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第三章 『新』展開! 『新』関係! 『新』天地!
第63話 サヨナラも言わないで消える少女。お返しは『ありがとう』の……
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「そ、そうよね。ゴメンなさい……二人とも見送りに来てくれてありがとね。それと退院おめでとうミナト」
「ありがとうございます……リーシャさんもお元気で、クロリスも。近いうち故郷へ帰るから、その時にお見舞いに行くね」
「……うん」
クロリスが別れを惜しむようにしがみついてきたので優しく抱きとめた。クロリスは少し無口だけど、その思いは十分伝わってきた。僕も寂しい。
「ありがと……」
「ん?」
突然のクロリスのお礼にちょっと面喰らう。なんのことだろう?
「カレンと仲直りさせてくれて」
「ああ、そのこと? いっぱい遊べて楽しかった?」
大きく頷くクロリス。そっか、良かった。
この満面の笑み。多分こういうのを冥利に尽きるって言うんだろうなぁ。
「それにしてもアルナ遅いなぁ、何かあったのかなぁ? もうすぐ来るはずなんですけど」
いつも来てくれる時間にまだ姿が見えない。
最近少し疲れた様子だったし、寝坊でもしちゃったのかなぁ?
彼女に限って事故ってことは無いだろうけど、心配だ。
「……ミナト、貴方まさか聞いていないの? だって今日アルナは――」
僕は耳を疑った。
「どうしてっ!?」
「私も詳しくは聞いていないわ。けど昨日実家に届けなければならないものがあるとは言っていたの」
リーシャさんから語られたのは、「今日アルナが麗月に帰る」ということ。
そんな話一度もしていなかった。
「あの子何か思いつめていて、それで今日来ていなかったから、きっと……」
僕の見舞いの傍らヘンリー教授の病室にも訪ねていたのは知っている。
けどアルナは「何処にもいかない」って言ったじゃないかっ!?
どうしてまたこんな騙し討ちのみたいな真似をするんだっ!?
「あと15分で列車が出る時間だな。今からならなんとか間に合うんじゃねぇか?」
時計を見る。すぐに向かってなんとかギリギリってところ。
「すみませんリーシャさんっ! 僕、アルナを追いますっ!」
「わ、分かったわ。行ってらっしゃい」
病み上がりの身体に鞭を打ち走った。
再度傷口が開くかもしれない。けどそんなこと気にしている余裕なんて無い。
出会ってからというもの、ずっとアルナに振り回されっぱなしだ。
師匠が言っていた。
女は男を翻弄するくらいで丁度いい。男はそれに付いて行けるぐらいじゃなきゃいけないって。
けど流石に限度っていうものがあるだろ。
何度も同じようなことをされたら文句の一つも言いたくなる。
くっ! 結構色々堪えるなぁっ!! 体力も戻ってないし、もう息が苦しい!
小川に掛かった橋を越えればもうすぐというところで、消防署の先、駅の方から汽笛が聞こえてきた!
到着したのかっ!? くそぉっ! 間に合えっ!
そして病院を飛び出してから15分、ようやく辿り着いた。
「はぁ……はぁ……駅員さん……首都ストラァム行き一枚……」
「さっき発車しちゃったよ。次は30分後かな」
へとへとになりながら券売所に倒れ込んだ僕に、駅員さんは無情にも現実を告げる。
結局は間に合わなかった。
いやまだだっ! ストラァムからは船。そこで追いつけるかも。
もし駄目で馨灣に渡ることになっても、それでも諦めない。
彼女に一言いってやらなきゃ気が済まない。
よれよれの身体を引き摺りながら待合のベンチに腰を掛ける。
手に切符を握りしめ、次の列車をひたすら待つ。
対向列車の乗客が次々と改札を抜けていく。
すると雑踏の中、視界の端に青い髪が過るのが見えた。
「えっ!?」
「はぁ!?」
アルナと目が合う。
「えっ!? えっ!? ミナトっ!? どうしてここにっ!? 今日は教授の見送りの筈だよねっ!?」
「こ、こっちの台詞だよっ!? でもちょっと待って、今改札から出て来たっということは……故郷に帰ったんじゃ……えっ!? えっ!?」
突然すぎて頭が回らない。
「帰らないよぅ~……だってミナトの傍にいるっていったじゃん」
腕を大袈裟にぶんぶん振って否定するアルナ、なんか可愛い――じゃなくてっ! いや可愛くないわけじゃないっ!
と、とにかく、じゃあなんで駅にいるんだろ?
「あのね、ミナト……さっきね。マグホーニーを封印した小瓶を専門の運び屋さんにお願いして、渡してきたの」
なんだぁ……それならそうと話してくれればよかったのに、けど良かったぁ。
さっきまで一言いうつもりでいたけど、安心したら、もうどうでも良くなっちゃったなぁ。
「昨日ハウアさんにも言ったよ。聞いてなかった?」
「はぁっ!? 聞いてないよ! ということはワザとかぁっ!? あぁもうっ! あの人はぁっ!?」
アルナから告げられる驚愕の事実。ようやく全てが仕組まれたことだと悟り、腸が煮えくり返る。
何よりも腹立たしいのはアルナじゃなく、ハウアさんに弄ばれたということ。
今頃腹を抱えて笑っているに違いない。
「絶対一言言ってやるっ!」
ほんとこの恨みはらさでおくべきかっ! などと考えていたらアルナにクスクスと笑われた。
「そっか、ミナトは心配してくれたんだね。私がいなくなっちゃうんじゃないかって……」
「うん、すごく心配したし、すごく寂しかった……かな」
すこし照れ臭いし、情けないけど本心。
口には出さなかったけど二度と会えないんじゃないかって思ったら怖かった。
「絶対追いついて連れ帰るつもりだったよ。もし叶わなくてももう一度会うって決めてた」
アルナは「そっか、そっかっ!」って明るく弾んだ声で呟きながら、段々と顔を僕の耳元に近づけてくる。
「ありがとう、心配してくれて。連れ戻すとまで言ってくれたミナトの気持ち、凄く嬉しい」
と囁くと、ふと頬に柔らかい感触が――と思った矢先!
ぶわっと全身の血液が顔に集まって、頭が真っ白に!
「$Å※¥%#&*@§☆★!?」
「ありがとうございます……リーシャさんもお元気で、クロリスも。近いうち故郷へ帰るから、その時にお見舞いに行くね」
「……うん」
クロリスが別れを惜しむようにしがみついてきたので優しく抱きとめた。クロリスは少し無口だけど、その思いは十分伝わってきた。僕も寂しい。
「ありがと……」
「ん?」
突然のクロリスのお礼にちょっと面喰らう。なんのことだろう?
「カレンと仲直りさせてくれて」
「ああ、そのこと? いっぱい遊べて楽しかった?」
大きく頷くクロリス。そっか、良かった。
この満面の笑み。多分こういうのを冥利に尽きるって言うんだろうなぁ。
「それにしてもアルナ遅いなぁ、何かあったのかなぁ? もうすぐ来るはずなんですけど」
いつも来てくれる時間にまだ姿が見えない。
最近少し疲れた様子だったし、寝坊でもしちゃったのかなぁ?
彼女に限って事故ってことは無いだろうけど、心配だ。
「……ミナト、貴方まさか聞いていないの? だって今日アルナは――」
僕は耳を疑った。
「どうしてっ!?」
「私も詳しくは聞いていないわ。けど昨日実家に届けなければならないものがあるとは言っていたの」
リーシャさんから語られたのは、「今日アルナが麗月に帰る」ということ。
そんな話一度もしていなかった。
「あの子何か思いつめていて、それで今日来ていなかったから、きっと……」
僕の見舞いの傍らヘンリー教授の病室にも訪ねていたのは知っている。
けどアルナは「何処にもいかない」って言ったじゃないかっ!?
どうしてまたこんな騙し討ちのみたいな真似をするんだっ!?
「あと15分で列車が出る時間だな。今からならなんとか間に合うんじゃねぇか?」
時計を見る。すぐに向かってなんとかギリギリってところ。
「すみませんリーシャさんっ! 僕、アルナを追いますっ!」
「わ、分かったわ。行ってらっしゃい」
病み上がりの身体に鞭を打ち走った。
再度傷口が開くかもしれない。けどそんなこと気にしている余裕なんて無い。
出会ってからというもの、ずっとアルナに振り回されっぱなしだ。
師匠が言っていた。
女は男を翻弄するくらいで丁度いい。男はそれに付いて行けるぐらいじゃなきゃいけないって。
けど流石に限度っていうものがあるだろ。
何度も同じようなことをされたら文句の一つも言いたくなる。
くっ! 結構色々堪えるなぁっ!! 体力も戻ってないし、もう息が苦しい!
小川に掛かった橋を越えればもうすぐというところで、消防署の先、駅の方から汽笛が聞こえてきた!
到着したのかっ!? くそぉっ! 間に合えっ!
そして病院を飛び出してから15分、ようやく辿り着いた。
「はぁ……はぁ……駅員さん……首都ストラァム行き一枚……」
「さっき発車しちゃったよ。次は30分後かな」
へとへとになりながら券売所に倒れ込んだ僕に、駅員さんは無情にも現実を告げる。
結局は間に合わなかった。
いやまだだっ! ストラァムからは船。そこで追いつけるかも。
もし駄目で馨灣に渡ることになっても、それでも諦めない。
彼女に一言いってやらなきゃ気が済まない。
よれよれの身体を引き摺りながら待合のベンチに腰を掛ける。
手に切符を握りしめ、次の列車をひたすら待つ。
対向列車の乗客が次々と改札を抜けていく。
すると雑踏の中、視界の端に青い髪が過るのが見えた。
「えっ!?」
「はぁ!?」
アルナと目が合う。
「えっ!? えっ!? ミナトっ!? どうしてここにっ!? 今日は教授の見送りの筈だよねっ!?」
「こ、こっちの台詞だよっ!? でもちょっと待って、今改札から出て来たっということは……故郷に帰ったんじゃ……えっ!? えっ!?」
突然すぎて頭が回らない。
「帰らないよぅ~……だってミナトの傍にいるっていったじゃん」
腕を大袈裟にぶんぶん振って否定するアルナ、なんか可愛い――じゃなくてっ! いや可愛くないわけじゃないっ!
と、とにかく、じゃあなんで駅にいるんだろ?
「あのね、ミナト……さっきね。マグホーニーを封印した小瓶を専門の運び屋さんにお願いして、渡してきたの」
なんだぁ……それならそうと話してくれればよかったのに、けど良かったぁ。
さっきまで一言いうつもりでいたけど、安心したら、もうどうでも良くなっちゃったなぁ。
「昨日ハウアさんにも言ったよ。聞いてなかった?」
「はぁっ!? 聞いてないよ! ということはワザとかぁっ!? あぁもうっ! あの人はぁっ!?」
アルナから告げられる驚愕の事実。ようやく全てが仕組まれたことだと悟り、腸が煮えくり返る。
何よりも腹立たしいのはアルナじゃなく、ハウアさんに弄ばれたということ。
今頃腹を抱えて笑っているに違いない。
「絶対一言言ってやるっ!」
ほんとこの恨みはらさでおくべきかっ! などと考えていたらアルナにクスクスと笑われた。
「そっか、ミナトは心配してくれたんだね。私がいなくなっちゃうんじゃないかって……」
「うん、すごく心配したし、すごく寂しかった……かな」
すこし照れ臭いし、情けないけど本心。
口には出さなかったけど二度と会えないんじゃないかって思ったら怖かった。
「絶対追いついて連れ帰るつもりだったよ。もし叶わなくてももう一度会うって決めてた」
アルナは「そっか、そっかっ!」って明るく弾んだ声で呟きながら、段々と顔を僕の耳元に近づけてくる。
「ありがとう、心配してくれて。連れ戻すとまで言ってくれたミナトの気持ち、凄く嬉しい」
と囁くと、ふと頬に柔らかい感触が――と思った矢先!
ぶわっと全身の血液が顔に集まって、頭が真っ白に!
「$Å※¥%#&*@§☆★!?」
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