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53.入間の話①
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「トワイライトって映画知ってます?」
ヒナキの話を聞いて、入間が最初に言ったのは、そんなことだった。え、と聞き返すと、ニタリと笑みが返ってくる。
「どんな映画かって言うと、小説が原作なんですけど……人間の美しい女の子が、これまた美しい吸血鬼の男の子に恋しちゃう話です。ふふっ、いいなぁ……ヒナキくん、エドワード・カレンだなぁ。いや、むしろベラかな? ヒナキくんの方が気の強いお姫様って感じっすもんね」
「お……お姫様……?」
入間が全く悪気もなさそうに言うものだから、ヒナキはすっかり面食らってしまった。言葉が思いつかず、口をぽかんと開いていると、酒を手渡される。店に入ってまだ30分ほどしか経っていないはずなのに、すっかり入間のペースに乗せられていた。
仙台のライブから2週間ほど経った、月曜日の夜。ヒナキは、入間と2人、飲み屋のカウンターに座っていた。こうなったのは、昨日突然彼が連絡をして来たからだ。
前に言っていた、「お礼をします」のお礼がしたいのだと。
「だってヒナキ君って、あのジュンを跪かせる唯一の人じゃないですか」
「そんなことないよ」
「ありますって。アイツ、ほんとにすごいんですよ。悪い意味で」
「ふふっ」
「あ、笑った。心当たりあるんだ」
入間は、とても気のいい男だと思う。なぜか、彼を前にすると、まだ出会って日が浅いというのは関係なしに、なんでも話を聞いて欲しくなってしまうのだ。そうした魅力、或いは能力のようなものが、彼にはある。それは、ステージ上の彼を見ているだけでは気が付かなかったことだ。しかしそれゆえに、まずい事を話してしまったのではないかと、不安になってしまうのもまた事実だ。
今日だって、そうだ。彼が、「それで結局、ヒナキくんは何者なんですか」と突然核心をついたような事を言うものだから、つい今一番悩んでいる事を打ち明けてしまったのだ。
じっと眺めていると、入間はゆるりと首を傾げて、少しだけ表情を和らげた。何を考えているのか読めないけれど、悪い雰囲気ではなさそうだ。
「ヒナキくん、酒強いですか?」
「つよ……くはないけど、弱くもないよ」
「そうなんだぁ。じゃあ、俺久々に酔っ払っていいですか? ヒナキくんとなら楽しく飲めそぉ」
入間はほんの一瞬だけ意味深な目つきをして、それからすぐに目の前のグラスを向いた。あっという間に残りのハイボールを飲み干す。
「ウイスキー好きなの?」
「いやぁ、俺太りやすいんで。ホントは甘い酒の方が好きなんですけど」
「そうなんだ。気をつけてるんだね」
「そりゃあねえ。一応人前に出る仕事ですからぁ……って、ヒナキくんには言っちゃいけないやつっすね」
まだ会って話すのは2度目だが、入間が日頃周囲の人間にかなり気を遣って生きていることはよく伝わってくる。他の3人がかなり奔放な性格であるから、彼がどこかでセーブをかけなければならないのだ。本当は飲むのが好きだと聞いていたが、普段は酒の飲み方さえ我慢しているのかもしれない。
「いいよ。いざとなったら、また家まで送ってあげる」
「ヒナキくんマジかっけぇー。長生きしたら俺もカッコよくなれますか?」
「今でも充分カッコいいよ」
「またまたぁ。そういうのはジュンに言ってやってくださいよ」
入間の瞳がきらりと光る。彼が潤のことを大切に思っているのは、ヒナキもよく知っている。彼に交際を打ち明けるのはどうかと思ったが、知らない間に潤が話してしまっていたので、入間の方からその話題を振られたのも記憶に新しい。
「ねぇヒナキくん。すごい秘密打ち明けてくれたお礼に、今日は俺も面白い話をしますよ」
「なに?」
「ふふ……その前にドリンク頼みましょうね」
入間はまたハイボールを頼んだ。ヒナキも、無意識のうちにグラスを空けてしまっていたので、彼と同じ種類のウイスキーを注文した。ウイスキーの種類などよく知らないが、米国のバーボンという分類らしい。そういえば、以前に似たような香りのものをカレンが好んで飲んでいたことを思い出した。
「ジュンと初めて出会った時、俺衝撃受けたんですよ。あまりに感じ悪くて」
「そうなの?」
「知ってます? アイツ、あんなにルックス良いのに童貞なんですよ。性格悪すぎて」
「うっ」
思わず酒を吹き出しそうになり、ヒナキは咽せ込んだ。
「ハハッ、大丈夫ですか? 水どうぞ」
「あ、ありがとう……」
「そんなに動揺するなんて。ていうか、付き合ってるなら知ってますよね」
「知らなかったよ」
だって口でするの上手かったし、とは絶対に言えない。そもそも、潤と一度そんな雰囲気になったことさえ、入間には知られたくなかった。
「まあそんな話は置いておいて。潤があんなに丸くなったのはね、ヒナキ君のおかげなんだろうなーって思うんです」
「え?」
入間はにやりと笑ってから、酒を煽った。ほんの少しだけ、彼の顔色が良くなったのがわかる。相変わらず、目の下の隈は濃いままだが。
「潤があんな感じだったのは、例の呪いのせいでしょ」
「それはそうでしょうね。けど、あまりにアイツの態度が悪すぎて、いろーんな人に怒られてきましたよ。ふふっ、メグにもキレられまくってたし」
「えっ、そうなの?」
「尖ってた頃のジュンって、ホントに口の利き方がヤバかったんですよね。ジュンが新入部員だった頃、週一くらいでメグと喧嘩してたんじゃないかな。ほら、ジュンって音楽大好きの音楽バカでしょ。最初、ロックしか知らないメグと価値観が合わなくて、よく意見がぶつかってたんです。んで、2人が喧嘩ばっかするから、練習もままならねぇ。まあジュンはほっといてもプロ並みに歌えるからよかったんですけど、俺らはメグいねぇと困るでしょ。夏くらいまで本当に大変でしたよ」
「それでよくバンド続けられたね。なんかキッカケでもあったの?」
「その年の夏休みに一回メグがガチギレして、ジュンのことぶん殴ったんすよね。で、ジュンもキレちゃって。お互い楽器握れなくなるくらいボロボロになって、顧問に絞られて、しばらく活動停止くらって、そっからかな……? 多分、俺らの知らねぇところでジュンがメグの音楽を認めたんでしょうね。それ以来ジュンはおとなしくなって、普通に練習できるようになりました」
「知らなかった……でも、今は普通に仲良さそうだよね?」
「2人とも丸くなりましたからねぇ。昔とは打って変わって、よく2人でオールドロック談義やってますよ。特にジュンは、ここ数ヶ月ですごく柔らかくなったような気がします。元々音楽に対してこだわり強すぎただけで、根は穏やかですから。口下手な親父さんに似てんのかなぁ」
「……ジュンのこと、よく見てるんだね」
「そりゃまあ」
入間は肩肘をつき、眩しいものを見るような目つきをした。その視線がヒナキの左眼に向いていることは、なんとなく分かる。ヒナキは少しだけ目を泳がせて、何を話そうか、と探った。
「そうだ、正月明けにジュンが俺ん家来た時の話聞きます?」
「ああ、……ホントに仲良いんだね」
「妬かないでください。ジュンは俺のこと何とも思ってないんですから。でね、恒例のライブ鑑賞会でもするのかと思ったら、急に『前に見た夕映の悪魔って映画観たい』って言い出して。あれ、ヒナキくん主演だったもんね。それから、何でしたっけ。警察のドラマ……」
「『少年課の谷崎さん』?」
「そう、それ。それを最近見始めたって言ってましたよ。一応ツアー中なのにね。移動中とかも、ずっとなんか画面見てると思ったら」
知らなかった。潤はヒナキの俳優業についてあまり聞いてこない。それなのに、陰でこっそりヒナキの出演作を見ようとしていたなんて。
「それで、まあ、俺ん家でホラー映画見たんですけどね。あれ、ヒナキくん最後結構グロい死に方するじゃないですか」
「そうだね。撮影大変だったよ」
「やっぱり! あの特殊メイクすごいっすもん。あ、それでジュン、普段映画見る時おとなしいのに、そのシーンがもうすぐ来るってわかったら……ふふふっ」
「どうなったの?」
「あはっ、写真撮っとけばよかった。マジで、親でも殺されたみたいな顔してんすよ」
「はは……そうなの?」
「ほんとに。ヒナキくんにも見て欲しかったっす」
入間はそう言って、カラカラと楽しそうに笑った。やがて、みるみるうちにグラスの残りが少なくなっていく。ヒナキは、彼の顔色が充分良くなった頃を見計らって、口を開いた。
「洋介くんって、自分のことあまり話さないよね」
「ん、そうですかね?」
「君の話も聞かせてよ」
潤の話を聞くのも楽しいが、どうしても嫉妬が優ってしまう。長いこと生きておいて、若者相手に嫉妬するなんて、まるでさもしい事だとは知りながらも、これ以上は顔に出てしまいそうだったのだ。
それに、それこそ潤はあまり他の人間の話をしない。ヒナキ自身のことを聞きたがるか、音楽の話をするか。入間洋介やURANOSのIRUMAのことを知りたければ、いま彼に聞くしかないのだ。
「俺の話なんて、なんも面白くないっすよ」
そう言って、カラカラ乾いた笑みをこぼす。しかし、酒が助けたのか、しばらく考え込んだ後でようやく入間は口を開いた。
「俺が誰にも話したことない話、聞いてくれます?」
「……うん」
そんな話、自分なんかが聞いてしまってもいいのだろうか。ヒナキは素直にそう思ったが、入間がまた寂しそうな目でこちらを見てくるので、首を縦に振るほかなかった。きっと、今もし彼がシラフだったら、こんなことは言い出さなかったに違いない。
「カッコ悪いから、聞き流してください」
そう前置きして、ため息を吐いた後、彼は躊躇いがちに昔話を始めた。
ヒナキの話を聞いて、入間が最初に言ったのは、そんなことだった。え、と聞き返すと、ニタリと笑みが返ってくる。
「どんな映画かって言うと、小説が原作なんですけど……人間の美しい女の子が、これまた美しい吸血鬼の男の子に恋しちゃう話です。ふふっ、いいなぁ……ヒナキくん、エドワード・カレンだなぁ。いや、むしろベラかな? ヒナキくんの方が気の強いお姫様って感じっすもんね」
「お……お姫様……?」
入間が全く悪気もなさそうに言うものだから、ヒナキはすっかり面食らってしまった。言葉が思いつかず、口をぽかんと開いていると、酒を手渡される。店に入ってまだ30分ほどしか経っていないはずなのに、すっかり入間のペースに乗せられていた。
仙台のライブから2週間ほど経った、月曜日の夜。ヒナキは、入間と2人、飲み屋のカウンターに座っていた。こうなったのは、昨日突然彼が連絡をして来たからだ。
前に言っていた、「お礼をします」のお礼がしたいのだと。
「だってヒナキ君って、あのジュンを跪かせる唯一の人じゃないですか」
「そんなことないよ」
「ありますって。アイツ、ほんとにすごいんですよ。悪い意味で」
「ふふっ」
「あ、笑った。心当たりあるんだ」
入間は、とても気のいい男だと思う。なぜか、彼を前にすると、まだ出会って日が浅いというのは関係なしに、なんでも話を聞いて欲しくなってしまうのだ。そうした魅力、或いは能力のようなものが、彼にはある。それは、ステージ上の彼を見ているだけでは気が付かなかったことだ。しかしそれゆえに、まずい事を話してしまったのではないかと、不安になってしまうのもまた事実だ。
今日だって、そうだ。彼が、「それで結局、ヒナキくんは何者なんですか」と突然核心をついたような事を言うものだから、つい今一番悩んでいる事を打ち明けてしまったのだ。
じっと眺めていると、入間はゆるりと首を傾げて、少しだけ表情を和らげた。何を考えているのか読めないけれど、悪い雰囲気ではなさそうだ。
「ヒナキくん、酒強いですか?」
「つよ……くはないけど、弱くもないよ」
「そうなんだぁ。じゃあ、俺久々に酔っ払っていいですか? ヒナキくんとなら楽しく飲めそぉ」
入間はほんの一瞬だけ意味深な目つきをして、それからすぐに目の前のグラスを向いた。あっという間に残りのハイボールを飲み干す。
「ウイスキー好きなの?」
「いやぁ、俺太りやすいんで。ホントは甘い酒の方が好きなんですけど」
「そうなんだ。気をつけてるんだね」
「そりゃあねえ。一応人前に出る仕事ですからぁ……って、ヒナキくんには言っちゃいけないやつっすね」
まだ会って話すのは2度目だが、入間が日頃周囲の人間にかなり気を遣って生きていることはよく伝わってくる。他の3人がかなり奔放な性格であるから、彼がどこかでセーブをかけなければならないのだ。本当は飲むのが好きだと聞いていたが、普段は酒の飲み方さえ我慢しているのかもしれない。
「いいよ。いざとなったら、また家まで送ってあげる」
「ヒナキくんマジかっけぇー。長生きしたら俺もカッコよくなれますか?」
「今でも充分カッコいいよ」
「またまたぁ。そういうのはジュンに言ってやってくださいよ」
入間の瞳がきらりと光る。彼が潤のことを大切に思っているのは、ヒナキもよく知っている。彼に交際を打ち明けるのはどうかと思ったが、知らない間に潤が話してしまっていたので、入間の方からその話題を振られたのも記憶に新しい。
「ねぇヒナキくん。すごい秘密打ち明けてくれたお礼に、今日は俺も面白い話をしますよ」
「なに?」
「ふふ……その前にドリンク頼みましょうね」
入間はまたハイボールを頼んだ。ヒナキも、無意識のうちにグラスを空けてしまっていたので、彼と同じ種類のウイスキーを注文した。ウイスキーの種類などよく知らないが、米国のバーボンという分類らしい。そういえば、以前に似たような香りのものをカレンが好んで飲んでいたことを思い出した。
「ジュンと初めて出会った時、俺衝撃受けたんですよ。あまりに感じ悪くて」
「そうなの?」
「知ってます? アイツ、あんなにルックス良いのに童貞なんですよ。性格悪すぎて」
「うっ」
思わず酒を吹き出しそうになり、ヒナキは咽せ込んだ。
「ハハッ、大丈夫ですか? 水どうぞ」
「あ、ありがとう……」
「そんなに動揺するなんて。ていうか、付き合ってるなら知ってますよね」
「知らなかったよ」
だって口でするの上手かったし、とは絶対に言えない。そもそも、潤と一度そんな雰囲気になったことさえ、入間には知られたくなかった。
「まあそんな話は置いておいて。潤があんなに丸くなったのはね、ヒナキ君のおかげなんだろうなーって思うんです」
「え?」
入間はにやりと笑ってから、酒を煽った。ほんの少しだけ、彼の顔色が良くなったのがわかる。相変わらず、目の下の隈は濃いままだが。
「潤があんな感じだったのは、例の呪いのせいでしょ」
「それはそうでしょうね。けど、あまりにアイツの態度が悪すぎて、いろーんな人に怒られてきましたよ。ふふっ、メグにもキレられまくってたし」
「えっ、そうなの?」
「尖ってた頃のジュンって、ホントに口の利き方がヤバかったんですよね。ジュンが新入部員だった頃、週一くらいでメグと喧嘩してたんじゃないかな。ほら、ジュンって音楽大好きの音楽バカでしょ。最初、ロックしか知らないメグと価値観が合わなくて、よく意見がぶつかってたんです。んで、2人が喧嘩ばっかするから、練習もままならねぇ。まあジュンはほっといてもプロ並みに歌えるからよかったんですけど、俺らはメグいねぇと困るでしょ。夏くらいまで本当に大変でしたよ」
「それでよくバンド続けられたね。なんかキッカケでもあったの?」
「その年の夏休みに一回メグがガチギレして、ジュンのことぶん殴ったんすよね。で、ジュンもキレちゃって。お互い楽器握れなくなるくらいボロボロになって、顧問に絞られて、しばらく活動停止くらって、そっからかな……? 多分、俺らの知らねぇところでジュンがメグの音楽を認めたんでしょうね。それ以来ジュンはおとなしくなって、普通に練習できるようになりました」
「知らなかった……でも、今は普通に仲良さそうだよね?」
「2人とも丸くなりましたからねぇ。昔とは打って変わって、よく2人でオールドロック談義やってますよ。特にジュンは、ここ数ヶ月ですごく柔らかくなったような気がします。元々音楽に対してこだわり強すぎただけで、根は穏やかですから。口下手な親父さんに似てんのかなぁ」
「……ジュンのこと、よく見てるんだね」
「そりゃまあ」
入間は肩肘をつき、眩しいものを見るような目つきをした。その視線がヒナキの左眼に向いていることは、なんとなく分かる。ヒナキは少しだけ目を泳がせて、何を話そうか、と探った。
「そうだ、正月明けにジュンが俺ん家来た時の話聞きます?」
「ああ、……ホントに仲良いんだね」
「妬かないでください。ジュンは俺のこと何とも思ってないんですから。でね、恒例のライブ鑑賞会でもするのかと思ったら、急に『前に見た夕映の悪魔って映画観たい』って言い出して。あれ、ヒナキくん主演だったもんね。それから、何でしたっけ。警察のドラマ……」
「『少年課の谷崎さん』?」
「そう、それ。それを最近見始めたって言ってましたよ。一応ツアー中なのにね。移動中とかも、ずっとなんか画面見てると思ったら」
知らなかった。潤はヒナキの俳優業についてあまり聞いてこない。それなのに、陰でこっそりヒナキの出演作を見ようとしていたなんて。
「それで、まあ、俺ん家でホラー映画見たんですけどね。あれ、ヒナキくん最後結構グロい死に方するじゃないですか」
「そうだね。撮影大変だったよ」
「やっぱり! あの特殊メイクすごいっすもん。あ、それでジュン、普段映画見る時おとなしいのに、そのシーンがもうすぐ来るってわかったら……ふふふっ」
「どうなったの?」
「あはっ、写真撮っとけばよかった。マジで、親でも殺されたみたいな顔してんすよ」
「はは……そうなの?」
「ほんとに。ヒナキくんにも見て欲しかったっす」
入間はそう言って、カラカラと楽しそうに笑った。やがて、みるみるうちにグラスの残りが少なくなっていく。ヒナキは、彼の顔色が充分良くなった頃を見計らって、口を開いた。
「洋介くんって、自分のことあまり話さないよね」
「ん、そうですかね?」
「君の話も聞かせてよ」
潤の話を聞くのも楽しいが、どうしても嫉妬が優ってしまう。長いこと生きておいて、若者相手に嫉妬するなんて、まるでさもしい事だとは知りながらも、これ以上は顔に出てしまいそうだったのだ。
それに、それこそ潤はあまり他の人間の話をしない。ヒナキ自身のことを聞きたがるか、音楽の話をするか。入間洋介やURANOSのIRUMAのことを知りたければ、いま彼に聞くしかないのだ。
「俺の話なんて、なんも面白くないっすよ」
そう言って、カラカラ乾いた笑みをこぼす。しかし、酒が助けたのか、しばらく考え込んだ後でようやく入間は口を開いた。
「俺が誰にも話したことない話、聞いてくれます?」
「……うん」
そんな話、自分なんかが聞いてしまってもいいのだろうか。ヒナキは素直にそう思ったが、入間がまた寂しそうな目でこちらを見てくるので、首を縦に振るほかなかった。きっと、今もし彼がシラフだったら、こんなことは言い出さなかったに違いない。
「カッコ悪いから、聞き流してください」
そう前置きして、ため息を吐いた後、彼は躊躇いがちに昔話を始めた。
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