転移英雄は異世界の中で

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転移英雄は見知らぬ星の中で

旅立ち

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 「雄一とルナ、お前らはもうこの国から出ろ」

 「「いきなり過ぎない?!」」

 朝早く冒険者ギルドでロイドにそう告げられた。
 ルナはテンパりながらロイドに問う。

 「え?私達何かやった?」

 「お前らが一部の貴族がお前達を国政に巻き込もうとしてる。だからその前に一旦この国から出ろ」

 「お前が大丈夫だからって言ったろ?!」

 「そこは本当にすまなかった!ここまで事態が大きくなるとは思わなかった!罪滅ぼしだが、特例として試験無しでCランクに上げる。冥主教の幹部相手にこの国を守ったから実力は充分だ」

 ……まぁCランクに上がったのなら良いか。成り行きでこうなったんだ。旅立ちの動機としては充分じゃないか。

 「いつか戻ってきた時メシ奢れよ?」

 「その時は満足いくまで食わせてやる!」

 「よしルナ、今度ロイドに会ったらロイドの奢りで高級飲食店で食いまくるぞ!」

 「合点承知!!」

 「お、お手柔らかに頼むぞ!」

 「「無理だね!!」」

 他愛のない話をしながら旅立ちの準備をする。と言ってもそもそも道具が少ないのでそれもすぐ終わるが。
 やる事も終わらして、暇になった所にルナが言う。

 「ねぇ君。次の目的地どこ行く?」

 「あー、決まってなかったよな」

 俺的にはこの世界の情報がもっと欲しいから本が読める所に行きたいのだが……。

 「なぁロイド。沢山の書籍とかがある所知らないか?出来れば自由に閲覧できるので」

 「うーむ、エルフ領だったら歴史が古いから信憑性は高いが、自由に閲覧は出来ないと思う。管理体制が厳重だからな。だから『世界国家エイレーネ』に行ってみたらどうだ?」

 「世界国家エイレーネというと……、人間が一番最初に造った国家の事だよね?」

 「お、ルナ流石にこれは知ってるか!お前らの事だから分からないと思ってたんだが、杞憂だったか!」

 ルナはの地図を暗記している。そこから情報を得たのだろう。

 「エイレーネはがあるから目的は果たせるんじゃないか?」

 「成る程。じゃあ次の目的地は世界国家エイレーネだ!」

 「よし!行こう!」

 決意は固まった。次の目的地は世界国家エイレーネ。新たな冒険に胸が昂ってくる。
 と、ロイドが思い出したかのように補足をつける。

 「あ、確かエイレーネで勇者召喚がされたらしいぞ。噂だが無事成功したらしい」

 「「勇者……!」」

 勇者か……!確かこことは別の世界から来た人間なんだろ?もしかしたら俺達と近い世界線の奴らかも知れない!

 「是非勇者には会いたいねぇ」

 「よく街の人と接している所を目撃されているらしいから会おうと思えば会えるんじゃないか?」

 「よし、ますます行きたくなってきた!今すぐにでも行くぞ!」

 「ちょっ!ちょっと待ってよ君ぃ!あ、ロイド!もしここにライドウ達が来たらエイレーネに行ったって伝えといて!じゃあね!」

 「最後まで慌ただしい奴らだ!じゃあな!また来いよ!」

 少量の荷物を持ちギルドから出る。
 幸い馬車の時間はまだ先だから急がずゆっくり行くか。
 そう思っていると、隣にいるルナが上機嫌な顔をしているところが目についた。

 「ん?ルナ、どうした?」

 「いや何、こうやって街を転々とするのも前の世界ではやってた事だけど、ここまで楽しかったのは初めてだと思ってね!これはもう、とことん冒険を楽しむしかないじゃないか!雄一!」

 「あぁそうだな!これも冒険の醍醐味!気楽に行こう!」

 「おー!!」

 上機嫌で街を歩く。
 美味しそうな食べ物がある屋台に、あの異変の時よりも元気がある喧騒。どれもこれも少しこの国にいただけで懐かしく思えてしまう。
 だがそこに生まれる感情は寂しさじゃない。またいつかこっちに戻ると分かっているってのもあるが、妙に気分が爽快だ。
 と、ルナが神妙な面持ちで喋る。

 「ねぇ雄一。これが君が救った街だよ」

 「あぁ。前の世界では見れなかった光景。これを見るとさ、俺は世界が救いたかったんじゃなくて俺の身の回りが幸せで居てくれたらそれで良いって、そう思ってた時期を思い出すんだ」

 「あの時の君は純粋だったね。だけど身の回りの幸せを一度も見る事はなく、裏切られ君はここに来たんだけどね」

 「……なぁルナ。前の世界だと世界を救う事しか選択肢が無かったが、もう俺の勝手にして大丈夫だよな?」

 俺はルナに問う。と、ルナはさも当然かの如く即答した。

 「君は一度強制的に一つの世界を救ったんだ。もう誰も君のやる事に口なんか出さないよ!」

 「……分かった!じゃあ俺は自分の思うままに周りの人達を幸せにしよう!」

 「子供だった頃の思想に戻ったね!いや、原点回帰と言うのかい?」

 「何でもいいさ!じゃあルナ!そんな俺に付いてきてくれるか?」

 「勿論さ!!私は君の相棒だからね!!」

 そんな談笑をしながら待合所に着く。
 この国に来てから数週間、異変も起きたが何とも楽しい時間だった。気持ちも一新して気分爽快!旅立ちにはもってこいだ。

 「さぁ、行こう」

 「そうだね」

 「2人とも!待って!」

 「「!!グレース!!」」

 馬車に乗ろうとした時、走って来たグレースが2人を静止させる。
 何とも汗だく。どうやら出発する事を小耳に挟んでここまで来たのだろう。

 「あの!この国を救っていただきありがとうございました!この恩は一生忘れません!!」

 そう言うなりグレースは深々と頭を下げる。

 「大丈夫、俺達はやるべき事をしただけだよ」

 「本当は国をあげての祝福をしたい所ですが、まだお父様達が目覚めておらず……」

 「その気持ちだけで充分だよグレース」

 「ですが私はまだ貴方達に何も返せてないですよ!」

 「うーん、それじゃあ俺達と友達になろう!またいつか会った時、一緒に美味いもんでも食いに行くか!」

 「は、はい!!また貴方達が来るのを待ってます!」

 俺達は馬車に乗り込む。最後の俺達を待ってくれていたのだろう。俺達が座り数秒してから出発した。

 「それじゃ!また会おう!」

 「バイバイ!グレースちゃん!」

 「さようならー!また会いましょうねー!!」

 手を振り返し、さよならを告げる。
 その間にも馬車は進み数分。手を振っていたグレースはもう米粒くらいの大きさにしか見えなくなっていた。
 と、馬車に揺られながらお菓子を頬張るルナが話す。

 「次の街では何をするつもり?」

 「えっと、まずはこの世界の歴史を知って、この世界の知識を増やす事かな。この数週間、無知が一番恐ろしい事に気付いたからね」

 「じゃあ現在の目標は大まかに見て世界の歴史を知るって事でOK?」

 「それも何だけど、後は勇者に会う事!もしかしたら同郷の者かも知れない!一度会いたいだろ?」

 「分かった!じゃあ直近の目的は勇者に会う事と歴史を知る事!これを目標に頑張ろう!」

 「おー!!」

 2人は馬車の中で静かに目標を立てる。
 『世界国家エイレーネ』。そこではどんな事が待ち受けているのか、2人は新たな街に心を躍らせていた。
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