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第二章 僕が彼女を『護』る理由

第43話 響きあう『二人』の極光が怪物を絶つ!

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 再び【共震】するには5分弱の間隔インターバルがいる。

『GYUOOOOOHHHH――ッ!!』

 決死の、命の最期の灯を見せるように、《黒蠍獅》は咆哮を上げ突進してくる。

 だが儚く、虚しく、爪は空を切る。

 もう《黒蠍獅》の動きには最初の頃のキレも早さも無い。ハウアさんはあっさりと躱して後ろを取る。

「甘ぇっ!! オラっ!!」

『GUOOOOOッ!!』

 燐光を纏った斬撃に、巨獣の背中から黒い血飛沫が噴水のように高く舞う。

「お前等! やっちまぇっ!!」

「これで決めようっ! アルナっ!!」

「うんっ!! 終わりにしよう!! ミナトっ!!」

 僕達は息を合わせ、《黒蠍獅》へと突撃した。

 僕はアルナから飛刀を受け取り、お互いそれに象気を込め打ち付ける。

 象気が刃物を研ぐかように二人の象気が磨き上げられていく。

 やがて極光オーロラに似た光を放ち、光輝の長剣へと変わった。

 第二の共震象術【散熱極光刃スティーブブレード】!

 僕等は《黒蠍獅》を切り刻んでいく。

 動きも心も、完全に重なる。何度も、反撃の暇も与えない。

 そして詰め、【散熱極光刃】で《黒蠍獅》の腹へを貫いた。

『GYUOOOOO――GUAAAAッ!!』

 極光の象気が内部を焼き断末魔の声が上がる。それでもなお《黒蠍獅》はしぶとくも腕を伸ばしてきた。

「「し、しつこいっ!!」」

「青すぎるんだよっ! 俺様を悶え殺す気かっ!?」

「お、重い……い、いきなりなにすんだよハウアさんっ!」

「奴を始末するより先に、このままキサマを笑い殺してやる」

 僕はハウアさんの悶え殺人? 未遂の罰としてくすぐりの刑に処された。

「ぎゃはははははははっ!! あひゃっ!! やめっ!! 死ぬっ!! 死ぬぅ!!」

 脇腹をくすぐられ、いやくすぐり殺され、地下道の床に突っ伏した。

 決戦の前にこんな羽目になるなんて全く予想外。

「さてと、んじゃあ。予定通り俺様が特別に時間を稼いでやるから、いいところをくれてやる。必ず仕留めろよ。ミナトっ! ちゃんと聞きやがれっ!?」

「自分でやっておいて何を言っているんですかっ!? もうっ!!」

 動けない僕の代わりにアルナが怒ってくれた。

「竦んでも気負いもしてねぇ見てぇだし、そろそろ準備しろっ!」

 容赦なく全力でくすぐるなんて、酷い緊張の解し方をされれば誰でもね。

「ミナト大丈夫?」

「う、うん。アルナこそ行ける?」

「私はいつでも」

 僕等はお互いの手を強く握りしめ、ゆっくりと呼吸を整えた。

 耳を澄ませ、感じ取る彼女の息遣いに合わせ、象気を練り上げていく。

 凛と心地よい【共震】を知らせる鈴の音が鳴り響いた。

 【天】の象気と【雷】の象気が混ざり、溶け、朱金色の巨大な力の奔流へと変わる。

「んじゃ、やるか!」

「うんっ!」

「はいっ!」

 意気込み充分に突き当りへと飛び込んだ――


 掴まれてたまるかっ! と一旦引き抜き、《黒蠍獅》の顔面を二人で蹴り上げる。

 これで本当に最後。仰け反った《黒蠍獅》の眼に――

「「止め!」」

 【散熱極光刃】を突き立て、僕とアルナは残りの全ての力を振り絞り押し込めた。

 内部から極光の象気が炸裂し《黒蠍獅》の全身に罅が走っていく。

『GYU――』

 終の叫びは風前の灯火が消えるかのようだった。

 《黒蠍獅》は強烈な光とともに爆散――いや、燃え尽きた……。



 僕等は《黒蠍獅》を屠った後、急いで最奥へと向かった。

 ある程度の苦戦は覚悟していたけど、事前の見立てだともう少し早く片付く予定だった。

「どんどん禍々しい象気が濃くなってっ! まさか間に合わなかったのっ!?」

「喋っている暇があったら足動かせ! 祈れ! 儀式が完成していないことをなっ!」

 疲労困憊の身体に鞭を打って走った。

 進むにつれ、前に来た時よりも濃密で、異質な象気が纏わりつく。

 冷や汗が止まらない。まるで雑巾絞りの如く絞られているみたいだ。

「二人とも見て! あそこっ!」

 淡い篝火かがりびの照らす広場へと出た刹那、黒い象気の爆風が僕達を襲う。

「ここは、いったい……」

 その場所は何かの祭壇のようだった。円柱に彫られているのは恐らく碑文だ。

 部屋一面には異形の彫刻の数々、例えるならイクシノ教の聖書に登場する魔族の軍勢。

 その聖書は紀元前に実在したとされる救世主イクティノスが、魔王スヴドォヴァルを討つまでの神話ものがたり

「くそったれ! 遅かったかっ!」

 部屋の中央の床にエースノエルの書にあった【鬼血屍回生】の〈陣〉が刻まれている。

 中心には幾つもの蝋燭が並べられた供物台の前に、ヴェンツェルが静かに佇んでいた。

『やあ、皆さんこれはお揃いでどうされましタ?』

 ゆっくりと振り向いたヴェンツェルの目は、白目だったところが赤く染まり、正気を失っているのは明らか。

 声も濁って聞こえる。

 肌の色こそ元々は白く無機質だったけど、そこに生気はなく、最早その姿は屍だった。

「ヴェンツェルっ!! 貴方は何故こんなことをっ!?」

『見てくレ給え。コレが【継約聖書】の外典、【バーホットの書】に綴らレた。大地の落とし子、鮮血の王族の力ダヨっ!!』

「あぶねぇっ! 避けろっ!」

 ヴェンツェルが右手を振り払う寸前、咄嗟に僕は左に飛んだ。直ぐ脇を衝撃波が掠めた。
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