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幼馴染①

【スピンオフ❷】irony-後編 ★

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※サブカップル雅臣×凪斗のお話(続き)です。
※ハル涼は出てきません。
※本編では涼弥に対してタチだった凪斗がこちらでは受けです。


幼馴染としても男としても凪斗をずっと大事に想ってきた雅臣 × 本当は雅臣のこと独占したいけど「友達」じゃなくなるのが怖くてふらふらしている凪斗
です。


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「男同士のやり方、調べた」
 そう言うと、凪斗ははっと口元に手をやった。声を出さないようにしているのかもしれない、なんて都合よく考えながら、彼の下着を取り去る。
「ほんで、道具も買った。別にお前に使うつもりじゃなかったけど……」
 話を聞いているのかいないのか、凪斗は僅かに目を瞠き、それから視線を逸らせた。それがどういう心情なのか、わかるようで分からない。
「お前が本気で嫌がることはせんけど」
「……っ」
「嫌がれへんかったら、やめへんで?」
 雅臣は買ったばかりの潤滑剤を開封して、手に取った。それから、凪斗の股に塗りつけて、入り口の縁をなぞる。冷たくてぬるついたそれは、手で触るだけでも微妙な気分になった。こんなのは、どう考えても「悪い事」だ。きっと、まともなら絶対友達相手に出来る真似ではない。
「お前、男ともセックスしたことあんの?」
 凪斗は何も答えない。ただ、雅臣が慣れないなりに挿入の準備をしようとしているのを、黙って眺めていた。表情が読めない。怒っているのか、怖がっているのか。少なくとも、後者ではないように思う。
——なんで嫌がれへんねん。こんな事されてんのに。
 雅臣は唇を噛む。
——幼馴染に体ん中いじられて平気なん? 今まで色んな人にそうされてきたから?
 ペニスを手で扱きながら、雅臣は指を挿入した。凪斗は息を詰まらせ、びくりと脚を震わせたが、相変わらず拒絶しなかった。むしろ、いつになく静かだ。湿度の高い音と、2人の息遣い——そして、シーツと服の擦れる音。それだけが、空間を満たしている。
 根気よく指を抜き差ししている間に、少しずつ中が解れ始める。加減など分からないが、雅臣は懸命に凪斗の表情を読み取ろうとした。
「っ、ぅ……ん」
 凪斗は口元を手で抑えたまま、じっと耐えていた。
「指増やすで?」
 さらに潤滑剤を足して、2本の指を同時に挿入した。凪斗は腰を跳ねさせたが、また声が漏れないよう抑え込んだ。どう見ても辛そうだ。
 ふと、こんな事をしていていいのかと冷静になる。しかし、ここまで来て引き返すのもまた、許されないような気がした。
 たった1日で幼馴染の一線を越えてしまった。その事実はどう足掻いても変え難く、今後雅臣の人生に重い責任としてのしかかってくる。けれどそれもまた、前進だ。
 雅臣は指を軽く曲げ、腹側の方を撫でた。膨らんだ何かがある。それがきっと前立腺なのだろうと、雅臣は感覚で理解した。
 しばらくそこを刺激していると、凪斗は今度こそ耐えかねたようで、少しだけ甘い嬌声を漏らした。
「痛かった?」
 聞くと、首を振る。その目は、いつのまにか熱っぽくなっていた。凪斗のことはなんでも知っていると思っていたのに、こんな顔は知らない。沸々と、感情が煮えたぎるように熱くなって、雅臣の視野を狭めようとしてくる。このままじゃいけないと分かっていても、自分を納得させることができなかった。
 雅臣は指を引き抜いて、手を拭った。ジーンズのジッパーを下ろして、ベルトを緩める。さっきからずっと苦しかった。取り出した自分のペニスを軽く扱いて、隠し持っていたコンドームを装着した。
「なんでつけ方知ってるん」
 突然凪斗が口を開いたと思ったら、そんな事だった。雅臣は拍子抜けして、思わずえっと声を上げる。彼の目は、雅臣の手元に釘付けになっていた。
「男やったら知ってるやろ」
 その回答は、凪斗には不服なようだった。鋭い目は険しさを増して、薄紅の唇が硬く引き結ばれた。しかし、それも雅臣が彼の後孔にペニスを押し付けるまでのことだった。
「挿れるで」
「あ……ぅ」
 凪斗の両脚を持ち上げると、凪斗はシーツを握り締めた。その手が震えていることに気がついて、突然雅臣は罪悪感に襲われた。ひやりとした汗が噴き出す。
「ナギ、ごめ……」
「んな顔すんなアホ」
 凪斗はすかさずそう言うと、踵で雅臣の腰を蹴った。前のめりになった勢いで、一気に深いところまで挿入してしまう。突然の刺激に雅臣は面食らったが、それ以上に凪斗の方が衝撃を受けたようだった。
「あぁっ」
 聞いたこともない、切ない声が耳をくすぐる。凪斗は雅臣を抱き寄せて、しばらく浅い呼吸を繰り返していた。
「ナギ……」
 罪悪感と、いい知れぬ高揚感に体の芯が震える。ふと視線を落とすと、さっきまで張り詰めていたナギの自身が、彼の腹の上で白濁の液をこぼしていた。
——ナギがイッてんの初めて見た。
 感動的な何かが、さらに雅臣の中に湧き起こる。最早、冷静な思考力は失っていた。
「挿れられただけでイッてもうたん?」
「ぅ……うるさい、あほ。早よせえや」
 凪斗がその調子なので、雅臣はほっと息をついた。入れた分を抜いて、また中へ打ちつける。ゆっくりピストンをしていると、凪斗が雅臣の腕をきゅっと掴んだ。
「んっ、んぅ、ぁ……っ」
 凪斗は掠れた声で喘ぐ。ほとんど吐息で消えてしまいそうな、か細い声だった。雅臣はせめていつでも止まれるように気を張りながら、凪斗の首筋にキスをした。先ほど噛んでしまったところを舐め、上に口付けを重ねる。それから、胸や頬にも、慎重に唇を寄せた。
「っ? マサ、そんなん……」
 凪斗の声にはっとして、雅臣は顔を上げた。不意に理性が蓋をする。そうして、気づいた時には、凪斗が両目いっぱいに涙を溜めていた。泣き顔——それを見た瞬間、いつかの光景が甦る。
「……ごめん!」
 雅臣は慌てて体を起こし、凪斗から離れようとした。今すぐにこの状況を取りなさなければいけないと思った。しかし、それはすぐに凪斗によって引き止められてしまった。胸ぐらを掴まれる。凪斗は、今度こそはっきり怒っているようだった。
「なんで……!?」
「えっ……なんでって」
 泣くほど嫌やったんやろ。
 そう言えば、凪斗はとても心外だという顔をした。限界まで張り詰めていた涙が、ほろりとこぼれ落ちる。
「アホッ……ボケッ! 誰もやめろとは言うてへんやろ」
 凪斗は雅臣の腹を蹴りつけると、矢庭に起き上がり、体勢をひっくり返した。仕返しとばかりに、今度は彼が雅臣を押し倒し、腰に跨る。そうして、彼は自ら2度目の挿入をしようとした。
「ごめん……」
「謝んなアホ」
 何度か試みるけれど、なかなか上手く挿入はいらない。それでも、凪斗は負けず嫌いだった。雅臣が萎えないように軽く手で扱きつつ、入れ方を探している。萎える心配なんてないのに、彼のその健気なところが、雅臣には堪らなかった。
「半端な気持ちで手ェ出すなアホ」
「アホって言い過ぎ。悪かったよ」
 雅臣は興奮を抑え付けながら、じっと凪斗を待った。今の凪斗は、いつもの嘘っぽい笑顔など浮かべていない。ただ必死の表情で、雅臣に対して漠然としたフラストレーションを向けている。けれど、その苛立ちの奥に確かな欲情が垣間見えたような気がして、雅臣は少しずつ自信を取り戻し始めていた。
「早よ挿れて」
「うるさい」
 凪斗の細い腰に手を触れて、支えようと試みる。しかし、凪斗はすぐにその手を跳ね除けた。
「要らんこと、すんな……っ、んぅ……あっ!」
 言葉通りに、凪斗はようやく自力での挿入に成功した。しかし、体重がかかったせいか、かなり深くまで入ってしまったようだ。苦しげな声をあげた後、息を乱しながら、雅臣の腹部に手をついた。
「マサは黙って見とって」
 凪斗は深くしゃがみ込むような格好で、ゆっくり抽挿を繰り返した。快感が強い。雅臣は腹に力を込めて、暴れ出そうとする欲望を閉じ込めた。
「ふ、うっ…はぁ……んっ」
 少しずつ中が馴染み始めて、淫靡な音を立てる。凪斗の声や表情が段々と蕩けてゆくのが堪らなかった。いつも澄ました顔をしている彼が、こんなに乱れている。そして、それを雅臣に見せている……こんなに嬉しいことがあるだろうか。
「ナギ……すごい、気持ちええ」
「当たり、まえ…やろ……僕らセックスしてんねんから」
「ナギも気持ちぃん?」
「見たら、わかるやろが……」
 やがて、凪斗は両膝をベッドについて、体勢を変えようとした。その途端に、ずるりとペニスが抜けてしまい、雅臣は思わず声をあげる。
「疲れたんちゃう?」
「疲れてへん……」
「俺上にならせてよ」
 雅臣は起き上がると、今度は凪斗の背後に回った。背中を撫でて、後背位を強請ってみる。それで伝わることに僅かな感動を覚えながら、もう一度彼の後孔にペニスを当てがった。すると、凪斗が突然何かを思い出したような素振りを見せた。
「なぁ、マサの弟妹きょうだいに声聞かれたらむり……」
 それを言われて、初めて雅臣も気がついた。ここは紛れもなく、雅臣の実家だ。夢中になりすぎて、そんな当たり前のことさえ忘れていた。
 とはいえ、。それを理由に止めることはできない。
「ほな、頑張って我慢して」
「へ……? あっ、ちょお」
 雅臣は笑みを返し、ゆっくりと挿入した。まだ挿れたばかりなのに、もう凪斗は甲高い声を唇の端から漏らしていた。我慢しているせいか、掠れて、とても色っぽい。彼の体の深いところがビクビクと震えているのが、ダイレクトに伝わってくる。
「ぁ……っ、んぅ……~~~~っ」
「偉いな。ちゃんと我慢できて。も少しだけ激しくしてもいい?」
「は…むり……っ、あっ、……っ!!」
 凪斗は一度だけ大きな声を出してしまった後、慌てて口を塞いだ。そのせいで、中がきつく締まる。雅臣は快感の波に耐え、凪斗の腰を撫でた。彼が呼吸を整えながら必死に力を抜こうとしているのが、いじらしくて仕方ない。
「ナギ……」
 白い背中の中心に浮かぶ背骨のラインを、じっと舐めるように眺めた。凪斗が確かに生きていて、ここに存在していることが、まるで奇跡のように感じられる。
「ナギ……俺……」

「まぁくん、ナギくん来てんの?」
 突然、のんびりとした声が2人の耳に飛び込んできた。それから遅れて、コンコンと扉を叩く音が響く。雅臣は心臓が飛び跳ねるような心地がして、思わず咽込んだ。
「か……母さん……」
「美緒ちゃんから聞いたよぉ。悪いけど、夕飯の支度手伝って~」
 凪斗が驚いた顔をして振り向く。今にも泣き出しそうな、悲壮な顔だった。雅臣は罰が悪くなり、眉を押し上げながら、凪斗にしっと指を立てた。
「すぐ行くわ~。ナギ寝てるから、静かにしたって」
「あ、そうなん? ごめんなぁ。ほな下で待ってるなぁ」
「うん……」
 母と話しながらも、雅臣の下半身はまだ凪斗と繋がったままだった。すぐ下で、凪斗がふうふうと乱れた呼吸を隠そうとしている。雅臣が身じろぐと、彼は自身の手の中でくぐもった悲鳴をあげた。
 母の足音が離れていく。それを聞きながら、雅臣はゆっくりと自身を引き抜いた。
「ごめん、俺行かな……」
「ここで終わるとかありえへんねんけど」
 怒った口調でそう言いながらも、凪斗は直後に吹き出した。それから、2人で声を重ねて笑う。雅臣は自分のものが萎えてしまったことを確かめてから、ゴムを片付けると、急いでジーンズを整えた。
「なぁ、後でちゃんとやり直させて」
「むーり。2度目はえ」
 凪斗は雅臣の頬を軽く抓ると、笑いながら制服を着始めた。先ほどまでの熱っぽさは、まだ消え去ってこそいないが、すでに彼も浮ついた気分は失せてしまったようだった。
「あー、体ベタベタできもいわ。風呂借りたい」
「ええよ。着替え、俺の服でいい?」
「うん。なんか貸して」
 凪斗はひとまず服を着ると、ほんのり赤らんだ顔でニコリと笑った。いつもの、人好きのする胡散臭い笑顔だ。
がええ子にしとってくれたら、今度続きしたってもええよ」
「……嘘ぉ」
 思わず間抜けな声を上げてしまい、雅臣は慌てて顔を背けた。適当な服を見繕うフリをしながら、顔の熱を覚ます。まさか凪斗から次を匂わせられるとは思わなかった。
「ふん、せいぜい頑張るわ。……はい、着替え」
「ん、ありがとぉ」
 凪斗は雅臣の差し出した服を受け取って、またニヤニヤ笑みを浮かべた。なんだか、余裕ぶられているようで悔しい。ついさっきまで、あんなに泣いていたくせに。
「ほな、あとでな」
 雅臣はなるべく凪斗の顔を見ないようにしながら、台所へ向かった。背後でまた凪斗が笑ったような気がしたが、もう振り向かなかった。
「ええ子ってなんやねん。俺はいつもお前のために……」
 階段を降りながら、ぶつぶつ呟く。台所では、今朝雅臣が作ったビーフシチューが火にかけられていた。
「まぁくん、ありがとうなぁ」
「んー」
「後でナギくん起こしたって」
「あー……ナギ、起きたよ。風呂入るって」
「あ、そうなん? ほなええわ」
 母との会話をしながら、上階で凪斗がどうしているかを考えた。すると、自然と先ほどの、行為の最中に見た彼の顔や声が眼裏に蘇ってくる。
——あかんあかん。親の前で何考えてんねん。
 首を振り、ため息でかき消す。
——ナギのアホ。
 果たして、この日をきっかけに雅臣の中で凪斗への好意ははっきりと形を帯びたものへ変わった。しかし、これ以降に肌を重ねることは一度もないまま、2人は別々の大学へ進学することになった。




=======================

⚫︎あとがき的な⚫︎

 この話の時点では雅臣は高卒のつもりでしたが、結局凪斗と一緒にモラトリアムしたくなり、凪斗の通った大学から自転車で移動できる距離にある私立大学に進学することになりました。

 凪斗は男性とセックスしたのはこれが初めてだったのですが、心の中で初めてが雅臣でよかったと思っています。思ってるだけで口には出さない。
 同時に、男女関係なく雅臣の初めては絶対自分だろうと思っていたので、雅臣がすんなりコンドーム着けたのが気に入りませんでした。





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