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第一章 どうして僕が彼女を『放』っておけなかったのか
第22話 一冊の『本』が事件の全容を物語っていた。そして……
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本来象気は肉体の内側に働き、外部へ作用することは殆どない。
故にこれら5つの外顕体行を用いるのが理想とされる。
自然大行を【性質】なら、外顕体行は【形質】。
因みに僕が使う師匠直伝の象術【滅血拳】は動作に当たる。
「その儀式には、心臓が13個必要だとも書かれているわね」
「心臓っ!? ということはつまり――」
「一昨日の《屍食鬼》の胃の中から心臓が見つかったのよね? だとすればヴェンツェルは《屍食鬼》を操り、《地母神の落とし子》の復活を企てていると考えるのが妥当ね」
師匠が言っていた。もっとも簡単な理屈が、概ね真実に近いという。
グディーラさんの言っていることが僕には良く分かった。
でも、まだ心のどこかでヴェンツェル教授が犯人じゃない可能性があるのを信じていた。
正直昨日見た教授の瞳に宿っていたもの。あれは多分考古学への情熱じゃなかったのかなぁって。
「間違いないんですね」
「レオンボさんの報告通り、彼が赴任してきた時期と《雨降りの悪魔》が騒がれ始めた頃は完全に一致する。それに状況証拠も揃っているし、あとは裏付けね」
数々の事件現場が、屋敷の程近い距離で起きているとグディーラさんは冷静に論理的な根拠を付け加える。
この一連のおぞましい事件にヴェンツェル教授が糸を引いているのは明白。ただ問題は動機だ。
「なぜ、ヴェンツェル教授はこんなことをしたんでしょう?」
「さぁ……ただ……あ、ごめんなさい。何でもないわ。忘れて頂戴」
目元が隠れ、表情は読みづらいけど、グディーラさんはどこか憂いた雰囲気を見せる。
でも動機が分からないのはアルナについても同じ、暗殺者だというのなら誰かから依頼を受けている筈。
どういう理由があって依頼主がヴェンツェル教授の命を狙うのか。
セイネさんのお陰で吹っ切れたはずの、モヤモヤが再び脳裏に渦巻いていく。
そして複雑な胸中を抱えたまま、僕は殺害予告当日を迎えた。
霊気灯のシャンデリアが煌々と照らす屋敷内。
カチッカチッという、時を刻む柱時計の音だけが響いている。
刻々と秒針が動く度、緊張の所為か、感覚が鋭くなっていく感じがした。
分針が13を指せば刻限。
重苦しい雰囲気。
そんな中にいると1日26時間あるこの星で最も濃密な時間を過ごしている気さえしてくる。
15分前になった。
僕は立ち上がり屈伸、伸脚をして脚の状態を確かめる。
訓練の甲斐あって脹脛や太ももが一回り大きくなったみたい。
実際屍食鬼と戦ってみて分かったけど、倒すには攻撃の隙を突き、一瞬で間合いを詰める脚力がいる。
その為に約1週間ずっと走り込んでいた。
更に恐らく一度に複数体相手にすることになる。
そうなると長時間戦ってもバテない持久力が必要。
そして足腰の強靭さは不測の状況へ、臨機応変に対応するために重要だ。
「なんだぁ~ミナト。緊張してんのか? そうカタい顔すんなって言っても無理か」
完全に緊張しすぎていることは自分でも分かっている。でも逆に気負いすぎてもしょうがない。
堂々巡りの末、結局解けず今に至っている。
ほんとウアさんの落ち着き具合が羨ましい。
「それにしても意外だったな。今日まで本当に何もしてこねぇとはよ。あの嬢ちゃんはてっきり外してくると思っていたんだけどな」
手紙の主がアルナだと決まったわけじゃないけど、仮に差出人が彼女だったとしたら。
「アルナは約束を破るような子じゃないですから、僕とは違って」
「どうだかな。俺様にはてめぇそっくりの真面目ちゃんに見えるぜ。それに用意周到だ」
「用意周到? どういうことです?」
ハウアさんの何気なく口にした言葉が、妙に気になった。
「だってそうじゃねぇか? こっちがわざと警備を薄くして、誘っているのによ。殺りに来ないばかりか、更に警戒が強くなる今日まで何もしてこなかった……ということはだ。それなりの準備をしていたって考えられねぇか?」
「ちょっと待ってください。警備を薄くしたってどういうことです?」
衝撃的な発言、喉の奥に指を突っ込まれたような衝撃を受ける。
「なんだ? 気付いていなかったのか?」
「……はい。ただ思い返してみれば、護衛の合間に鍛えてくれましたし。本当なら1分たりとも無駄に出来ない筈なのに……」
「それだけじゃねぇけどよ。朝方と夜を手薄にしていたんだよ。丁度疲れが出始めて警戒が弱まる時間だからな。当然すぐに駆け付けられるようにはしてたけどよ」
「でも、今日に限ってはそういうわけにもいかなぇがな」
ふらふらとレオンボさんが近づいてくる。
僕が言うのもなんだけど、冴えない風貌からは戦えるようには見えない。
覇気も感じられない。
そういやレオンボさんが戦うところ見たことがなかった。
「【ハックタット技術工房】から【検知器】っつぅ最新機器を借りたし、罠も張ったからよ。執務室の前で待機していれば問題ねぇだろ」
実は今回検知器というものを、協会から通じて使わせて貰っていた。
なんでも人が屋敷内に侵入すると音で知らせてくれる代物ということだった。
故にこれら5つの外顕体行を用いるのが理想とされる。
自然大行を【性質】なら、外顕体行は【形質】。
因みに僕が使う師匠直伝の象術【滅血拳】は動作に当たる。
「その儀式には、心臓が13個必要だとも書かれているわね」
「心臓っ!? ということはつまり――」
「一昨日の《屍食鬼》の胃の中から心臓が見つかったのよね? だとすればヴェンツェルは《屍食鬼》を操り、《地母神の落とし子》の復活を企てていると考えるのが妥当ね」
師匠が言っていた。もっとも簡単な理屈が、概ね真実に近いという。
グディーラさんの言っていることが僕には良く分かった。
でも、まだ心のどこかでヴェンツェル教授が犯人じゃない可能性があるのを信じていた。
正直昨日見た教授の瞳に宿っていたもの。あれは多分考古学への情熱じゃなかったのかなぁって。
「間違いないんですね」
「レオンボさんの報告通り、彼が赴任してきた時期と《雨降りの悪魔》が騒がれ始めた頃は完全に一致する。それに状況証拠も揃っているし、あとは裏付けね」
数々の事件現場が、屋敷の程近い距離で起きているとグディーラさんは冷静に論理的な根拠を付け加える。
この一連のおぞましい事件にヴェンツェル教授が糸を引いているのは明白。ただ問題は動機だ。
「なぜ、ヴェンツェル教授はこんなことをしたんでしょう?」
「さぁ……ただ……あ、ごめんなさい。何でもないわ。忘れて頂戴」
目元が隠れ、表情は読みづらいけど、グディーラさんはどこか憂いた雰囲気を見せる。
でも動機が分からないのはアルナについても同じ、暗殺者だというのなら誰かから依頼を受けている筈。
どういう理由があって依頼主がヴェンツェル教授の命を狙うのか。
セイネさんのお陰で吹っ切れたはずの、モヤモヤが再び脳裏に渦巻いていく。
そして複雑な胸中を抱えたまま、僕は殺害予告当日を迎えた。
霊気灯のシャンデリアが煌々と照らす屋敷内。
カチッカチッという、時を刻む柱時計の音だけが響いている。
刻々と秒針が動く度、緊張の所為か、感覚が鋭くなっていく感じがした。
分針が13を指せば刻限。
重苦しい雰囲気。
そんな中にいると1日26時間あるこの星で最も濃密な時間を過ごしている気さえしてくる。
15分前になった。
僕は立ち上がり屈伸、伸脚をして脚の状態を確かめる。
訓練の甲斐あって脹脛や太ももが一回り大きくなったみたい。
実際屍食鬼と戦ってみて分かったけど、倒すには攻撃の隙を突き、一瞬で間合いを詰める脚力がいる。
その為に約1週間ずっと走り込んでいた。
更に恐らく一度に複数体相手にすることになる。
そうなると長時間戦ってもバテない持久力が必要。
そして足腰の強靭さは不測の状況へ、臨機応変に対応するために重要だ。
「なんだぁ~ミナト。緊張してんのか? そうカタい顔すんなって言っても無理か」
完全に緊張しすぎていることは自分でも分かっている。でも逆に気負いすぎてもしょうがない。
堂々巡りの末、結局解けず今に至っている。
ほんとウアさんの落ち着き具合が羨ましい。
「それにしても意外だったな。今日まで本当に何もしてこねぇとはよ。あの嬢ちゃんはてっきり外してくると思っていたんだけどな」
手紙の主がアルナだと決まったわけじゃないけど、仮に差出人が彼女だったとしたら。
「アルナは約束を破るような子じゃないですから、僕とは違って」
「どうだかな。俺様にはてめぇそっくりの真面目ちゃんに見えるぜ。それに用意周到だ」
「用意周到? どういうことです?」
ハウアさんの何気なく口にした言葉が、妙に気になった。
「だってそうじゃねぇか? こっちがわざと警備を薄くして、誘っているのによ。殺りに来ないばかりか、更に警戒が強くなる今日まで何もしてこなかった……ということはだ。それなりの準備をしていたって考えられねぇか?」
「ちょっと待ってください。警備を薄くしたってどういうことです?」
衝撃的な発言、喉の奥に指を突っ込まれたような衝撃を受ける。
「なんだ? 気付いていなかったのか?」
「……はい。ただ思い返してみれば、護衛の合間に鍛えてくれましたし。本当なら1分たりとも無駄に出来ない筈なのに……」
「それだけじゃねぇけどよ。朝方と夜を手薄にしていたんだよ。丁度疲れが出始めて警戒が弱まる時間だからな。当然すぐに駆け付けられるようにはしてたけどよ」
「でも、今日に限ってはそういうわけにもいかなぇがな」
ふらふらとレオンボさんが近づいてくる。
僕が言うのもなんだけど、冴えない風貌からは戦えるようには見えない。
覇気も感じられない。
そういやレオンボさんが戦うところ見たことがなかった。
「【ハックタット技術工房】から【検知器】っつぅ最新機器を借りたし、罠も張ったからよ。執務室の前で待機していれば問題ねぇだろ」
実は今回検知器というものを、協会から通じて使わせて貰っていた。
なんでも人が屋敷内に侵入すると音で知らせてくれる代物ということだった。
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