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序章 こうして僕は『殺』されかけました

第6話 古代からの謎めいた『ギフト』

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「問題は年代だ。どうしたものか……そうだ! ヴェンツェル教授に相談してみよう」

 と思いついたように、僕等はヴェンツェル教授という方の研究室まで連れていかれる。

 ヘンリー教授のそういう他人を強引に引き摺り回すところハウアさんと少し似ているかも。

「ベニート=ヴェンツェル教授は最近赴任してきた博士でね。なんでも専門の考古学のみならず民俗学にも詳しくて、今も多くの遺跡発掘を行っているんだ」

 更に貴族の出身でありながら不遜な態度など一切無くて非常に紳士的。

 中性的な顔立ちも相まって女子からの人気も高いのだとか。

「ん? 今日何日だっけ?」

 突然扉の前にして、ハウアさんが奇声を上げた。何なんだ急に。

「13日ですけど、どうかしたんですか? ハウアさん」

「……あ、いっけね。そういや今日、コレと約束があってよ」

 すっとぼけた顔をして、卑猥な小指を立てるハウアさん。コレって、もしかして恋人のこと? そんな人いたっけ……?

「じゃあ、そういうことだ。サラバ!」

「あっ! ちょっとっ! ハウアさん!」

 呼び止める隙も無く、颯爽と姿を消した。

「……あれは逃げたね」

「ほんとすいません。ヘンリー教授……」

「学生時代もあぁだったからねぇ、慣れているよ」

 慣れているだけで、良くは思っていないんだなぁ。ほんと申し訳ない。

 あははと苦笑い、気を取り直して戸を叩く。

 「はい」と落ち着いた渋い声で現れたのは、金髪碧眼の細身の男性。

「これはこれはっ! オトラ教授。どうされましたか?」

「突然お邪魔して申しわけありません。少しヴェンツェル教授に見て頂きたいものがあって、お時間よろしいですか?」

「ええ、構いませんよ。おや? 君は?」

「は、はい。僕はミナト=ルトラ。この町で守護契約士をしています。ヘンリー教授とは知り合いで……」

「ほう、その若さで守護契約士とは……」

 何だかこの人の微笑み、無機質でとても異質な感じする。ちょっと苦手かもしれない。

「これは申し遅れた。私はベニート=ヴェンツェル。この大学で考古学をやっている者さ。立ち話もなんだ。二人ともどうぞ中へ」

 とヴェンツェル教授は快く研究室へ迎え入れてくれた。

 招かれるまま、応接用の椅子へと腰を掛けると、凛とした眼差しを向けられる。

 まるで他人ひとを観察するみたいだ。失礼だと分かってはいたけど、やっぱり警戒してしまう。

「それで見せたいものとは?」

「実はこれなのですが……」

 ヘンリー教授はさっきの箱を取り出す。開けた途端、ヴェンツェル教授の目の色が変わる。

「ふむ、ミイラですか。興味深い」

「友人がニライカナイで偶然入手したもので」

「ニライカナイで? それは面白い。なるほど……最初に見た時思いましたが、普通のミイラとは違うようですね」

 品定めをするかのように何の変哲もないミイラの腕を眺めるヴェンツェル教授。

 しばらくすると口元を綻ばせた。

「まず体毛がそのままであることです。チャトル大砂漠の遺跡で発見されたものは全てありませんでした。なぜなら毛は不浄なものとされていたからです」

「つまり、古代ジェラルディーゼ文明との因果関係は――」

「ほぼありませんね。だがもっと重要なのは――」

 徐にミイラを戻して、ヴェンツェル教授は更に話を続ける。

「防腐処理のための香油が塗られた形跡が無い点です。まるで生きたまま乾燥したかのように新鮮フレッシュだ。切断面も薄く赤みを帯びている」

 ミイラに鮮度も何もないんじゃないかな……?

 でも言われてみれば、ただ水分だけが抜け落ち、骨格もしっかりしている。

「それで教授の経験上、どれくらい古いものだとお考えでしょうか?」

「ふむ、大変申し訳ないのですが、現段階では見当が付きません。よろしければ組織の一部を採取し、詳しく調べさせて頂きたいのですが……?」

「それは構いませんが……しかしそんなことをするだけで分かるのですか?」

「ええ、実はまだ実験段階なのですが、新しく開発した方法でしてね。内包する微量の霊鉄鉱を観測することで、ある程度の年代を測ることが出来るんです」

 生物の体内には、ほんの僅かだが霊鉄鉱が含まれていることは、昔から知られていた。

 だけど年代を測定できるなんて正直眉唾ものだ――と内心疑っていたら、ヴェンツェル教授と目が合った。

「俄かには信じがたいかい?」

「は、はい……すいません」

「いやいや、構わないさ。むしろ何に対しても疑問を抱くことは良いことだよ。もしかしたら君は科学者向きの性格なのかもしれないね」

「……いえ、そんな」

「実は私も以前からそう思っていまして、何度か誘ってはいるんですが」

「それは手厳しい……話が逸れてしまいましたね。実際にお見せしましょう」

 ヴェンツェル教授が持ってきたのはヘンテコな機械。

 どうヘンテコかと言えばヘンテコ以外に筆舌尽しがたいぐらい。

 でも頑張って説明するなら、半円球状の器具にびっしりと張り巡らされ配線が箱状の機器へと繋がっている。

「教授……それはいったい?」

「これは【霊波測定装置】。小さい半円球状の機具が検体内部の霊鉄鉱の霊波を検出します」

 語りながらヴェンツェル教授は徐にミイラの組織を採取し始めた。
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