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第一章 どうして僕が彼女を『放』っておけなかったのか
第31話 黒幕と野望と、彼女の『秘密』が複雑に交錯し……
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「だから違うって、別に工事中の橋になんて逃げ込まなくたって良かったんだ。他にもいっぱいあったんだから、単なる不注意だって」
「でも! ミナトを追いかけまわして、そんな危険な場所へ立ち入らせてしまったのは私だから。その治療費は私が払うべきものだよ」
「だってあの時は、アルナは掟に従わざるをえなかったわけだから、君はなにも悪くない」
「でもっ!」
「真っ昼間からうるせぇ! 音が響くんだよ! 痴話喧嘩なら外でやれっ!」
協会の中では、2階から僕等を見下ろすようにハウアさんが待っていた。
寝起きのようで、もの凄くだるそうにしている。痴話喧嘩って。
「グディーラが話してぇことがあるんだとよ。二人とも、とにかく上の応接室に来い」
まぁ、いいや。とりあえず応接室へ。
挨拶早々にグディーラさんから「はい、これ」と封筒を渡された。
「貴方の報酬よ。口座に振り込んでおいたから」
「えっ? あ、はい……ありがとうございま……すっ!?」
開いて驚愕する。明細には凡そ43万ノルドと書かれてあった。
今までの人生で見たことも無い金額!
「少ないけど我慢してね?」
「とんでもないっ! こんなにっ!? こんなに貰っていいんですかっ!?」
「正直に言うとね。今回の依頼料。事前の政府からの手付がケチられちゃってね。ミナトは本当に良く頑張ってくれたから、もっとあげたかったんだけど、協会も大変なの。ごめんね」
「いえ! ありがとうございます!」
恐ろしい大金で手が震えた。
「ところでミナト。身体の方はどうだった?」
「はい、2週間もすれば回復するって」
「そう。大事には至らなくてよかったわ。それはそれとして、二人とも外で凄く騒いでいたみたいだけど、あまり感心しないわね。どうかしたの?」
「えっと――」
「グディーラさん! 私もここで働かせてくださいっ!」
会話の途中でアルナが突然割り込んできた。いきなり何を!?
確かに守護契約士には一般人に助力を求めることがある。
いわゆる協力者というもの。
彼女の実力ならC、いやB級はある。象術を使える時点でD級の資格がある。
「私はミナトに怪我をさせてしまいました。けどミナトはそんな私に力になりたいって言ってくれて。ミナトがそう思ってくれるのと同じように、私もミナトの力になりたいんです」
アルナの瞳も声も切実に訴えている。
彼女は高く評価してくれるけど、正直僕は情けない気持ちでいっぱい。
掟と戦うと公言しておいて、結局まだ彼女に何もしてあげられてないんだから。
「アルナ。私達の仕事は白より灰色。やっていることは案外闇社会とあまり変わらないところもあるわ。ミナトが貴方を救ったのは、そんなことをさせないためだと思うのだけれど?」
「分かっています」
「ちょっと待って、救ったなんてそんな――」
大げさな。と言いかけたところで突然背後からハウアさんが肩を回してくる。
「なぁミナト、ちっと早いが飯食いに行くか? おっさんもまだ寝ているし、この前奢ってやるって言っただろ?」
「でも話がまだ終わって――」
いいから来いよ。とハウアさんに半ば腕ずくで協会の外へと引きずり出された。
ただまぁ少し込み入った話になりそうな雰囲気だったのは確か。
それが彼女達を二人っきりにしようというハウアさんの気遣いだって、すぐに理解はできたけど――
「本当に食事しに来るとは思わなかったよ」
ハウアさんに連れてこられたのは大衆食堂。
アルナと出会う前は僕も良く利用していたところだ。夏にはテラス席があって心地よい店。
「俺様が約束破ったことがあるか? 好きなもん頼んでいいぞ。マスターっ! いつもの!」
速いよ。まだ決まっていないのに……。
奥から「あいよ」っという野太い声が聞こえてくる。
「グディーラはああ見えて経験豊富だからよ。任せておけば大丈夫だ。悪いようにはしねぇよ」
ハウアさんの言っていることは理解できる。でもアルナが協会で働くのは反対だ。
「けどなミナト。腹ぁ括った女は強ぇ。ちょっとやそっとじゃ引き下がらねぇんだ」
「うん、今日のアルナを見ていて思った」
「だろ? ミナトが嬢ちゃんを戦わせたくねぇって気持ちは分かるが。しばらく二人で話し合わせてやれ」
「ハウアさんにはお見通しだね」
「何年の付き合いだと思ってんだぁ? とりあえずここは兄貴分の俺様の顔を立てろよ」
僕はアルナにこれ以上裏社会に関わって欲しくない。
普通に勉学に勤しみ、家庭を築いて、幸せになってもらいたかった。
別にその相手が自分である必要はないけど。
ただ多くの苦悩を背負った彼女はそれと同じぐらい幸せになる権利があると僕は思っている。
「とにかく来週あたり一旦下見で地下水路に潜る予定だからよ。んで? 怪我の方は?」
「くっつくのに2週間ぐらいかかるって」
「そうかぁ、じゃあどうすっかなぁ……つっても様子見るっつぅだけで他には何もしねぇんだけどよ。もちろんヤバイヤバくないは関係ねぇ。どうする?」
「ヴェンツェルの計画を阻止するためには情報を集めないと。うん。着いていく。でも戦えないよ?」
「でも! ミナトを追いかけまわして、そんな危険な場所へ立ち入らせてしまったのは私だから。その治療費は私が払うべきものだよ」
「だってあの時は、アルナは掟に従わざるをえなかったわけだから、君はなにも悪くない」
「でもっ!」
「真っ昼間からうるせぇ! 音が響くんだよ! 痴話喧嘩なら外でやれっ!」
協会の中では、2階から僕等を見下ろすようにハウアさんが待っていた。
寝起きのようで、もの凄くだるそうにしている。痴話喧嘩って。
「グディーラが話してぇことがあるんだとよ。二人とも、とにかく上の応接室に来い」
まぁ、いいや。とりあえず応接室へ。
挨拶早々にグディーラさんから「はい、これ」と封筒を渡された。
「貴方の報酬よ。口座に振り込んでおいたから」
「えっ? あ、はい……ありがとうございま……すっ!?」
開いて驚愕する。明細には凡そ43万ノルドと書かれてあった。
今までの人生で見たことも無い金額!
「少ないけど我慢してね?」
「とんでもないっ! こんなにっ!? こんなに貰っていいんですかっ!?」
「正直に言うとね。今回の依頼料。事前の政府からの手付がケチられちゃってね。ミナトは本当に良く頑張ってくれたから、もっとあげたかったんだけど、協会も大変なの。ごめんね」
「いえ! ありがとうございます!」
恐ろしい大金で手が震えた。
「ところでミナト。身体の方はどうだった?」
「はい、2週間もすれば回復するって」
「そう。大事には至らなくてよかったわ。それはそれとして、二人とも外で凄く騒いでいたみたいだけど、あまり感心しないわね。どうかしたの?」
「えっと――」
「グディーラさん! 私もここで働かせてくださいっ!」
会話の途中でアルナが突然割り込んできた。いきなり何を!?
確かに守護契約士には一般人に助力を求めることがある。
いわゆる協力者というもの。
彼女の実力ならC、いやB級はある。象術を使える時点でD級の資格がある。
「私はミナトに怪我をさせてしまいました。けどミナトはそんな私に力になりたいって言ってくれて。ミナトがそう思ってくれるのと同じように、私もミナトの力になりたいんです」
アルナの瞳も声も切実に訴えている。
彼女は高く評価してくれるけど、正直僕は情けない気持ちでいっぱい。
掟と戦うと公言しておいて、結局まだ彼女に何もしてあげられてないんだから。
「アルナ。私達の仕事は白より灰色。やっていることは案外闇社会とあまり変わらないところもあるわ。ミナトが貴方を救ったのは、そんなことをさせないためだと思うのだけれど?」
「分かっています」
「ちょっと待って、救ったなんてそんな――」
大げさな。と言いかけたところで突然背後からハウアさんが肩を回してくる。
「なぁミナト、ちっと早いが飯食いに行くか? おっさんもまだ寝ているし、この前奢ってやるって言っただろ?」
「でも話がまだ終わって――」
いいから来いよ。とハウアさんに半ば腕ずくで協会の外へと引きずり出された。
ただまぁ少し込み入った話になりそうな雰囲気だったのは確か。
それが彼女達を二人っきりにしようというハウアさんの気遣いだって、すぐに理解はできたけど――
「本当に食事しに来るとは思わなかったよ」
ハウアさんに連れてこられたのは大衆食堂。
アルナと出会う前は僕も良く利用していたところだ。夏にはテラス席があって心地よい店。
「俺様が約束破ったことがあるか? 好きなもん頼んでいいぞ。マスターっ! いつもの!」
速いよ。まだ決まっていないのに……。
奥から「あいよ」っという野太い声が聞こえてくる。
「グディーラはああ見えて経験豊富だからよ。任せておけば大丈夫だ。悪いようにはしねぇよ」
ハウアさんの言っていることは理解できる。でもアルナが協会で働くのは反対だ。
「けどなミナト。腹ぁ括った女は強ぇ。ちょっとやそっとじゃ引き下がらねぇんだ」
「うん、今日のアルナを見ていて思った」
「だろ? ミナトが嬢ちゃんを戦わせたくねぇって気持ちは分かるが。しばらく二人で話し合わせてやれ」
「ハウアさんにはお見通しだね」
「何年の付き合いだと思ってんだぁ? とりあえずここは兄貴分の俺様の顔を立てろよ」
僕はアルナにこれ以上裏社会に関わって欲しくない。
普通に勉学に勤しみ、家庭を築いて、幸せになってもらいたかった。
別にその相手が自分である必要はないけど。
ただ多くの苦悩を背負った彼女はそれと同じぐらい幸せになる権利があると僕は思っている。
「とにかく来週あたり一旦下見で地下水路に潜る予定だからよ。んで? 怪我の方は?」
「くっつくのに2週間ぐらいかかるって」
「そうかぁ、じゃあどうすっかなぁ……つっても様子見るっつぅだけで他には何もしねぇんだけどよ。もちろんヤバイヤバくないは関係ねぇ。どうする?」
「ヴェンツェルの計画を阻止するためには情報を集めないと。うん。着いていく。でも戦えないよ?」
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