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ほんぺん

じゅういち

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『それでは、皆さん、ごきげんよう~』

 まだ、射出を続けている男達の姿が次々に消えて行く。スンフォエが次から次へと、それぞれの国、街へと転移させているのだ。

「…何と云う恐ろしい男だ…」

 あの状態のまま、それぞれの城なり、街の往来なり広場なり、ともかく、人の目の多い処へと放り出されたらどうなるのか…それを想像した魔王は、ぶるりと身体を震わせて、両手で身体を抱き締めた。
 あの男は、人の皮を被った悪魔だ。
 スンフォエの声は常と変わらず、朗らか…いや、それよりも、はつらつとしていた。
 あれは、人好きのする笑顔を浮かべながら、平気で人を殺せる男なのだ。
 現に、魔王は二回も魂を抜かれている。一回目は記憶に無いが。
 ぞわぞわと悪寒が背筋を這い上がって来て、魔王は更に強く身体を抱き締めた。

「寒いんですか?」

「ひょっ!?」

 耳元で上がった声に、魔王は文字通り飛び上がり、ついでに天井に突き刺さって、脚をぶらぶらとバタつかせた。

「ああ、驚かせてしまいましたか? 彼らを追い返しましたから、もう、何の心配もありませんよ? 当分はどの国も、こちらには近付かないでしょう。海が近くにある国には、その近辺の海に。海が無い国は、それぞれの川に。先程までの出来事を繰り返し映し出してくれるようにお願いしましたから」

 スンフォエはベッドへと上がり、天井に頭…角で天井を突き破った…を刺して、抜け出せないで居る魔王の脚を両手で掴みながら笑う。
 魔王は普段、角を隠している。
 それは、邪魔になるからだし、時々にドアに引っ掛かったり、ヘリに刺さったりするからだ。なのに、今、こうして角を出してしまったのは、本当に心底驚いたからだ。
 
「き、貴様は本当に何者なのだっ!? 私を利用してどうするつもりだ!?」

 にこやかなスンフォエの声に、魔王は掴まれた脚を更に強くバタつかせるが、スンフォエの手の力は緩まない。

「利用? 俺が魔王様を? そんな、恐れ多い。利用されるのは、俺ですよ? どうですか? 俺は役に立ちましたか?」

 役に立ったか、立たないかと問われれば、役に立ったと答えるしかない。
 恐らく、いや、間違いなく、ここで射出させられた奴らは、社会的に抹殺されたような物だし、魔王が目にした物と同じ物を目にすれば、男共は誰一人として、ここへ近寄りたくは無いだろう。ついでに、ここで魚介類を手に入れようと云う者も。誰が好き好んで、不特定多数過ぎる精液に塗れた海の魚介類を口にしたいと思うだろうか? 魔王とて、口にしたくはない。まあ、ボッチになってからは魚介類などは口にしていないから、問題は無いが。
 そう。
 魔王はこの島を襲う者達から食料を奪っていて、自分で街へと転移して買い物をしたりとかはして来なかった。海で魚や貝を獲るだなんて、思い付きもしない。
 だって、魔王だもの。
 ボッチになるまでは、周りの者が世話を焼いてくれていたんだもの。
 買い物なんてした事も無ければ、見た事も聞いた事も無い。何それ、美味しいの? 状態だ。だから、魔王は奪った物でしのぐ事にしたのだ。そして、奪った食料を時間経過の無い、スンフォエが持っていた収納袋のお部屋バージョンを作り、そこへと保管して、それらをチマチマと食べて日々を過ごしていたのだ。
 そんな訳で、スンフォエは確かに役には立ったが、余計な事をしてくれたとも言える。

「これから、どうやって食料を調達すれば良いのだ!?」

 そんな心の叫びが、魔王の口から出てしまったのも仕方が無い。血を吐く様な叫びだったが、スンフォエは脚に抱き付いているし、魔王の頭は天井の上だし、それを見上げるスンフォエには魔王がどんな表情をしているのかは解らない。しかし、グズグズとズビズビとした音が聞こえれば、凡その想像は付く。

「ええと…あの…気付いているかどうかは…いや…気付いてませんね? これまでに俺が作って来た料理は、俺が街で仕入れて来た食材で作った物なんですけど…お金は、国庫から戴いて来たので、当面の心配は要りませんよ? だから、泣かないで下さい」
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