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毒林檎は食べません
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「よーし、皆に行き渡ったな? いいかー、間もなく仲間が増える。その為の歓迎会の出し物の本だ。学び舎…もとい学校は勉学だけじゃあない、楽しい場所だって理解して貰う為の物だ。俺達の組は、本を渡した通り、劇をやる事になった。誰に何をやって貰うかは、配った本を読み終えてから皆で決めるからな。ほら、読みなさい」
そう菅原先生に言われて僕達は一斉に配られた本の頁を捲りました。
あの日蝕の日から一年が経ちました。
もう間もなく学び舎は学校と云う名称に変わります。
これまでは限られた人しか通えませんでしたが、この秋からその門戸が誰にでも開かれる様になるのです。
その為に、あの日あちこち壊されてしまいました建物は、新しく増築もしました。多くの人を受け入れる為です。
それにしても劇…お芝居ですか…僕は観劇等には行った事が無いから詳しくは無いのですが、まあ、その心配は無用でしょうね。僕は裏方で何か出来る事を探しましょうね。
…そう思っていたのですが…。
「お姫様は雪緒しかいないだろ?」
…倫太郎様…お姫様は女の子ですよ…?
「雪のように白いんだろ? なら、ゆきおだな!」
…星様、僕はそこまで色白では無いと思うのですが…名前で決めていませんか?
「私、雪緒君のお姫様姿見たいな! 背も低いし、きっと似合うよ!」
…瑠璃子様…何故そうなるのですか…少しは伸びましたよ…。
「高梨がお姫様かあ…。まあ、意外性があって良いかもな、うん」
…菅原先生、腕を組んで納得しないで下さい…。
「いえ…あの、僕は衣装を…」
お芝居では様々な衣装が必要な筈です。
ですから、僕は衣装を縫いたいと思うのですがと言おうとしましたら、他のご学友の方々も僕がお姫様で良いと口々に言い出しました。
何故なのですか。
これは一体何の罰なのでしょうか?
◇
「雪緒。歓迎会で劇をやるそうだな? しかも劇中の主要人物だと聞いたぞ。何故言わなかった」
「ふぶっ!!」
その翌日の夕餉での事です。
旦那様の言葉に、僕は口に含んでいたお味噌汁を思わず噴き出してしまいました。
時々ではありますが、旦那様も口に含んだ物を噴き出す事があります。
成程、この様な衝撃を受けた時に噴き出していたのですね。
ですが、それ程の衝撃を受ける様な事がありましたでしょうか?
いえ、その様な分析は一旦置いておきましょう。
それよりも、です。
何故それを知っているのですか!?
驚いて固まってしまった僕の口元を対面に座ります旦那様が身を乗り出して、着物の袖で拭って下さりながら言います。
「今朝、司令に呼び出されて『星が王子様をやるんだよー。いやー、パパ鼻が高いよー。雪緒君も出るんだよー。あれえ? 聞いていないの~?』と、自慢気に言われたのだ。歓迎会は何時だ? その日が仕事でも、天野に押し付けて抜け出して来るし、何なら休暇を取る。お前の晴れ舞台だろう」
旦那様、えみちゃん様の物真似がお上手ですね? 旦那様が僕の代わりにお姫様をおやりになりませんか? ですが、えみちゃん様は僕がお姫様をやるとは言わなかったのですね? 星様の事ですから、僕がお姫様をやると云う事を話した筈です。
それよりも、さらりと不穏な事を言わないで下さい。
流石の天野様も怒りますよ?
いえ、その前にみくちゃん様が殴り込みに来ると思います。
「素人の集まりの劇ですよ? 玄人ならばともかく。その様な物で旦那様の貴重なお時間を割く訳には行きません」
僕なんかのお姫様姿なんて見せられる筈がありません。
瑠璃子様や由美子様が途轍もなく張り切っていましたが、その張り切りは無駄になってしまうと思うのです。男の僕にお姫様の姿等似合う筈もありませんのに。今から申し訳ないです。
◇
それでも時は過ぎて行く物でして。
菅原先生から渡された本を元に劇にしやすいように、皆でああでもないこうでもないと考え、手直しを加えたりしました。
「なんで知らない人から貰った物を疑いも無く食べるのかな。お姫様って馬鹿だよな」
とか。
「ゆきおならチョコで落ちるけどな!」
星様、待って下さい。
「王子様って、死体愛好家なのか? 眠ってる事にしないか?」
とか。
「お妃様だって大概よね。そりゃ若い子の方が良いに決まってるじゃない。張り合う処間違えているわよね」
等など、様々な意見が飛び交いました。
その様な意見を元に台本が出来上がりまして、毒林檎は眠り薬の入ったちょこれいとになりました。
他にも幾つかの変更点がありますが。
何故、ちょこれいとなのでしょう…確かに僕は好きですが…ですが、流石の僕でも知らない人からのちょこれいとは受け取って食べたりはしませんよ…多分…。
それにしても、こうして皆で意見を交わしながら一つの事を作り上げて行くのはとても楽しいですね。
秋から増えます新たなご学友の方々にも、この楽しさを知って欲しいです。
その為には劇を成功させなければなりませんね。
恥ずかしいとか、似合わないとか気にしている場合ではありません。
褌の紐を引き締めて頑張りましょう。
◇
そうして、当日。
劇が行われた講堂は割れんばかりの拍手と歓喜に包まれたのでした。
ご覧になられた方々が、皆、目に涙を浮かべていました。
皆様方、えみちゃん様の様に感激屋さん達ばかりなのでしょうか?
何はともあれ無事に終わって良かったです。
これで終わりだと思いましたが、何故か僕達が学び舎、いえ、学校を卒業するまで、その劇は何かがある毎に再演されたのでした。
その度に旦那様がむっすりとしていましたが、何故なのでしょうか?
――――――――おまけ――――――――
〇雪姫→雪緒
王子様→星(の王子様)
お妃様→倫太郎
鏡の精→瑠璃子
小人達→ご学友の方々
再演の理由→ちまちまと栗鼠の様にチョコを齧る雪緒姫が可愛かったのと、星の棒読みが受けたから。
そして旦那様はその度に余計な虫がつきやしないかとハラハラしてると(笑)
そう菅原先生に言われて僕達は一斉に配られた本の頁を捲りました。
あの日蝕の日から一年が経ちました。
もう間もなく学び舎は学校と云う名称に変わります。
これまでは限られた人しか通えませんでしたが、この秋からその門戸が誰にでも開かれる様になるのです。
その為に、あの日あちこち壊されてしまいました建物は、新しく増築もしました。多くの人を受け入れる為です。
それにしても劇…お芝居ですか…僕は観劇等には行った事が無いから詳しくは無いのですが、まあ、その心配は無用でしょうね。僕は裏方で何か出来る事を探しましょうね。
…そう思っていたのですが…。
「お姫様は雪緒しかいないだろ?」
…倫太郎様…お姫様は女の子ですよ…?
「雪のように白いんだろ? なら、ゆきおだな!」
…星様、僕はそこまで色白では無いと思うのですが…名前で決めていませんか?
「私、雪緒君のお姫様姿見たいな! 背も低いし、きっと似合うよ!」
…瑠璃子様…何故そうなるのですか…少しは伸びましたよ…。
「高梨がお姫様かあ…。まあ、意外性があって良いかもな、うん」
…菅原先生、腕を組んで納得しないで下さい…。
「いえ…あの、僕は衣装を…」
お芝居では様々な衣装が必要な筈です。
ですから、僕は衣装を縫いたいと思うのですがと言おうとしましたら、他のご学友の方々も僕がお姫様で良いと口々に言い出しました。
何故なのですか。
これは一体何の罰なのでしょうか?
◇
「雪緒。歓迎会で劇をやるそうだな? しかも劇中の主要人物だと聞いたぞ。何故言わなかった」
「ふぶっ!!」
その翌日の夕餉での事です。
旦那様の言葉に、僕は口に含んでいたお味噌汁を思わず噴き出してしまいました。
時々ではありますが、旦那様も口に含んだ物を噴き出す事があります。
成程、この様な衝撃を受けた時に噴き出していたのですね。
ですが、それ程の衝撃を受ける様な事がありましたでしょうか?
いえ、その様な分析は一旦置いておきましょう。
それよりも、です。
何故それを知っているのですか!?
驚いて固まってしまった僕の口元を対面に座ります旦那様が身を乗り出して、着物の袖で拭って下さりながら言います。
「今朝、司令に呼び出されて『星が王子様をやるんだよー。いやー、パパ鼻が高いよー。雪緒君も出るんだよー。あれえ? 聞いていないの~?』と、自慢気に言われたのだ。歓迎会は何時だ? その日が仕事でも、天野に押し付けて抜け出して来るし、何なら休暇を取る。お前の晴れ舞台だろう」
旦那様、えみちゃん様の物真似がお上手ですね? 旦那様が僕の代わりにお姫様をおやりになりませんか? ですが、えみちゃん様は僕がお姫様をやるとは言わなかったのですね? 星様の事ですから、僕がお姫様をやると云う事を話した筈です。
それよりも、さらりと不穏な事を言わないで下さい。
流石の天野様も怒りますよ?
いえ、その前にみくちゃん様が殴り込みに来ると思います。
「素人の集まりの劇ですよ? 玄人ならばともかく。その様な物で旦那様の貴重なお時間を割く訳には行きません」
僕なんかのお姫様姿なんて見せられる筈がありません。
瑠璃子様や由美子様が途轍もなく張り切っていましたが、その張り切りは無駄になってしまうと思うのです。男の僕にお姫様の姿等似合う筈もありませんのに。今から申し訳ないです。
◇
それでも時は過ぎて行く物でして。
菅原先生から渡された本を元に劇にしやすいように、皆でああでもないこうでもないと考え、手直しを加えたりしました。
「なんで知らない人から貰った物を疑いも無く食べるのかな。お姫様って馬鹿だよな」
とか。
「ゆきおならチョコで落ちるけどな!」
星様、待って下さい。
「王子様って、死体愛好家なのか? 眠ってる事にしないか?」
とか。
「お妃様だって大概よね。そりゃ若い子の方が良いに決まってるじゃない。張り合う処間違えているわよね」
等など、様々な意見が飛び交いました。
その様な意見を元に台本が出来上がりまして、毒林檎は眠り薬の入ったちょこれいとになりました。
他にも幾つかの変更点がありますが。
何故、ちょこれいとなのでしょう…確かに僕は好きですが…ですが、流石の僕でも知らない人からのちょこれいとは受け取って食べたりはしませんよ…多分…。
それにしても、こうして皆で意見を交わしながら一つの事を作り上げて行くのはとても楽しいですね。
秋から増えます新たなご学友の方々にも、この楽しさを知って欲しいです。
その為には劇を成功させなければなりませんね。
恥ずかしいとか、似合わないとか気にしている場合ではありません。
褌の紐を引き締めて頑張りましょう。
◇
そうして、当日。
劇が行われた講堂は割れんばかりの拍手と歓喜に包まれたのでした。
ご覧になられた方々が、皆、目に涙を浮かべていました。
皆様方、えみちゃん様の様に感激屋さん達ばかりなのでしょうか?
何はともあれ無事に終わって良かったです。
これで終わりだと思いましたが、何故か僕達が学び舎、いえ、学校を卒業するまで、その劇は何かがある毎に再演されたのでした。
その度に旦那様がむっすりとしていましたが、何故なのでしょうか?
――――――――おまけ――――――――
〇雪姫→雪緒
王子様→星(の王子様)
お妃様→倫太郎
鏡の精→瑠璃子
小人達→ご学友の方々
再演の理由→ちまちまと栗鼠の様にチョコを齧る雪緒姫が可愛かったのと、星の棒読みが受けたから。
そして旦那様はその度に余計な虫がつきやしないかとハラハラしてると(笑)
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