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空っ風の日
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年が明けまして、益々寒さが身に沁みる様になりました。今日は風も強く、せっかくのお天気ですのに、お布団が冷えてしまっています。
「…今夜は、お休み前に湯たんぽを仕込んでおきましょうね」
そうしませんと、旦那様が飛び上がってしまいかねませんからね。お休み前にご入浴されて、お身体を温めましても、お布団が冷えていましたら意味がありませんものね。ああ、いえ、先にご入浴でしょうか?
そんな事を思いながら、物干し竿から下ろしたお布団を縁側へと運びます。
「…わ…っ…!」
ごうっと風が吹きまして、乾いた土がぶわりと舞い上がります。
…うぅん、咄嗟に目を瞑りましたが、目の周りに付いた気がします。お布団にも付いたかも知れません。お部屋へ運ぶ前に、もう一度叩きましょうね。
「ああ、その前に顔に付いた土を洗い流しましょう」
うっかり顔を擦った時に、目に入らないとも限りませんからね。
◇
「帰ったぞ」
お味噌汁の味噌を溶いていましたら、ガララと云う音と共に玄関の戸の開く音が聞こえ、続いて旦那様の声が聞こえて来ました。
火を止めて玄関へと向かいます。
「お帰りなさいませ。今日は風も強くお冷えになりましたよね? 先にご入浴されますか?」
「いや、味噌の良い匂いがする。先に飯だ」
右目を擦りながら、お弁当箱を包んだ風呂敷包みを渡して来ます旦那様に、胸の奥がぽかぽかとして来ます。出来立ての物を食べて戴けるのは嬉しい事です。
ふふ、っと小さく笑みを零した処で、気付きました。
「旦那様、目がどうかされたのですか?」
「ん? ああ、風が強くてな…目に埃が入ったらしいんだが…取れん…」
茶の間へ入りまして座布団へと腰を下ろしながら、目を擦りながら言います旦那様の右手を僕は慌てて掴みました。
「雪緒?」
乱暴な僕の仕草に驚いたのでしょう。胡坐を掻いた旦那様が僅かに目を見開いて、立ったままの僕を見上げて来ます。
「そんなに強く目を擦ってはいけません! 傷が付いてしまいます」
「む…」
僕の言葉に、旦那様が僅かに口を曲げて不服そうなお顔をされます。
「僕がお取りします」
卓袱台の上に風呂敷包みを置きまして、両手を空にしてから旦那様と向き合います。
「雪緒?」
不思議そうに首を傾げます旦那様のお顔を両手で包み、軽く上を向かせます。
「このままで居て下さいね」
「ゆ…っ!?」
念を押してから、片手は頬にあてたままで、片手では旦那様の右目の上瞼と下瞼をぐりんと開きます。
ありました。黒い粒が。あの強風で土が目に入ってしまったのですね。さぞかし、ごろごろと気持ちが悪かったのでしょうね。今、取り除いて差し上げますからね。
「お、おいっ!?」
身を屈めてゆっくりと顔を近付けて行けば、旦那様の慌てた様な声が聞こえます。
うぅん、動かないで下さい。狙いがずれてしまいます。
そんな思いから、頬にあてた手に力を籠めれば、旦那様の動きが止まりました。
ぺろり。
と、そんな音がしたかどうかは解りませんが、顔を離して旦那様の目を隅から隅まで調べましても、もう土は見えません。
はい。少し、僕の舌に違和感がありますね?
「はい。もう大丈夫ですね。次からは擦ったりせずに、お水で洗い流して下さいね」
そう言いまして僕は卓袱台に置いていました風呂敷包みを手に、台所へと向かいます。飲み込んでしまう前に、土を吐き出してしまいませんとね。
「…ぐ…覚えていろよ…」
小さくそんな呻き声が聞こえて来ましたが、台所へと急ぐ僕は知りませんでした。
旦那様がお顔を赤くされて、それを両手で隠していただなんて事は。
――――――――――――――――
旦那様「…他の奴にも同じ事をしているのか?」
雪緒 「いいえ? 旦那様が初めてですよ?」
旦那様「そ、そうか…なら良い」
雪緒 「?」
「…今夜は、お休み前に湯たんぽを仕込んでおきましょうね」
そうしませんと、旦那様が飛び上がってしまいかねませんからね。お休み前にご入浴されて、お身体を温めましても、お布団が冷えていましたら意味がありませんものね。ああ、いえ、先にご入浴でしょうか?
そんな事を思いながら、物干し竿から下ろしたお布団を縁側へと運びます。
「…わ…っ…!」
ごうっと風が吹きまして、乾いた土がぶわりと舞い上がります。
…うぅん、咄嗟に目を瞑りましたが、目の周りに付いた気がします。お布団にも付いたかも知れません。お部屋へ運ぶ前に、もう一度叩きましょうね。
「ああ、その前に顔に付いた土を洗い流しましょう」
うっかり顔を擦った時に、目に入らないとも限りませんからね。
◇
「帰ったぞ」
お味噌汁の味噌を溶いていましたら、ガララと云う音と共に玄関の戸の開く音が聞こえ、続いて旦那様の声が聞こえて来ました。
火を止めて玄関へと向かいます。
「お帰りなさいませ。今日は風も強くお冷えになりましたよね? 先にご入浴されますか?」
「いや、味噌の良い匂いがする。先に飯だ」
右目を擦りながら、お弁当箱を包んだ風呂敷包みを渡して来ます旦那様に、胸の奥がぽかぽかとして来ます。出来立ての物を食べて戴けるのは嬉しい事です。
ふふ、っと小さく笑みを零した処で、気付きました。
「旦那様、目がどうかされたのですか?」
「ん? ああ、風が強くてな…目に埃が入ったらしいんだが…取れん…」
茶の間へ入りまして座布団へと腰を下ろしながら、目を擦りながら言います旦那様の右手を僕は慌てて掴みました。
「雪緒?」
乱暴な僕の仕草に驚いたのでしょう。胡坐を掻いた旦那様が僅かに目を見開いて、立ったままの僕を見上げて来ます。
「そんなに強く目を擦ってはいけません! 傷が付いてしまいます」
「む…」
僕の言葉に、旦那様が僅かに口を曲げて不服そうなお顔をされます。
「僕がお取りします」
卓袱台の上に風呂敷包みを置きまして、両手を空にしてから旦那様と向き合います。
「雪緒?」
不思議そうに首を傾げます旦那様のお顔を両手で包み、軽く上を向かせます。
「このままで居て下さいね」
「ゆ…っ!?」
念を押してから、片手は頬にあてたままで、片手では旦那様の右目の上瞼と下瞼をぐりんと開きます。
ありました。黒い粒が。あの強風で土が目に入ってしまったのですね。さぞかし、ごろごろと気持ちが悪かったのでしょうね。今、取り除いて差し上げますからね。
「お、おいっ!?」
身を屈めてゆっくりと顔を近付けて行けば、旦那様の慌てた様な声が聞こえます。
うぅん、動かないで下さい。狙いがずれてしまいます。
そんな思いから、頬にあてた手に力を籠めれば、旦那様の動きが止まりました。
ぺろり。
と、そんな音がしたかどうかは解りませんが、顔を離して旦那様の目を隅から隅まで調べましても、もう土は見えません。
はい。少し、僕の舌に違和感がありますね?
「はい。もう大丈夫ですね。次からは擦ったりせずに、お水で洗い流して下さいね」
そう言いまして僕は卓袱台に置いていました風呂敷包みを手に、台所へと向かいます。飲み込んでしまう前に、土を吐き出してしまいませんとね。
「…ぐ…覚えていろよ…」
小さくそんな呻き声が聞こえて来ましたが、台所へと急ぐ僕は知りませんでした。
旦那様がお顔を赤くされて、それを両手で隠していただなんて事は。
――――――――――――――――
旦那様「…他の奴にも同じ事をしているのか?」
雪緒 「いいえ? 旦那様が初めてですよ?」
旦那様「そ、そうか…なら良い」
雪緒 「?」
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