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二等兵

情報屋

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 レイフォンスの救出を終えた翌日は休日となった。各班のリーダーが集計したデータを元に上層部において試験結果が判断される。
 もちろんレイフォンスは河川へ連れ戻した後、すぐに意識を覚醒させヘンリー先輩から説教されたのは言うまでもないだろう。

 今回の試験は実践に間違いはないが、これはあくまでも試験だ。しかしこれが配属された後の任務だった場合、謝罪だけではすまないことだ。

 一人の無茶な行動が隊員の命に繋がることも少なくない。今回のレイフォンスのような行動は正に処罰対象になるほどの行為だ。
 
 帝国軍の試験は誰でも受験することができるが一度入ってしまえば自由を失う。訓練は辛く、規律は厳しい。訓練の辛さに嫌気が差せばそのまま簡単に辞めることができるが規律を犯したならば簡単に辞めることはできない。

 さすがにちょっとした規律違反では処刑されないが最悪の場合は有り得ることだ。

 今回のレイフォンスの失敗は訓練であり、人命にも関わっていないので処罰は軽いものだろう。
 その内容は聞かされていないので詳しくはわからないが謹慎くらいだろうと予測はつく。


 久々の休日を謳歌できるというのにレイフォンスは自宅謹慎なんて可哀想だと思うが自分でしたのことなので仕方ない。


 アルスは休日を精一杯謳歌するべく、あるところにやって来ていた。
 ーーーというのは嘘なのだが、ある場所にやって来たというのは本当のことだ。

 アルスが訪れたのは酒場だった。だがその入り口の扉には準備中の看板が立てられている。現在の時刻は昼間ということもあり、昼間から酒場を開いている場所は珍しい。
 だがアルスは躊躇することなくその扉を叩く。

 しかし普通に叩く訳ではない。初めに二回叩き、感覚を置いて一回そして三回叩く。


 ーーートントン……トン……トントントン。


 その音に応答するように同じリズムで内側から音が鳴らされる。


 「特別なモノを注文したい」


 アルスは含みのある言葉を放つ。すると中から強面の男が扉を開け現れる。しかし出すのは顔だけであり、それ以外は出さず、いつでも扉を閉めれるようにしている。


 「……うちは昼間はやっていない」
 「いや、この場所でこの時間しか注文できないモノだ」
 「……入れ」


 アルスは満足そうに頷きその酒場へと入る。もちろんその中には強面の男しかおらず、妙な静けさがあるだけだ。
 歩く度に軋む床が上げる音は何故か不快な思いを抱かせる。


 「……お前が注文したいっていうのはあの扉の向こうだ」
 「どうも」


 アルスは男の言葉に素っ気なく言葉を返すと指を指された扉の方へと歩き、その扉を開ける。
 扉の向こうは小さな個室。部屋の中には椅子だけがあり、その椅子に一人の男が座っているだけだ。


 「はじめましてアルス様、貴方の訪問を心よりお待ちしておりました」


 そう声を掛けてきたのは紫色の髪をした青年。青年といってもアルスよりは二つ、三つ歳上だろう。
 身長はアルスと同じくらい高く、燕尾服を着こなし、上品な雰囲気を醸し出している。
 青色の瞳は透き通っているが何処か禍々しさを感じさせるのは間違いではないだろう。
 上品な顔立ち、上品な服装に合わせるように片眼鏡をしているがその片眼鏡からは僅かながら魔力を感じるため、それが魔道具であることを見抜くのは容易い。


 「私に名前などありませんが皆さんは私のことを“情報屋”と呼びます。アルス様もどうぞ“情報屋”とお呼びください。アルス様もそれが御望みの品だと思われますが?」
 「あぁ、ヨハネスという名の少女の事について知りたい」


 そうアルスの目的はレイフォンスを助けたと思われるヨハネスという少女の件についてだ。
 ヘンリー先輩や他の班員はレイフォンスの極度の緊張と疲労からきた幻覚だと最終的に判断したようだがアルスは違った。

 確信がある訳ではないがレイフォンスが倒れた現場にはほんの僅か、レイフォンスとは違う魔力の残滓があった。

 つまりはその場にはレイフォンス以外に魔物以外の生物がいたことを表している。



 「ヨハネス……う~ん、聞いたことはあるのですがねぇ。どうも思い出すことができませんねぇ」
 「……独特の服装をした少女だそうだ。歳は十二歳前後で左目が赤色、右目が金色のオッドアイだ」
 「うーん、思い出せそうにありませんね。お力になれず申し訳ないですアルス様」


 “情報屋”は必死に頭を捻り、思い出そうとする。いや思い出そうとするフリをする。その仕草は薄っぺらく演技だとまるわかりだ。

 情報を求めているのはアルスであり、それに相応しい対価が要求されているのだ。

 “情報屋”が求めているのは一つしかない。それはーーー


 「これで思い出すか?」


 アルスが指で弾き“情報屋”へ渡したのは金貨だ。金貨一枚は二等兵の給料の二ヶ月分に相当する金額だ。


 「あぁ、思い出せましたアルス様! これでアルス様のアルス様の御力になれそうで一安心です」
 「……早く話してくれ」
 「おっとこれは失礼。ヨハネスと言われる人物については情報は少なくあまり集まっておりませんがお話させていただきます。
 ヨハネスはユニーク魔法の使い手だと思われます。」


 ユニーク魔法とは特異属性のとこであり、固有魔法とも呼ばれているものだ。


 「その内容は詳しくしりま……おっとッ」


 “情報屋”は演技臭い声をあげ笑みを浮かべる。それもそのはず、“情報屋”が話している途中にアルスが金貨を二枚飛ばしたからだ。
 それはアルスの給料六ヶ月分である。


 「全て話せ」


 アルスは威圧に魔力を含ませる。これは“魔圧”と呼ばれる技法であらゆる物や言動に魔力を含ませ、その効果を高めるというものだ。


 「……ッ! これは失礼。正直アルス様を過小評価しておりました。これまでの御無礼御許しください」


 その“情報屋”の立ち振舞いには一切道化のような印象は抱かない。


 「闇ギルド『頂』……その名は御存じでしょう?」
 「ッ!」

 今度はアルスが驚く番だった。闇ギルド『頂』の行いは世界共通で有名だからだ。


 「少数精鋭の闇ギルド『頂』……その構成人数は恐らく七人。傾国級犯罪者グレン・ベスポアをトップとして、そのグレンを守る六人の幹部。その内の一人が“具現”のヨハネスです」
 「……“具現”……だと」
 「そうです。彼女の特異属性は“想像”。そしてユニーク魔法の名は“具現”。彼女は自らの想像を魔法にすることのできる恐ろしい魔法士です」
 「……まさかこの国で何かするつもりじゃないよな」
 「……アルス様の予想は正しい。『頂』の構成員がこの国で多数確認されています」


 アルスは思いもしないところで驚異が迫っていることを知ったのだった。





☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

どうも凍洞つららです。
王国との対決はまだ先ですがやっと物語が動き出したような気がします。
物語の進行速度が予想以上に遅くて大変です(笑)


感想や誤字報告もどんどんお待ちしていますので今後も『捨てられ王子の復讐記』をよろしくお願いします!

 
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