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ほんぺん
きゅう
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『がー! がー! がー!』
と、魔王の叫びがエコーする。
しかし、怒鳴られた当の本人はと言うと。
「いやあ、本当に来るなんて思わなかったですよ。それも、こんなに早くに。まだ親交を深めきっていないのに。宝物庫のお宝は残して来たし、隠し金庫の方も手を付けずに来たんですけどね。そんなにそっちに手を付けたくないんですかね。ケチですね」
変わらぬ朗らかな笑顔のままで、軽く後頭部を掻いていたりする。
何してくれてんの!? 貴様の血の色は何色だ!? と、魔王は叫びたかったが、ピシッピシッと云う音は鳴り止まず、島を覆う結界の崩壊が近い事を示していた。
「ああ、大丈夫ですよ。彼らは俺が追い払いますんで、魔王様はそのままプリンを食べていて下さい」
何て事はないようにソファーから立ち上がるスンフォエを見て、魔王は両手で頭を抱えた。
「…この状況で食える程図太くはないわ。これまでとは比べ物にならぬ程の力を感じる。どんな聖女を召喚したと云うのだ…」
「ええとですね…ケチ国の聖女さんが一人と…おやおや…勇者も召喚したんでしょうかね? ああ、近隣諸国の旗も見えますね。なるほど、聖女さんが三人に、勇者が二人…後は、冒険者やら騎士団やら…んー…軽く見て千人は居ますかね? なるほど、この人数なら、あと数分もしない内に島の結界は壊されそうですね。こんなに綺麗な結界なのに、何て無礼な人達なんでしょうね?」
「…いや…貴様…その水晶は何だ?」
ごそごそと、先程出して見せた巾着袋からスンフォエが取り出した物を見て、魔王はその丸い物体を指差した。
「え? ああ、これですか? ここへ来る前に、海にお願いしていたんですよね。魔王様に敵意を持つ者が来たら教えてって。海が見た物がこの水晶に映るんですよ。はい、これ差し上げます」
「…海…」
海とは? と、魔王は聞こうとして、止めた。
スンフォエが語った話が真実ならば…いや、真実が紛れているのだとすれば、スンフォエは土と対話をした事があるのだ。今更、海と話してお願いなる物をしていたとしても驚くまい。水晶には、海を見下ろす感じで島の全体像と、その島を囲む様に何十隻もの船が映し出されているが、気にしては駄目だ。スンフォエの事だから『空にもお願いしました』と、へらっと言いそうだ。
「じゃあ、俺は番犬の仕事をして来ますんで、そこで見ていて下さいね。裸にひん剥いて、食料等を奪って、追い返せば良いんですよね? でも、それだと、これまでと同じ様にまた来るでしょうから、少し趣向を凝らしますね」
一歩歩き出そうとしたスンフォエの肩を、水晶をテーブルの上へと置いて、ソファーから立ち上がった魔王が掴む。
「どうしました?」
不思議そうに首を傾げるスンフォエの緑の瞳を覗き込む様にして、魔王は口を開いた。
「いや、私も出る。数が多過ぎる。大体、貴様は何故そんなに落ち着いておるのだ。…さては、私の番犬とは方便で、奴らを手引きするつもりなのだな?」
「いやですよ、魔王様。俺が、どうやってここへ来たのかお忘れですか?」
「…どうって…結界をすり…」
すり抜けて不法侵入をと、言い掛けて魔王は目を瞠った。
そうだ。こいつは今もなお、結界を壊そうとしている奴らとは違い、結界に何の損傷も与えずにやって来たのだ。これまでに、そんな簡単にここへ来た者等居ない。島の結界を破壊された事はあっても、館の結界は壊された事は無かったのだ。
「それに。魔王様に害を成そうとしたら、俺は何時でも出来るんですよ? 実際に魂を抜いて見せたじゃないですか。あれ、あのまま魂を肉体に戻さなければ、魔王様は今頃死んでいますからね?」
「…いや…魂を抜かれた時点で死んでいるのでは…」
そう云えばそうだったと、魔王はスンフォエの肩に置いていた手を離し、額を押さえた。
「…貴様は…本当に何者なのだ…」
「ただの生まれながらの聖者ですよ。…他に、色々と勉強はしましたけどね」
呻く様に問う魔王に、スンフォエは変わらぬ笑顔で答えた。
「勉きょ…」
そして、勉強とは? と、再び問おうとしたが、それは出来なかった。
額を押さえていた手を取られて、スンフォエの顔が近付いて来たと思ったら、唇に何やら温かい物が触れて来たからだ。
「…は…?」
瞬きを繰り返す魔王に、スンフォエは少しだけ照れくさそうに笑う。
「…訂正です。魔王様が好きな、ただの勉強好きな聖者です」
そして、スンフォエは魔王の前から姿を消した。
と、魔王の叫びがエコーする。
しかし、怒鳴られた当の本人はと言うと。
「いやあ、本当に来るなんて思わなかったですよ。それも、こんなに早くに。まだ親交を深めきっていないのに。宝物庫のお宝は残して来たし、隠し金庫の方も手を付けずに来たんですけどね。そんなにそっちに手を付けたくないんですかね。ケチですね」
変わらぬ朗らかな笑顔のままで、軽く後頭部を掻いていたりする。
何してくれてんの!? 貴様の血の色は何色だ!? と、魔王は叫びたかったが、ピシッピシッと云う音は鳴り止まず、島を覆う結界の崩壊が近い事を示していた。
「ああ、大丈夫ですよ。彼らは俺が追い払いますんで、魔王様はそのままプリンを食べていて下さい」
何て事はないようにソファーから立ち上がるスンフォエを見て、魔王は両手で頭を抱えた。
「…この状況で食える程図太くはないわ。これまでとは比べ物にならぬ程の力を感じる。どんな聖女を召喚したと云うのだ…」
「ええとですね…ケチ国の聖女さんが一人と…おやおや…勇者も召喚したんでしょうかね? ああ、近隣諸国の旗も見えますね。なるほど、聖女さんが三人に、勇者が二人…後は、冒険者やら騎士団やら…んー…軽く見て千人は居ますかね? なるほど、この人数なら、あと数分もしない内に島の結界は壊されそうですね。こんなに綺麗な結界なのに、何て無礼な人達なんでしょうね?」
「…いや…貴様…その水晶は何だ?」
ごそごそと、先程出して見せた巾着袋からスンフォエが取り出した物を見て、魔王はその丸い物体を指差した。
「え? ああ、これですか? ここへ来る前に、海にお願いしていたんですよね。魔王様に敵意を持つ者が来たら教えてって。海が見た物がこの水晶に映るんですよ。はい、これ差し上げます」
「…海…」
海とは? と、魔王は聞こうとして、止めた。
スンフォエが語った話が真実ならば…いや、真実が紛れているのだとすれば、スンフォエは土と対話をした事があるのだ。今更、海と話してお願いなる物をしていたとしても驚くまい。水晶には、海を見下ろす感じで島の全体像と、その島を囲む様に何十隻もの船が映し出されているが、気にしては駄目だ。スンフォエの事だから『空にもお願いしました』と、へらっと言いそうだ。
「じゃあ、俺は番犬の仕事をして来ますんで、そこで見ていて下さいね。裸にひん剥いて、食料等を奪って、追い返せば良いんですよね? でも、それだと、これまでと同じ様にまた来るでしょうから、少し趣向を凝らしますね」
一歩歩き出そうとしたスンフォエの肩を、水晶をテーブルの上へと置いて、ソファーから立ち上がった魔王が掴む。
「どうしました?」
不思議そうに首を傾げるスンフォエの緑の瞳を覗き込む様にして、魔王は口を開いた。
「いや、私も出る。数が多過ぎる。大体、貴様は何故そんなに落ち着いておるのだ。…さては、私の番犬とは方便で、奴らを手引きするつもりなのだな?」
「いやですよ、魔王様。俺が、どうやってここへ来たのかお忘れですか?」
「…どうって…結界をすり…」
すり抜けて不法侵入をと、言い掛けて魔王は目を瞠った。
そうだ。こいつは今もなお、結界を壊そうとしている奴らとは違い、結界に何の損傷も与えずにやって来たのだ。これまでに、そんな簡単にここへ来た者等居ない。島の結界を破壊された事はあっても、館の結界は壊された事は無かったのだ。
「それに。魔王様に害を成そうとしたら、俺は何時でも出来るんですよ? 実際に魂を抜いて見せたじゃないですか。あれ、あのまま魂を肉体に戻さなければ、魔王様は今頃死んでいますからね?」
「…いや…魂を抜かれた時点で死んでいるのでは…」
そう云えばそうだったと、魔王はスンフォエの肩に置いていた手を離し、額を押さえた。
「…貴様は…本当に何者なのだ…」
「ただの生まれながらの聖者ですよ。…他に、色々と勉強はしましたけどね」
呻く様に問う魔王に、スンフォエは変わらぬ笑顔で答えた。
「勉きょ…」
そして、勉強とは? と、再び問おうとしたが、それは出来なかった。
額を押さえていた手を取られて、スンフォエの顔が近付いて来たと思ったら、唇に何やら温かい物が触れて来たからだ。
「…は…?」
瞬きを繰り返す魔王に、スンフォエは少しだけ照れくさそうに笑う。
「…訂正です。魔王様が好きな、ただの勉強好きな聖者です」
そして、スンフォエは魔王の前から姿を消した。
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