7 / 65
序章 こうして僕は『殺』されかけました
第6話 古代からの謎めいた『ギフト』
しおりを挟む
「問題は年代だ。どうしたものか……そうだ! ヴェンツェル教授に相談してみよう」
と思いついたように、僕等はヴェンツェル教授という方の研究室まで連れていかれる。
ヘンリー教授のそういう他人を強引に引き摺り回すところハウアさんと少し似ているかも。
「ベニート=ヴェンツェル教授は最近赴任してきた博士でね。なんでも専門の考古学のみならず民俗学にも詳しくて、今も多くの遺跡発掘を行っているんだ」
更に貴族の出身でありながら不遜な態度など一切無くて非常に紳士的。
中性的な顔立ちも相まって女子からの人気も高いのだとか。
「ん? 今日何日だっけ?」
突然扉の前にして、ハウアさんが奇声を上げた。何なんだ急に。
「13日ですけど、どうかしたんですか? ハウアさん」
「……あ、いっけね。そういや今日、コレと約束があってよ」
すっとぼけた顔をして、卑猥な小指を立てるハウアさん。コレって、もしかして恋人のこと? そんな人いたっけ……?
「じゃあ、そういうことだ。サラバ!」
「あっ! ちょっとっ! ハウアさん!」
呼び止める隙も無く、颯爽と姿を消した。
「……あれは逃げたね」
「ほんとすいません。ヘンリー教授……」
「学生時代もあぁだったからねぇ、慣れているよ」
慣れているだけで、良くは思っていないんだなぁ。ほんと申し訳ない。
あははと苦笑い、気を取り直して戸を叩く。
「はい」と落ち着いた渋い声で現れたのは、金髪碧眼の細身の男性。
「これはこれはっ! オトラ教授。どうされましたか?」
「突然お邪魔して申しわけありません。少しヴェンツェル教授に見て頂きたいものがあって、お時間よろしいですか?」
「ええ、構いませんよ。おや? 君は?」
「は、はい。僕はミナト=ルトラ。この町で守護契約士をしています。ヘンリー教授とは知り合いで……」
「ほう、その若さで守護契約士とは……」
何だかこの人の微笑み、無機質でとても異質な感じする。ちょっと苦手かもしれない。
「これは申し遅れた。私はベニート=ヴェンツェル。この大学で考古学をやっている者さ。立ち話もなんだ。二人ともどうぞ中へ」
とヴェンツェル教授は快く研究室へ迎え入れてくれた。
招かれるまま、応接用の椅子へと腰を掛けると、凛とした眼差しを向けられる。
まるで他人を観察するみたいだ。失礼だと分かってはいたけど、やっぱり警戒してしまう。
「それで見せたいものとは?」
「実はこれなのですが……」
ヘンリー教授はさっきの箱を取り出す。開けた途端、ヴェンツェル教授の目の色が変わる。
「ふむ、ミイラですか。興味深い」
「友人がニライカナイで偶然入手したもので」
「ニライカナイで? それは面白い。なるほど……最初に見た時思いましたが、普通のミイラとは違うようですね」
品定めをするかのように何の変哲もないミイラの腕を眺めるヴェンツェル教授。
しばらくすると口元を綻ばせた。
「まず体毛がそのままであることです。チャトル大砂漠の遺跡で発見されたものは全てありませんでした。なぜなら毛は不浄なものとされていたからです」
「つまり、古代ジェラルディーゼ文明との因果関係は――」
「ほぼありませんね。だがもっと重要なのは――」
徐にミイラを戻して、ヴェンツェル教授は更に話を続ける。
「防腐処理のための香油が塗られた形跡が無い点です。まるで生きたまま乾燥したかのように新鮮だ。切断面も薄く赤みを帯びている」
ミイラに鮮度も何もないんじゃないかな……?
でも言われてみれば、ただ水分だけが抜け落ち、骨格もしっかりしている。
「それで教授の経験上、どれくらい古いものだとお考えでしょうか?」
「ふむ、大変申し訳ないのですが、現段階では見当が付きません。よろしければ組織の一部を採取し、詳しく調べさせて頂きたいのですが……?」
「それは構いませんが……しかしそんなことをするだけで分かるのですか?」
「ええ、実はまだ実験段階なのですが、新しく開発した方法でしてね。内包する微量の霊鉄鉱を観測することで、ある程度の年代を測ることが出来るんです」
生物の体内には、ほんの僅かだが霊鉄鉱が含まれていることは、昔から知られていた。
だけど年代を測定できるなんて正直眉唾ものだ――と内心疑っていたら、ヴェンツェル教授と目が合った。
「俄かには信じがたいかい?」
「は、はい……すいません」
「いやいや、構わないさ。むしろ何に対しても疑問を抱くことは良いことだよ。もしかしたら君は科学者向きの性格なのかもしれないね」
「……いえ、そんな」
「実は私も以前からそう思っていまして、何度か誘ってはいるんですが」
「それは手厳しい……話が逸れてしまいましたね。実際にお見せしましょう」
ヴェンツェル教授が持ってきたのはヘンテコな機械。
どうヘンテコかと言えばヘンテコ以外に筆舌尽しがたいぐらい。
でも頑張って説明するなら、半円球状の器具にびっしりと張り巡らされ配線が箱状の機器へと繋がっている。
「教授……それはいったい?」
「これは【霊波測定装置】。小さい半円球状の機具が検体内部の霊鉄鉱の霊波を検出します」
語りながらヴェンツェル教授は徐にミイラの組織を採取し始めた。
と思いついたように、僕等はヴェンツェル教授という方の研究室まで連れていかれる。
ヘンリー教授のそういう他人を強引に引き摺り回すところハウアさんと少し似ているかも。
「ベニート=ヴェンツェル教授は最近赴任してきた博士でね。なんでも専門の考古学のみならず民俗学にも詳しくて、今も多くの遺跡発掘を行っているんだ」
更に貴族の出身でありながら不遜な態度など一切無くて非常に紳士的。
中性的な顔立ちも相まって女子からの人気も高いのだとか。
「ん? 今日何日だっけ?」
突然扉の前にして、ハウアさんが奇声を上げた。何なんだ急に。
「13日ですけど、どうかしたんですか? ハウアさん」
「……あ、いっけね。そういや今日、コレと約束があってよ」
すっとぼけた顔をして、卑猥な小指を立てるハウアさん。コレって、もしかして恋人のこと? そんな人いたっけ……?
「じゃあ、そういうことだ。サラバ!」
「あっ! ちょっとっ! ハウアさん!」
呼び止める隙も無く、颯爽と姿を消した。
「……あれは逃げたね」
「ほんとすいません。ヘンリー教授……」
「学生時代もあぁだったからねぇ、慣れているよ」
慣れているだけで、良くは思っていないんだなぁ。ほんと申し訳ない。
あははと苦笑い、気を取り直して戸を叩く。
「はい」と落ち着いた渋い声で現れたのは、金髪碧眼の細身の男性。
「これはこれはっ! オトラ教授。どうされましたか?」
「突然お邪魔して申しわけありません。少しヴェンツェル教授に見て頂きたいものがあって、お時間よろしいですか?」
「ええ、構いませんよ。おや? 君は?」
「は、はい。僕はミナト=ルトラ。この町で守護契約士をしています。ヘンリー教授とは知り合いで……」
「ほう、その若さで守護契約士とは……」
何だかこの人の微笑み、無機質でとても異質な感じする。ちょっと苦手かもしれない。
「これは申し遅れた。私はベニート=ヴェンツェル。この大学で考古学をやっている者さ。立ち話もなんだ。二人ともどうぞ中へ」
とヴェンツェル教授は快く研究室へ迎え入れてくれた。
招かれるまま、応接用の椅子へと腰を掛けると、凛とした眼差しを向けられる。
まるで他人を観察するみたいだ。失礼だと分かってはいたけど、やっぱり警戒してしまう。
「それで見せたいものとは?」
「実はこれなのですが……」
ヘンリー教授はさっきの箱を取り出す。開けた途端、ヴェンツェル教授の目の色が変わる。
「ふむ、ミイラですか。興味深い」
「友人がニライカナイで偶然入手したもので」
「ニライカナイで? それは面白い。なるほど……最初に見た時思いましたが、普通のミイラとは違うようですね」
品定めをするかのように何の変哲もないミイラの腕を眺めるヴェンツェル教授。
しばらくすると口元を綻ばせた。
「まず体毛がそのままであることです。チャトル大砂漠の遺跡で発見されたものは全てありませんでした。なぜなら毛は不浄なものとされていたからです」
「つまり、古代ジェラルディーゼ文明との因果関係は――」
「ほぼありませんね。だがもっと重要なのは――」
徐にミイラを戻して、ヴェンツェル教授は更に話を続ける。
「防腐処理のための香油が塗られた形跡が無い点です。まるで生きたまま乾燥したかのように新鮮だ。切断面も薄く赤みを帯びている」
ミイラに鮮度も何もないんじゃないかな……?
でも言われてみれば、ただ水分だけが抜け落ち、骨格もしっかりしている。
「それで教授の経験上、どれくらい古いものだとお考えでしょうか?」
「ふむ、大変申し訳ないのですが、現段階では見当が付きません。よろしければ組織の一部を採取し、詳しく調べさせて頂きたいのですが……?」
「それは構いませんが……しかしそんなことをするだけで分かるのですか?」
「ええ、実はまだ実験段階なのですが、新しく開発した方法でしてね。内包する微量の霊鉄鉱を観測することで、ある程度の年代を測ることが出来るんです」
生物の体内には、ほんの僅かだが霊鉄鉱が含まれていることは、昔から知られていた。
だけど年代を測定できるなんて正直眉唾ものだ――と内心疑っていたら、ヴェンツェル教授と目が合った。
「俄かには信じがたいかい?」
「は、はい……すいません」
「いやいや、構わないさ。むしろ何に対しても疑問を抱くことは良いことだよ。もしかしたら君は科学者向きの性格なのかもしれないね」
「……いえ、そんな」
「実は私も以前からそう思っていまして、何度か誘ってはいるんですが」
「それは手厳しい……話が逸れてしまいましたね。実際にお見せしましょう」
ヴェンツェル教授が持ってきたのはヘンテコな機械。
どうヘンテコかと言えばヘンテコ以外に筆舌尽しがたいぐらい。
でも頑張って説明するなら、半円球状の器具にびっしりと張り巡らされ配線が箱状の機器へと繋がっている。
「教授……それはいったい?」
「これは【霊波測定装置】。小さい半円球状の機具が検体内部の霊鉄鉱の霊波を検出します」
語りながらヴェンツェル教授は徐にミイラの組織を採取し始めた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
箱庭物語
晴羽照尊
ファンタジー
※本作は他の小説投稿サイト様でも公開しております。
※エンディングまでだいたいのストーリーは出来上がっておりますので、問題なく更新していけるはずです。予定では400話弱、150万文字程度で完結となります。(参考までに)
※この物語には実在の地名や人名、建造物などが登場しますが、一部現実にそぐわない場合がございます。それらは作者の創作であり、実在のそれらとは関わりありません。
※2020年3月21日、カクヨム様にて連載開始。
あらすじ
2020年。世界には776冊の『異本』と呼ばれる特別な本があった。それは、読む者に作用し、在る場所に異変をもたらし、世界を揺るがすほどのものさえ存在した。
その『異本』を全て集めることを目的とする男がいた。男はその蒐集の途中、一人の少女と出会う。少女が『異本』の一冊を持っていたからだ。
だが、突然の襲撃で少女の持つ『異本』は焼失してしまう。
男は集めるべき『異本』の消失に落胆するが、失われた『異本』は少女の中に遺っていると知る。
こうして男と少女は出会い、ともに旅をすることになった。
これは、世界中を旅して、『異本』を集め、誰かへ捧げる物語だ。
『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)
IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。
世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。
不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。
そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。
諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる……
人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。
夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ?
絶望に、立ち向かえ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
双子獣人と不思議な魔導書
夜色シアン
ファンタジー
〈注:現在は小説家になろう、マグネット!にて連載中です〉
著:狼狐
表紙:暗黒魔界大帝国王リク@UNKnown_P
ユグドラシルーーそこは貴重な魔導書が存在する大陸。しかし貴重が故に謎が多い魔導書の使用、そして一部の魔法が一部地域で禁忌とされている。
また人々から恐れ、疎まれ、憎まれと人からは嫌われている種族、人狼ーーその人狼として生まれ育ったハティとスコルの双子は、他界した母親が所持していた魔導書『零の魔導書』を完成させるため、人狼と人の仲を和解すべく、旅立つのだがーー
「ハティ〜ハティ養分が不足してるよ〜」
「私の養分ってなんですか!スコルさん!?」
登場人物全員が一癖二癖ある双子達の旅路が、今始まる!
ーー第二幕「牙を穿て」開幕!ーー
異世界行ったら人外と友達になった
小梅カリカリ
ファンタジー
気が付いたら異世界に来ていた瑠璃
優しい骸骨夫婦や頼りになるエルフ
彼女の人柄に惹かれ集まる素敵な仲間達
竜に頭丸呑みされても、誘拐されそうになっても、異世界から帰れなくても
立ち直り前に進む瑠璃
そしてこの世界で暮らしていく事を決意する
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?
大好き丸
ファンタジー
天上魔界「イイルクオン」
世界は大きく分けて二つの勢力が存在する。
”人類”と”魔族”
生存圏を争って日夜争いを続けている。
しかしそんな中、戦争に背を向け、ただひたすらに宝を追い求める男がいた。
トレジャーハンターその名はラルフ。
夢とロマンを求め、日夜、洞窟や遺跡に潜る。
そこで出会った未知との遭遇はラルフの人生の大きな転換期となり世界が動く
欺瞞、裏切り、秩序の崩壊、
世界の均衡が崩れた時、終焉を迎える。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる