旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ

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四月のばか

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「ゆきお、おいらゆきおの事がすきだ。ゆきおがおじさんの事をすきな様にすき。ゆきおときらきらでぽかぽかしたいんだ」

 薄い桃色の花びらが舞う中で、おいらはそれを口にした。

 今朝早くに竹林に行って、たけのこを採って来たから、それを持ってゆきおの家に来た。
 採れたてだからアク抜きしないで、皮ごと丸焼きにして食べるとうまいって、親父殿が言ってたから、庭に七輪を置いて焼いて貰ってる。

「…え…」

 ゆきおはうちわを扇ぐ手を止めて、驚いた様においらを見て来た。

「…たぶん、初めて見た時からすきだった。きらきらでぽかぽかで、ここが熱くなったんだ」

 胸に手をあてて、七輪の向こうに居るゆきおを見る。

「…学び舎で会った時から…ですか…?」

 目をぱちくりとさせて、ゆきおがおいらを見て来た。

「んーん。きらきらでぽかぽかの箱を壊した日。あの時に、おいらゆきおの事、ちらっと見た。箱と同じきらきらでぽかぽかだったから」

 思いきり口を開けて笑えば、ゆきおは少しだけ目を閉じて困ったように笑った。

「あ、りがとうございます…。お気持ちは嬉しいですし、せい様の事はお好きですが…。…ですが、それは…まぶだちとしてで…。…ご存知だとは思いますが…僕は旦那様の事が…」

 うん。知ってるぞ。
 ちゃんと言ってくれて嬉しいぞ。

「ん。嘘だぞ!」

 おいらは立ち上がって、軽くゆきおの頭をぽんぽんと叩いた。

「ふえっ!?」

 そうしたらゆきおは、目を丸くして思いきり口を開けた。

「今日は、嘘をついても良い日なんだろ? ん? ゆきお顔赤いぞ?」

「ひひひひひ酷いです! そう云う嘘はいけませんっ!!」

 ちょっとだけ、いじ悪く笑って言えば、ゆきおはうちわを振り上げてほっぺたを膨らませた。

「ごめんな! あ、たけのこ燃えてる!」

「ふわわわわわわ!?」

 ゆきおが慌てて火かき棒でたけのこを地面に落として転がすのを、おいらはぽかぽかした気持ちで見てた。
 あったかい風が吹いて、桃色の花びらがふわふわと舞っている。

 うん、ゆきおには悪いけど。
 困らせるってわかってたけど。
 でも、言いたかったんだ。
 ごめんな、でも、もう満足だぞ。
 春は出逢いと別れの季節だって、親父殿が言ってた。
 だから、もやもやとゆきおがすきなおいらとお別れしたかったんだ。
 これからは、ただのまぶだちだ。
 ずっと、ずっと、まぶだちだぞ。
 な、ゆきお!
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