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番外編
金色の綿毛
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ふわふわと白い物が宙を舞っていた。
吹く風に攫われる様に。
青い空の下で、風に流されるまま、風の気の向くままに。
白い白い綿毛が、舞っていた。
ふわふわと何時までも何時までも。
ふわふわとふわふわと何処までも何処までも。
◇
「…んあ…? …夢…?」
鼻にふわふわとした物が触れて来ていてくすぐったくて、俺は目を覚ました。
俺達が今居るのは、何処かの街の何処かの宿屋だ。
ポチは『主と同じ屋根の下では休めない』と言って、外で寝ている。難儀な奴だ。
その宿屋の一室。
ベッドは二つあるが、俺とリントは同じベッドで寝ていた。
「…ああ…」
俺の鼻に触れていたのは、リントの髪の毛だった。
ふわふわのそれは、まるで金色の綿毛の様な。
「…ふ…」
小さく笑って手を伸ばし、目の前にあるその髪に手を差し入れ、指に絡ませる。
柔らかくて、すべらかな髪。
俺は、リントのこの髪が好きだ。
くるくると巻いている髪だが、指で引っ張ると真っ直ぐになる。が、指を離すと直ぐにくるんと丸まる髪。
面白い。
くるくると表情が変わるリントを表している様だ。
記憶を失くす前の俺も、きっとこの髪が好きだったのだろう。
でなければ、きっとこんなには惹かれない。
≪…何、似合わない事をしてるのさ≫
うお!
いきなり話し掛けるなよ、タマ。驚くだろ。
≪何、驚く必要があるの? 何か悪い事でもしようとしたの?≫
するかよ。
ただ、髪を弄ってただけだろうが。
「…ん…」
っと。
静かにしろよ、タマ。
リントが起きちまう。
俺の胸の辺りにある、丸められた手をそっと掴む。
伝わってくる熱に、自然と頬が緩むのが解る。
ずっと、守って来たんだよな。
失くした記憶は惜しいと思うが、こいつが居るなら、これから先もずっと傍にいるのなら、そいつは不要だろう。
失くした記憶の分も、こいつと思い出を作って行けば良い。
あんな綿毛みたいに飛んで行ってしまわない様に。
≪はーい、はい、御馳走様≫
うるせえ。
まだ、夜明け前だな。
もう一眠りするか。
「…ありがとな…」
俺が忘れても、お前は覚えていてくれるんだろ?
俺の想いも何もかも。
なら、それで良い。
お前が、俺を忘れないのならそれで良い。
それだけで良い。
リントの髪を梳いて、その髪に顔を埋めて、俺は小さく囁いた。
◇
ドッドッドッドッドッと、心臓の音が五月蠅い。
な、何だよ、今の!?
トーヤのくせに何してんだよ!?
俺が起きてる時は、そんな事しないくせに!
めちゃくちゃ甘かったぞ!?
ありがとうって、何だよ!?
途中から起きてて、寝たフリしてた事か!?
いやいやいやいや!
ここ数日何もしてないから、おかしくなったのか!?
いやいやいやいやいや!
トーヤからの誘いなら何時でも乗るけどっ!!
いやいやいやいやいやいや!
ああ、もう、気持ち良さそうに寝息立てんな!
くそー、もう寝られねえーっ!!
トーヤの馬鹿野郎ーっ!!
吹く風に攫われる様に。
青い空の下で、風に流されるまま、風の気の向くままに。
白い白い綿毛が、舞っていた。
ふわふわと何時までも何時までも。
ふわふわとふわふわと何処までも何処までも。
◇
「…んあ…? …夢…?」
鼻にふわふわとした物が触れて来ていてくすぐったくて、俺は目を覚ました。
俺達が今居るのは、何処かの街の何処かの宿屋だ。
ポチは『主と同じ屋根の下では休めない』と言って、外で寝ている。難儀な奴だ。
その宿屋の一室。
ベッドは二つあるが、俺とリントは同じベッドで寝ていた。
「…ああ…」
俺の鼻に触れていたのは、リントの髪の毛だった。
ふわふわのそれは、まるで金色の綿毛の様な。
「…ふ…」
小さく笑って手を伸ばし、目の前にあるその髪に手を差し入れ、指に絡ませる。
柔らかくて、すべらかな髪。
俺は、リントのこの髪が好きだ。
くるくると巻いている髪だが、指で引っ張ると真っ直ぐになる。が、指を離すと直ぐにくるんと丸まる髪。
面白い。
くるくると表情が変わるリントを表している様だ。
記憶を失くす前の俺も、きっとこの髪が好きだったのだろう。
でなければ、きっとこんなには惹かれない。
≪…何、似合わない事をしてるのさ≫
うお!
いきなり話し掛けるなよ、タマ。驚くだろ。
≪何、驚く必要があるの? 何か悪い事でもしようとしたの?≫
するかよ。
ただ、髪を弄ってただけだろうが。
「…ん…」
っと。
静かにしろよ、タマ。
リントが起きちまう。
俺の胸の辺りにある、丸められた手をそっと掴む。
伝わってくる熱に、自然と頬が緩むのが解る。
ずっと、守って来たんだよな。
失くした記憶は惜しいと思うが、こいつが居るなら、これから先もずっと傍にいるのなら、そいつは不要だろう。
失くした記憶の分も、こいつと思い出を作って行けば良い。
あんな綿毛みたいに飛んで行ってしまわない様に。
≪はーい、はい、御馳走様≫
うるせえ。
まだ、夜明け前だな。
もう一眠りするか。
「…ありがとな…」
俺が忘れても、お前は覚えていてくれるんだろ?
俺の想いも何もかも。
なら、それで良い。
お前が、俺を忘れないのならそれで良い。
それだけで良い。
リントの髪を梳いて、その髪に顔を埋めて、俺は小さく囁いた。
◇
ドッドッドッドッドッと、心臓の音が五月蠅い。
な、何だよ、今の!?
トーヤのくせに何してんだよ!?
俺が起きてる時は、そんな事しないくせに!
めちゃくちゃ甘かったぞ!?
ありがとうって、何だよ!?
途中から起きてて、寝たフリしてた事か!?
いやいやいやいや!
ここ数日何もしてないから、おかしくなったのか!?
いやいやいやいやいや!
トーヤからの誘いなら何時でも乗るけどっ!!
いやいやいやいやいやいや!
ああ、もう、気持ち良さそうに寝息立てんな!
くそー、もう寝られねえーっ!!
トーヤの馬鹿野郎ーっ!!
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