上 下
11 / 66
1章~石版の伝承~

11.~ロディとミユカ~

しおりを挟む
次に目を開けると天井が見えた。
…あれ?たしか俺は、崖から落ちて・・・

「…此処は?」

「僕の家だよ」

すぐに声が返ってきてジンは声のするほうに視線を向けた。
まだ幼い15歳くらいの茶色の髪と蒼い目を持つ少年が立っていた。

「…君は?」

「僕は、ロディ」

「みゅう」

ジンの寝ていたベッドの中からリアンが顔出した。

「…俺はジン、こいつはリアンだ」

「よろしくジン、リアン」

にっこり笑ってロディがリアンの頭を撫でていると奥の扉が開いて女の人が中に入ってきた。

「あら、気がついたようね」

「ミユカねーちゃん!」

ミユカと呼ばれた女性は手に救急箱を持ち、ジンの方に近付いてきた。

「ロディ、傷の手当をするから部屋を出ててもらえる?」

「…‥うん…」

渋々ロディは部屋を出て行った、それを見計らったようにミユカはジンの横たわるベッドに座り救急箱を開けた。

「体起こせるかしら?」

「…ん‥」

肘を突き体を重そうに動かす。
足には薬草と包帯が丁寧に巻かれてあった。

「少ししみるけど我慢してね」

此処は人間の町だから、魔族だとばれるのは不味いだろうな…。そんなことを考え素直に手当てを受ける。
ミユカは擦り傷などの傷口に消毒とすり潰した薬草をつけていく。

「ああ、ありがとう…」

羽根以外の手当てを受け、薄い質素な布で体を包むと、ミユカは静かに”まだ終わってないわ”と告げた。

「え?」

「あなた、魔族でしょう?」

「!」

一瞬驚いてミユカを凝視してから、警戒するように翠色の瞳を細めた。

「大丈夫、危害を加えようってわけではないの」

「…・」

「崖の下に羽根がたくさん散らばっていたの…あの様子だと…みせてもらえない?」

「…・何をする気だ?」

「手当てをするわ」

「…」

ミユカはジンの後ろに回りこんで背中にそっと触れた。

「羽根を…」

ジンは渋々翼を広げた、完全にひろげるにはこの部屋は少し狭い…。
漆黒を纏った美しい羽根がその姿を現した。左の羽根がおかしな方に僅かに曲がっているのが目に付いた。

「…左の羽根…折れているわね…」

そういって、左の羽根に触れてみると柔らかい手触りで黒が際立っていて美しい。

「ッ…ぅッ…!」

激痛に襲われ顔を歪めながらミユカを見上げた。

「ごめんなさい、あまりに綺麗で…」

「…」

ミユカから視線をはなし俯いて目の前にいたリアンを抱きかかえて、気分を紛らわせるように頭を撫でた。
ミユカは羽根に丁寧に薬草をすり込ませた包帯を巻いていく。
きつく縛るたびにジンは”うッ‥”と呻き声を上げてミユカを見た。

「次はこっちね」

右の羽根にミユカが触れると、ジンは広げていた羽根を動かし閉じ、”こっちはなんともない‥”と呟いた。
敏感な羽根をあまり知らない他人に触らせるのは嫌だ、変な気分になる。

「そうね、けど、手入れをしないと使えなくなるわ」

それもそうだけど…

「…」

「背中、手が届かないでしょ?」

ミユカの手にはブラシが握られていた。
この女なかなかやる…人間なのに魔族を怖がらないどころか…手玉に取ってる…。
渋々従い、羽根を再び広げた。
ミユカが嬉しそうにそっと優しく羽根にふれた途端、ジンはビクッと体を縮めて目を瞑った。
体が小刻みに震え熱くなる、だから他人に触られるのは嫌なんだ…・。
火照った顔をリアンに埋めて膝を抱え丸まった。

「随分敏感なのね、魔族の羽根って?」

「…鍛えれない上に、常に裸のようなものだからな‥」

リアンに顔を埋めたまま、片方の目だけを上目遣いにミユカに向けていった。

「…もういいだろう?」

「そうね…だけど羽根は2枚だけじゃないでしょう?」

これには驚きを隠せずにリアンから顔を離してミユカを暫く凝視し、観察するように見つめた。

「あんた、何者だ?」

「普通の人間よ、ただ…」

「ただ?」

眉を顰めてミユカを見据えた。

「少し目がいいだけよ」

そういう彼女の片目は黄色い異質な色を放っていた。人間でこの色は通常ありえない…。さっきまでは両方茶色だったのに。

「…魔族の目か?…では全て見えているのだな」

苦笑してミユカを見据えた。
どういう経緯で手に入れたかは知らないが…。普通の人間が使うには危険な代物だ。

「さぁ、残りの羽根をだして、手入れをしてあげるわ」

ミユカには最初ジンが大きな6枚の虹色の翼を持った白銀の龍の姿に見えていた、それは合えて口にしないけど。

「……」

おとなしく従い残りの4枚の漆黒の羽根を広げた。

「‥ま、てッ‥そんなとこまで、やめ…ぅあ‥ッ…」

全て終わるころにはミユカは満足そうな表情をしていて、ジンはぐったりベッドにうつ伏せに埋もれていた。
「…~~~ッ」

羽根は艶々になってさらに美しさをかもし出していた。羽根を仕舞い疲れたような表情でミユカを見上げた。

「もう少し待っていてね、食事を持ってくるわ」

ミユカが部屋を出るとロディが換わりに入ってきた。

「ジン?」

「…何だ?」

気だるそうに顔を埋めたまま口を開く。

「…大丈夫?」

「…ああ、何とか」

ロディに視線を向けると、心配そうに顔を曇らせているロディが見えた。
ジンは苦笑して手を伸ばしロディの頭を撫でた。

「?!」

「…なんて顔してる、お前の方が大丈夫か?」

からかわれたと思ったロディはジンの手から逃れ、”子ども扱いするなよ!”と叫んだ。

「ああ、それはすまなかったな」

「もうッ!ミユカねーちゃんにいいつけてやるッ!」

「悪かったって‥機嫌を直してくれ」

苦笑交じりにどうにかロディを宥めたところにミユカが部屋に入ってきた。
手にはいくつかの果物とスープ、そしてパンがのったおぼんをもっていた。

「すっかり仲良しね?ロディ」

ロディは蒼い瞳をミユカに向け嬉しそうに頷いた。
おぼんを手渡されて小さく呟く。

「すまない‥」

「気にしないで、さぁ食べて、ゆっくり休んで」

ミユカはそういい、ロディを連れ部屋を出て行った。
1人残されたジンは渡された食事に手をつけた。
久々に口にしたような感じがする。
スープを喉に流し込むと一気に体が熱を帯びたように温かくなった。

「みぅ‥」

「リアン、お前も食うか?」

「みぅ?」

リアンの鼻先に果実を差し出す、リアンはクンクン匂いを嗅いでから一口カプリと齧った。

「み‥!」

吃驚したように目をさらにまん丸にしてジンを見上げた。
これにはジンも吃驚して”どうした?!”とリアンを覗き込んだ。

「みッみみッ!」

小さな手をバタつかせてジンの持つ果実を見つめている。

「何だ、うまかったのか?」

安心したように溜息を吐きリアンに果実を差し出すと、うまそうに目を細めてかじりついた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

性癖の館

正妻キドリ
ファンタジー
高校生の姉『美桜』と、小学生の妹『沙羅』は性癖の館へと迷い込んだ。そこは、ありとあらゆる性癖を持った者達が集う、変態達の集会所であった。露出狂、SMの女王様と奴隷、ケモナー、ネクロフィリア、ヴォラレフィリア…。色々な変態達が襲ってくるこの館から、姉妹は無事脱出できるのか!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

処理中です...