデザートの 星瓜スチャルンメローナを始めとしたフルーツの盛り合わせが入っている。

「はい、ソラト、どうぞ」

「うん、あ、ありがとう」

 アリスから手渡されたサンドイッチに、僕は正直怖気づいていた。

 何せスペクリムの食べ物を食するのは初めてなのだから仕方がない。

 サンドイッチは地球のものと、見た目的にはさほど変わらない。

 小麦色のパンに深い緑色の葉野菜と得体のしれない肉が挟まれていて、紫色のソースはきっと紫芋か何かに違いない……はず……

 それなら地球にもあるはずだと僕は思い込むことにした。

「大丈夫だよ。毒になるものなんて入ってないよ。私達が通ってきたゲートには、実はね。ソラト達の世界の物質を、私達の世界の物質に変換する装置が組み込まれていたんだ。だから大丈夫だよ」

 アリスがしきりに大丈夫だというので、僕は腹を括って、アリスの作ってくれたサンドイッチにかぶりついた。

「どうかな? ソラト?」

「……美味しい」

 紫芋だと思い込もうとしていたソースは、地球でいうところのバジルソースだった。

 深い緑をした葉野菜も普通に、水分が豊富で歯応えのしっかりしたレタス。

 何の動物のものか分からない肉は、実は 大豆肉ソイミートをハンバーグ上にしたもので、豆の粒の触感が良い、香ばしさと紫のバジルソースと相まって、得も言えない味だ。

 かぶりつく度にお腹が空いてくるような気さえしてくる。

「ほんとっ! 良かったぁ~」

「本当に美味いっ!」

「本当に美味しいわ。アリスちゃんって実は料理上手だったのね」

「フェイさん、私だって料理ぐらい出来ますよ。こう見えて毎日お母さんの手伝いしてるんですから」

「んぅっ!」

 我を忘れてかぶりついていた僕は、つい喉を詰まらせてしまって、胸を叩く。

「ああ、もう、焦って食べなくても大丈夫だよぅ、はい、これ」

 僕はアリスから手渡された飲み物を一気に飲み干し、喉に詰まったサンドイッチを流し込む。

 その飲料の懐かしい味には覚えがあった。

 喉の奥に弾ける微炭酸の清涼感と、このヨーグルト風味の甘さは間違いない。

「え? これ、ス●ール?」

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