色褪せない幸福を

三冬月マヨ

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【三】

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 幼いあの日から、墨一色だった僕の世界に色がついてゆきます。
 少しづつ、少しづつではありますが。
 冬の間、硬い大地の下で、そっと眠ります草花の種が、春になり、暖かくなって柔らかくなった大地から目覚め、芽吹いてゆきます様に、ゆっくりとですが着実に。
 旦那様に鼻を摘まれて、声を上げる事に慣れて暫くした頃に"里山"雪緒ゆきおから"高梨"雪緒になり、学び舎へと通う事になりました。
 初めての事で戸惑います僕に、皆様は良くして下さいました。辞めたい等と口にした事は、秘密にさせて下さいね。
 僕の世界に一際色がついたのは、この頃だったのでしょう。

 杜川星もりかわせい樣。

 星樣とお逢いしてから、それは一気に芽吹いた気がします。
 出逢った当初から、大変に賑やかで明るくて、おひさまの様に眩しい方でした。
 
『ゆきお』

 と、少しばかり舌足らずな感じで名前を呼ばれるのは、何処か擽ったい様な、それでいて、ほわりと胸が温かくなる物でした。
 そんな星樣が実はあやかしでしたとか、更にはみくちゃん樣までも妖でした、とか、こちらに慣れるまでに驚きは全部出尽くしたと思っていましたのに、まだまだ驚く事があったのですねと、妙に感心してしまいましたね。
 お二人の事を知りながらも、落ち着いています僕を不思議そうに旦那様も星樣もみくちゃん樣も見て来た気がします。
 確かに驚きましたが、それが何だと言うのでしょう?
 だって、僕にとって、星樣は星樣ですし、みくちゃん樣はみくちゃん樣です。僕が知っている姿、それが全てです。妖だろうと人であろうと、それが変わる事はありません。星樣もみくちゃん樣も、僕の大切な人に変わりはありません。
 星樣もみくちゃん樣も、宝の箱の事を気にされていて、逆に僕の方が申し訳ないぐらいでした。
 でも、本当に良いのですよ?
 旦那様が直して下さいましたし、更にはその箱を星樣は『ぽかぽか』だと仰って下さったのですから。
 本当に、その言葉が嬉しくて嬉しくて。
 こうして書いています今も、それを思い出すだけで、胸がぽかぽかとします。
 あの時から、宝の箱は更に大切な物になりました。
 ありがとうございます。
 無邪気な無邪気な星樣。
 僕を『まぶだち』だと呼んで下さって。
 何も感じる事なく過ぎた、幼少期から少年期を取り戻させて下さって。
 童心に帰る。
 子供の様に、いえ、実際に子供でしたのですけれど。ですが、それ以上に子供らしく過ごしたと思います。その頃に体験、経験する筈の事を学び舎時代にて、取り戻せた気がします。
 星樣の無邪気さは、本当にぽかぽかときらきらとして、周りを包んでいたと思います。
 星樣が居て下さったから、僕は大きな一歩を踏み出せたのだと思います。
 旦那様に想いを告げると云う、大きな一歩を。
 その背中を押して下さったのは、それを誰よりも傍で見守って下さったのは、星樣です。

『良かったな』

 と、微笑んで下さいましたね。
 妖だから何だと云うのでしょう?
 星樣は誰よりも、人の心を思い遣る事が出来るお方です。
 星樣にそれを言えば、照れて笑いながら『そんな事はないぞ!』と、否定されるかも知れませんね。
 それでも、僕がそう思う事に変わりはありませんけどね?
 えいぷりるふぅるの日に『嘘』だと誤魔化した想い。
 それに気付いたのは、何時の事でしたでしょうか?
 切なくも優しい嘘でしたね。
 僕を困らせたくなくて。
 それでも、伝えずには居られなくて。
 無邪気で優しい星樣。
 出逢えて、本当に良かったと思います。
 星樣と無邪気に笑いながら過ごした日々は、今もぽかぽかのまま、この心にあります。
 
 そして。
 旦那様。
 高梨ゆかり樣。
 誰よりも、何よりも、僕を語る上で外せない方。
 僕の全てと言えば烏滸がましいかと思いますが。
 それでも。
 墨一色でした僕の世界に、最初に色を落としたのは、間違いなく旦那様でした。
 あの日、僕を妖から助けて下さったのは、天野樣ですが、旦那様は、妖よりも大きく根深いしがらみから僕を救って下さったのです。
 僕をお寺に預ける事も出来たでしょう。
 お寺は基本的に、身寄りのない孤児を預かる場所です。
 ですが、身寄りはありましても、そちらに金銭的に余裕がない場合ですとか…僕の様に、恵まれない環境に身を置いてしまった場合は、お寺に入る事が出来ます。夢の中で『お寺に~』とかのお話も出ていた気がします。しかし、親族の方々はそれをしませんでした。僕のせいで、身銭を切る事になってしまったのですから、お金は無理でも、何かしらを僕にさせたかったのでしょう。
 そんな、何処へ行きましても疎んじられて来た僕の手を取り、おにぎりを受け取って、更には気を遣って下さった。
 それだけでも十分ですのに、旦那様は僕を引き取って下さった。
 家族で過ごす時間。
 家が安らげる場所だと云う事。
 そこが、僕の帰る場所だと云う事。
 それらを教えて、与えて下さった。
 そして、愛して愛されると云う事も。
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