旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ

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超番外編・〇の恩返し

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 とある冬の雪の日だった。
 山の中で、男はそれを目にした。

「…罠に掛かったのか…」

 男が仕掛けた兎捕り用の罠に、白い鶴が掛かっていた。
 男は怯える鶴の傍に寄り、罠の口をそっと開く。
 それにより、鶴は自由になったが、その脚からは血が流れていた。
 男は無言で着物の懐から手拭いを取り出し、鶴の脚から流れる血を拭い、止血の為に脚に巻いてやった。

「次からは気を付ける様にな」

 男は軽く口の端だけを上げて笑い、山を下りて行った。
 鶴は、そんな男の背中をただ見ていた。

 ◇

 それから数日後、酷い吹雪の夜だった。
 コンコンと、男の住む家の戸が叩かれた。
 男は最初風の音かと思ったが、それが幾度か繰り返されたら、気にならない筈が無い。
 更には『…ごめん下さい…』と、か細い声が聞こえた気がすれば、無視する訳にも行かない。
 男は囲炉裏の傍から立ち上がり、土間へと向かい、戸の向こう側へと声を掛けた。

「何方かおられるのか」

「…夜分に申し訳ございません…。…この吹雪で立ち行かなくなりまして…吹雪が収まるまで置いて頂けませんか…」

 それは、細い少年の声だった。
 この山の裾には、男が住む家しかない。
 山を越えて、隣の村へと行く処だったのか、吹雪が収まるのを待っていたが収まらずに、この様な夜になったのかと思いながら、男は戸を開けた。
 そこに居たのは、その声と同じ様にか細い少年だった。真っ白な着物を身に着け、寒さの為か顔色は悪く、唇も血の色を失い、ガタガタと震えていた。
 男は直ぐに少年を家の中へと招き入れ、囲炉裏の傍へと座らせた。更に火鉢に火を熾し、毛布を渡し、濡れた着物を脱ぐ様に言って、風呂を沸かし始めた。
 そうして、風呂に入ってすっかりと血色の良くなった少年は男に礼を言い、雪緒ゆきおと名乗った。
 男も、自分はゆかりだと名乗り、冬の山歩きは危険だから、春まで家に居れば良いと言ったのだった。

 ◇

 そうして、春が過ぎ夏が過ぎ秋が過ぎ、また冬が来ても雪緒は紫の家に居た。
 雪緒は世話になる代わりに、家事全般を請け負っていた。
 そのおかげで狩りを生業としている紫は、狩りに集中出来る様になった。
 狩りを終えて帰れば、温かな部屋に、温かな飯と風呂が用意されている。
 それが、こんなにも嬉しい事だと、紫は知らなかった。
 今日も獲物を手に、家へと帰る。そうすれば。

「お帰りなさいませ」

 と、笑顔で出迎えてくれる雪緒が居るのだ。
 そんな日常が嬉しく、また幸せで。紫は。

「ただいま」

 と、笑顔でそれを言うのだった。
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